エルを、アンデッド特有の呪いだか瘴気だかを粉々になった自らの体を吸収させることで倒したらしいキメラデュラハンは、今度は俺たち、正確に言えばイリアス目がけて、ゆっくりと歩みを進め始めた。
「いけません!もう一度、行きますよ!」
そう言って、街門に密集していた聖職者たちが再び呪文を唱え始める。
「ターンアンデッド!」
「「「「「「「「「「ターンアンデッド!」」」」」」」」」」
数十の聖光は、しかし今度はするりとよけられてしまった。
やばい。あちらは確かに満身創痍だ。もう歩くのがやっとといった感じである。だが、敵の攻撃を把握しよける程度はできている。
一方こちらは死者こそ少ないものの、勢力はガタガタだ。
総指揮官のたまもは爆裂魔法の行使の影響でろくに動けず、守りの要であるエルは先ほど倒された。奥の手、という名の壮大な地雷だった女神さまはその力を納め、対抗したクリスも連戦できるコンディションではなく、そもそも女神を危険視しているため少なくとも女神が討たれるまでは動くことは無いだろう。
たまもの友人の七尾の魔法攻撃の音も耐えて久しく、後に残るのはまさに駆け出しというのがふさわしい程度の有象無象の冒険者たちばかり、それと一般の人々ばかりである。
俺が、やるしかない、のか?
もしかしたらそうではないのかもしれない。だが、今動けるのは間違いなく俺しかいない。そう確信した。
方法なら、有る。あのミツルギにさえ打ち勝った戦法。完全に運任せ。だが、運の勝負なら!
「俺が、運がいいらしいからな!行くぜ『スティール!』」
そうして、俺の手が光り輝き、ズシンと思い何かが手に落ちてくる。驚いて両手で支える。そして、何を取ったかを確認する……。ほぉ。
それは、あのキメラメデュラハンの首だった。
「な゛な゛に゛が……」
俺は思わず悪い笑みを浮かべ、ずだ袋に頭を放り込み、残った冒険者に声をかける。
「なあみんな!サッカーしようぜ!」
いきなり俺から発せられた明るい声に、冒険者たちは戸惑いの声を発したが、なんだよそれ、という声を発した冒険者に、俺は明るい声で答えた。
「ああ!サッカーっていうのは、足だけを使ってボールを操る遊びだよ!」
そう言ってキメラメデュラハンの首を蹴り飛ばすと、さすがは常に戦って体を鍛えている冒険者というべきか、非常に軽やかに足で首を蹴り上げた。
「なるほどなっ!」
そう言って、冒険者たちは近くにいる冒険者に向かって首を足で渡していく。
ずだ袋の中から変な声が聞こええてもそんなのは無視だ無視。
「……っ!今です、これが最後になるでしょう!とびっきりの奴を行きますよ!」
「はいっ!」
三度、街門の上の聖職者たちが結集し、詠唱が続く。
「さていき「「「「「「「「「ターンアンデッド!」」」」」」」」」っターンアンデッド!」
なぜか少しタイミングがずれたが、30を超える光がキメラデュラハンに襲い掛かり、そしてボロボロになっていたキメラメデュラハンを今度こそ完全に消し飛ばした。そして、遅れて放たれた聖光に首を放り込み、今度こそ完全に、キメラメデュラハン襲撃は完結したのだった。
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「……あぁ」
エルを迎えに行くと、エルが呆然とした顔で座り込んでいた。
「……倒したのね」
「あぁ。立てるか?」
「問題ないわ」
しかし、そう言いながらもエルは立ち上がらずに手を合わせた。
「どうしたんだ?エル」
「デュラハンというのは、不条理な理由で処刑された騎士が、恨みによってアンデッドになった結果現れるモンスターらしいの。彼女も進んでアンデッドになったわけではない。せめて、私くらいは祈りたいと思ったの。
……キメラメデュラハンに翼を固められたエヴァは、一番最初に酒場で話かけてくれた。
腕相撲勝負に負けて、私の体の成分が硫酸だと吹聴し回ったセドル、私に暑いから大剣で青いでくれよ?あ、何だったらお前の体プール代わりにしてもいいぜ!とセクハラをかましたヘインズ。
