「え、あ、まさか!?」
嘘発見の魔道具が鳴るという思わぬ結果に、思わず、と言った風に声が口から漏れ出たイリアスは、慌てて口を閉ざす。しかし、それを見逃すアルダープではなかった。
「まさか?まさかなんだというのだ?よもや、貴様の方こそ悪魔と契約して儂をはめようとしておったのではないか?」
「そんなはずがないでしょう!そもそも、カズマだって、本当に!この世に存在する魔王軍の幹部と戦闘を共にするような深い仲になったことは無いんです!」
ばっ、と全員の目線が魔道具に向くが、今度は魔道具が鳴らなかった。
「先ほどと聞いた質問と同じなのに音が鳴らぬ!貴様が細工をしているのだろう!」
「そんなわけがないでしょう!ほら吹きもいい加減にしなさい!」
言い合う二人だったが、それを裁判長が制止した。
「静粛に‼静粛に、現状のままではらちがあきません、ですから「さっさとこの平民を死刑にして終わればいいのだ!」……この裁判を迅速に終わらせ、原因究明をすべきでしょう」
…………。こいつ、今すごい墓穴掘らなかったか?
「見たことですか!裁判長の口から、あなたの望んだとおりの歪んだ言葉が紡がれましたよ!それこそがあなたがこの裁判に細工をした証拠です!」
「何を言うか!そ、それは偶然というものだ!」
そう言い合いをしている前で、それまで沈黙を貫いていたエルが一歩前へ進み出た。
「裁判長、これを」
そう言うと同時に、どこから出したのか高価そうな材質の紋章のような物が施されたペンダントを取り出した。俺にはそれが何か分からなかったが、裁判所の人間には周知の物だったらしく、驚きで裁判長は立ち上がった。
「あ、あなた様は、まさか!」
そう言って皆の視線を一身に受けたエルは、全体に向かって宣言した。
「申し訳ないけれど、この裁判、私に預けさせてもらえないかしら。もちろんなかったことにして欲しいというわけではないわ。時間をもらえるならば、この男の身の潔白を完璧に証明して見せる。そして、サキュバス襲撃に対する損害があるのならばその損害は必ずさせましょう」
その宣言に、黙って紋章を見つめるしかないセナと裁判長。しかし、アルダープだけは苦しそうに呻きながらこちらを凝視していた。
「いや、しかし、それは……」
「アルダープ。此度はとても不幸な偶然が重なった。まさか、魔道具が故障し、適当な場面でベルが鳴るようになっているなんて」
リーン
エルの言葉に魔道具の音が響くが、そのことに関して決して誰も突っ込まなかった。ほぼ全員がこれはそう言う体の話だと理解していたし、ごくわずかの例外はエルの言葉を真にうけて、そうだったのか!と納得したからだ。
「このような場面の不幸な勘違いを世間に吹聴するのは、私としても本意ではない。だけど、壊れた魔道具の「リーン」結果で裁判を断行しようとするのなら、私は上に報告しなければならなくなるわね」
「そ、それは……」
明らかに狼狽するアルダープの様子を見れば、上に報告されるのはよっぽどまずい状況らしい。
「それと、あなたの家には嫡男が1人いたわよね?」
「そ、それがどうしたというのだ!」
エルはその顔を真面目な顔で……否。若干にやけそうになる口元を押さえつつ答えた。
「いえ、ただ、知り合いになりたいだけよ。なにしろ10にならない少年らしいじゃない。可愛い盛りの子と遊びたいと思うのは当たり前の事よ」
俺は思わずエルを止めそうになり、慌てて口を押さえた。
確かに一見すると、これは職権濫用した身分を隠したお嬢様がはあはあしながらショタを差し出すように脅迫している場面に見えるが、周囲の人間的には、それを口実に悪徳領主から嫡男を引き剥がし正当な教育を施すための下準備に見えているのだ!
