この素晴らしい世界にもんむすを!   作:邪魅魑

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EP45 サバサの試練

 あのお見合いから数日たち、いよいよ竜の試練にエルとバルターが向かう日となった。

 因みにそのスライムはバルター君の写真を見ながらため息をついたりしている。

 

「……なあ、あれ、タダのショタコンだと思うか?」

 

「……それ、本気で言っていたらあなたを軽蔑しますよ」

 

「だよなぁ」

 

 ぶっちゃけた話、多分バルター君はエルを堕とすことに成功していた。もう竜の試練とかいらないんじゃないかとも思ったが、まあ、段取りも決まっているのだから、行かないという選択肢はないだろう。

 

「エルベティエお嬢様、時間ですよ」

 

「人前でエルベティエはよして。カズマ。全く」

 

「……顔、にやけてるぞ」

 

「!?」

 

 とてつもなく柔和な顔で対応するエルにそのことを指摘すると、物理的に顔を揉んでいつもの楚々とした顔を作る。

 

「……そうね、気を引き締めないと。これから、バルター様に会うんだから」

 

 そう言うと、先ほど引き締めた顔の端がぴくぴくと動き、頬が緩もうとする。

 

「……もうこいつ、バルターのとこにおいてきたらいいんじゃないか?」

 

「確かに、こやつの幸せを考えたらそれが良いかもしれんのう。ま、そこはそれ、これはこれじゃ」

 

