この素晴らしい世界にもんむすを!   作:邪魅魑

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EP44 面会初日

「……うん、ちょっと黙ろ、な?」

 

 イリアスの真剣な問いかけにこれまた居住まいを正して意志の固さを見せたエル。貴族様の結婚というのを差し引いても、これ以上試練を与えるとか何とかというのは蛇足だろう。というか、そう言うのはせめて見合いが成功してからにして欲しい。

 そう思う俺だったのだが、サバサが諭すように声をかけて来た。

 

「カズマ、そうは言うが、魔物には魔物の法というものがある。作法もいくつかあるにはあるが、古きしきたりによれば、人と婚姻する人間と魔物は竜の試練というものを受けねばならぬとされておる。真に婚姻を望むのであれば、拒否する理由はないと思うがのう」

 

 バッとイリアスを振り向くと、イリアスが少しためらいがちに頷いた。

 

「え、えぇ、まあ、確かに、骨董品並みに形骸化しているとはいえ、現在も信心深い人々や一部の王族の間では執り行われていますね。ただ、それはあくまでも一部であって、海の主の所へと宣誓書を持って行く、と言った別の儀式を採用しているところもあるようですが」

 

 その言葉を聞いて、エルは深く頷いた。

 

「……意味はないのかもしれない。けれど、そう言うのなら、私はその試練を受けたい」

 

「うむ!よう言うた!では、妾は支度をするゆえ、そちらはそちらで話をまとめておくがよい。必ず婚姻を結ぶ相手を連れてくるのじゃよ。では行くのじゃ!クロム」

 

「えっ、ちょ、待つのじゃ、儂は行くなんて一度も、あぁぁぁ、せめて歩かせて、ある、あるっ、やぁぁぁぁ!!」

 

そんな騒々しさを残して二人は去っていった。

 

「……とりあえず、もうバルター様が来るわ。服装は……とりあえず問題ないわね」

 

 そう言うとエルは少し瞑目してから再び目を見開いた。

 

「イリアス、たまも、……そして、カズマ。私の判断を、後ろで見ていてくれるわよね?」

 

「あぁ、まずいことを言いそうになったら止めてやるよ」

 

 そう冗談を飛ばすと、エルはそれに思わずと言ったように小さく噴き出した。

 

「そうね、その時は頼むわ」

 

 そんな和やかな雰囲気の中、ランさんがゆっくりと室内に入り込んできた。

 

「お嬢様、それと、お友達の皆さん。ただいま、バルター様がお越しになられました」

 

 その一言で、エルは居住まいを正して再び椅子に座り直す。

 

「分かりました。では、バルター様をこちらに呼んでください。お願いしますね、ラン」

 

「畏まりました」

 

 静かに退出したランを横目に見ながら、俺たちはエルに意識を向けていた。誰も言わないが俺たちの心は多分一致していたと思う。

 

(エルって、こんな貴族っぽい立ち振る舞いできたんだ)である。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「は、はじめまして!ぼくは、アレクセイ・バーネス・アルダープの息子、アレクセイ・バーネス・バルターです!どうか、よろしくお願いします」

 

「ああよろしく私はアクアリウスフォードエルベティエよさあ婚姻の話wうぐぇ」

 

 まさかの少年であるバルターの自己紹介を聞いただけでこの調子である。正直甘く見ていたが、どうやらエルのショタコンはかなりの重症のようだ。

 

「え、エルベティエ様!?おい!そこの使用人!一体何をした!」

 

 こちらに向かって鋭い視線を向けるバルターに、俺は少し困ったように眉を寄せる。何をしたかと言えば、クィーンスライムであるエルは変幻自在であることを悪用して、あらかじめ少しだけ握っていた体の一部を思いっきり引っ張っただけだ。

 とはいえ、そんなことを言えば、非常識と言われるかもしれない。

 

「い、いえ、良いのよ。バルター様。えぇ、えぇ何ともないわ」

 

 疑いの目、というか敵意のこもったそれを向けつつも、バルター君はエルの方を見て、キラキラした目でエルの手を包み込んだ。

 

「勇名は以前から耳にしていました!孤児院を始めとした福祉事業に積極的に参加し、それのみならず自ら剣を取り、民のために身を削りながらも戦っていると!僕は、あなたような貴族になりたいのです!それが、まさか僕を婚約者に選んでいただけるなんて!」

 

 そう言ってウルウルと目をきらめかせるバルター君に、俺たちは小声で声を掛け合った。

 

「……なあ、あれ、どう思う?」

 

「まぁ、お似合いと言えばお似合いなのではないですか?相手も乗り気であるというのなら、問題が一つ減ったことに違いはありませんから」

 

