俺がロリコンの誹りを受けた翌日。俺たちはランに連れられ、彼女の雇い主である貴族様の屋敷へと連行されていた。なお、馬車の為、大きすぎるサバサはポ魔城の中で待機している。
「……えっと、つまりなんだ。エルはお貴族の一人娘で、いまアルダープの息子との婚約をノリノリで進めてるってことか?」
「はい、そうなのです」
貴族邸へと向かう道中に聞かされたその言葉に、俺たちは口がふさがらなくなる気持ちでいっぱいだった。
いや、確かに思い返せば、クィーンスライムなのをいいことに、スライム族の問題を自分で解決するとか言ってたな。片鱗は有ったようだ。
「御屋形様は、それでもお嬢様の望んだものなら、と結婚に反対する気はなかったようなのです。そもそも、お嬢様は貴族の結婚適齢期に差し掛かっておりますし、どちらかというと婚約を早くしろとせっつかれる立場でしたので……ただ、今回の婚姻に関しては、その……なんというか」
「あぁ、うん、分かった。まあ、そうなるよな」
まあ、エル自身も別に歳が行っているわけではないが、流石に相手方が幼すぎるということだろう。そんなことを話していると、俺たちは貴族邸へと到着し、そしてすぐさま屋敷の主の所へと通された。
そこは室内にもかかわらず巨大な池が形成されており、その中に質素ながら見事な出来栄えの執務机が誂えられた場所であった。
そんな場所で、静かにペンを走らせていた妙齢の女性が俺たちに気付いて顔を上げた。その見た目はエルに似た水色の肌と青い髪、それに足、というか下半身が人魚のように魚の尾を思わせる形状になっていた。
「あら、あなた達がエルベディエのお友達かしら?私はアクアリウス=フォード=ウンディーネ。アクアリウス家の現当主よ」
「アクアリウス家じゃと!建国と同じ年月を経た大貴族の一角ではないか!」
「ここにも四大精霊がっ!?」
なんか後ろの二人が全く別ベクトルで驚きを表した。そのことにウンディーネさんも困惑気味だ。
そして、そんな二人の衝撃が収まったあたりで、後ろからぬっと顔を出したサバサがカラカラと笑いながらウンディーネさんに語り掛けた。
「ほほ、久しいのう、ウンディーネ。覚えておるかの?」
「……?……!いえ、その獅子の体躯とご尊顔!もしや、古代王国の奥方様では!」
「そのような他人行儀な言葉はいらぬ。旦那様との逃避行の際は世話になった。妾も此度恩を返せるのを楽しみにしているのじゃ」
「……。我が家の伝承によれば、お婆様が古代王国の奥方様に恩を受けたと伝わっているのですが……。我が家系がさらなる飛躍を果たしたきっかけにもなった、と聞き及んでおります」
からからと笑っていたサバサの顔が、一瞬で呆けた顔となった。
「なんと、なれば、お主はあの時の水精ではないと……。時の流れは残酷じゃのぅ」
「え、ええと、話を進めていいかしら?」
「あ、はい」
呆然として過去に囚われているサバサを一旦置いておいて俺がウンディーネさんに頷くと、彼女はコホン、と咳ばらいを一つして、俺たちに呼び出しの理由を告げた。
「娘から事の経緯は聞いているわ。大分災難に見舞われたようね。しかも、あの子が無茶を言ったようで。我が娘ながら恥ずかしいわ。……っと、そうじゃないわね。今回の話をしましょう。正直、私からすればアレクセイ家との繋がりを作るのは政治的に見ればそこまで悪手ではないし、静観したいところではあるのだけれど、ちょっとあの子の様子が気になっているの。
知っているかもしれないけれど、あの子は少し好きになる人種に癖がある。経緯が経緯だから、自分の好みに合わなくなった途端他の一切を無視して出戻って来ないかと心配なのよ」
「……えぇと、つまり?」
詳しく話しているようで具体的な内容を一切言っていないウンディーネさんの言葉にそう聞き返すと、彼女は俺を指さしてこう告げた。
「あの子がどう思ってこの婚約に挑んでいるのか、それを探ってきてほしいのよ。例え自分の好みから外れても添い遂げようとしているならばよし、途中で捨てようと考えているのなら、そもそも婚約なんてしない方が幾分かマシだわ。その判断はあなた達に任せようと思うのだけれど、娘から真意を聞きだして、それに基づいて婚約を支援するなり、妨害するなり手を打ってほしい、これが依頼の内容よ」
