剣を振りかぶる音が響き、そしてすぐにザクリという音と、ボン、という爆発音が響く。ランタンの光に誘われるように群がった奇妙な魔物はそのまま吸い込まれるようにエルの振り下ろした剣に切り裂かれ、小さな火花を散らしてその姿を消していく。
「カズマ……これ、楽しいわね」
「それを楽しめるのはエルだけだと思うぞ」
何しろ、傍で見ている俺の方にさえ爆発の衝撃が伝わってきているのだ。これで普通の防御力だったら、爆発に耐えられなくてやられていただろう。
実際、耳を澄ませてみればあちらこちらから冒険者のうめき声が聞こえてくる。
ただ、奇妙と言えば奇妙なことに、このダンジョンに入ってから一度として冒険者の死体を見ていなかった。これほどの爆発力があるのに、死者がいないというのはある意味で非常に奇妙だった。
「まあ、何はともあれ下に行ってみるか?」
一応ギガントウェポン戦の時にサバサのいた隠し扉のことはギルド側に伝わっているが、実際にそこに行った事があるのは(セナの語り口からして)俺とイリアスだけのはずだ。やや分かりにくい場所にあるし、俺たちが向かうのが一番いいだろう。そう言うわけで、俺たちは先へ先へと急いだのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そこにいたのは一人の少女だった。巨大なツインテ―ルのような器官を空中に張り巡らし、顔は巨大な一つ目。生育の悪い肢体は隠すのすら面倒というように機械的なパーツが各所に取りつけられている以外は特に何もくさらけ出されていた。
「……カズマ?いかないの?」
「いやいやいや、多分あいつが黒幕だろ?もう少し慎重に」
ここはサバサのいた隠し部屋のさらに奥。俺の懸念したとおりに増設されていた隠し部屋の手前だった。そこには今回の黒幕と思しき少女と、それを取り囲むように配置された巨大な培養槽のような機械が設置されていた。
「ん?そこに誰かいる?」
「見つかった!?」
俺とエルは、警戒しつつその声の方に武器を向けて立つ。
「……そんなに警戒しなくていい。私はあなた達を殺す気が無い」
「それを信じられるとでも?」
俺の言葉に、その少女は感情のうかがえない顔と声色で言葉を続けた。
「私は魔王軍幹部が一人、見通す悪魔のラプラス。あなた程度の冒険者に、そんなつまらない嘘は言わない」
その言葉に、俺とエルの体が強張る。まさか、魔王軍幹部が原因だったとは!というか、この状態はまずい!まさか俺とエルだけで魔王軍幹部の前に立つことになるとは思っていなかった。
ただ、幸いなことにこちらに攻撃するそぶりは見せていない。俺はラプラスを見つめながら、隙を見るために会話を続ける。
「いや、魔王軍幹部だろうが、なんだろうが、信じられないものは信じられないね」
「……私はとても高性能な機械と悪魔の融合体。そして、旧世代の科学技術を駆使して作られた偉大なるアンドロイドの到達点。それゆえ、搭載AIも旧世代仕様。システム的にロボット工学三原則に一部縛られている」
「ロボット工学三原則?」
エルの問いに、俺は頭を高速回転させ、その指すものを思い出す。
「確か、昔の小説か何かの設定だったか?ロボットは人間を傷つけてはならない、とか何とか」
「そう、ロボット工学三原則とは、ロボットは人間に危害を加えてはならない。ロボットは第一原則の及ばない限りにおいて人間の命令に従わなくてはならない。ロボットは第二原則の及ばない限り自己防衛をしなければならない、というもの。
ただし、私の作り主は変わり者だった。人間の定義を歪めて、このロボット工学三原則を運用した」
そう言うと、ラプラスは宙に浮きつつその眼球にも見える顔中央部にある器官で俺の顔を覗き込む。
「私の作り主が私に設定した人間の定義は、私と共に過ごせる存在。見た目や種族と関係なく、私が自己判断する。また、危害に関しても、私がリカバリーできる損傷までは許容されている。それ故に、私がリカバリーできない魂及び精神の損耗や肉体部位の欠損に関しては許可されない。また、私と共に過ごすに値しないと判断した場合はその限りではない。
尤も、そう言った存在も研鑽を積めば私と共に過ごせる可能性がある以上、むやみに排除することはない」
そう言うラプラスは、静かに話し終わった、というように静かに俺を見つめて来た。
「それが、お前が人を殺さない理由、ってわけか。で、それじゃあ何でお前はあんな魔物を作って冒険者を襲ってるんだよ?」
それを聞くと、ラプラスは感情を伺わせない口調で返してきた。
「それは、私の野望によるもの。私はアンドロイドの到達点。感情を持つ機械。私のささやかな望みをかなえるために、あのレプリカントたちは必要だった」
そう言うと、ラプラスは瞳を紅潮させ、言葉を続けた。
「私は私と共に過ごすことのできる者を探している。その過程で生み出されたのが新人類、レプリカント。だけれど、彼らは私が作った、被創造物。私が創造してしまった以上、私に逆らうことができない、既に序列が決まってしまっている存在になってしまった。
だから、彼らを使って私は私と共に過ごすことのできる者を探すことにした。魔王は共存を良しとしない、人間は私を受け入れない。そして、どちらも弱すぎる。
本当は、この街にいる知り合いを探すついでに調査をするために来たのだけど、丁度いい所にダンジョンを見つけたので、試しに利用しようと考えた。
