「あ、あれは……カズマ、他の者も!頭を下げなさい!」
その言葉を受け、俺はイリアスに問い返した。
「どういうことだよ!イリアス!というか、あいつは何なんだ?冬将軍って感じじゃないぞ?」
「あれは、そんな者ではありません!精霊の中の精霊、4大精霊の一人、風の精霊シルフです。あれに理論は通じません、いたずら好きで、遊び好き、力を持った子どもと考えて間違いない存在が彼女なのです!……まさかこんなところに出張ってくるとは」
「……ねぇ、話していい?」
俺はそれを聞いて慌ててそちらに向き直り、頭を下げる。
「な、何のようだ、でしょう?」
「あのね~、私、春になるまで寝ようと思ってたんだけど、すごい音がして目が覚めたんだよね~。それで、ちいぱっぱたちがびっくりしてたからこっちに来てみたんだ~」
「そ、そうか?」
……ま、まずくないか?これ、俺たちがちいぱっぱを倒してたのばれたら攻撃されるんじゃ……。見た感じ、弱そうに見えるが、4大精霊というだけの存在なら普通に強いに違いない。
「ん?なんか、こっちからちいぱっぱの声が……」
「くっ!か、かくれんぼです、いま逃がしますから!」
そう言ってイリアスが捕まえていたちいぱっぱを開放する。
「ん~?なんか数が足りないかなぁ?ちょっと確認するね」
そう言って、シルフは再び風を巻き上げる。そして、その中から、いかつい鎧武者まで姿を現した。
「あぁ、そんな、冬将軍まで」
そう言いながらイリアスは雪の上に頭をこすりつける。
「……っ!」
すごく悔しそうな顔をしているけど。……って。
「エル!頭、頭下げろ!」
「…………ェ?」
こ、凍ってる!?いや、確かに寒そうにはしてたけど、凍るほどだとは……。一応ぎこちなくも動いているようではあるが……。
「ん~?なんか雪像に話かけてるの、あやしくない?ねえ、どう思う?しょーくん?」
「しょーくん!?偉くかわいく言うね!?おい!」
「そ!私としょーくんは友達なんだよ!私、寒いの苦手だからあんまり遊べないんだけど」
そう言うと、ぶるぶると体を震わせて俺を見つめる。
「君、さっきからちょいちょい失礼だよね?何?実は私を馬鹿にしてるの?」
「いやいや、馬鹿にはしてないけど!ほら、エルも頭下げるんだよ!」
俺が凍っていてなかなか頭を下げないエルの頭を押さえつけつつ俺もなるべく頭を下げる。
「ん~?ってあれ?この雪像、もしかして生きてるの!?」
「おわっ!?」
急に目の前に出て来た物体に、俺は驚いて手を払ってしまう。そして、直後に気付いた、それが先ほど現れた薄緑色の少女。シルフであることに。
その直後、俺はひらめく銀色と「え?しょーくん!?あ、あわわわわ、えっと、どうしようどうしよう!」と慌てるシルフを時々見ながら、くるくると回り、雪の上に視線が移ったところで意識を失ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
……気が付けば、俺は三度荘厳な光あふれる場所に立っていた。
「……シルフと冬将軍のコンビにあっけなく首を飛ばされてしまったようですね。もしかして、あなた、先ごろ討伐された魔王軍幹部に憧れでもありましたか?デュラハン同士なら親近感で吸い殺してくれるとでも考えているのであれば、どうぞこのまま冥府へ送って差し上げましょう。……。
と冗談はともかく、シルフも冬将軍も非常に強力な魔物です。まともにぶつかれば基本的にあなた方に勝ち目はありません。例外も……ないことは有りませんが、それを使えば最後、憎らしいアリスフィーズに私が殺されかねないので却下です。
幸い、シルフは寝起きで寝ぼけており、冬将軍もシルフが呼ばなければ出張ってくることは無いでしょう。あの精霊は愚かで考え成し、子どものような思考をする存在です。舌先三寸で騙くらかせば、戦いに持ち込むまでもなく勝負を終わらせることができるでしょう。
さて、勇者カズマ。私はあなたが魔王を倒すと信じていますよ」
やはり俺が何も言うことができず、一方的に言葉を告げられ、意識を薄れさせていくのだった。