 なんとなく白けた空気を醸しながら、俺たちは竜の試練へと向かう。場所は、以前ちびっこ盗賊団がいた洞窟を借りて会場を作ったらしい。

 

~~~~~~~~~~~~

「oh……」

 

 洞窟に向かうと、そこは金ぴかの洞窟に変貌していた。正確には内部は石畳になっており、入り口にピラミッドを模したような金色の入口が組み立ててあった。

 

「あ!エルベティエ様!」

 

 先に到着していたバルター君が、入り口にいた下半身が何かいかつい尾を持った女性から目を離してこちらに声をかけて来た。

 

「すごいですよ!この蠍娘の商人さんは、厄介な石化の解除に仕える金の針を売ってくれるそうですよ!」

 

「ふむ、武器や手裏剣も置いているのね。それでも一番最初に不測の事態に対応するための道具に注目するなんて、バルター様は冒険のことをよく分かっているのですね」

 

「え、あ、こ、光栄、です」

 

 顔を赤くして俯いてしまうバルター君にエルは申し訳なさそうに頭をなでる。

 

「ですが、イリアスは石化も直すことができる聖魔導士です。ですから、金の針は少しだけにしましょう。我々の使うお金は、民草の血税なのですから」

 

「あ、そ、そうですね!」

 

 そう言うと金の針を少しだけ購入して、入り口に向き直った。

 

「それでは、行きましょうか、エルベティエ様。そして、護衛の方々、今日はどうかよろしくお願いします」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 そう言った俺たちを引き連れて、二人は竜の試練へと足を踏み入れた。

 荘厳な墳墓を思わせる石畳を歩いていくと、そこから何者かが姿を現した。

 

「ふむ、試練を受けし者か」

 

 それは女性だと分かるミイラだった。

 

「我はフェルメサーラ。かの者に仕えし者。試練を受ける者よ。まずはその力を示すがよい」

 

 そう言うと、手に持った杖をこちらに向けた。

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

「あふん」

 

 直後、うちの空気を読まない女神さまに強烈な浄化を喰らった。

 

「ちょ、おま、マジでふざけんなよ!そりゃ俺たちゃ護衛だがな、だからってさっきのはねーよ!」

 

「うるさいですねぇ、そもそも、フェルメサーラは高位のアンデッドです。あれしきでは滅びませんよ。そして、とてもエロいことでも知られています。最悪バルター君が寝取られます」

 

「……っく、構わぬ。これも試練、じゃ、じゃが、後はこの二人に任せるべきではないか?」

 

 フェルメサーラが震えながらそう言うとイリアスはつまらなそうにそちらを見た。

 

「まぁ、良いでしょう。どうせもう大したことはできないでしょうし」

 

「……エルベティエ様、ここは僕に任せてください!」

 

 そう言ってバルターが剣をもってフェルメサーラに向かった。

 

 そして、数分後、フェルメサーラが倒れることで決着がついた。バルター君の正式な剣技を学んでいるのだろう。拙いながらも実直な剣だった。

 

「見事、先へ進むがよい」

 

 こうして、俺たちは先へ進んでいくのだった。

 

 その後も、ゾンビ娘、グール娘等アンデッド系と遭遇し、最後にはクロム&アンジェリカをシバキ倒してとうとう最奥まで到達することとなった。

 

「ふぅ……思ったよりクロムは強かったな」

 

「そうですね……というか、クロムだけ本気でこちらを潰しに来てなかったかしら?」

 

 まあ、夜通しでこのダンジョンを作り出したらしいし、仕方ないかもしれない。

 それはともかくとして、俺たちはいよいよ今までとは違う、巨大な扉の前に立っていた。

 

「……バルター様」

 

「うん、エルベティエ様」

 

 二人はうなずき合って、その扉に同時に手をかける。

 

「……なあ、俺たちは何を見せられてるんだ?」

 

「ん?うらやましいのかの?何だったらうちらもするか?」

 

「いいよ、ちみっこ。逆に空しくなる」

 

「はぁ!なんじゃと貴様!それはどういう意味じゃ」

 

 そんな風にわちゃわちゃしている間に巨大な扉が押し広げられる。

 その先に映った景色に、俺たちは諍いも忘れて見惚れてしまった。

 

 そこにいたのは巨大な女性だ。下半身は獰猛な肉食獣の体、そして、その上に、美しい女性の体が存在していた。

 普段から見るサバサの姿。しかし、その顔立ちは、同じとは思えないほどに神聖さをにじませていた。

 

「よくここまでたどり着いた、挑戦者たちよ。そなた達には二つの道がある。一つはこの試練を辞退すること。諦めて密かに愛し合ったとしても、妾は責めはすまい。

 そして、試練を最後までやり通すこと。しかし、これは竜の試練、もし妾が試練に不適だと判断したならば、お主らを頭から食い殺してしまうであろう」

 

 薄く目を開いたサバサの言葉の重さに、イリアスが怒気のこもった気炎を上げる。

 

