「こっ、こっ、こっ、この馬鹿娘!!」
ここはアクアリウス家の応接室。エルとバルター君がせっかくだから報告を、とウンディーネ卿がいるここにやってきて、数秒後のことである。
「お、お母様。落ち着いてください」
「落ち着いていられるわけがないでしょう!あなたという人は、人様の息子に命をかけさせるなど、一体何を考えているの!それに護衛の冒険者は何をしていたの!止めるべきでしょう!」
激昂するウンディーネ卿にアワアワとするエルとバルター君。俺たちもその剣幕に言葉を無くす中、サバサがぬっと顔を出した。
「ウンディーネ卿、落ち着かれよ」
「……っ!しかし」
「こうして無事に戻ってきたのじゃから、まずはそれをねぎらうべきであろう?それに、竜の試練を提案したのも二人に課したのも妾じゃ。誹りを受けるべき咎人はまずは妾ではないか?」
ウンディーネ卿はうっ、と唸り、そして批難を込めた目でサバサを見つめた。
「うむ、妾はエル殿とバルター殿の愛と誠実さは必ずや竜の試練を達成できると信じて竜の試練を課した。……が、確かにお主やアルダープ殿にも話を通しさなくてはならなんだかも知れぬ。済まなかった。我が謝意を受け取ってくれぬか?」
「……そのように言われても」
言い募ろうとしたウンディーネ卿は、頭を下げてもなお高い位置にいるサバサから何かを耳打ちされ、その表情を緩ませる。
「む……そうね、考えれば、過ぎてしまったことはしょうがないわ。……エル、バルター。さっきはああ言ったけれど竜の試練を突破したというのはとても名誉なことよ。そして、よく無事に戻ってきたわね」
どうやら、サバサが例のネタバレをしたらしい。チロリと舌を出して俺にウインクをしてきた。そんなことには気づかず、エルとバルターは嬉しそうに手を取り合って、しかし、申し訳なさそうにウンディーネ卿に言葉を続けた。
「ウンディーネ卿。申し訳ありません。そのことなのですが、僕はエルベディエ様と婚約することはまだ、出来ません」
「…………うん、ちょっと待って。えっと、んー。んっ、よし、ラン、アレクセイ家に宣戦布告しに行くわよ」
「落ち着いてくださいお母さま!」
一瞬で沸騰したウンディーネ卿とぞろりとスカートから巨大な蛸のような触手をむき出しにしたメイドのランをエルが慌てて止めるが、ウンディーネ卿は止まらない。
「これが落ち着いていられますか!竜の試練をこなしたというのに、婚約を破棄するというのよ!これほどの侮辱はないわ!」
「落ち着け、ウンディーネ嬢。妾がそのような者を試練の達成者として認めるわけが無かろう?」
サバサのその声掛けで、ウンディーネ卿の動きが止まる。
「……確かに、そうね。失礼、早とちりしたわ。バルター殿、説明をお願いできるかしら?」
酷く冷たい眼でバルター君を見るウンディーネ卿に、バルター君は臆することなく言葉を続ける。
「僕は、まだエルベディエ様にふさわしい男とは言えません。だから、僕が彼女にふさわしい男となった時に、もう一度エルベディエ様との婚約を結びたいのです」
「……エルベディエ、あなたはそれでいいの?もしかしたら、この男は約束を守らずにあなたを置いて別の女に靡くかもしれないわよ?」
「お母さま。それでも、私は彼の意志を尊重したいのです」
エルのその言葉を聞いて、ウンディーネ卿は目を閉じて小さく頷いた。
「分かったわ。あなたがそう言うなら、私もあなたを認めましょう。ただし、期限は15年。それ以上は待ちません。約束を違えたなら、分かっていますね?」
「……えぇ!間に合わせて見せます!」
そう言ったバルター君を見て、今度こそ、ふっとウンディーネ卿の顔が緩んだ。
「カズマさん、今回はとても世話になったわね」
そう言うと、ウンディーネ卿は遠い眼をしてつぶやき始めた。
「思えば、エルベディエは人と関わるのが苦手でね。カズマさんたちにも自分のことを話してなかったんじゃないかしら?それでも、エルベディエのためにこんなにいろいろとしてくれて……」
普段のエルベディエを思い出し、そう言えば俺たちは本当に最近までエルが貴族であることすら知らなかったことを思い出す。クィーンスライムだと判明したのも、イリアスからの情報だったし、本当にエルが俺たちに話してくれたことが少なかったのだと思い至った。
「あの子の父親は行方不明でね。ずっと水と領地の統治の仕事をしながら、女手一つで育てた者だから、男の人に対して変な認識を持ってしまって……。それでも、今は楽しそうにあなた達のことを話してくれるのが、とてもうれしくてね……。カズマ君。うちの娘を、今後もよろしく頼むわ。
そして、バルター君。娘を選んでくれて、ありがとう」
そう言って、ウンディーネ卿は俺たちに頭を下げたのだった。
ちょっと蛇足気味の縁談回ラストです。蛇足だから短めなのは申し訳ない。
あと、そろそろ3巻分も終了なので、恒例のアンケートします。
3章後閑話に挿入する閑話、どれがいいかのアンケート※思いついたのを列挙しているだけなので(以下略)
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