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「……はっ!?」
気が付くと、俺の目の前につむじ風が巻き上がり、巨大な力の奔流と共に、小さな少女が現れた。
「うう、寒いよ……」
俺は慌てて、少女に魔法で火を差し出した。
「ティンダー!っと、それとそこら辺の木の枝を使って……っと。どうだ?寒くないか?」
とりあえず心証をよくしておこう。ワンチャンばれても助かるかもしれないし。
「うぅ、ありがとう。あったかさが骨身に染みるよ」
と、そんなときに、俺の掲げるたいまつに、一匹の凍えるちいぱっぱが飛び込んできた。
「ちいぱっぱ!ちいぱっぱ!あたまのうえがちいぱっぱ!」
「あっ!ちょっと、こっちへ!」
「ちいぱっぱぱぱぱぱぱぱ!」
シルフがそう言っている間に、そのちいぱっぱは燃え尽きてしまった。
「……」
「なるほど、こういう理由か。ちいぱっぱたちも、考えなしだからなぁ。お兄さんたち、ここに何しに来たの?」
そう聞かれ、俺は一瞬言葉を詰まらせたが、一呼吸おいてから返事をする。
「えーとだな、俺たち、実は借金があってな、依頼のためにここに来たんだが、そこにちいぱっぱがいてな」
嘘はついていない。ちいぱっぱの討伐が最終目標だが、借金があるのも依頼で雪原に来たのも、ちいぱっぱがそこにいたのも事実だ。
「そっかー。大人は大変なんだね~。うーん。私も大したことはできないんだけど、それじゃあこれあげるね」
そう言うとシルフは小さな木の実を取り出した。
「妖精のドングリだよ。私のとっておき。でも、君たちがここでキャンプしてると、ちいぱっぱたち、興味をもって近づいてきちゃうと思うんだ。だから、別の場所に行ってくれないかな?」
俺は強張った顔で頷いた。納得はできない。だが、これを拒否すれば冬将軍が出張ってくる可能性もある。手を引くのが正解なのだ。だが……。
そうして悩んでいると、またしてもちいぱっぱが火の中を通り抜けた。そして、そのちいぱっぱは俺目がけて飛んできた。
「うおっ!?なんだなんだ!?」
「あー。燃えてても構わずに飛び回ることがあるから気を付けてね」
……これ、日常茶飯事の光景なのか。俺は急いで帰り支度を始めた。どうせシルフがいる以上ちいぱっぱ討伐はできそうにないし、それに加えて暖を取っていたら、火種が飛び交う可能性があるとか、流石にここにとどまるメリットが無さすぎる。
「あー、でも、エルをどうしよ」
「える?エルってなに?」
「ああ、エルってのはこの雪像だよ。いや、本当は雪像に見えるだけだけど、エルはスライムで、この寒さで体が凍っちゃってるんだよ」
それを聞いて、シルフが驚いたようにエルの周囲を回った。
「えー!これ、ほんとに生きてるの!?すごーい……でもこんだけカチコチだと、いたずらしても気づかなそうだね!」
そう言った途端、彼女の上からハエを叩くように剛腕が振り下ろされ、それに巻き込まれて地面にたたきつけられた。
「……聞こえてるわよ」
そこには、氷の割れ目から瞳をのぞかせるエルの姿があった。
「カズマ、もうちょっとその火をこちらに寄せなさい。もうちょっとで普通に動けるくらいには溶けそうよ」
「うう、ひどいよ」
「ひどいのはあなたよ。動けない相手にいたずらをしようとするなんて、私が溶けて意識が戻ってなかったらもっとひどいことになってたわよ」
そう言って説教するエルに気おされたのか、シルフはふよふよと漂いながらも申し訳なさそうにエルの話を聞いていた。
「……まあ、エルもそれくらいにしてやれよ。子どものやることだろ」
「カズマ、違うわ。子どもを甘やかすのは当然だけれど、間違った道に進まないようにするのも、私たちの役目よ。そこを取り違えれば、他人のことを考えず自然を汚すクズになり下がるの。今のうちに正しい心を得ることができるようにすることが、私たちの役目なのよ」
冷静にそう言うエルは、今までの印象とは180度変わって、普通に子どもを導こうとする教職者のように見えた。
「……それに、慕ってくれればいずれ……」
ん?んんー?
