「久々の尋人じゃな」
そこにいたのは巨大な女性だった。見目は恐ろしく整っており、その豊満な胸を隠すことなくこちらを睥睨している。
しかして、それはただの美人ではなかった。上半身から続く体は何か大きな獣の口となっており、その背には純白の翼が、その尾には6匹の蛇が生えていた。
「スフィンクス娘!?」
驚愕するイリアスに目を細めたスフィンクス娘は、手を鷹揚に動かしてイリアスを制した。
「スフィンクス娘とはまた情緒のない言い方じゃのう。妾はサバサ。王子の手により連れ去られた、悍ましき罪人じゃよ」
「じゃあ何か?お前は罪人じゃなくてただの魔物で王位継承者が魔物に誑かされたって追いかけ回されてたってことか?」
「ま、そういうことじゃな。長年生きてきたが、あれほど熱烈な求愛はまたとなかった。ちなみにそこにおるのが旦那様じゃ。下顎のあたりがシュッとしとってなかなかに良い面構えじゃろ?」
……どうすりゃいいんだ、これ。イリアスは居心地悪そうにもじもじしている。
「おぉ!そうじゃ、せっかくじゃし、少し謎かけでもしていかんか。何、本来なら間違えれば食ろうてしまうところじゃが、そのようなことはせんでの」
なんか恐ろしいことを言いだした。この人に恋をしたという王子さまは何を思ってこの人を好きになったのだろうか。いや、見目は下半身無視すればすごくいいんだが……。
「嫌か?魔物の願いは叶えてくれぬかえ?もし叶えてくれるなら褒美を授けても良いのじゃが」
「……分かったよ。だけど、もし答えられなくても怒るなよ?」
そう頷くと、早速彼女はなぞかけを出題する。
「朝は四本、昼は二本「人間」夜は……と、知っておったか」
「あぁ、というか実のところちょっと前に俺自身が出題したくらいだし」
「おぉ!謎かけ友であったか!」
そう言って笑う彼女は、そのままの笑顔で二問目を出題した。
「なら次じゃ。なぜ妾はなぞを出していると思う?」
「そんなのあんたの主観だろうが……まあ、でも、こんな時になぞかけをするんだ。好きだからじゃないのか?」
それを聞いて、サバサは更に笑みを深くする。
「まさにまさに!その通りじゃな!よいよい。まさしく真理じゃ」
何が面白いのかしきりに笑みを深め、ひとしきり笑った後その目の俺をとらえて言葉を続ける。
「それでは、最後の問題じゃ」
そう言って、すっと目を細めた彼女は先ほどまでと打って変わって厳かにその問題を告げた。
「妾を、このダンジョンから、誰にも知られることなく地上へ出る方法は何か。……妾はこれしか思い浮かばなんだ」
その言葉と共に、スフィンクス娘は自らの首前で親指を横に引く。そして、続けてこう言った。
「この問いに正答したのなら、妾のすべてをお主らに捧げよう。この尾の一つだけでも、貴重な薬の材料になるようじゃぞ?」
この問い、そして直後のジェスチャーから、こいつが言いたいことが分かる。つまり、こいつは俺達に、自分を殺してほしいと言っているのだ。
沈黙が支配する中、イリアスがぽつりとつぶやいた。
「分かりました。責任をもって、私が引導を渡しましょう」
「おい、イリアス!いくら何でも……!?」
思わずイリアスの肩に手をかけた俺は、彼女の顔を見てぎょっとした。なぜなら、その顔は魔物を倒せる歓喜の顔でもなく、強者を殺さなければならない緊張の顔でもなく、苦しさと悲しさ、そしてわずかな後悔さえ感じられる涙の表情だったからだ。
「カズマ。孤独というのは、心を殺すのです。例え己を慕う部下がいようと、例え輝かしい思い出があろうと、心は削れ、抉れ、いびつになっていく。私は、一番初めに私に手を合わせた人間を覚えています。覚えて……覚えているのです。ですが、本当に彼は、彼だったのでしょうか。
あの純粋な信仰を、あの輝くようなまなざしを、私は本当に、受けていたのでしょうか?孤独だと、そんなことばかり考える。そして、仮面をかぶるのです。私はそれを本当に受けていた。いや、受けていないのならば、それは私ではない、と。そして、幻想に浸りながら、真実が迫りくる足音に怯えながらその場に停滞するか、それともすべてを壊すかを天秤にかけて日々を過ごすのです。