「貴様、今私の目の前で人を食い殺すと言いましたか?冗談にしても笑えませんよ!」

 

「冗談ではない。竜の試練とはそう言うもの。仮にそなたと矛を交えようとも、変えられるものではない。それと、それを決めるのはそこの二人だ。そなたではない」

 

 イリアスの怒気を風のように流し、サバサはじっと二人を見つめた。

 

「それで、如何に」

 

 小さく俯いたエルは、しかしすぐに顔を上げて声を発した。

 

「なら、このような場所を用意してくれたあなたには申し訳「受けます!」……え?」

 

 呆然としたエルは、しかし状況を理解した途端、青い顔でバルター君に縋りついた。

 

「バルター!何を言っているか分かっているの!?失敗したら死んでしまうのよ!」

 

「それでも、僕は、あなたにふさわしい人だと胸を張って欲しいのです。どうか。受けさせてください」

 

「……死ぬときは一緒よ」

 

 そう言って二人は固く手をつないで前を向く。その間に俺は後ろでたまもとイリアスを呼んであることを耳打ちしていた。

 

「……ってわけで、あれは演技だからな」

 

「む、なるほど、覚悟を試すため、という事ですね」

 

 実際は、最終確認をした時に竜の試練だと失敗者を食い殺す、ってのを聞いて、俺が主人権限でそこを捻じ曲げさせたんだが、まあ、言う必要はないだろう。

 失敗した場合、ガチ戦闘の後、エルたちが全身よだれまみれになったあたりで解放される段取りである。

 

「うむ。その意気や良し。それでは竜の試練、最終試練を始める。とはいえ、何も戦おうというのではない。妾の質問に答えればよい。それでは行くぞ。

 一つ、朝は四本、昼は二本、夜は三本とは、これ如何に」

 

 それを聞いて、エルとバルター君が悩み始める。

 

「なあ、これって」

 

「勿論、試練を受けるもの以外は答えるでないぞ」

 

 それを聞いて、俺は口をつぐむ。ついでに横にいたイリアスもだ。

 しばらく悩んだ後、バルター君がおずおずと口を開いた。

 

「えっと、確かどこかの本で読んだことがあります。それは、確か人の生涯を示したものだったんじゃないかと」

 

「ふむ、正解じゃ。四つ足は赤子、二つは成人、三つは杖を突いた老人というわけじゃ。

 それでは、二つ、実はこの問いは、後ろにいるカズマも答えを知っている問いじゃ。それほど無名の問いというわけではない。ではなぜ竜の試練で妾はこの問いを最初に出したのだと思う?」

 

 その答えは、今度はエルが前に出て答えた。

 

「それは……もしかして、魔物と人間の違いを伝えるためではないかしら。魔物は生まれてすぐに自分で行動し、そして老いさらばえて死ぬ時まで成長を続けるわ。老衰よりも戦場で死ぬことが多い種族。それが魔物よ。だからこそ、人というはかない生を知らしめるために、問いを出したのではないかしら」

 

 瞑目したサバサは、そのことには何も言わず、そして次の問いを発した。

 

「では、3つ。そなたたちは、何故この試練に挑んだのか。これが最後の問いじゃ」

 

 その言葉を得て、二人はそれぞれ思わず、と言った風に声を出した。

 

「「バルター様(エルベティエ様)のためです」」

 

 そして、声が重なったことに二人で笑いつつ、サバサを真正面から見つめた。

 

「僕は、エルベティエ様に憧れていました。自分の身を挺して民を守る偉大なお方だと。僕はまだまだそこまでのことはできません。ですが、それでも、気持ちだけでも卑屈になってはいけないと思うんです。どんな小さなことでも、どんな困難な道でも、少しづつでもいい。彼女にふさわしい男になるために。その為に、僕は逃げたくないんです」

 

「私は、バルターの先を見たい。どのような道を進むのか、隣で見守りたい。だから、それを認められるなら、私は何でもしたいと思ったの。道中の危険性でなくて、失敗すれば殺されてしまう試練だと知って、そんなものに巻き込んでしまったのには申し訳なさを感じてしまったけれど、それでも、彼がそれを望むなら、最後まで、死ぬまで付き合いたいと、そう思ったの」

 

 そう言った二人に、サバサは小さくため息をつき、そして二人に手をかざした。

 

「よかろう。手を出すとよい」

 

 そう言うと、サバサの手から二人の差し出した手に魔力が伝わり、複雑な模様が二人の腕に刻まれた。

 

「これより、そなたらを竜の試練達成者と認める。……最後に、老人の戯言を聞いてもらっても良いか?」

 

 頷いた二人に、サバサはゆったりとした声で言葉を続けた。

 

「昔、はるか昔のことじゃ。とある地方に、一人の高貴な男がおってな。砂漠で彷徨っておった一人の魔物娘と恋に落ちたのじゃ。彼はその魔物娘にすべてをなげうって愛を貫いた。家も、金も、彼が持ち出したものと言えば、家秘伝の魔法技術と着の身着のままの装飾くらいのものじゃった。

 幸せで、ゆったりとした日々じゃった。真綿のように柔らかく。楽しい時はあっという間に過ぎていった」

 