いずれ……なんだろうか。いや、深くは聞くまい。俺の予想通りなら、俺が人間不信になりかねない。明確にしなければそれは俺の考えすぎだと言い張れる。実害は……。あった時に考えよう。
「さあ、準備はできた。さっさと帰るぞ」
こうして、俺たちは無事に街に帰ることができたのだった。
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「それで、俺が倒した3匹と、たまもが倒した19匹で、220万エリスか」
なかなかの報酬だ。ただ、俺が一回死んでいるのでそこで大幅なマイナスだろう。
酒場で久々にごちそうと言えるくらいの食事を囲みながら、俺たちは集まっていた。
「なあ、あの冬将軍とか、シルフって討伐依頼とか出されていないのか?」
「確か、冬将軍の方は特別指定モンスターじゃったな。どれくらいの報酬じゃったかのう?」
たまもの言葉を受けて、エルが少し考えるように答えた。
「冬将軍は……魔王軍幹部みたいにこちらに積極的に戦いを挑むような存在ではないから、強さとしては報酬は高くないはずよ。それでもおおよそ2億エリスだったと思うけど」
2億……それだけあれば、借金を返して、家を買ったとしてもしばらくは遊んで暮らせるだろう。
「なあ、たまも……」
「言いたい事は分かるが、無理じゃぞ。そもそも、うちの爆裂魔法では冬将軍もシルフも倒せん。精霊というのは実態を持たぬ魔力の塊のような物。精霊未満と言われるちいぱっぱならともかく、本来の精霊というのは魔法抵抗力はそれ相応に高いものじゃ。まして冬将軍は上位精霊、シルフに至っては4つしかおらぬ属性の最上位じゃ。まぁ、10人がかりで爆裂魔法を連打すれば倒せるかもしれぬのう」
そうか、まあ、そんなに上手い話はないということだ。とはいえ、その気分が沈むのは抑えられない。それを見て、イリアスが思わずと言った感じで声をかけて来た。
「言っておきますが、そんなことで私も奥の手は出しませんからね」
「いや、お前は何があっても今後一切その切り札を切るんじゃねえ。借金がまた増えるじゃねえか!」
「んぐっ!?カズマ、あなたという人は!……ふふふっ。そんなことを言うと、この子達の恩恵をあげませんよ」
そう言って、イリアスが取り出したのはちいぱっぱが4匹ばかり入った入れ物だった。
思わず二度見したが、よく考えればイリアスがちいぱっぱを逃がしたのは、俺たちがシルフに出会った後だ。つまり死んで巻き戻った時間に逃がしてはいたが巻き戻った後は戻していなかったのだ。
「これだけ冷たいのですから、冷蔵庫の代わりになると思いませんか?そうすれば夏場に氷を売って儲けることも可能です。画期的な道具なら、売るもよし独占するもよしというわけです」
「無理じゃな」
「何故です!」
即否定されたイリアスに、否定した張本人であるタマモが含めるように声をかけた。
「そもそもじゃな、イリアス。凍えるちいぱっぱは少しばかり氷属性を含んでしまったちいぱっぱじゃ。あれは冬の精霊や雪の精霊のように見えるが、その本質は風の精霊じゃ。……ゆえに、冬が過ぎればこやつらは氷属性が抜けて只のちいぱっぱになる。
……それにこやつら案外大飯ぐらいじゃしな。仮に氷属性が抜けずとも夏までの食費で利益が消えかねん」
「な、なんてことですか」
イリアスが愕然として籠を落としたと同時にちいぱっぱが四方八方に散っていってしまった。
もったいない、こいつら一匹10万エリスなのに……と思わないでもなかったが、もうすでに見えなくなってしまったので考えるだけ無駄だ。
「……そう言えば、冬将軍の方は分かったが、シルフの方は懸賞金とかかかってないのか?倒せないのは分かってるんだけどさ」
「シルフは信者もいるれっきとした信仰対象よ。数はイリアス教と同じくらいだけど、アリス教徒にも親しみを持っている者がいるわ。もし討伐なんて……というか敵対した時点でこっちが賞金首に早変わりね」
……どっちにしても無理なんだろう。俺はもう一度大きくため息をついて、今度こそ高額報酬を諦めるのだった。
お待たせしました。
凍えるちいぱっぱは独自解釈の冬のプチシルフです。次回はアニメ化してないパーティ交換回の導入です。
変更点
・討伐数の変更
・氷性の有用性の変更