この素晴らしい世界にもんむすを!   作:邪魅魑

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EP20 其はラスボスの如き嵐

 大人の姿になったイリアスは、ゆっくりとあたりを見回すとキメラメデュラハンを見たところで、その顔に笑みを浮かべた。

 

 次の瞬間。

 

「……っ!」

 

 ゾクリ悪寒が走り、思わず平伏してしまいそうな威圧感が周囲にまき散らされる。そして、涼やかな声でそれは放たれた。

 

「裁 き の 雷 ‼」

 

 それは、神の怒りだった。俺が転生前に放たれたものとも違う。当然、いつも蛙に放っているそれ等児戯どころか静電気程度に感じてしまうほどの膨大なエネルギーの暴力。

 たった一度の攻撃で、あれほどの暴威を振るったキメラメデュラハンは黒い灰になり下がった。

 

「うっそだろ、おい」

 

 冒険者たちが戦慄する中、俺はイリアスに向かって声をかけた。

 

「すごいなイリアス!でも、もう魔王軍幹部は倒れたし、奥の手ってのもそろそろやめてもいいんじゃないか?」

 

 そう言う俺に、イリアスは微笑みを浮かべ、そして素早い正拳が俺を貫いた。

 

「がっ……は」

 

「私に指図するとは、ずいぶん偉くなったものですね、佐藤和真」

 

 そう言って、イリアスは俺の頭を掴み、持ち上げる。

 

「それに、間違っていますよ。魔王軍幹部が倒れたからと言って、戦いが終わるわけではありません。佐藤和真、あなたが私に道を示したのではないですか?モンスター娘をこの手で亡ぼすことが、私の目的であると」

 

 その言葉に俺は動かない口を必死に動かし、声を張り上げた。

 

「逃げろ……!特に、魔物の特徴を持っている奴は!」

 

 その声を聞いて、イリアスは俺を掴む力を強くする。

 

「……あなたも、あなたも私を否定するのですか!佐藤和真!」

 

 激昂するイリアスの手が、再び俺の腹部に迫る。

 

(あぁ、こりゃ死んだかな?)

 

 薄れゆく意識の中そんなことを考えていた俺だが、しかし、その後、衝撃は一向に伝わってこなかった。

 目を開くと、そこには紫の肌のラミアの少女がイリアスの拳を細剣で受け止めていた。

 

「……全く、余は旅のグルメをしていたいだけなのだがな。まさかこんなことになるとは……」

 

 そう言うと、クリス……否アリスフィーズは細剣を構えてイリアスを見据えた。

 

「その風貌、その聖気、ただの天使ではなく、貴様は女神イリアスだな?まさかあのようにこの街に紛れ込んでいたとは。思ってもいなかったぞ。

 尤も、あのまま世界に紛れて過ごすというのなら、目こぼしもできたのだがな。

 今のお前は看過できん、ここで滅びてもらうぞ!」

 

「アリスフィーズ16世……。ふふふ、フフフフフフフフフフアハハハハハハハハハハ‼‼!一番の怨敵の娘がそちらから出向いてくれるとは!これぞ重畳!良いでしょう!栄光ある私に滅ぼされるモン娘の最初の一人にしてあげましょう!」

 

 そう言うと、イリアスは何度も雷を放ち、そしてイリアス自身もその拳を振るって前に出る。

 アリスフィーズの方もその蛇体をくねらせ、雷をよけると、細剣をイリアスに突き立てた。

 何度も行われる攻防、交わされる剣戟に、双方とも傷つき、消耗していく。

 

「はぁ、はぁ、流石に、分体では魔王の直系の相手は厳しいですか」

 

「……、貴様こそ、やるではないか。これほどの消耗したのはいつ以来か」

 

 二人して攻撃が止まった時、俺は呆然としていることに気付き、慌てて頭を振った。

 

「何かないか?何かないか!あの二人を止める方法!あのままじゃ、どっちかが死んじまう!」

 

 そんな俺に、見慣れた金髪が近づいてきた。

 

「くぅくぅ、お困りのようじゃのう♪」

 

「たまも?」

 

 その姿は尾を耳を隠さないたまもそのもので……しかし、俺は直感的にたまもでないと感じていた。

 

「うむ、そうじゃ。ただ、お主の知っておるたまもとは少し違うがのう。まあ、そこは良いのじゃ。いやはや、見事に暴走したもんじゃのう。イリアスの奴」

 

 そう言って、あっけらかんとした風にたまもは二人の戦いを見た。

 

