「きつくても良いので、依頼を受けましょう」
魔王軍幹部襲来から一週間たち、何事もなく過ぎた冒険者ギルドの酒場で、イリアスはそう宣った。
「ええ~」
「……むぅ」
そこに、俺の不満の声とたまもの悩む声が重なる。俺たちの懐は温まっており、高難易度の依頼しかない今、わざわざ依頼を受ける意味はあまりない。それに……。
「イリアス。うちもお主の気持ちは分かるのじゃが、うち、結局魔王軍幹部討伐作戦の発起人みたいな扱いになってしまっておるからのう、あんまり街を離れたくないんじゃが」
そう、たまものやらかしは、ベリアの扇動をうけて最終的に魔王軍幹部討伐作戦として町全体の冒険者が参加する大規模作戦の様相を呈していた。
とはいえ、本来は王都の上位冒険者が対応することになっている案件の為、あくまでももう一度魔王軍幹部が町にやって来た時のための作戦だ。そして、当然と言えば当然だが、その際の最重要人物として、たまもとエルの名が挙がっているのだ。
一応、建前としては冒険者たちを縛るような契約ではないため、街を離れようがバックレようがペナルティはないが、まあ、たまももエルもそんなことをする気はさらさらないだろう。
その様子を見て、しかしイリアスは熱烈な視線で俺たちを見つめた。
「だからこそ、今出るべきではないかと思うのです」
「……どういうわけじゃ?」
たまもの言葉に、イリアスは指を回しながら言葉を続けた。
「今、魔王軍の幹部がこの街に来て一週間が経ちました。それまでこの街は一度も襲撃を受けていません。もし魔王軍幹部がこちらに来るとすれば、本来は今日、完全に石化するであろうエルの様子を見に来るくらいでしょう。逆に言えば、今日来なければ明日、明後日に来るという線はないと思うのです。
ならば、幹部が来ない今のうちに、少しでもレベルを上げて、そしてお金を稼いでおくべきではありませんか?」
「……ふむ、確かに一理あるのう」
俺は、イリアスの目が建てられているメニュー表のパフェにくぎ付けになっているのに目をつぶりつつ、小さく頷いた。
「そこまで言うなら、よさげな依頼を選んで来いよ。……ただ、あんまり時間がかかりそうなのはだめだぞ。少なくとも日帰りできる奴にしてくれ」
「当然、そこはわきまえています」
そう言って、依頼を見に行ったイリアスを見送った後、たまもがぽつりと俺に話かけて来た。
「のう、イリアスの奴、少々切羽詰まっておるようじゃったが、無茶な依頼を受けてこんじゃろうか?」
「まあ、イリアスなら大丈夫だと思うが……まあ、一応見に行ってみるか」
そうして席を立ってイリアスの様子を見に行くと、難しい顔で掲示板をにらみつけていた。
そして、一枚の紙を引っぺがす。
「って、待て待て待て!」
「……カズマ、いつからそこに?それで、どうしたのですか?」
「どうしたのですか?じゃない!なんだこれ!」
そう言いつつ、俺はもう一度依頼書に目を通す。
『ワイバーン娘とベヒーモス娘が大げんかを始めてしまった。放っておくと被害が拡大するので両方とも成敗してほしい。報酬50万エリス』
「あほか!ワイバーンとベヒーモスっつったら、俺でも知ってるバケモンだぞ!」
「勘違いしてもらっては困りますね。この依頼はワイバーン娘とベヒーモス娘ですよ。レミナ付近に生息する一般的な魔物娘です」
「……因みにそれってどれくらい強いの?」
「……そうですね、魔王城の外縁部に生息する野生の魔物、と言ったところでしょうか」
「余計にダメだよ!」
俺は頭を抱えてイリアスに詰め寄った。
「その、ラスダン手前に出現する魔物に対して、お前はどうやって成敗するつもりだったんだ!あぁ!いや、いい、どうせたまもの爆裂魔法で二人いっぺんに倒せばいいとか思ってたんだろ!」
「いや、そのような……」
「そもそも、二人いっぺんに都合よく倒せると思うか?失敗したら俺たちなんか一撃だぞ!一撃!」
「…………」
次の瞬間、旋風が吹いたと勘違いするほどの威圧がイリアスから噴き出した。
「な、なんだよ。威圧しても無駄だぞ!流石にメンバーが死ぬ可能性が高い依頼はダメだ!というか、失敗したら一番死にかねないのはイリアス、あんたなんだぞ?そんなに切羽詰まってるなら、追加融資も検討してやるから」
