エルが湖から上がってきた後、俺たちは檻を引き上げ、イリアスに群がる数匹のワニ娘を追い払った。
そして、少し休憩をはさんだ後、イリアスが目を覚ました。
「お、イリアス目が覚めたか。……なんか、すまなかったな。結局被害もあったみたいだし。俺たちお前が寝てるときに話し合ってさ、今回、俺たちは報酬受け取らないことにしたから、お前だけで報酬30万エリス独り占めだ」
「……私は、イリアスの依頼を取ってしまったから、その償い。むしろ増額して払ってもいい」
そう言う俺たちに、イリアスは死んだ魚のような眼を向けて来た。
「のう、こう言っておるのじゃ、そろそろ出てきてはどうじゃ?」
「ひっ!?」
たまもの言葉に、イリアスは恐れをなしたかのように後ずさりをした。
「ち、近づかないでください……」
「……は?」
「もう、モンスター娘に蹂躙されるのは嫌なの……もう、この檻の中に入って過ごします……」
俺たちは3人で顔を見合わせたまま、お互いに肩をすくめたのだった。
どうやら、ワニ娘たちはイリアスに結構なトラウマを植え付けてしまったらしい。
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「ドナドナドーナドーナ」
「おい、イリアス。もう街中なんだ。その歌やめてくれ。ただでさえ檻の中に女入れてるってことで目立ってるんだから。というか、もう街の中で安全なんだからさっさと出てくれよ」
「いやです。だって、街の中でもモンスター娘はたくさんいるから」
……そう言えばこいつ、この街に来てすぐのころにローパー娘に襲われかけてたんだったか。
約一名にトラウマを植え付けた依頼は、とりあえずそれ以外の被害を出さずに依頼を達成することができた。レベルアップという点では、何匹か討伐できれば一番だったのだが、まあ、楽に済んだので良かったということにしよう。
現在、依頼を達成してギルドに向かうところだが、イリアスが歩いてくれないのでゆったりとした行軍となっていた。
「……め!女神様!?女神さまじゃないですか!?」
そんな油断した雰囲気が悪かったのだろうか。珍しく厄介ごとがないと思っていたら、厄介ごとの種が向こうからやってきた。
「な、なんでこんなところに入れられているんですか!」
そう言って鉄格子を掴んだ男は、あろうことかワニ娘でさえかみちぎれなかった檻を、両手で容易くへしゃげさせてしまった。
唖然としている俺とたまもをしり目にイリアスにかけより、手を取ろうとする男の目の前に水色が割り込んだ。
「私の仲間に何か用かしら?知り合いにしてはイリアスの反応がないようだけれど」
手を取ろうとした男にエルが詰め寄った。その姿は、変な扉を開いて水につかるイリアスをハアハアしながら見ていた人物とはまるで別人だ。
……ずっとこの調子ならなぁ。
男はエルを見て一瞬ぎょっとしてから、しかし何事もない風を装って首を振った。
その所作に、○リと環境破壊以外では割と温厚なエルが明らかにいらだったように顔をゆがめる。
なんだかきな臭い雰囲気になってきたので、俺はいまだに檻の中で三角座りしているイリアスにそっと耳打ちした。
「お前、創世の女神なんだろ?自分に来た客くらい自分でさばけよ」
「女神……裁き?……そう、そうでした!私は創世の女神イリアス!数多のモン娘を裁かなくては!」
……まさかとは思うが、あまりのショックに自分が女神であると忘れてたんじゃないだろうな?
まあ、それはともかく、イリアスはやっと檻から抜け出して……。
「……あなたは、……えーと、待ってください、思い出しますから」
んー?これ、知り合いなのか?