「じゃが、あのような幼子に、そのような重大毎を……それに、恐らくじゃが、あの者エルの性格を盛大に読み間違えておるじゃろ?」

 

 二人の言ったことは、俺の考えていたのとおおむね同じだった。

 確かに、バルター君が言ったようなことをエルはやっているのだろう。しかしそれは使命感からではなく、恐らく彼女の性癖によるものが大きい。とはいえ、無理やりショタコンにショタを差し出すわけでないのなら、ここは日本ではない。婚約は幼少期から結ぶ、というのはファンタジーの定番ではあるし、双方が乗り気であり、お見合いが成立している以上、部外者が口をはさむことでもないのかもしれない。

 だが、一方でエルの性格を知らない少年に、しかもまだ自己判断のおぼつかない年齢であると日本では判断されそうな少年の一存一つでこちらの方針を決めてしまうというのは、何とも不安に感じてしまう。そもそも、ウンディーネ卿の心配は彼がショタでなくなった時にエルがどういう反応をするか、という点だ。問題が解決されたとはいえ、そのまま放置していいものではない。

 

 そんな風に話していると、どうやらエルとバルター君は庭に散歩に出かけるらしい俺たちもその後をついて行くことになった。

 

~~~~~~~~~~~~~

「素敵な庭ですね!エルベティエ様!」

 

 アクアリウス家の庭は、その主が水の精霊であるからか、中央に大きな池とそこに浮かんだ大小の陸地で構成された洒落た庭となっていた。

 

「ええ、うちの自慢の庭だもの」

 

 そう言うと、エルはパンパン、と二回手を叩く。すると、池を泳いでいた魚たちが、水面に浮かび上がって口をパクパクと動かした。

 エルはその口目がけて、多少の欠片(恐らくパン)を放り込む。

 

「すごいすごい!」

 

 キラキラ目を光らせるバルター君。まあ、気持ちは分かる。あの技はインパクトバッチリだ。というか俺も教えて欲しい。

 

 そして、そんなバルター君の態度に、面映ゆそうな顔を見せるエル。どうやらさっきの芸をまねすることは難しいようだが、一緒に鯉の餌やりをして仲睦まじそうだ。

 しばらくそんなゆったりした時間が流れた後、エルが覚悟したような顔でバルター君を見据えた。

 

「バルター様、一つお願いをしてもよろしいかしら」

 

「!えぇ、もちろんです!」

 

 喜び勇んで話を聞こうとするバルター君に、エルは彼の頬にてをそえて耳打ちをする。

 

「私は、バルター様との結婚を十全なものとするために、竜の試練を受けようと思います。一緒について来て下さいますか?」

 

「竜の試練!試練を受ける者が死ぬ可能性すら低くないと言われる、古から伝わる婚姻の風習ですね!……え?」

 

 そこで言葉が止まり、バルター君が小刻みに震えだしたのは、彼が聡明な証だろう。現実的な死の実感を今の話で感じ取ったのだ。……というか、命に係わる話だったのかよ!

 

「お、おい、バルター様、やめといたほうがいいって。エル……ベティエ様も、バルター様も、命を簡単に投げ出していい立場じゃないだろ?」

 

「……そうね。ごめんなさい。あなたに言うようなことではなかったかもしれないわ」

 

 目を伏せて言うエルの言葉に、バルター君は……いや、バルターはきっと顔を上げて声を張り上げた。

 

「いえ、行きます!行かせてください」

 

「……本当にいいの?」

 

「えぇ!あなたを守る騎士として、そして伴侶として認めて下さるというのなら、この命かけて見せます!」

 

 ……正直、その時のバルターは男の俺から見ても立派な一人の男だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 流石に、貴族の子息が命のかかった迷宮に入るためには数日の準備を必要とする。……うちのスライムは令嬢のはずだが……まあ、例外中の例外だろう。

 そんなわけで、少しの時間暇になったので、俺は街に出かけていた。エルとバルターが顔を合わせていなければ護衛の必要はないしな。

 

「……ん?あれは?」

 

 見れば、串焼き屋の前に、すらりとした長身の女性が立っていた。あれは、七尾?お金を渡した後、50本くらいの串焼きを手渡されていた。少し慌てるように受け取っていたが、一口食べてからは機嫌よさそうに歩いて行った。……あんまりな様子に声をかけるのを忘れてしまった。

 

「なんでも、最近妙なモンスターが現れたらしいぞ。強さ自体はそれほど強くないらしいが」

 

