俺たちは装備を整え、急ぎ足で正門へと集まった。たまもは総指揮をするために持ち前の身体能力で先行し、俺とイリアスはその後を走って追いかける。
唯一エルに関しては、昼の依頼で吸収した汚れや、先ほどの液体を排出するため、一旦離脱している。
正門に着くと、既に多くの冒険者が配置についており、てきぱきとたまもが指示を飛ばしていた。だが、その顔を見ると、少し焦ったように引きつっていた。
「どうした、たまも!」
「カズマか……見てみよ」
見れば、そこにいたのは魔王軍幹部。だが、彼女は一人ではなかった。たくさんの騎士風のアンデッドがその後ろに続いていたのだ。しかもその数は10や20ではない。
そんなキメラメデュラハンは、静かにこちらに近づくと。心底軽蔑した視線で俺とたまもを見つめた。
「あなたたちは、私の城に来ることもなく、自らの巣に籠る臆病で卑怯な害虫なのね!この人でなし!おまけに、その害虫は毎日毎日私の家に爆裂魔法を撃ちこんでくると来た。
これは、挑発と受け取ってもいいのよね?ねぇ?」
爆裂魔法を撃ちこんでいるのも、作戦の一環だ。毎日毎日魔法を撃ちこんでいれば、そのタイミングは拠点防衛のために城にいる可能性が高い。それに、爆裂魔法が鳴り響く中過ごすのは結構なストレスだろう。
そんなわけで俺たちは毎回位置を変えつつ、(今日は依頼があったので休んだが)爆裂魔法を廃城に打ち込み続けていた。
「その挑発でのこのこやってくるのじゃから、ずいぶんと弱いおつむをしているようじゃの?おぉ!そうじゃった♪そりゃ、頭と体は別々に動いておるんじゃものな♪体の方は、正真正銘の脳無し、というわけじゃ!」
そんなたまもの挑発に、思わず手に持ったものを投げつけようとしたキメラメデュラハンだったが、自分の手にある物が自分の頭であることを思い出して、慌てて小脇に抱え直した。
「……まあ、そのことはここに来た半分よ。私が真に怒っていることは別にある。あなたたちは、仲間に報いようという気概はないのかしら?冤罪で首を落とされたけれど生前は清廉な騎士であることを心がけていた私からすれば、自らが石化する恐怖に耐え、今なお石となり果てても意識のみで恐怖に抗うクルセイダー。恐怖に打ち勝ち、仲間の代わりに呪いを受けたあの騎士の鑑のようなクルセイダーを見捨てて、亀のように街に引っ込むなん……て?」
その時、汚れの排出が済んだエルが、静かに俺の横に立ち、少し顔を赤くしながらキメラメデュラハンを見つめた。
「そこまで褒められると。少し照れる」
エルが少し申し訳なさそうにそう言うと、キメラメデュラハンは天を仰ぎ……。
「なんでなのよ!」
大声で叫んだ。その声に、イリアスがいびつに唇を歪めた。
「ふふふ、しょせんは死にぞこないのキメラメデュラハンですね!つぎはぎの脳では、呪いが解呪されるなんてことは想像もできないのでしょう。自身の力を過剰に信じ、突破されたときの対策も打たない。あなた、もしかして生前は騎士ではなく道化であることを心がけていたのでは?」
イリアスが嘲るように言葉を重ねるのを、キメラメデュラハンは肩を震わせて聞いていた。表情を見るに恐ろしく怒っていることは間違いない。
「……口を慎みなさい。このアバズレ女。私にかかれば、この疲れを知らない不死の体を使って、あなた達を街ごと滅亡させることもできるのよ?いつまでも優しくするとは思わないことね!」
「……それはどうかのう?P隊、ってェ!」
そのたまもの言葉と共に、外壁の上や正門の周囲から主に白いローブを着て杖を持った者たちが詠唱を始める。
「我らが力を見せつけるのです、アリス様の御力を示すのです!」
「「「「「「「「「「ターン・アンデッド!」」」」」」」」」」
外壁の上で一足先に詠唱を終えた蛇の下半身を持つシスターの掛け声とともに30を超える聖光がたった一人のアンデッドに降り注いだ。
「……っく!」
「ここにいるのは冒険者だけではない!町の教会、衛兵、商店に至るまで、うちらの戦いのために手を貸してくれているのじゃ!うちらが容易く崩せるとは思わんことじゃ!」
たまもの宣言に、しかしキメラメデュラハンはくつくつと笑った。
「ふ、ふふふ、ははは、確かに人間としてはよく考えたようね!だけど地力が足りなさすぎる。……残念ねぇ、もしも全員が高位神官なら、少しは私にもダメージが「ターンアンデッド!」……うぐぅ!?」