思えば、私が避けていた彼らも、別に悪い者達ではなかった。生きていれば酒でも酌み交わしてみたかったわ」
「あら、私は大歓迎よ」
「……え?」
エルが呆然と振り返ると、そこにはノリノリのエヴァと、少し申し訳なさそうなセドルとヘインズがいた。
「その、悪かったな、お前が俺たちをそんな風に思ってたなんて……」
「おう、な、なんだかすまなかったな。そんなに気にしているとは思わなかった……わぷっ!?」
話を聞き終わる前に、エルが三人を捕食するように広がり、三人同時に抱きしめる。
「生きていた!よかった!本当によかった!」
「そんなにうれしかったの……ってくっさ、びっくりするぐらい臭いわよ!あなた!」
エヴァがそんな風に言うように、アンデッドの粉塵まみれのエルがかなり匂ったり、それによって意図せず復讐が完了したりとあったものの、和やかな雰囲気のまま、死んだはずの冒険者たちとの再会がかなった。
なお、冒険者たちが生き返ったのはイリアスのお蔭らしい。六祖封印を解く前に、見える限りの冒険者たちを蘇生させていたようだ。もん娘も人間も隔たり無く、である。
結果、落雷による物的被害はそこそこあったものの、人的被害は心的外傷以外はほとんどなく魔王軍幹部の討伐を達成することができたのだった。
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魔王軍幹部討伐の翌日、俺はパレードのようになった街中を歩いていた。
なにしろ町全体を巻き込んだ大規模作戦だ。町全員が一心になって戦ったことで、まるで文化祭の打ち上げのような一体感を伴った浮ついた雰囲気が町中にあふれていた。ふと周囲を見渡せば、感謝祭だのなんだのと理由を付けて、商店は在庫を吐き出し、何だったら店主自身が進んで客と酒やつまみを片手に語らっている始末だ。
もちろん俺としても満足感はある。これほどのことを成したことに、その一因となれたことに誇らしさと優越感を感じている。だが、こうも思うのだ。今後、本気で魔王を倒そうというのなら、こんなことをどれだけ続けることになるのだろうか、と。
だから、俺は思うのだ。俺は商売で生きていこう!と。もちろん冒険者をやめるわけじゃない。折角の異世界だ。ファンタジーな刺激だってほしい。だけど、それを正業にするなんて必要は全くない。今回の報酬を原資に、資産を増やして左うちわで暮らすのだ。
そして、その余暇のタイミングに、簡単な依頼をこなし、ファンタジーを楽しむ。これが俺の考える一番良いプランだ。
そんなことを考えながら、俺はギルドへの扉へと手をかける。
扉を開けると、そこは酒と人いきれでひどく熱くなっていた。ここでも、もうすでに宴会は始まっているようだ。
「おや、カズマ、遅かったですね。まぁ、今日ばかりは寝坊しても誰も咎めませんか」
「ふん、貴様が暴走しなければ、その男も寝坊せずに済んだのではないか?」
そんなことを言い合ってにらみ合うイリアスとクリスの前に、ドン!と骨付き肉が山盛りにされて下ろされる。
「ほらほら、喧嘩しないで、僕の料理、たくさん食べてください!」
「……アリスフィーズ、勝負は大食いという事にしましょう」
「よかろう。ただし、きちんと味わって食べるのだぞ?」
そんなことを言いながら、二人は骨付き肉の山に飛び込んでいった。なんだかんだ仲良くなって何よりだ。
見れば、もうすでに出来上がっている冒険者も多くいた。ベリアなんてもうべろんべろんだし、七尾は……なにあれ、目の前に瓶で7本くらい転がってるけど、全然顔色変わってないぞ。
と、周りの冒険者の浮かれ具合を見ながら俺はギルドのカウンターへと向かう。そこには俺のパーティメンバーの二人の姿があった。
「おぉ!カズマではないか!早うこっちへ来い!あのな、エルべぇがひどいのじゃ!うちが酒を舐めようとしたら、『あなたにはまだ早い!』って酒をくれんのじゃ!ケチじゃろう?」
