この素晴らしい世界にもんむすを!   作:邪魅魑

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EP17 勇者の追加攻撃!

 俺たちはやっとのことで馬車を引き、ギルドに到着することができた。

 報酬は全額イリアスが受け取ることが決まっているので、報告もイリアスにしてもらうことになった。

 俺は所用があるため少し遅れてギルドに到着したのだが……。

 

「ちょ、どういうことなのですか!」

 

 ギルドの中からイリアスの悲鳴が響いてきた。

 

「どうしたイリアス!」

 

 慌ててギルドに飛び込むと、胸倉をつかまんばかりに詰め寄ったイリアスに、ギルド職員が申し訳なさそうに言葉を続けた。

 

「いや、ですから、この檻は特殊な素材、製法が必要でして、ここまで破損しておりますと、買取していただくしかなくて……」

 

「その費用が20万エリス、というわけですか」

 

「ええ、例えば、そこの噛み跡とか、あれくらいなら、まあクエストの必要経費として多少の貸与料だけでいいのですけど」

 

 それを聞いて、イリアスは力なく腕を下ろし、そして悩ましそうに言葉を続けた。

 

「その檻が壊れたのは依頼時ではなく、依頼後なのです。しかも、街に入ってから、とある冒険者に破損させられたのです。そちらに請求することはできないのですか?」

 

「ええっと……。申し訳ありません。こちらはあくまでも貸与しただけなので、破損の原因は関係ないんです。言ってしまえば、今回の依頼で破損したとしても、『ワニ娘が壊したんだからワニ娘に請求してくれ』とか言われかねないので」

 

「……そうですか」

 

 その言葉であきらめたのか、イリアスは落ち込んだ様子で帰ってきた。

 

「今回の報酬は壊した檻の代金を引いて10万エリスだそうです。意外と檻も高いものなのですね」

 

 ずーんと沈み込んでいるイリアスにはさすがに同情してしまう。まさかこんなところに落とし穴があるとは。

 

「そうというのも、あのミツルギのせいです。全く過去に行くことができれば、私にあの男をこの世界に送らないように言うというのに」

 

 と、そんな話をしていると。

 

「見つけたぞ!佐藤和真!」

 

 ちょうど、話題のミツルギが教えてもいない俺のフルネームを叫びながらつかつかと歩み寄り、バン!と手を叩きつけた。

 

「君のことは、剣士風の女性に話を聞いたよ。パンツ脱がせ魔のカズマとして有名なんだって?ほかにも、幼女を粘液まみれにして喜ぶ変態とか、鬼畜のカズマだとか言われているそうじゃないか」

 

「おいちょっと待て、それ、誰が言ってたんだ!」

 

 パンツ脱がせ魔は……まあ不可抗力ながら否定ができないが、他のことに関しては事実無根だ!誰がそんなことを吹聴したんだ!まぁ、約一名心当たりはあるが。

 

 と、そんなことを考えていると、イリアスがゆらりと立ち上がった。

 

「……イリアス様、私はこの男から聖剣を取り返……ヒッ!?」

 

 そう言うと、ミツルギは思わずイリアスに剣を向けようとして、失敗した。

 

「……命拾いしましたね、ミツルギキョウヤ」

 

 静かにそう言うイリアスは、少なくとも雰囲気以外は穏やかに見える語り口だ。だが、先ほどまでは、単純に不機嫌であったために漏れてしまった神聖さをにじませた怒りの雰囲気だったのが、ミツルギが剣に手を向かわせた段階で、以前俺が転生直前に不本意にも味わうことになった、あのイリアスと入れ替わりになった天使、ルシフィナに向けられたものと同質な殺気へと変化していた。

 

「わ た し に 、 け ん を む け よ う と し ま し た ね ?」

 

「あ、ああ、もももも、申し訳あ、あり、ありま……」

 

 端正な顔が狂気にゆがむというのは、まさにこういうことなのだろう。その狂相は、もはやだれにも止められないと確信ができるほどに恐ろしい顔だった。それと同時になんだかイリアスの周囲にチリチリとした何か鉄が焦げたような臭いがあたりを包み、時空がゆがむように視界がおかしくなっていた。