つまり、このダンジョンは、私と共に過ごすに足るかどうかを確かめるためのもの。
貴様は、私を受け入れられるのか?」
ゾクリとして後ろに下がると、そこに鞭のようにしなるツインテ―ルの片割れが振り下ろされていた。
「まだまだ行くよ」
そう言うと、両翼のように天井へ掲げられたツインテ―ルが、俺たち目がけて襲い掛かってきた!慌てる俺の前に立ちはだかったエルはその体を精いっぱいに伸ばし、攻撃を一身に受ける。
「……情報修正。精査。判定。依り代として最適と判断」
そう言うと、ラプラスは急に動きを止め、そしてやや大きな音をさせながら、一人の少女がぐったりと倒れ伏した。
どこにでもいそうな少女で、倒れた衝撃か、大きな目のように見えた被り物が取れ、端正な顔が現れた。
「……まさか、こんな少女が正体だったなんて。早く保護しないと!」
「おい待てエル!何もしてないのに動きを止めたのがおかしい、明らかに罠だ!」
そんな俺の言葉を歯牙にもかけず、ずかずかとエルは少女に向かって近寄っていく。
そして、不用意に近づいたエルを、大量の金属の線が貫いた。
「エル!」
そうこうしている間にも大量の金属線はエルを貫き、囲み、そして、その大本である目のように見える被り物が浮き上がり、エルに装着される。
「掌握。肉体機能の奪取に成功。続いて、個体名エルベディエの精神機能の休眠措置を試行する」
今までもがいていたエルがその抵抗を止めると、そんなことを話しつつ、こちらを向いた。
「おい、エル!どうしたんだ!まさかあの悪魔に乗っ取られたとか言うんじゃないだろうな!」
「是、私はこのからd「カズマ、すごいわ!小さな女の子だった時の体感が、とてもリアルに感じられるわ!」を掌握して、肉体の操作権げ「しかも、一人ではないの!男の子も、女の子も、いろいろな幼い少年少女だった時の質感が感じられるの!」……訂正、精神機能の異常な活性状態により、肉体機能の掌握に不備が生じていることを観測。速やかに精神機能の鎮静化を試行」
何はともあれ、エルもまだ余裕がありそうだ。そして、俺はふと現状を確認する。
恐らく、あそこで倒れている少女は、ラプラス本人でなく、憑依された被害者。そして、気絶している。一方、エルはどうやら極限定的ではあるが、ラプラスの憑依に抵抗しているらしい。
「なあ、エル、ラプラスってのは悪魔なんだよな?悪魔なら、神聖魔法が苦手なはずだ!そのまま地上まで走れるか?」
「警告、現在、個体名称エルベディエは私の浸食により継続的な苦痛を受けて……情報修正。計測により、苦痛の感情より喜びの感情が大きいと判明……。しかし、苦痛を感じているのは事実。このまま更に負荷をかければ、精神の崩壊を誘発します」
「くっ!それなら、あんたを無理やりはがして、誰も近づかないようにしてアークプリーストを呼び込んでやるよ!」
「あ、お構いなく」
「「……ん?」」
何故だか俺とラプラスの声が被ったのだった。
「「今、丁度12歳くらいのショタの体になった時の記憶をじっくり味わってるところなの」理解不能、操作個体としての重大な欠陥を認識、この肉体を放棄します「待て!まだ堪能しきって……ではなくて、これ以上あの少女の肉体を使わせるものか!カズマ!私ごとこの悪魔を封印しなさい!」」
その言葉に、俺ははっとなって思わずセナから貰った札を張り付ける。
「…………試行、貼付物の除去を実行。失敗。……なにこれ」
「封印のお札」
「……なにこれ!」
あまりに予想外だったのか、ラプラスは口調を崩して驚愕したのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「エル、大、丈夫、か?」
「無駄、今個体名称エルベディエは、「こちらは何とか大丈夫よ、それより、其方こそ」精神の休眠誘導、強化!」
俺はラプラスに乗っ取られたエルを引き連れて、ダンジョンを駆け上っていた……気絶した少女を連れて。
「ゼェ、ゼェ。冒険者になって鍛えてるとはいえ、こちとら文明に囲まれた現代人だぞ!」
「「なら」個体名称エルベディエの精神を休眠状態にする新シークエンスを構築、実行します」
「お前に、任せたら、なんかあった時にまずいだろうが!」
エルの言いたいことを察してそう言い返した俺は、切れる息をそのままに、エルと並走して走っていく。
「ゼェ、ゼェ。あと、あとちょっと、だ」
「では、私が先に行く」
そう言って、エルはその速度を一段上げた。……違う、あれは……。
「まさか、お前!」
「今、エルの意識は完全に休眠状態に入った。忌々しい神聖な力の奔流も感じる。だから、手始めにこの体で油断させて、この先のアークプリーストにキツイ一撃を加える」
「ま、まて!」
そう言っても、俺も体力が限界でこれ以上スピードを上げることができない。どうか間に合ってくれと必死に体を動かすが、それでもはるかにエルの方がスピードが速い。
そして、とうとうイリアス達が待つダンジョンの入口にラプラスがたどり着き。
「セイクリッド・エクソシズム!」
「!!!!!????」
高らかに唱えられた神聖魔法の中に、ラプラスは放り込まれたのだった。
またミスってる!
追加投稿です。
3章後閑話に挿入する閑話、どれがいいかのアンケート※思いついたのを列挙しているだけなので(以下略)
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