なお、現実は非情である。ベルがなっていないのが何よりの証拠だ。
「う、ぬぬ、わかった。確かにこちらの不手際があったようだ。この裁判は、一旦そちらに預けよう」
アルダープがそう告げ、裁判は一旦幕引きになったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
裁判が終わり数日、俺が屋敷の居間へと向かうと、そこには西部劇でコロコロ回ってる草を黒くしたみたいな見た目の何かを手で弄んでいるたまもの姿があった。
「ん?なんだそれ?植物か?」
「おぉ、カズマ。おはようなのじゃ。残念ながら、これは植物ではないのう」
そう言いながらたまもがそれを手で弄ぶのをやめると、それはひとりでに末端を伸ばし、ウニョウニョと蠢きつつ宙に浮いた。
「触手じゃ」
「捨ててきなさい」
触手の中央にある目と目が合った瞬間、俺は思わずそう言った。
「そんなに嫌わんでよかろう?別に悪さするようなもんじゃないのじゃ。結構なれると可愛いんじゃよ」
そう言って頭?をタマモが撫でると、触手の目が気持ちよさそうに閉じられた。
「……そこまで言うなら、様子見するけど、お前がエロ同人誌みたいな展開になっても助けないからな」
「なんじゃえろどーじんしって。まあ、一緒に住めるなら問題ないのじゃ。のう、トロ8世」
「トロ8世?」
じっと触手を見ると、たまもの懐から勝手に魚を取り出して、目からビームを出して魚を灰色に変色させてから目の直下辺りに押し込んでいた。
「……えーと。この触手、魚を石化させてから食べてなかったか?」
「触手ではない、トロ8世じゃ」
そう言う俺とたまもに突如現れたイリアスに覆いかぶさられた。
「二人とも!隠れなさい!邪神の気配が!……おや?何だただの触手ですか」
「てめー!イリアス!なんなんだよ!」
そう言って抗議した俺だったが、イリアスはすました顔でこちらに向き直った。
「ここに邪神の気配があったような気がしたのですが、気のせいだったようです。その触手もよくある触手のようですしね」
そう言ってすました顔のイリアスは、一転少し不安そうな顔を浮かべた。
「それよりも、エルを知りませんか?昨夜から姿が見えないのですが」
「あぁ、エルなら、いまアルダープの野郎との諸々を処理するために実家に戻ってるらしいぞ」
俺はあきれ顔で周囲を見回した。何しろ、結果的に痛み分けみたいになったあの場だが、正直中身を見ればエルやイリアスの脅しに屈したようなものだ。あまり心配はしていなかった。
「え……」
それに絶句するイリアス。……まぁ、気持ちは分かる。この段階でエルが一夜を明かすという事は、領主のショタ息子との一晩中通しての交流(意味深)を敢行したということであり、それは即ちエルが合法的に外道に堕ちたということだ。
「エル、あの子ときたら……」
「あぁ、帰ったら取り囲んで尋問しよう」
エルが帰った段階でこの屋敷がエルにとっての敵地になることが決まったところで、玄関から音が響き、慌てた様子の声が上がってきた。
「サトウカズマ、サトウカズマさんはいらっしゃいますか!」
そうして扉を開けたのは、見目の整ったメイド姿の女だった。
遅れました。
基本、裁判結果は痛み分けですが、原作と比べればカズマたち有利で終わってます。
そして、例の方の姿が確定しました。
トロ八世の由来
とある封印から解き放たれた(とたまもは考えているが確証はない)触手。
トとロを組み合わせると占となり、これはトロ八世の発見の経緯が、彼女の妹である狐二尾が占いを行い、占い結果として向かった先で捕獲したからという経緯がある。その後、名づけの際自分の直属の眷属、ということで九尾よりも一つ下げた8、そして尾が無いので適当に世を付けた。とか言う理由かもしれない。
尚現実問題としては某八世さんの偽名を短縮しただけである。