一斉斉射から遅れくこと少し、自慢げに自分の耐久力を自慢していたキメラメデュラハンにイリアスの放ったターンアンデッドが突き刺さり、その体を蝕んだ。その威力はどう甘く見てもキメラメデュラハンにそこそこの痛打を与えることができたようだ。
しかし、キメラメデュラハンは持ちこたえ、身体のいくつかの場所から黒い煙を出しながら、もイリアスをにらみつけた。
「あ、あなた。いったい何者なの?魔王軍の力により、私は神聖な属性にもかなりの抵抗があるはずなのだけれど」
言いながら、キメラメデュラハンは首を傾けた。それにイリアスは酷薄は笑みを浮かべて立ち向かう。
「……まあいいわ。本来なら占い師が言っていた、この街の周囲に強い光が落ちた……という事象の調査をするべきなのだけれど」
そこまで言って、キメラメデュラハンはその顔に狂相を浮かべる。
「!いかん!エル!」
たまもの言葉に、反射的にエルが体を広げた瞬間、キメラメデュラハンの蛇の目を含めたすべての目が赤く輝いた。
「この街の人間をすべて殺せば事足りることよね!」
「……っ!」
そして、次の瞬間、膨大に膨れ上がったエルの体のいたるところが、灰色に変色していく。
「!セイクリッド、ブレイクスペル!」
しかし、次の瞬間、イリアスの呪文によって、石化は止まり、元の柔らかい水色へと戻っていった。
それを見て、キメラメデュラハンは荒い息を吐きながら驚嘆の声を発した。
「へぇ、前のに比べれば使った術は弱いとはいえ、さっきのを解呪できるのね……。
分かったわ。前の呪いを解呪したのは、あなたね?」
「セイクリッド、ターンアンデッド!」
「うっ、あああああああああああっ!」
先ほどよりも激しい叫びが戦場に響き渡り、しかし、それも数秒で途切れた。
「ふ、ふふふ、あははははは!いいわ、いいわ!いいでしょう。軍の半分は冒険者どもを押しとどめなさい!そして、残りの半分は……女天使!あなたのお相手よ」
その号令と共に、アンデッドナイトたちがこちらに向かって進軍を始めた。
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「……くっ!」
アンデッドナイトの進行が始まってすぐ、イリアスはすぐさま空を舞い、移動を開始した。
幾ら集結していようとも、ここは駆け出し冒険者の街、全軍で攻められればさばききれないと考えられたからだ。
「流石、脳まで腐ったアンデッドですね!空を飛べる私にアンデッドで挑むとは!単純に戦力を分散させているだけの愚行に気付かないのですか?」
「ほざけ」
そう言うと、キメラメデュラハンは目線をイリアスに向け、そしてイリアスは咄嗟にその場から退避する。そして、次の瞬間、イリアスが急にバランスを崩し、数メートル落下する。
「イリアス!」
「こちらは大丈夫です!そちらに集中しなさい!」
そう言って、石化された部位を直しつつ、イリアスは高度を維持しての逃走を再開した。
そう、イリアスは孤立させられたうえでキメラメデュラハンの石化の呪いを放たれ続けていた。幸いなのは、戦闘開始時に放たれた範囲攻撃がいまだに放たれていないことだろう。恐らくあれは、消耗の激しい必殺技のような物だったのだろう。
そして、もう一つキメラメデュラハンの誤算があった。それは、冒険者の方に向かったアンデッドナイトが思ったよりも少なかったということだ。敵戦力が10がとすると、8~9はイリアスの方に向かっていた。ゾンビの上位互換であるアンデッドナイトとはいえ、5~6人で相手をすれば駆け出しでもそこそこいい勝負は可能だ。だから、八割がたの戦力がたった一人にかまけている今の状況は俺たちにとって非常に都合が良かった。
「……もしかして、この世界のアンデッドって、女神に寄っていく性質があるんだろうか?」
そう言えば、以前シロムのところのルフレツィアもイリアスに襲撃をかけていたし……まあ、あの時はイリアスが先制攻撃したようなものだが。
「……!?ちょっと待て、たまも!」
「なんじゃカズマ!数は少ないとはいえ、こちらにも敵はおるんじゃぞ!」
「爆裂魔法を準備しろ!大至急だ!」