何とも微妙な反応に、男は驚愕の表情でイリアスに詰め寄った。
「何言ってるんですか!俺ですよ!御剣響夜ですよ!あなたに天軍聖剣を頂いた!」
イリアスが納得の顔をして男を見る中、俺もなんとなく状況を察した。こいつはあれだ。俺よりも先にイリアスに送り込まれた転生者だ。
正義感の強そうな顔をしたそいつはかなりのイケメンで、青い高級そうな鎧を見に纏い、そして腰には純白の大剣を携えていた。
ついでに背後にはそれぞれ槍とダガーを持った美少女を侍らせている。
歳は俺と同じくらい……言ってしまえば、漫画の主人公のような奴だった。
「そうでしたね。勇者ミツルギ。確か私が18番目に送りこんだ勇者でした。それで、壮健ですか?天軍聖剣を与えたのです。魔王軍幹部の影くらいは掴んだのではないのですか?」
「は、はい、あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っています。職業はソードマスター、レベルは37まで上がりました。魔王軍幹部の影は……申し訳ありません。恐らく女神さまも知っておられると思いますが、この街の近くの廃城にいる幹部のこと以外は……。ええ、その幹部の話を聞いて、久々にこの街に舞い戻ったところでして……ところで、なぜ女神さまはここに?というかなぜ檻の中にいたのでしょうか?」
ちらちらと俺を見ながら言うミツルギ。というか、多分イリアスも適当に選んでこいつをこっちに転生させただろ。本人の目の前で18人目とか言ってるし。幸い鈍いのかミツルギは気にしていないみたいだが。
というか、こいつ、俺がイリアスを檻に閉じ込めてると思ってないか?いや、まあ客観的に見ればそれ以外の回答はないか。仕方ないので俺は転生からこれまでの経緯をミツルギに語って聞かせた。
「……馬鹿な!ありえない!君はいったい何を考えてるんですか!女神さまをこの世界に引き込んで!?あまつさえ今回のクエストでは檻に入れて湖に浸けた?」
俺はいきり立ったミツルギに胸倉をつかまれる。それを見て、イリアスが静かに手を添えた。
「待ちなさい、勇者ミツルギ。私はこの生活に存外満足しています。それに、この地で目指す目標もできました。今回の報酬も30万エリスとなかなかのものですし。あなたがその力をふるうのはこの男でなく、ふさわしい敵が出て来た時のために取っておくべきです」
「しかしイリアス様!あなたの待遇はいかにも不当だ!しかもこのような仕打ちを受けてたった30万エリス……あなたは女神なのですよ!因みに、今はどこで寝泊まりしているのですか?」
「今は、皆と馬小屋で過ごしていますが」
イリアスが何をいまさら?みたいな風に言うと、俺の胸倉をつかむ腕がさらに強く引き絞られた。そしてその腕をさらにイリアスが掴む。
「今、馬小屋を馬鹿にしましたね?いえ、口にせずともわかります。よいですか?馬小屋とは古来から聖人の生まれる神聖な場所ですよ?そうでなくても、私という存在が起居する場所が不浄の場所とそう思っているのですか?」
意味不明な切れ方をしているイリアスにビビったのか腕を緩めるミツルギに、更に俺の仲間から援護の言葉が続いた。
「ふむ、イリアスの言の正否はともかくとして、カズマに対してのお主の対応は、初対面の相手にとるものではないのう。正義の味方を気取るなら。せめてお主が正義を振りかざせる程度にはメンツを大切にしたらどうじゃ?」
「この度ばかりは、たまもに同意よ。いくら何でもあなたの行動は目に余るわ」
普段は俺を不審者扱いするエルでさえ俺に対して全面的に味方になってくれるようだ。
そんな二人に興味を惹かれたのか、ミツルギは俺から手を放して二人をまじまじと見つめた。
「クルセイダーの上位スライムに、アークウィザード?……それにずいぶんと美人じゃないか。君は、どうやら仲間には恵まれているようだね。それなら、余計に女神さまやこんな優秀そうな人たちを馬小屋なんかに泊まらせて恥ずかしくはないのかい?それに、さっきの話じゃ、君は最弱職だそうじゃないか」
こいつの言い分だけ聞いていると俺はすごく恵まれた環境にいるように感じる。他の人から見ればそんなもんなんだろうか。
「なあなあ、イリアス。この世界じゃ冒険者が馬小屋暮らしなんて普通だろ?なんでこいつこんな過剰に反応してるんだ?」
「彼には天軍聖剣を授けていますからね。以前カズマも言っていましたが、最初になんだかんだあって高位の魔物を討伐して最初の宿屋や武器をそろえて……とそんな流れでお金に困ったことが無かったのでしょうね。まあ、能力を武具や戦闘系のスキルにした転生者はおおよそ同じようなことになりますね」
じゃあ何か。俺はただで貰った聖剣で悠々自適に暮らしてるやつから説教受けてるってことか。俺はゼロから始めて苦労してきたのに?
なんだか無性に腹が立ってきた。
そんな俺の怒りも知らず、ミツルギは同情するかのようにたまもやエルの方を向き直った。
「君たちもだいぶ苦労してきたみたいだね。そうだ!今後は君たちも僕と一緒に来ると良い。もちろん馬小屋でなんて寝かせないし、武具も高級なものを買い与えてあげよう。それにパーティの構成的にも言うことなしだ!ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士にクルセイダーのあなた。後衛はアークウィザードの君に斥候役には僕の仲間の盗賊!うん、ぴったりなパーティだ!」
おっと、俺は仲間外れか……いや乞われたって仲間に入りたいとは思わないが。
身勝手なミツルギの提案に、3人はヒソヒソと何やら話し始めた。
まあ、性格はあれだが、実力的には確実に俺よりも上だしな。魔王討伐もやりやすいだろうし、もしかしたらここでパーティ解散か?と思いながら、彼女たちの話に耳を傾ける。
「……何ですかあの勇者は、本当に怖気が走りますね。私、私を無視して話を進める愚か者が一番嫌いなんですけれど。本当に私が召喚した勇者なのでしょうか?あぁ、いましたね、いたんでしたね。全く、もう二度と会わないからと適当に転生させた過去の自分が憎らしい」
「ああいった自分が正義と考えている人間が、結果的に自然を汚す。対話を出来ない存在は害虫に劣る」
「なんじゃろうな、あの男。殊更に金持ちアピールをしよって。いっそのこと、夜中に宿屋に入り込んでその首をキュッとやってやろうかの?うち、結構そう言うの得意なんじゃが」
おおっと、結構な不評だ。というかこれ、逆に俺が止めないとイリアス達がやばいことやりかねないくらい嫌われてないか?