なるほど……。
「ふむ、委細承知した。もとよりエルのこと。逆にこちらが関われることに感謝するのじゃ」
考えていたら、たまもが勝手に返事をしてしまった。まあ、俺としても別に断る気はなかったから良いと言えば良いのだが……。
「それで、報酬の話なのじゃが」
「ちょっと待て!」
たまもがすぐさま報酬の話に行こうとしていたので、俺は慌ててそれを止める。
「……なんじゃ?報酬の話は早くにやっておくべきじゃろう?」
「そりゃそうだが、相手はお貴族様だぞ!それに、こっちの判断如何ではその後の状況も変わるんだ!そんな不確定なことが多い中、報酬が不相応なものになったら……。ほぼ解決したとはいえ、今アルダ……今こっちをにらんできてる奴もいるんだぞ!」
勿論、目の前の女性がこちらを罠にはめたりすることは無いとは思うが、お貴族様というのはどこの世界でも庶民の常識とは違う尺度の世界で生きているものである。もし下手に逆鱗に触れて敵対したりなんてすれば、それこそ目も当てられない。
「……そうですね。では、こうするのはどうでしょう。まず、私達は冒険者ですので、お嬢様の護衛、という名目で逗留分の日数分護衛費用を頂きます。そして、依頼の達成如何に関わらず、アクアリウス家に貸し1、というのは」
「貸し1?それはどういうことかしら?」
ウンディーネさんの問いかけに、イリアスは微笑んで答える。
「私たちは冒険者……ですが、あなたもご存じの通り、この度ギガントウェポン討伐の際の不手際でアルダープ卿の不興を買い、裁判まで起こされる結果となりました。再審の目途はたっていませんが、今後私たちが魔王退治を進める中で、再び貴族関係のトラブルに巻き込まれるリスクは常にあると私は考えているのです」
そこまで行ったイリアスの言葉に、ウンディーネさんはなるほどと言う風に頷いた。
「なるほど、つまり、そう言った相手に、ウンディーネ家があなた達に対して貸し1、つまり何かあった時に動くかもしれない、という脅しを掛けたい、ということね」
「ええ、その通りです。それに、正直な話今回の依頼、正当な報酬を決めることができるのは、お嬢様が婚姻された後か、破断して数年たった後になるでしょう。はっきり言って数年報酬を待つ気はありませんし、こちらで勝手に成功を判断してよい案件でもないと考えます。ですので、貸し1の程度はその時のウンディーネ卿に決めてもらうのが良いかと考えます」
頷いて続けたイリアスの言葉に、ウンディーネさんがくつくつと小さく笑った。
「ふふっ、面白いわね。いいわその話乗ってあげる。アクアリウス家は、あなた達を娘の護衛として娘の進退が決定するまで雇い、日当を払う。そして、契約終了と同時に、対価としてアクアリウス家が、妥当と判断するあなた達の要求を叶えるために動くという宣言をする。ただし、報酬の対価として妥当か判断するのはこの私である。……契約はこれで相違ないわね」
「えぇ、そうですね」
「なら、面白い提案をしてくれたあなたに免じて、もう一つ、冒険者なら垂涎の報酬を上乗せするわ」
そう言うと、ウンディーネさんはランに目くばせして水色の宝石の付いたペンダントを持ってきた。
「これは激流青水石をあしらったペンダントよ。本来ならば使い切りの激流青水石だけど、ペンダントに加工した時に少し手を加えてね。これを通じて、私の力を貸すことができるの。あぁ、別に力を貸したからと言ってこっちに大きな負担があるわけじゃないから気にしないで良いわ」
「これは……、普通に考えておまけで上乗せしてくれるマジックアイテムではないのではないか?」
たまもの声にウンディーネさんはにこりと微笑んだ。
「あなたたちは、魔王を倒すのでしょう?それなら、これくらい受け取っておきなさい」
そう言ったウンディーネさんの言葉に、たまもはうれしさで顔を緩ませ、イリアスはなんだか余計なことをという感情と、それはそれとして有用だ、と言った風な嬉しさと悔しさがないまぜになったように変な顔を、そして、俺自身は思った以上に彼女の期待が高まっていることを察し、俺の志が低いことを察されないように顔を背け続けたのだった。