「っと、こんなことをしておる場合ではないのう。カズマとやら。一つ良いことを教えてやろう。うちが編み出した解呪の詞は、確かに六祖封印を解き、元の姿に戻ることができる。

 じゃが、術自体を失わせるものではない。時間が経てば、術は切れて再び六祖大縛呪に囚われる。あの様子じゃと……そうじゃな、戦いの趨勢にもよるが、あと10分と言ったところかのう?」

 

 あと10分、時間を稼ぐ。それだけなら、何とかなるかもしれない……それに、あいつは言っていた。俺が、あいつに道を示した、と。つまりそれは俺とこの世界で生きた記憶は持っているということだ。何かないか、暴走しているあいつを止められる、そんな妙案は……!

 

 そこで、俺ははっと気が付き、街の前で不安げにこちらを見ている人々の中から、ある人物を探しだす。

 

「……っ!イリアス!」

 

「何ですか?佐藤和真、いま大変忙しいのですが……その男は誰です?」

 

 俺の連れて来た男に、イリアスもアリスフィーズも手を止めた。見覚えのある男だったからではない。むしろその逆、全く見たこともないような少年だったからだ。

 

「その、イリアス様に、クリス、様ですよね?戦いなんてやめてください!お二人とも、僕の料理、おいしそうに食べてくれるから!だから、二人には争ってほしくありません!

喧嘩をやめないなら……ぼく、もう料理作りませんから!」

 

「……はっ!ま、まさか和真、この方は、ギルドの料理人なのですか!?何という事でしょう。アリスフィーズ、勝負は一旦お預けです。彼に祝福を施さなければ!」

 

「待てイリアス!あの酒場に先に通っていたのは余の方だ!余が保護するのが順当に決まっておろう!」

 

 再びにらみ合う両者に、少年は懐から二つの飴玉を取り出した。

 

「その、今はバタバタしてて、こんなものしかないけど、落ち着いたらまたたくさん料理を作るから、だから喧嘩しないでください」

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙して、お互いをけん制し合う二人は、イリアスが静かに一つの飴玉を取ることで動きを見せた。

 

「飴を食べ終わるまでです」

 

「……分かった」

 

 そう言って、お互い戦場でコロコロと飴をなめ合う奇妙な時間が発生する。因みに飴はこの少年が作ったものではなくたまもが懐にしまっていたものを拝借している。まあ、ばれなきゃセーフだ。

 

 そして、俺は少年の一歩前に進み出た。

 

「なあ、イリアス。お前さ、本当にこれでいいのか」

 

「何を言っているのです」

 

「俺、口の中にモノが入ってるときはしゃべるなっていつも言ってるよな」

 

 そう言うと、反射なのか何なのか、イリアスが口を閉ざす。

 

「あぁ、確かに俺は、お前にやりたいことをやればいいって言ったさ。だけどさ、お前がやりたいのって、本当にモンスター娘たちを亡ぼすことなのか?お前がモンスター娘をすべて滅ぼしてしまったら、たまもや、エルだっていなくなるんだぞ?シロムも、ミナも、みんないなくなっちまうんだ。

 そうなったら、この街も無事じゃすまない。普通の人間だって、何人路頭に迷うかわかったもんじゃない。そんな、皆の平穏を失ってまで、それってやらなきゃいけないことなのか?」

 

「言わせておけば!」

 

 イリアスが拳を握る。構うものか。

 

「それにさ」

 

 拳が俺目がけて飛んでくる。だが、俺の口は止まらない。

 

「この街の人と話してるお前、すっごく楽しそうだったじゃないか!」

 

 拳は、俺の目の前1センチで止まった。

 

「……なにを、馬鹿なことを……っ!カズ、マ」

 

 イリアスが悶え、そして俺の名前を呼ぶ。

 

「イリアス!」

 

 その目は、確かに先ほどと違い、あの小生意気で、小賢しくて、モン娘にとにかく厳しくて……でも内心ではとても優しいうちの女神さまの目だった。

 

「手を、握ってください」

 

「あぁ!」

 

 俺と手を握ると、その温かみが伝わってくる。そして、その震えも。

 

「私は、今でもアリスフィーズを、邪神を憎んでいます。今でも、モンスター娘を殲滅したい。それは間違いありません。

 ですが同時に、モンスター娘たち個人に関しては、どうやらそこまで嫌っていないようです」

 

 そう言って、イリアスは晴れやかな顔で微笑んだ。そして、思い出したかのように魔力を込めて宣言した。

 