 

 なお、そんなことをされたミツルギはもはやプルプル震えるだけの生物となり果てており、その後ろで余波を受けた取り巻き二人も腰を抜かして……これ以上は彼女たちの名誉のために黙っておくことにしよう。

 

「ちょっと待て、イリアス。深呼吸。深呼吸だ」

 

 たまもが頭を抱えてうずくまってたり、エルがたまもを庇う場所に移動していたりとイリアスの雰囲気に飲まれている中、唯一一度この殺気を感じたことのあった俺がイリアスに落ち着くように声をかける。

 

「……………………はぁ、私としたことが。少し熱くなってしまいました。感謝します。カズマ。……ミツルギキョウヤ。面をあげなさい」

 

 たっぷり10秒はかけて無言を貫いたイリアスは、しかし落ち着いたのか、そこでため息を一つついて威圧感を霧散させ、ミツルギに語り掛けた。

 

「は、はははい」

 

「この度の事、今後五戒を順守するならば、不問といたしましょう。『神に剣を向けることなかれ』『魔物と交わることなかれ』『祈りを欠かすことなかれ』『神を汚すなかれ』『他の神を頼むなかれ』……最後の一つは、この世界には合いませんか。とにかく、先の4つの戒めを常に心に置き、敬虔なるイリアスの信徒となるのならば、この度の罪を許し、再び我が信徒の末端として迎え入れましょう」

 

 その言葉に、ミツルギは祈るように手を合わせ、涙を流してイリアスを見た。

 

「あ、あぁ!イリアス様!なんというお慈悲だ!そんなお方に私は、私は何ということを!何か、懺悔を、罪を雪ぐ機会をお与えください!」

 

「その罪の意識を持つことこそ、あなたの贖罪の始まりなのです……。ですが、そうですね。そこまで言うのなら、あなたが犯した罪科、ギルドの備品である檻を壊した罪を金銭で支払う機会を与えましょう。20万エリスを納めるのです。そうすればほんの少しではありますが、あなたの罪は贖われるでしょう」

 

 その言葉にすぐさまミツルギは懐から20万エリスを差し出した。

 

「罪を償おうとする姿勢、確かに見届けました。私はこれから、あなたの同行者と少し話してきましょう。しばらくこの酒場で時間を使うとよいでしょう」

 

 そう言うと、イリアスはエルに一声かけてから二人を連れて行ってしまった。多分大丈夫だと思うが、少し不安だな。

 と思っていると、エルがさりげなく二人のいた地面の上を通り、そしてエルが去った後にはきれいな床が姿を現していた。

 

「……なあ、エル」

 

「私はイリアスに頼まれただけよ。女の子二人があんな恥をかくなんて、トラウマものだからって」

 

「……顔、にやけてるぞ」

 

「……っ!気のせい」

 

 本当に気のせいなのだろうか?まあ、実際にエルが言った側面もあるのだろうし、見た目的にもぎりぎりセーフなので見なかったふりをしよう。

 

 と、仲間のことで遠い眼になっていると、後ろからミツルギが声をかけて来た。

 

「その、カズマくん!少し、話があるんだが」

 

「あ?何?」

 

 去ったと思った厄介ごとに声を掛けられ、若干適当に返答すると、ミツルギは目を少し逸らしながら俺に話かけて来た。

 

「正直、君との決闘の結果は納得いかない。……ただ、それでも君の勝ちは勝ちだ。そこは否定できない。だから、こんなことを頼むのは虫がいいことだっていうのは理解している。それでも頼む!俺にあの聖剣を返してほしい!君も、イリアス様の信徒ならわかるだろう!イリアス様に全力で応えるためには、俺にはあの聖剣が必要なんだ!それに、あの聖剣は君が使っても、多少普通の剣よりも切れ味がいいだけのただの剣だ。切れ味のいい剣が欲しいなら、僕がこの街の最高級の剣を買ってあげよう。だから、どうか、僕の聖剣を返してくれないか?」

 

 本人も言っていたが何とも虫のいい話だ。そもそも、イリアスは俺の転生特典としてついてきた女神だ。つまりは、こいつの持っていた天軍聖剣と同じものを賭けたということだ。