「いや、未成年がお酒を飲むのは問題がある。ケチとかそう言う話じゃ……と、そんなことより、あなたも早く報酬を受け取ったらどうかしら?私たちも受け取るわ」
そう促され、俺たちは受付嬢さんの方を向き直った。受付嬢さんはなんだか微妙な顔をしながら俺たち、とくに俺とたまもを見つめた。
「えーっと、とりあえずまずはこれをどうぞ」
そう言って、俺たちは報酬金を受け取った。だが、何かまだ受付嬢さんは言いたいことがあるらしい。
「どうしたんですか?もしかして、将来有望な俺に告白、とか?」
「あ、それはないです」
バッサリ切られてしまった。というか口に出てたのか、恥ずかしい。ジト目で仲間たちに見下される中、受付嬢さんが続きを話す。
「えっとですね、カズマさんたちのパーティには特別報奨金が出ていまして」
「特別褒章金!?そりゃすごいな」
そう言って、俺はたまもとエルを見る。何しろ今回の作戦における中核人物の二人だ、この特別褒章は彼女たちのものと言っても過言ではないだろう。
「すげーなカズマ!ま、お前がとどめ差したようなもんだしな!」
「あんたらがいなきゃキメラメデュラハンなんて倒せっこなかったよ!」
そんな声を聞きながら、俺たちは顔を見合わせ、たまもがふっと笑った。
「このパーティのリーダーはお主じゃ。お主が受け取ってくれ」
「私も同意。それでいい」
と、いうわけで、四人の代表として俺が特別褒章を受け取ることとなった。
周囲の冒険者たちは相変わらず俺たちをはやしており、それが騒々しいと思うと同時に、この苦労続きだった冒険者生活が報われる気がして、なんだか涙が出るくらいうれしかった。
「それでは、えーっと。サトウカズマさんのパーティには、魔王軍幹部キメラメデュラハンを見事打ち破ったことを称え、その褒章金として、3億エリスが支払われます!」
「「「さ、三億!?」」」
予想以上の報奨金に絶句する俺たち、そして、周囲の冒険者も黙り込み……そして。
「すっ」
爆発した。
「すっげーじゃねーか!3億エリス!やったなカズマ!」
「おめでとう!ついでに私にもなんか奢ってよ!」
次々と来る俺たちを称えるに照れつつも、俺ははっと二人に声をかける。
「おい、二人とも、こんだけ報酬を得たんだ!冒険に出る回数を減らしていくぞ!これを元手に商売をして、安全に楽しく暮らしていこう!」
「待ちなさい、それでは各地にいる虐げられている子どもたちはどうするというの?」
「それに、それはパーティの資金のはずじゃ、活躍の度合いで分配するにしろ、パーティの共有資産にするにしろ、お主一人で決めることではないのう?」
若干剣呑な空気になった俺たちの前に、申し訳なさそうに受付嬢さんが一つの紙を差し出してきた。そこにはいくつものゼロが書き記されている。
「あの、ですね、実は、今回の作戦でカズマさんたちのパーティメンバーであるイリアスさんが使った落雷の魔法でですね、街壁や、入り口付近の家屋に被害が出ておりまして……あぁ!もちろん魔王軍幹部を倒した功績もありますから、その、全額とは言わないから、せめて一部だけでも返済してくれないか……と」
そこまで言うと受付嬢さんはそそくさとその場を後にしてしまった。
固まる俺、そして、それをのぞき込んでエルは少し微笑みながら俺の肩を叩いた。
「報奨金が3億エリス、そして、弁償金額が3億4千万エリスね。カズマ。明日は報酬のいい依頼を受けることにしましょうか」
そう言われても、俺は納得できず、心の中で魔王討伐を決意するのだった。
このくそったれな世界を脱出するために!
ということで一巻分が完結しました。
アンケートの結果、次回は本体イリアス様視点の物を挟みますが、単体で更新するのが忍びないので、明日投稿しようと思います。
変更点
・デュラハンの攻撃対策にずだ袋を使っている。
・クルセイダーの会いたい人物と、その後の反応を変更。
・戦いの後の宴会の規模が大きくなっている。
・様々な冒険者との関係性を変更。