「この時をもって、イリアス五戒を、イリアス四戒へと緩和します。敬虔なイリアス教徒よ、イリアス以外の神に祈ることを許しましょう。しかし、それ以上に私に祈るのですよ」

 

 そう言い切ると、イリアスは力を失って縮んでいった。

 最終的にいつものロリアスに戻ったところで、俺にもたれ掛かる様に体の力も抜けていく。

 

 そして、そのイリアスの首に剣が突きつけられた。

 

「待ってくれ、アリスフィーズ!いや、クリス!」

 

 その言葉に、ピクリと反応したが、クリスはその構えた手を下ろそうとはしなかった。

 

「そいつは、この世界のモンスター娘全体を亡ぼそうとした危険人物だ。気を失っている間に殺さなければ、災禍をもたらすぞ」

 

「それは、奥の手の副作用だ!奥の手を使わなければ、そんなことは言い出さないはずだ!」

 

「どうだかな?」

 

 そう言って冷笑するアリスフィーズに、横合いから声がかかった。

 

「そうやって意地悪するなら、あまあま団子もう作ってあげないよ」

 

「……んなっ!?」

 

 そう、ギルドの料理人の少年が、俺に援護射撃をくれたのだ。

 

「僕、言ったよね?喧嘩するなら、もう料理作らないって!」

 

「ま、まあまて、少年、私はただ、この女が君たちに被害を与えないようにだな……」

 

 そう言うとクリスはコホンと咳払いをして、剣を納めながら言った。

 

「分かった。なら譲歩しよう。この女が目を覚まして、それでこの街を破壊しないと確証が取れたなら今回は見逃すとしよう。それと、今後はその奥の手とやら使わないことを約束してもらうぞ」

 

 それに、俺は頷いた。本当はこの時点で安全を確保したいところだが、流石にそれは虫が良すぎる話だ。

 

「あ〝な〝だだぢ!ゆるざない!」

 

 地獄に響くような声が響き、俺たちは思わずそちらを見た。

 そこには、エルの足にがっしりとしがみつく、半分以上炭化したようなアンデッドの姿があった。

 

「あいつ!あの状態でも死んでないのか!?」

 

 そして、エルの様子もおかしい。いつもは物理的に透けているエルの体が、濁っているように見えたのだ。

 

「いづもなら゛、恨む゛どごろだげど、ごんがいはだずがっだわ゛

アンデッドの、はい゛は、ぎぐでじょう?」

 

キメラメデュラハンがそう言うと同時に、エルが耐えきれずにどっと倒れた。

 

「づぎは、ぎざまよ!でんし!」




 小生意気で、小賢しくて、モン娘にとにかく厳しくて……でも内心ではとても優しいうちの女神さま
 ……多分カズマ君の目は濁ってますね。うん。クエでの性格考えたらこんな短期間で改心するはずがない。

 イリアス様の内心は、作中でつぶやかせた通り、エルやたまもと言った個人との関わりを思い出して「いま滅ぼす必要はない」と感じただけです。あと、直前にエヴァに助けられていたのも大きい感じ。
 他のもん娘に関してはまだまだ隙あらばどうにかしたいと思っています。

 途中出て来た、謎のたまもですが、今後も何かしら神話関係の話があれば出てくるかもしれません。一応設定としては。クエ世界から流れ着いた大縛呪の研究書(イリアス所持)が現地のたまも(要はめぐみんポジの九尾)と感応して、一時的に魂の残り香的なものが憑依したか、そこら辺を媒介に本家クエたまもが乗り込んできたか、とかそんな感じ。

 そして、これ言っとかないと多分勘違いする(というかさせるように書いてる)ので言っておきますが、イリアス様の最後の宣言は、以前のミツルギ回の時と同様、某青髪様に配慮したものであって、決して邪神アリスフィーズを信仰の対象として認めたわけではありません。
 ただ、あの世界の人々がそう受け止めるかどうかは別問題ですが……。

ちょっとした設定
・ミナはミノタウロス娘(斧の一撃でイリアスをビクンビクンさせたもん娘)の名前
・ギルド食堂の料理人は紫がかった青髪の少し低めの背をしたかわいらしい少年で、イリアスやアリスが好きそうな雰囲気をしている。要は某まものの餌に似た人。
・この世界のたまもは飢えていた経験があるからか、飴玉を常備している。たまに自分でも食べるが、基本は子どもにあげる用。イリアスとの初対面時にもあげていた。
・キメラデュラハンの体細胞×魔王の加護×炭化組織=クィーンスライムすら浄化しきれない猛毒。
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