そう言うと、イリアスは静かに目を閉じ、そして大きなため息をついてから目を見開いた。
「えぇ、えぇ、分かりました。そこまで言うのであればこの依頼を受けるのはやめましょう……。ただ、他によい依頼も……この依頼などどうでしょう?」
そう言うと、イリアスは一枚の依頼書を俺に差し出してきた。
「えっと、何々?」
『-湖の浄化-町の水源の一つである湖の水質が悪くなり、ワニ娘たちが住み着き始めている。湖を浄化すればワニ娘たちは住処を他に移すため、討伐の必要はない※浄化魔法習得済みの冒険者限定、報酬30万エリス』
「おまえ、浄化魔法とか使えるのか?」
俺の疑問に、イリアスはむっとしながら答えた。
「先ほどからあなたは!……問題ありません。私は聖素が集まって生まれた女神、創世の女神イリアスですよ。穢れや汚染など、私に触れるだけで浄化されます。ええ、手慰みに湖の女神をしたこともあるのですよ。聞いたことは有りませんか?穢れた者を落とし、正直に答えるととても強力な武具を与える湖の女神の話を」
「俺の知ってる湖の女神とちょっと違うんだが」
「因みに落としたものを返したことはありません」
「無いのかよ」
頭を押さえながら俺はイリアスに声をかけた。
「はぁ、まあいいや。というか、その依頼なら俺たちいらないんじゃね?お前だけで受ければ報酬総どりだぞ」
イリアスはその言葉に嫌な顔をして苦言を呈した。
「せっかく私が奉仕の機会を与えているというのに……。そもそも、浄化を進めていればそこに住むワニ娘が襲ってくるに決まっているでしょう?残念ですが、まだ私にそれらをすべて跳ねのける力があるかは、怪しい所でしょう。ですからその防衛を任せたいのです」
「なるほど……ところで、どれくらい時間がかかるんだ?」
「そうですね……おおよそ半日ほどかかるでしょうか?」
それを聞いて俺は手で×を作る。
「半日防衛なんて出来ねぇよ!」
そう叫んだが、その時ふとギルドの端に置いてあるものを見つけ、俺はイリアスに問いかけた。
「なあ、さっき、触れるだけで浄化できるって言ってたけど、それって本当か?」
「なんですかいきなり。えぇ、もちろん本当ですよ」
「なら、何とかなるかもしれない」
俺は悪い笑みを浮かべながらイリアスに作戦を話したのだった。
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街から少し離れた場所にその湖はあった。
小さな湖は川を通して、街に水を供給しているのだそうだ。
そして、湖をよく見てみると確かに水が濁っているように感じた。
「カズマ……なぜ私はこの作戦に賛同してしまったのでしょうか?」
その言葉に振り向くと、とても落ち込んだ顔のイリアスと、狂暴な顔をしたエルの姿があった。
「私、身売りされる奴隷の気分ですよ。創世の女神とあがめられる私が、封印の上奴隷ですか……はぁ」
「このクズが」
もはや怒る気もなさそうなイリアスと、その分いきり立っているエルを見ながら、俺は肩をすくめた。
「だから、これはそう言うんじゃないって。この檻は魔物用の特別なもので、そう簡単に壊れない。だから、中のイリアスがワニ娘に万一襲われても大丈夫ってわけだ」
そう、俺が建てた作戦は、イリアスを檻の中に入れて、その中から浄化魔法を使うという作戦だ。イリアス自身は本来呼吸も必要なく、浄化自体も浄化魔法を使わずとも触れれば浄化されていくらしい。だからこの檻を水の中に投入すれば、後は時間を待つだけ、ということだ。
もしも、何か問題があって逃げなければいけないときは、檻につながっている鎖を、クルセイダーのエルと野生のパワーを持つたまも、それとついでに借りてきた馬車を使って全力で引っぱりあげて逃走する予定だ。
と、いうわけでイリアス以外のパーティで湖にイリアス入りの檻を投入し、時間を待つことになったのだった。
「……なんでしょうね。泥水に塗れていると。とてつもない不快感と共に、なんだか妙な親近感を感じますね……ドブ川……何故だかしっくりきます……」
妙なことを口走っているが、本当に大丈夫だろうか?
