「おーい、たまも」
「……」
幹部の襲撃があった次の日。たまもは魂の抜けたような様子で酒場の椅子に座っていた。冒険者たちも半強制的に巻き込まれたようなものだ。周囲から見つめるその視線は、決して温かいものではなかった。
一方で、エルに向かう視線は非常に熱いものだ。仲間の窮地に身を挺して飛び出したその姿はまさにクルセイダーの鑑だともてはやされ、割と堂々と引き抜きの相談をしているのが聞こえて来た。
エルはそれが不満のようで、いらいらした様子で周囲を見回していたが、ストレスが限界を超えたのか、さっさと帰ってしまった。
俺としては、まあ、たまもが冒険者をやめるというのなら、それも選択肢の一つだ。もともと地雷みたいな人材だったわけで、これを機にまともな魔法使いを……と思わないでもない。ただ、そうすると爆裂魔法しか覚えておらず、冒険者たちと微妙な雰囲気になっている彼女が一体どんな道をたどるのか……そう考えると、どうしてもパーティを解散すると決定する気にはなれなかった。
かといって、何をすることもできない。先ほどから何度も声をかけているのだが、呆然としたまま返事をしないので、どうしようもなかった。
「おっ!いたいた」
「そうですね、ここにいましたか、たまも!」
そんな声が響いたと思ったら、二人の女性が俺たちの前に姿を現した。
一人は魔法少女風の服を着た爬虫類を思わせる鱗を身に纏った女性。もう一人は金髪でスラッと背の高い、魔法使い風の女性だった。
「ひっ!ご、ごめんなさいなのじゃ!」
敵意を感じたのか反射的に謝るたまもに、二人の女性はキョトンとした顔をしてから大きく笑い出した。
「はっはっは、違う違う。私は君と話をしに来たんだ。たった一人で魔王軍幹部に立ち向かうなんて、なかなかできるもんじゃない。それを認められないなんて、ここの冒険者は心が狭いな。どうだ?今日食事でも」
「……全く、ベリア殿は調子いいんですから……ですが、ここの冒険者の心が狭いというのは同意ですね。全く、私のライバルであるというのに、この程度のことでへこたれるんですか?しっかりしてください、たまも」
「……む、なんじゃ、よう見たら七尾ではないか。……うちのことは放っておいてくりゃれ」
そう言って、そっぽを向くたまもに、空気を読まないベリアがなおも話かけてくる。
「何言ってんだよ!話聞いてなかったのか?俺は、お前と話したいんだよ。良ければお近づきになりたいし、何だったら引き抜きたいくらいだ」
「私としては、そこはどっちでもいいのですが、ライバルであるあなたがここで落ち込んで落ちぶれたら、私もその程度だと思われますからね。まあ、それならそれで私が紅魔一の魔法の使い手になるだけですけれど」
「……何じゃと?」
ベリアの言葉をまるっとスルーして、たまもはむくりと起き上がった。
「先ほど、なんといったかのう?七尾が紅魔一の魔法の使い手?はんっ!」
「なっ!なんですかその顔は、あなたと私は同期で、成績も主席と次席で卒業したこと、忘れたとは言わせませんよ!」
「そうじゃったのう♪うちと戦う気概のあるやつがおらんかったから、結局うちと一対一で戦って、惨敗のお情けで次席になれた七尾じゃものなぁ?」
「‼」
「……」
にらみ合ったたまもと七尾は無言で席を立ち、そしてたまもがゆっくりと俺に目を向けて来た。
「すまぬ、カズマ。少しこやつと話をしてくる」
「そうですね、じっくりと(拳と拳で)語り合いましょう」
「あ、はい」
そんなこんなで、たまもたちはそのまま酒場を後にした。……何ともいえないところではあるが、とりあえずタマモの元気が少しでも出てきたようで助かった。
「何はともあれ、ありがとな、確かベリアって言ったか?」
「……ちぇ、せっかくすごい子とお近づきになれると思ったのに……」
「……は?」
あんまりな言い草に、俺は思わずそいつを威圧してしまった。いや、これは悪くないはずだ。多分。
「ああ、いやそうじゃなかった。いやいや、元気になったようで良かったよ。だが、あいつがすごいと思ったのは本当だぞ。あんだけ実力に差があるのに、挑んでいけるのは一種の才能だ。それに、他の奴らだってその事は分かってるさ」
そう言うと、にやりと笑ってベリアは酒場全体に響く声で、叫び始めた。
「まさか、魔王軍幹部に突撃できるような馬鹿、あの嬢ちゃん以外にいないよな?この弱虫ども!」
一気に殺気立った酒場内だったが、不思議なことにその熱はすぐに自然と沈下してしまった。
「……確かに、魔王軍幹部に立ち向かったあの嬢ちゃんはやべーよな」