その言葉に、たまもは双爪を振るい、目の前の敵を吹き飛ばした後、苦言を呈する。
「イリアスが大事なのはわかるが、あのままならもうしばらくは……いや、分かったのじゃ。しかし、こちらの相手は」
「ライトオブセイバー!」
残敵の対処のため躊躇するたまもの目の前の敵が、光の剣により両断される。
「全く、なぜ私に声をかけてくれないのですか?あなたの尻拭いをするというのはいささか納得できないところもありますが、こんな祭りに招待してくれないとは、あなたの狭量さには驚きますよ」
「ふん、七尾め、好きかって言いおるわ。じゃがそうじゃな、此度ばかりは感謝を述べるとしよう!任せたぞ!七尾!」
「承知!」
そう言って、驚くほどの速度で放たれる光の剣で、アンデッドナイトたちは塵と化していく。
そして、イリアスの方を見ると、俺の恐れていたことが現実になっていた。イリアスが、空を飛んでいるアンデッドナイトに背中から刺されていたのだ。
「……っつ!離れな、さいっ!ターンアンデッド!」
そのアンデッドナイトは、至近距離のターンアンデッドで消し飛ばされるが、同時にイリアスの翼が灰色に変色する。
「……しまっ!?」
「堕ちなさい!」
愉悦に混じる声で言うキメラメデュラハンの目線の先で、絶望的な状況に思わず目を背けそうになった次の瞬間、地面とイリアスの間に、急に漆黒が割り込んだ。
「お嬢ちゃん、無事?」
「……あなたは!」
胸と腰だけを守る服を纏ったその人物は、今まではなかったはずの大きな翼をはためかせ、落ち行くイリアスを受け止めた。
イリアスは驚愕しながらも自分の翼を治癒し、再び空へと舞い戻る。
「なぜ、助けに来たのです!?」
そんなイリアスの詰問に、女は微笑んで答えた。
「前途ある若者を助けたい、それがおかしなことかしら?さあ、行きなさい。地獄への一番槍は、私がもらうわ!」
そう言って、イリアスの前に立ちはだかった女は、次の瞬間、先ほどのイリアスのように翼を固められ、地面に墜落していく。
「イリアス!まっすぐ戻って来い!」
そして、その光景を見るまでもなく俺は遠くまで飛翔していたイリアスに叫んでいた。
直線での飛行。それは、キメラメデュラハンからすれば絶好の襲撃タイミングだ。何しろ石化の呪いの発動条件は、恐らく視界に収めること。円を描くように移動したり、激しく進路を変えるならともかく、速度が速くても直進しかしないなら、視界に収めるのはたやすい。だから、この指示は悪手だ。本来なら。
「愚かね!食らいなさ「エクスプロージョン‼」……っああああ!」
だが、それに集中するということは同時に、狙った相手、イリアス以外には視界に入りにくいことも意味する。本来ならば逃すはずもない爆裂魔法の起動もイリアスに集中しすぎていたキメラメデュラハンにとっては反応が遅れる結果となった。
そして、その爆発は追いかける対象がキメラメデュラハンの頭上を通過する形で通り過ぎた結果、合流することとなったアンデッドナイトたちを巻き込み、そして全滅させた。
ついでに誘導役を担ったうちの女神さまも爆風にあおられ吹っ飛ばされたが、エルが受け止めたことで事なきを得た。
こうして、残りは手負いキメラメデュラハン一人きり。それは俺たちにとって間違いのない好機だった。
もちろん、こちらだって無傷ではない。多くの冒険者が傷つき、またたまもも先の爆裂魔法で俺の背中に身を預けている。
いよいよ戦いの大詰め。俺は冷や汗を拭いながら、戦場を見つめるのだった。
P隊→プリースト隊
エヴァさんの、ちょっといいとこみてみたい!
……これは未来のクイーンサキュバスなのも納得やな(笑)
そして、この部分書くときにもう一度エヴァ見たけど、こいつ角ないじゃないか!ラリルトリオにすらあるのにこいつは……。(まぁ、人間から淫魔にかわったミルク絞りさん達も角ないから唯一ってわけじゃないけど)
本来なら本文を修正すべきかもですが、ここまで来ちゃったのでこの世界のエヴァさんにはルミよりも小さい角があるという設定にします。
そして、前回も書きましたが、バトルの内容がかなり改変されています。
変更点
・冒険者以外にも町の門に集まっている。
・初撃をイリアス様ではなくシスターラミア率いるプリースト隊に変更
・魔王軍幹部の殺意が高い
・キメラデュラハンの襲撃対象を変更