 

「……つまり、私を賭けた賭けの対価がそれという事は、私の価値は駆け出しの街の最高級武具程度だと、あなたはそう言いたいわけですね。ミツルギ」

 

「いいいいいいえいえ、そ、決してそんなことは!た、ただあなた様に十全に尽くすためには、あの剣が無ければ、と。だ、だからカズマくんの、じ、慈悲にすがりたい、と」

 

 地獄耳なのか、かなりの距離にいたにもかかわらず顔を出して指摘したイリアスに、いっそ哀れなほどに取り乱すミツルギの袖を、たまもがちょいちょいと引っ張り気を引いた。

 

「あ、ど、どうしたのかな?お嬢ちゃん」

 

「いや、盛り上がっとるところ悪いんじゃが、あの男をよーく見てみるのじゃ?なんかないと思わんか?」

 

 そのたまもの言葉で、ミツルギはじーっと俺を見つめ、そして焦ったように俺を指さした。

 

「さ、佐藤和真、ぼ、僕の天軍聖剣をど、どこにやったんだ!?」

 

 にじり寄ってくるミツルギに、俺は一言。

 

「売った」

 

「チックショー‼君は悪魔か!」

 

 ミツルギは先ほどとは別の涙を浮かべながらギルドを飛び出した。

 ついでになぜか、な・ぜ・か。トイレの方から姿を現した取り巻き二人がミツルギを追って走り去っていった。

 

 

「……全く、一体何の騒ぎだったの?……ところで、先ほどからイリアスが女神だとかなんだとか言っていたけど、あれって……」

 

 ……ちょっとまずいかもしれない。確か、イリアスはモン娘を作り出した邪神、この世界の神のアリスフィーズと敵対しているはずだ。実際はアリスフィーズはそこまでイリアスを毛嫌いしているわけではないようだが、その子孫であるモン娘たちが、女神であるイリアスを恨んでいないという保証はない。

 

 ここは、少し誤魔化すべきか?と思索していると、イリアスが俺を押しのけ、意を決した顔で二人に語り掛けた。

 

「……この際です。二人には言ってしまいましょう。私はイリアス。イリアス教団が崇拝する、創世の神。……そう、私こそが創世の女神イリアスなのです」

 

 そう言いきって一瞬の沈黙。その後、二人の声が重なった。

 

「「え?いや、あなた(お主)グレーターデーモン娘か何かよね(じゃろ?)」」

 

「ちょ!それは承服できないのですけれど!というか、なぜ意見が一致するのです!?」

 

 ……まあ、あの邪悪な威圧感を聖なる女神様のものとは、とてもではないが思えないよなぁ。

 

『緊急!緊急!冒険者の皆さんは、至急、武装を整え、戦闘態勢で正門に集まってください!なお、これはB想定です!心してかかってください』

 

 その言葉に、ミツルギのことで弛緩していた意識が一気に引き上げられた。

 B想定。それはBossの頭文字を取って俺たちが名付けた符丁だ。つまりBoss戦が想定される状況。魔王軍幹部の到来だった。




 というわけで勇者君の後半戦でした。
 なおイリアス様が自分よりもレベル上格上のミツルギくんをビビり散らかすほどの威圧感を放っているのは仕様です。
 まあ、ちょっと文句言おうと話しかけてみたら、相手が剣取り出しそうな仕草してるとか、あの人ならブチギレるよねっていう。

 それと、作中に出てきたイリアス五戒の一つが不適切って話は、イリアスがアリス教を認めたとかいう話では全然なくて、自身が本来この世界の神ではないということと、友人に近い感情を持っている青髪の駄女神様に多少なりとも感情が向いたからです。

次回からいよいよ一巻のラスボス戦!原作のシナリオがフレーバーくらいにしか香ってきませんが、それでもよければ、楽しみにお待ちください。

変更点
・女神の聞き分けが良い
・女神のソードマスターに対する風当たりが強くなっている。
・上記の巻き添えで被害拡大。
・徴収額を適正価格に変更
・緊急警報の内容を変更(大規模作戦が存在するため)
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