 そう言って目を細めるサバサの様子に、事情を知らない者も、それが誰の昔話かを理解した。

 

「しかし、時は残酷じゃ。数百を生きる魔物娘と、人間の寿命は全くかみ合わなんだ。気が付けば、愛情を注いだ相手は、足もたたぬ老人となり、そして、命の火を消そうとしておった。旦那様は妾に、魔物の姿でいてくれと言い、そして妾の調べた魔物化の法で転生することを提案すると、困ったような顔を浮かべて、やんわりとその提案を断った……。

 魔物娘は、妾は、一体どうするべきじゃったのじゃろうな……」

 

 答えのない問い。多分、それはサバサがよく分かっているのだろう。今ではクロムと楽し気に語らっている姿もよく見られるサバサだが、やはり何百年も降り積もった懊悩は根深いものがあるのだろう。

 エルとバルターはサバサの語りに息を呑み、イリアスはガラにもなく口元を抑え、嗚咽を耐えていた。

 

 だからこそ。これは、俺が答えなければならないと思った。

 

「知らねーよ!」

 

 突然の大声にビクリとした皆に、俺は畳みかける。

 

「その場にいなかった俺達が、ああすればいい、こうすればいいって言える問題じゃないだろ!どうすればよかったかなんて、俺たちにはわからねーよ!」

 

「カズマ……いくら主だからと……!」

 

 スフィンクス娘がいきり立つその様子を見ながら、俺は言葉を続ける。

 

「だけどさ、俺としては、お前が魔物娘として今まで生きてくれたことには感謝してるよ。だって、そうじゃなきゃ、俺たちは出会えなかったろ?」

 

「……む、まあ、確かにそれはそうじゃな」

 

「だからさ、お前が魔物娘として生きていてよかったと思えるような生き方をすることが、あんたの旦那さんへの手向けにもなるんじゃないか?

 あんたを仲間にした責任もあるし、俺も手伝えることがあったら手を貸すよ」

 

「……言っておくが、妾の操は旦那様に捧げておるからの?」

 

「口説いてんじゃねーよ!」

 

 肩を怒らせながらそう叫ぶと、にやにやと笑うサバサが思わせぶりに体をゆすった。

 

「いやはや、まさかこんな婆になってこのように熱烈な言葉をかけられるとはのう」

 

「す、素晴らしいと思います!カズマさん!」

 

「この!っ!ば、バルター様、お戯れを」

 

 思わず殴り掛かりそうになったのを必死に止めて、俺は顔を繕った。ここで殴り掛かったら俺が犯罪者だ。

 

 俺がそうして心を静めていると、バルター君がしっかりと顔を上げてエルの方を見つめた。

 

「エルベティエ様。申し訳ありません。婚約を、一旦破棄させてください」

 

「……え?」

 

 バルター君の言葉に、エルが衝撃のあまり人の形が保てないレベルでその姿を崩壊させる。

 

「あ、ああごめんなさい、違うんです!エルベティエ様が嫌いになったとか、そう言う話じゃないんです」

 

 その反応にどう思われたのか察したバルター君がすかさずフォローを入れる。それに反応してアメーバ状になったスライムから、エルの顔だけがひょっこりと出て来た。

 

「先ほど、試練の守護者様の話を聞いて、そして、カズマさんの言葉を聞いて、思ったんです。僕はそこまでしてエルベティエ様を愛せるんだろうか、って。もちろんエルベティエ様はとても大好きです。だけど、死ぬまで一緒にいられるのか、とか、あなたにふさわしい男に本当になれるのだろうかとか、考えてしまうのです」

 

「いえ、でも、それは……」

 

「ですから!」

 

 今までで一番大きなバルター君の声にエルはビクリと身を震わせた。

 

「僕が領主を継いで、あなたにふさわしい男になったら、今度こそ、結婚してくれますか?」

 

「…………そう」

 

 そう言って、エルはバルターに背を向けた。

 

「もしかしたら、あなたより素敵な人が見つかるかもしれないわよ。例えば、一緒に冒険する仲間とかね」

 

「えっ、あ、その……いえ!カズマさんにだって負けませんから!」

 

「ふふっ。待ってるわ」

 

 そう言って二人は甘い空気を醸し出していた。

 

「……なんか恋愛のダシにされたんだが、この気持ちどうすりゃいい?」

 

「寝取ればいいんじゃないですか、そう言うの大好きでしょう、ゲスマさん」

 

「成功しても失敗しても地獄な提案するのやめてもらっていいですか?」

 

 俺とイリアスがそう言う風に話している間も、エルとバルターは仲睦まじく話し続けたのだった。




 なんかカズマさんがゲスマさんから普通の主人公になってしまってる気がする。

 そして、すまぬ、カズマさんパーティに実質別カプが出来てしまった……。
 でも、本人が乗り気な以上割と不可避だったんや……。
 バルター君が成長するのは全ストーリー消化後なので許してくりゃれ?

変更点?
・二人が龍の試練を受けている
・バルター君が大人にも程がある
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