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浄化装置、もといイリアスを湖に放置してから二時間。いまだに魔物が襲ってくることは無かった。
俺とたまもとエルは20mほど離れた場所で観察している。ちなみに、一時間ほどイライラして様子だったエルだったが、一時間越えたあたりで何かに目覚めたらしく、怪しい顔と荒い息遣いで熱烈な視線を送っていた。
俺はエルのその視線を見なかったことにしてイリアスに声をかける。
「お、おーい!イリアス!浄化の方はどうだ?湖に浸かってると冷えるだろ?トイレ休憩したかったら言えよ!檻から出してやるから」
遠くから叫ぶ俺に、イリアスが声を張り上げて応答する。
「浄化は順調です!ただ、訂正しておきます。聖魔導士はトイレになど行きません!」
昔のアイドルみたいなことを言うイリアス……いや、もしかして女神とはそう言う生態何だろうか。昔、天界にいるときは天使含め食事がいらないとか言ってたし。
水につけっぱなしで大丈夫かと思ったが、なんだかまだまだ余裕がありそうだ。
「どうやら、まだまだ大丈夫そうじゃの。しかし、トイレに行かんとは……なんの見栄なのじゃ」
「たまもは『アークウィザードだからトイレにはいかんのじゃ!』とか言わないのか?」
そう言うと、たまもは嫌そうな顔をしながら頭を振った。
「んなわけあるかい。なんじゃったら外でもできるぞ。流石に人前ではせんがな」
そこは狐寄りなのか。
「んで、エルは……」
「?スライムが尿なんか出すわけないじゃない。過剰に水分を摂取した時に排水することは有るけど」
うん、聞いた俺が馬鹿だった。
「だけど、遠出してもトイレ関係は問題なさそうだな。何だったら魔王軍幹部の件が済んだら遠出する依頼を受けてもいいかもしれないな」
「それ、さっきのトイレの話で思いついたのかの?遠出に関しては構わんが、実際に依頼を受ける時にはしっかり計画を立てるのじゃよ?」
たまもが苦言を呈した後、イリアスを見て緩く微笑んだ。
「しかし、ワニ娘は来んようじゃの。これで、これからもワニ娘が来んようなら楽なんじゃがな」
たまもがフラグみたいなことを言うと、それが原因ではないだろうが、イリアスの方でも動きがあったようだ。
ワニ娘の到来である。大きさは地球のワニとそう変わらないが、通常のワニの胴体の上から人の女性の上半身がくっついていた。
「え、何あれ」
「ワニ娘じゃの。まあ、沼のケンタウロスとでも思っておけばよい」
「来ましたね!ワニ娘……って、ちょっと待ってください!何人いるんですかこいつら!」
そして、ワニ娘は群れを作る習性があるようだった。
浄化作業開始から4時間
イリアスはとっとと作業を終わらせたいからか、必死の形相で浄化魔法を連発していた。その檻の周りには、興奮したワニ娘が群がっている。
「ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ヒッ!さっき髪を掴まれかけましたよ!ちょ!そこ、なんかメキッて!メキッて言いましたよ!」
そうやってにぎやかなイリアスだが、残念ながらこの状態では爆裂魔法で纏めて爆散させるわけにもいかない。
「イリアス―。どうしてもだめだったら言えよ!引き上げてやるからー!」
叫びながら言うのだが、イリアスは頑なにクエストのリタイアを拒んでいた。
「ば、馬鹿にしないでください!たかがワニ娘に屈するなど、創世の女神として看過できません!ふ、ふふふ、アリスフィーズの子孫の住処を合法的に奪え、報酬まで出る!これほどおいしい仕事はありませんよ!」
そんな風に敵意むき出しの女神さまが目の前にいるからか、ワニ娘たちは俺たちの方をちらりと見たりはするものの、向かってくることは無かった。
「‼見てられないわ!」
「あ!エル!待て!」
何かが耐えられなくなったのか、エルが飛び出し、湖に飛び込んだ。
一瞬、危ないと思ったが、湖に入り込んだエルは水の色と同化し、ワニ娘たちも補足できなくなったようだ。
「エルー!大丈夫なのか!?」
「まあ、自分でやったことじゃ。大丈夫じゃろ」
楽観的に言うたまもに若干安心できないながらも様子をうかがっていると、驚くべきことが起こった。湖の中心に勢いよく水が集まり、そしてきれいな水が噴水のように吹き上がったのだ。
「え、何あれ?」
「ふむ……魔力の感じからして、エルべぇの奴が水を浄化しておるのう。まさに上位スライムの面目躍如というやつかのう」
そして、4時間もかかって浄化していた湖はものの10分で10m以上もある水底が見通せるほどの清流へと変貌したのだった。
「……これ、なんで私4時間も湖に浸かっていたんでしょうか……ってひゃ!」
……その後、突然の浄化に油断したイリアスが、浄化されても残っていた数匹のワニ娘に手を掴まれ、檻越しにいろいろされ、地上波に写せないあられもない姿になってしまったのは俺としても不覚としか言いようがなかった。
というわけで、ブルータルアリゲーター戦。もうこの時点で(というか前々回の段階で)一巻のラストバトル展開がアホみたいに変わることが確定しているのが……。
なるべくお気楽展開にできるように意識しなければ……。
変更点
・魔王軍幹部がまた襲来した時のための作戦が進行している。
・上記に伴い、アークウィザードが作戦の中枢にがっちり組み込まれており、街外へ出ることに精神的な制限がかかっている。
・依頼の内容をもん娘に変更。(もんくえでももんパラでも大体同じ場所に出るし、多分喧嘩してるでしょ。)
・依頼を諦めさせる舌戦の内容を少し変更
・エルの対応を変更(性格の為)
・ブルータルアリゲーターをワニ娘に変更
・引き上げ予定のキャラクターを追加(たまもの怪力設定から)
・女神さまが泥水に不快感を感じるように変更
・メンバーのトイレ会談の内容を変更
・浄化の解決方法を変更(くえ原作でできそうな感じだったし実際できるでしょ)
・最終的に女神さまがある程度被害を受ける形に変更。