「カズマ、行きましょう。あの男を転生させたのが間違いでした。関わっても益はないでしょう。さっさと行きますよ」
かなりイラつく相手ではあるが、まあ、イリアスの言う通りこのまま立ち去るのが正解なのだろう。
「えーと、俺たちのパーティは満場一致であなたのパーティには入りたくないそうです。俺たちは依頼の達成報告があるのでこれで……」
俺はそう言うと馬を引いてその場から立ち去ろうとした。
…………。
「あの、そこ、どいてくれます?」
俺の前に立ちふさがったミツルギに、いらいらしながらも言葉を交わす。
「僕は、それでも僕に聖剣を与えてくれたイリアス様をこんな境遇においては置けない!カズマ!君は転生特典で持ってくることができる物としてイリアス様を選んだんだったよね!」
「ああ、そーだよ」
漫画でよくある流れとして、俺はこの後の展開が手に取るように分かった。
「なら、僕と勝負をしないか?僕が勝ったらイリアス様は僕のパーティに入る。もし僕が負けたら、君の言うことを一つ聞こう」
「よし乗ったじゃあ行くぞ!」
予想通りの展開に、俺はためらうことなく短剣を振りかぶった。話している間中、ずっとイライラしていたのだ。
奇襲じみた先制攻撃だが卑怯とは言うまいな!というか、高レベルのソードマスターが最弱職の冒険者に勝負を吹っ掛ける方がよっぽど卑怯だ!
「え、ちょ、ま」
まさか話の直後に攻撃されるとは思っていなかったようだが、そこはさすがに上級職。即座に剣を抜いて一撃目を防ぎにかかった。
俺は俺の短剣がミツルギの剣に触れる直前に左手を伸ばしてスキルを発動させる。
「スティール!」
直後、左手にずしりと重い剣の感触が伝わる。お、一発目から大当たりを引いたようだ。
「え?あ?あれ?」
困惑するミツルギの頭に俺の短剣が振り下ろされ、額を強く殴打されたミツルギは簡単に意識を手放した。
「卑怯者卑怯者卑怯者!あんな方法でミツルギ様に恥をかかせるなんて!」
「そうよそうよ!もっと正々堂々と戦いなさいよ!」
ピーチクパーチクうるさい二人の声を甘んじて受けつつ、俺は彼女たちに一方的に宣言した。
「勝負は俺の勝ちだ。あ、俺が勝ったらなんでも言うこと聞くってことだったよな。じゃあ、この天軍聖剣ってのを貰うわ」
その言葉に、取り巻きの一人がいきり立つ。
「ちょ、何言ってんのよ!そ、それに天軍聖剣はミツルギ様の専用装備よ!あんたが使っても意味がないんだから!」
「え、そうなのか?せっかく最強装備巻き上げられたと思ったのに」
その言葉にイリアスが残念そうに首を振った。
「ええ、残念ながら、天軍聖剣はあの男の専用武器です。まあ、本来は天界の戦闘天使用の装備なのですが、それを人間にも使えるようにした装備なのです。一応使えることは使えますが、あなたが使ってもこの剣の恩恵である聖なる力や剣技が冴えわたる効果は得られません」
なんてこった。まあ、せっかくだし貰っていこう。
「ってなわけで、この剣は貰っていくから、そいつが目覚めたら、お前が持ちかけた勝負なんだから恨むなよって伝えておいてくれ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!私は、あんな勝ち方認めないわよ!」
「そうよそうよ!キョウヤの聖剣、返してもらうんだから!」
そんな言葉を吐く女たちに俺はゆっくりと向き直って言葉をかけた。
「まあ、あんたたちがそう言うつもりだって言うんならいいんだけどさ。俺は真の男女平等主義者にして、女にドロップキックを食らわせられる男。手加減を期待してるなら、それは無駄な希望だ。いや……相手が女ってなら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂することになるなぁ」
そう言って笑うと、別の危機を感じたのか女たちは身を寄せ合って急いで立ち去っていった。
「……あの、じゃな、うち、公衆の面前でそう言う顔するの、やめた方がいいと思うのじゃ」
ドンびく二人と、すごくよそよそしく指摘してくれるたまも。……むしろ指摘してくれなかった方が傷が小さかったかもしれない。
投稿して1日経ったらお気に入りがかなり増えていた件。
感謝の追加投稿です。今回は変更点少なめ。
なお、主要人物のなかで転生者は無条件で入れ替わりが起こりません。あくまでも、現地人達が変更の対象です。
つまり、チョーさんもチョーさんのままです。……あの人の断片的にでも分かる情報的になんだったらもん娘達に搾られてそうな気もするんだよなぁ……。
変更点
・ソードマスターが持っている武器を魔剣グラムから巨剣のレジェンド装備「天軍聖剣」に変更。(以前の「月喰い」と状態はほぼ同じ。女神アイテムのため多少+がついてるかも)
・仲間に誘われたメンバーがやたら攻撃的
・アークウィザードが最後に一言今回の所業にコメントする。