「同じ事しろって言われても、無理よね……」
「魔王軍幹部との戦いに無理やり巻き込まれて、納得できなかったが、よくよく考えてみれば、確かにあの時は魔王軍の幹部を倒す好機ではあったんだよな。実際に倒せるかはまた別問題だが……」
そして、酒場のあちこちから漏れ聞こえるのは、不満を持ちながらも、確かにたまもを認める冒険者たちの声だった。その声に頷きつつ、ベリアは更に声を張り上げる。
「けつの青い冒険者ども!まさかとは思うが、次来た時にも尻尾巻いて逃げ出すビビりな奴なんていないだろうな!そんな臆病者は、今すぐ冒険者なんてやめてしまえ!」
「なにを!」
「馬鹿にすんなよ、というか、お前も今回なんもしてねーじゃねーか‼!」
冒険者たちはベリアの発破によって反骨精神に火がついてしまったらしく、思いきりいきり立っていた。そして、売り言葉に買い言葉と言った感じで、ベリアに食いかかっていく。
「おうおう!そんなら俺は、今度あのデュラハンの野郎が来たら先陣切ってやるよ!」
「なら、私は魔法を撃ちまくってやるわ!」
そう言って上がっていくボルテージの中、ベリアは「な?」と俺に笑いかけて来た。
少しそのちゃらんぽらんな雰囲気に警戒していたが、割といい奴のようだ。
冒険者たちは、発奮したあと、すぐに鎮静化したらしく、そもそもの話の元凶であるたまもについて思い出したようで、そのことについて話あっていた。
そして、しばらくすると酒場の表から少しほこりにまみれたたまもと七尾が姿を現した。
「「「「たまもさん、すんませんっした‼」」」」
「お、おうっ!?」
その場にいる冒険者のほぼ全員が頭を下げて出迎えるという異常事態に、さしものたまもも目を白黒させて戸惑いを見せる。
「俺たちは、魔王軍幹部が倒せるかもしれないっていう好機に、あんたに利用されたと思って手を出さなかった腰抜けだ。あんたの仲間のクルセイダーが、今は治っているとはいえ呪いを受けたのも、遠因は俺たちと言えるかもしれない」
「私は、突然現れた魔王軍幹部に驚いて足も口も震えて戦えなかった。たまもちゃんはいつも魔王軍幹部に備えよって言い続けてくれたのに」
そんな風に何人もの冒険者がタマモに向かって語り掛けていると、たまもは目から大粒の涙を浮かべながら一人一人の顔を見回した。
「謝らなければならぬのは、うちの方じゃ。うちは自分だけが分かっているつもりで、勝手に魔王軍幹部を挑発して、みんなを危険な戦いに巻き込んだのじゃ。確かに、うちには勝算があったし、実際手ごたえはあったのじゃ。
じゃが、それでも、皆にはしっかり相談すべきだったのじゃ」
そうして、たまもは上目遣いで冒険者たちを見つめた。
「こんなうちじゃが、次に魔王軍幹部が来たら、共に戦ってくれんじゃろうか?」
そのたまもの言葉に、冒険者たちは大きく頷いた。
「あ、ありがとうなのじゃ!」
そして、たまもは冒険者たちに、涙交じりの笑顔を見せたのだった。
ひゃぁ我慢できねぇ!投稿だぁ!
というわけで中途半端なタイミングですが投稿します。
今作のたまもちゃんですが、めぐみんと比べれば身体能力は優れていますが、若干ボッチ気味です。というか、野生の勘が高すぎて、他の人といまいち感性が合わない感じです。
そのため、波長さえ合わせればそこそこどんな相手でも対応できますが、そもそも他人を思いやるよりも自分の中の最適解で完結してしまうため、そもそも他者に相談しない……みたいな感じの背景がありそうな感じです。多分そこまで書かないけど。
そして、気になるあの人。四天王3人目のあの人ですが、まさかのダスト枠です。うん、これについては単純にグランベリアファンの人に謝りたい。でも、ダストの背景考えると、この人当てはめる以外思いつかなかったんだ。うん。
本作では剣でなく槍を持っています。はい。
あと、このすば原作スピンオフ「愚か者」の設定に+して四天王最後の一人に骨抜きにされたうえで調教されて堕ちた設定も加えたかったり加えたくなかったり。
でもそれ加えるとアルマエルマさんがサキュバス娼館の女主人になるのが(私の中で)ほぼほぼ確定するのでちょっともったいない気もするんですよね。
変更箇所(本項は原作にないオリジナル展開の為、展開に関する事項は大幅に割愛)
・不良冒険者をダストからグランベリアに変更。それに伴い剣士から槍使いに変更。
・ボッチ魔法使いをゆんゆんから七尾(人間に変化済み)に変更。
・不良冒険者、ボッチ魔法使いの遭遇時期を調整。
・冒険者たちが魔王軍幹部に対しての対抗意識を持つよう変更。