「ああ、聞いたぞ。なんでも、関節のない人みたいな姿をしていて、近づいて自爆するらしいな」

 

 ……何それこわっ。偶々聞こえて来た冒険者たちの言葉にゾッとしつつ、俺はその情報を記憶した。

 そんな風に歩いていると、一つの射的場の近くでじっと見つめている七尾の姿を見つけた。見れば、射的場でイチャイチャしながら射的を楽しんでいるカップルを見て、自分もしようかどうか悩んでいるようだ。えらく長いこと悩んでいるようなので、俺は七尾に声をかけた。

 

「どうしたんだ?七尾」

 

「おや、カズマ。ちょうど良かった。一緒について来て」

 

 そう言うと、返事をする前に俺は手を取られて引っ張り出される。

 

「ちょ、まてよ。何だってんだ」

 

「おや、お嬢ちゃん、恋人かい?」

 

「はい」

 

「ちょ……いえ、はい!」

 

 なんだかよく分からなかったが、七尾が恋人を肯定したところで思わず俺もそれを後追いしてしまった。

 

「それで、射的、するんだろ?あ、言っとくけど、アーチャースキルは使用禁止だからね」

 

 そう聞くと、すぐさま七尾は受け取った弓を射る。

 何度も何度も弓を射るが、なかなか当たらない。

 

「…………」

 

 俺は七尾の手に肩を置く。

 

「まあ、貸せよ、カ レ シの俺が、何とかしてやるよ」

 

 ……とはいえ、アーチャースキルは使用禁止だ。少し厳しいかもしれない。だが、それでもシューティングゲームの経験もある。それを思い出しながら。

 

「ここだ!」

 

 スカッ

 

「……」

 

「……」

 

「あ、あんちゃん、まだもう一個あるから、な、そんな落ち込むなって」

 

「……グスッ」

 

 こんなことなら、大声なんか出さなきゃよかった。結局2発目で人形を落し、……結局七尾の御所望の人形でなかったのでもう一セット矢を買ってギリギリの個数で目的の人形を手に入れたのだった。

 

「……ありがとう、こんなことに付き合わせて」

 

 そう言う七尾に、俺は疲れた顔で応答する。

 

「いや、それは良いんだけどさ、なんであんなところでもじもじしてたんだ?」

 

「あ、あぁ、それは、その……カップル専用のお店に、一人で行くのはは、恥ずかしいだろ?」

 

「あそこは別にカップル専用じゃないと思うが……」

 

 まあ、確かにカップルの方が数は多いかもしれないが。

 

「そ、そうなのか!……こ、コホン。しかし、カズマのおかげで16分の1アリスフィーズ様フィギュアが手に入った。感謝する」

 

 あぁ、なんか見覚えがあると思ったら、どうやら邪神の方のアリスフィーズの人形だったようだ。邪悪さというかおどろおどろしさが無かったから気が付かなかった。

 

 そんな話をしてから、俺たちは軽く挨拶をして別れた。

 また、ぶらぶらと街を歩いて暫く。軽食を取って街を歩いていると、にぎやかな一角があった。

 

「どうだい!アダマンタイト砕き!やってみないかい?」

 

 そう言う声に、褐色肌の胸丸出しな角を持った巨人が巨大なハンマーで石を叩き潰す。

 

「うおりゃ!」

 

「あー残念でしたね」

 

「くっ!牛丼で家計が苦しいというのに……」

 

「さあ!それでは、次は12万5千エリスの報酬です。参加者が失敗するごとに成功報酬が5千エリス上乗せされますよ!様子を見るのか、いち早く参加するのか!スキルや魔法を使っても構いません!参加者はいませんか?参加費は一万エリスです!」

 

 そう煽られた冒険者たちは、わらわらとその商人に群がっていく。それをみていると、俺と同じようにそれを見ている相手を見つけた。

 

「あ、さっきぶりだな」

 

「おや、カズマさん。先ほどはどうも」

 

 そう言うと、アリスフィーズ人形を抱えたまま、七尾は無感動にアダマンタイト砕きを見ていた。

 

「七尾はあれ、参加しないのか?上級魔法が使えるんだろ?」

 

「私はムダ金は使わない主義なのですよ。アダマンタイトは世界最硬の金属。魔法で言うなら爆裂魔法、特技でも……そうですね。かの剣聖の使ったとされる、乱刃・気炎万丈でようやくと言ったところではないかと思います。上位魔法が使えるとはいえ私には壊せませんね」

 

 そう言っている間に、挑戦を続けた冒険者たちもあらかた失敗し、挑戦者の列に空白ができた。

 

「おや、もうおしまいですか?ギガントウェポンを討伐した冒険者たちならば、誰か達成してくれると思っていたのですがね」

 