勿論、私は、今の生活も悪くはない、と思っていますよ。えぇ、多少業腹なことがあろうと、私はあなたを評価していますから……。ですが、この旅が終わり、貴方が輪廻の渦に帰ったあと。あなたは私に永劫の中であなたの記憶を持って過ごすことを強いるのですか?」
しばしの沈黙、恐らくサバサとイリアスは先ほどイリアスが言及したことについて共感できるのだろう。少しの驚愕を浮かべながらも小さく頷くサバサの姿を見ればよく分かる。だが……。
「……俺は難しいことは分かんないけどさ、言いたい事は分かったよ。つまり、独りぼっちはかわいそうだから、このまま出られないならここで殺した方がましってことだろ?なら、答えは決まりだ。解決法を考えて考えて、それでもだめならたまもやエルも呼んで考えるんだよ!心が削れるって言うがな、話して、なぞかけした相手が、はいそうですかってすぐに殺しにかかったらそれこそ心が削れるだろ?それにさイリアス。あんたが俺たちとの生活を悪くないって言ってくれたんだ。なら、こいつにだって、悪くない出会いがまだあるかもしれないだろ?」
それを聞いて、イリアスはぽかんと口を開けたまま、しばらく動きを止めていた。
「……カズマのくせに生意気ですね」
そう言うと共に、小さい雷撃が俺を襲い、イリアスはそっぽを向いてしまう。
「それで、どうするのですか?解決策は何もないではないですか?」
「それを今から考えるんだよ。なあ、 あんた、人化とかできないのか?」
俺の言葉にサバサは腕を組んで頭を振った。
「覚えておったらとっくの昔にここから出ておるわ。何しろ、旦那様が人ではなく魔物として自分と一緒に過ごしてほしいというのでな。使わずとも覚えておけばこのようなことにもならんかったのじゃが、気が付いた時には地上と連絡は取れず、もはや人化するための方法を知るすべもないというわけじゃ」
そう言って自嘲気味に笑うサバサにイリアスがぽつりとつぶやいた。
「なら、教本か何かで人化の術を知る……いえ、何だったら六祖大縛呪を使って……」
イリアスの教本、という言葉を聞いて、俺は少し頭を巡らせる。なんとなく今できること、この二人でできることで考えていたが、別に今解決法が無くてもいいのか。
「なあ、イリアス。これって、使えないか?」
そうして見せたのはポケット魔王城だった。
「確かに、その魔道具は中に人がいる状態で運搬が可能だったはずです!起動さえできれば、ここでサバサを入れて外で出せば!」
「そして、使い方は今クリスが調べてる!いけるぞ!」
「ええ、いけますね!」
そうして、二人でサバサを見た。サバサは、力なく肩を下げ、うなだれていた。どことなしか、蛇や獣の顔も落ち込んでいるように見える。
「そうか、お主らも、妾を殺してはくれぬか」
「死ぬか死なないかは、あんたが決めることだと思う。この世界に絶望したなら、旦那の後を追うなり好きにすりゃあいい。だけど、こんなところで生きてるんだから、心残りもあるはずだ。地上に出て、今の世界を見てからでも、死ぬのは遅くないんじゃないか?……まぁ、尤も今言った方法も、まだ実現できないんだけどさ」
静かに瞑目したサバサは、覚悟を決めた目で俺達を見て、そして柔和に笑った。
「よかろう。そこまで言うのなら、お願いしよう。そして、その知恵と心根に敬意を表し、今より妾自信をお主に捧げよう。旦那様への恋慕を除きその全てをお主のために使うことを約束する」
結局、そう言うことになったのだった。
というわけで、キールダンジョンにいたのはスフィンクス娘でした。
もんクエ原作と比べると、竜の試練の試験官でもないため数百年、あるいは数千年間誰とも関われず、ただただ愛した者の亡骸と共に過ごすという地獄かな?という環境のせいでクエスフィンクスよりも精神が病んでいます。
そして、その影響で数千年友達を探し続けたイリアスの涙腺が崩壊しました。そりゃ、軟化したメンタリティと同レベルの経験考えたらそうなるよねって言う。
変更点
・虐げられた姫君を奴隷の少女=スフィンクス娘に変更
・スフィンクス娘に名前を設定(クエ世界ではそのままスフィンクスを名乗っている。本作の名前、サバサはクエ世界においての彼女の末裔たちが名乗っている名前)
・生き残っている方を姫君に変更
・女神様が囚われた者に感情移入して同情するように変更
・囚われた者が生存するルートに変更
・事件がまだ終わっていないように変更