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俺たちは依頼を受けてから、ランの案内を受けて一つの部屋へと向かった。今回の護衛対象。つまり、エルの待つ場所だ。今日は都合のいいことに、アルダープの息子との面会の日のようだ……まあ、タイミングが良かったというよりは、そう言う段取りになったから事前にランさんがこっちに話をつけに来ただけなのだが。
とにもかくにも俺たちは屋敷の一室に案内され、エルのいる扉を開ける。
「……ラン、丁度良かったわ。お菓子と飲み物をあと少し用意して頂戴。その後庭も見回るつもりだから、日傘の…準、び……」
矢継ぎ早にそう指示を出そうとしたエルだったが、話の途中で振り向き、その言葉が止まる。
「よう」
軽く答えた俺に、エルは何とも言えない顔で俺とランの顔を交互に見回した。なお、俺の後ろには彼女が声をかけた相手であるランのほかに、たまも、イリアス、サバサ、クロムと勢ぞろいしている。
「なんで、っぷ!」
抗議の声を上げようとしたエルはしかし飛び掛かってきた二人を受け止めたことで防がれた。
「私に断りなくパーティを抜けるとは、全く、不敬ですね。私達に言うこともない、という事ですか?」
「イリアスの言う通りじゃ。うちらは仲間じゃろう?こういうことを言いたくはないが、感情的なことを抜きにしても、お主が結婚すれば冒険にもおいそれと出れなくなろう。なれば、うちらにも影響がある。うちは、お主が真剣に冒険者を生業にしておると思っておったのじゃが……。お貴族様の道楽じゃったのかのぉ」
「たまも、それはちがっ……いえ。確かに、そう言われても仕方ないくらいには軽率だったわね」
エルは、意外にあっさりと俺たちに頭を下げる。改めてみれば、普段の冒険者装束と異なり、純白のワンピースと同じく白く幅の広い帽子という割と上等な着物に身を包み、どこぞの深層令嬢の様な出で立ちだ。
そんな彼女が二人に対して深く頭を下げる。
「この結婚が成立しても、冒険にはなるべく出られるようにするわ。旦那様とあまり過ごせないのは少し残念だけれど、貴族の結婚というのはそう言うものよ」
その言葉を聞いて、たまもとイリアスが顔を見合わせてため息をつく。
「そんな冗談を言ってないで、さっさと帰りましょう」
「……そうじゃな。そう言う考えなら、うちらも遠慮する事はないの」
そう言う二人に、エルは鋭い眼で二人を見つめる。
「……言っておくけれど、あなた達が何と言おうとこのお見合いは続けるわよ。もし仮にあなた達とパーティを解散することになっても、ね」
「ふぅ、それを聞いて少し安心しました」
そう言って、先ほどのあきれた様子を引っ込めてイリアスがエルに向き合った。
「あなたの母親、ウンディーネ卿からは、この度のお見合いについて、私達の目で判断してほしいと言われています。正直、先ほど、冒険を続けながら結婚の話も進める、と言ってきた段階で、もう連れ帰ろうと思っていました」
そう言って、イリアスはじっとエルの目を見つめた。
「あなたは、此度の婚約者、バルター氏のことをどう思っているのですか?婚姻とは、自分と相手との縁を結ぶ神聖なもの。片手間に冒険をしよう。とか、お見合い前から結婚前提の予想を立てている時点で自覚が足りないのです。
……エル。いえ、エルベディエ。もう一度聞きます。他の何を犠牲にしてでも、このお見合いに賭ける気概はあるのですか?」
その言葉を聞いて、エルは覚悟を決めた顔で頷いた。
「……アルダープ卿の所からバルター様を引き離すこと、お母さまからの婚約の催促の事、このお見合いを設けた理由は様々あるけれど、何より私のために、引く気はないわ」
「よろしい、それで「それでは、儂が夫婦になるための試練を課そうかのう?」……」
エルの言葉を聞いて女神らしく言葉を続けようとしたイリアスの声にかぶせて、ポ魔城から飛び出したサバサが、胸をそってそう宣言したのだった。
中々筆が進みません……。
なお、エルベディエさんが本気なのと、サバサが頑張ったせいで今後バルター氏との展開が全く別の方向へ進みます。
一応ベースはもんクエ側の竜の試練ですが、そっちはそっちでキャラが足りないので流れが変わります。