 そう言ってうそぶく商人の後ろから、にやりと笑う金髪が、くるくると宙を回りながら飛び込んできた。

 

「真打、登場、じゃ!」

 

 直後、事態を把握した冒険者に総出で取り押さえられ、たまもの姿は見えなくなった。

 

「ちょ、待つのじゃ!まだ何もしておらぬわ!それなのにこの仕打ちはあまりにも、あまりにもひどいじゃろ!?放せ!離すのじゃ!」

 

 くぐもった声が聞こえてくる中、取り押さえている冒険者の一人が慌てて商人に声をかける。

 

「おい、お前さん、こいつに見つかったからには、早く店をたたんで逃げろ!こいつは噂の爆裂狂だ、下手しなくてもお前ごと爆裂させられるぞ!」

 

 青い顔をして店じまいを始める店主に、たまもが腕を大きく振りながら講義の声を発する。

 

「待て!逃げるのかえ!うちの、うちの爆裂魔法なら確実に破壊できるというのに!ああ、もう面倒なのじゃ!」

 

 そう言うと、恐らく獣が水浴びの後に水気を飛ばすときのように体を震わせたのだろう。吹き飛ばされた冒険者の中から、四つん這いのたまもが姿を現した。

 

「さて、それじゃあ、勝負をするとしよう。幸いなことにまだアダマンタイトはしまっておらんようじゃし、早速勝負とミギャッ!」

 

 さりげなく俺がたまもの尻から尻尾を引っ張り出し握ったことで、たまもは余裕のある顔を驚愕に染め上げる。

 

「な、ななな、何をするのじゃカズマ!こ、こここ、こんな公衆の面前で!」

 

「お前こそ落ち着け、こんなところで爆裂魔法を放ったら、それこそお尋ね者にまっしぐらだぞ」

 

「じゃ、じゃからと言って!」

 

「それにほら、もう行商人さんもいなくなったみたいだし」

 

 俺のフォローの甲斐もあり、行商人はさっきの一瞬でその姿を晦ましていた。

 

「む、むぅ」

 

 それを見て、たまもは不満そうな顔をしながらパンパンと膝を叩いて立ち上がった。

 

「まぁ、仕方あるまい。あいつは見逃してやることにしよう」

 

「……何をしているのですか?」

 

 とても冷たい声でたまもの後ろから声をかけた女性の声に、たまもも苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「む、七尾ではないか」

 

「七尾ではないか、ではありませんよ。あなたは紅魔族としての矜持は無いのですか?」

 

「うるさいのう。そもそも、紅魔族はそんな格式ばった一族ではないではないか」

 

 その後ふんっと鼻を鳴らしたたまもは俺に腕を絡めて来た。

 

「まあよい。のう、カズマ、どうせならうちと一緒に少し歩かんか?あのような店を後幾つか見つけたからの」

 

「こら、腕組むなちみっこ。それと、その店を潰しに行くのは却下だ。なあ、七尾、あんたも一緒にこいつを止めてくれないか?」

 

 七尾に声をかけると、七尾はこちらを気にしながらもこちらに背を向ける。

 

「な、なぜ私があなた達と共にいかなければならないのですか。そもそも、私達は紅魔族であり、私のライバルであるたまもとの勝負をつけるためにここにいるのですよ。そ、その。だから、えーと。一緒に行動するというのは、違うのではないかと」

 

「……そうか。なら仕方あるまい。ほれ、行ってよいぞ」

 

「おい、たまも」

 

 あれは明らかに誘ってほしい感じの雰囲気を醸し出している。

 

「ふんっ、好意を素直に受けぬからこうなるのじゃ。放っておけ」

 

 そう言っている間に、七尾はやや肩を落として足を進めた。

 

「さて、では行くかの。行為を素直に受けぬ愚か者の観察じゃ」

 

「……おまっ」

 

 性格悪すぎだろ!……いや、もしや逆に心配で見守るためなんだろうか?よく分からないが、少なくともばれた場合七尾にとてつもない精神負荷がかかりそうなのでそのまま家に連行したのだった。




なんか知らんがバルター君がクッソイケメンムーヴする少年になってしまったでござるの巻。
 
変更点
 ・バルターショタ化
 ・お嬢様が護衛に前向き
 ・鯉の餌やりの芸がお嬢様の持ちネタに。
 ・街中で次期族長に会うイベントが前後
 ・次期族長とのやり取りをやや変更
 ・大人の階段勝負の箇所を○○カット(赤面して逃げる七尾は書きたかったかと言えば書きたかった)
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