ぷすぷすと煙を吐きながらも立ち上がったラプラスは、キッと冒険者、否、たった一人、アークプリーストを、一つしかない帽子の巨眼で見つめていた。
「全く、カズマのなかなかの大物を見つけてくれたものですね。ラプラス。ロイド系の最高位の魔物娘……いえ、それにしては悪魔の臭いが強い。この世界とあちらの世界では設計者のコンセプトが違うのでしょうか。大変興味深いですが、……まあ、その情報を知るのは別に解体してからでもいいですよね?」
そう言うイリアスに対して、ラプラスはじっくりと観察をした後に呟いた。
「……簡易鑑定完了。驚いた。「いま解体と言ったかしら?」あなたは女神イリアスと「この素晴らしい情報を共有できるものを解体するのは良くないと思うのだけれど」一致している。……もしかして、女神イリアス本人?」
「機械のくせに、相手の掌握すらできていないのですか?」
「個体名称エルベディエの精神浮上を確認「ちょっとくらい残してもいいと思うの」……現状対処に割くリソースが無いと判断。ある程度は放置する。
仮称、女神イリアスに再度質問する。あなたは女神イリアス本人?」
「さて、もしそうだ、と言ったら?」
イリアスのその言葉に、ラプラスは無表情に言葉を続ける。
「簡単なこと、あなたを倒して、地獄への手土産にする」
そう言うと、地下で見た時のように髪に見える金属線が蠢き、その大質量をイリアスに叩き付ける。
「おっと」
そしてそれを、サバサが叩き落した。
「ふむ。無事かや?」
「ええ、感謝します。サバサ」
「何、あの程度なら構わぬ。ただし、妾が防げるのはあの髪の方だけじゃ。本体の方は追いきれん」
そう言っている間に、サバサ髪での攻撃は意味がないという結論に至ったのか、自ら接近して直接イリアスを攻撃しようとした。
だが、ここにいるのは俺たちだけじゃない。何人かの冒険者が、ラプラスの前に立ちはだかった。
「その体はエルべぇさんのものだ!返せ!」
そう言って向かっていった戦士は、しかし一刀のもとに転ばされ、そのうえで剣を取り込まれて無力化されてしまった。
「おい、エルべぇの奴、なんか強くないか?」
その後、何人かが挑みかかるが、剣をいなされ、躱され、あるいは武器ごとその体内に取り込まれて、瞬く間に無力化されてしまった。
……というか、あいつ、戦い方によってはあんなに厄介だったのか。そんな風に思いながら、俺はイリアスがつぶやく言葉を聞いていた。
「どうやら、エルの職業、クルセイダーにある強力な聖属性耐性が私の神聖魔法を防いでしまっているようですね。もし、聖属性魔法で倒そうとするのなら、彼女から引きはがさなければいかな私と言えど出力不足が否めません」
「なれば、この際エル毎巻き込む手も考慮に入れるべきではないかの?要はあの頭の絡繰りを何とかすればよいのじゃろう?」
イリアスとサバサがそのように言い合っている間にも、俺は注意深くラプラスを見つめる……いや、待てよ……。
「これって、キメラデュラハンの時と同じシチュエーションなのでは?」
「「カズマ!まさか、スティールをするつもり!まだ、まだちょっと待ってくれないかしら!」精神状態確認。言及が真実だと確認。警戒を高めます」
俺はエルの変な場所での抵抗に頭を抱えつつ、たまもに声をかけた。
「たまも、新しいペンダントは持ってるな?準備を頼む!」
「!分かったのじゃ!」
そう言って、俺はラプラスに目を向ける。ラプラスは意識を集中しているのだろう。こちらを凝視してスティールに対抗しようとしているようだ。
俺は、今度はサバサに目を向けた。
「サバサ。なんか俺緊張しすぎて暑くなってきたんだけど、ここら辺を涼しくすることってできるか?」
敏いサバサのことだ。もしかしたらラプラスにもばれたかもしれないが、それでもその意図を正確にくみ取ったサバサの行動は早かった。
「妾を誰だと心得る!その程度、児戯にも等しいわ!妾からの贈り物じゃ!『カースド・クリスタル・プリズン!』」
突如発生した巨大な氷の塊を、ラプラスは危なげなく避けた。しかし、その一撃は、避けただけでは意味がない。
「!?障害発生、依り代の運動性能が著しく低下中……。検証。これは凍結によるものと暫定。運動性能が危険域まで到達するまで、あと3分」
そして、俺はその隙をついて、一つの魔法を唱える。
「着火!」
外野による凍結魔法の行使、そしてその間隙を突く形で行われた、窃盗魔法、と見せかけた着火魔法。それにより、機械の帽子とエルを繋いでいた封印のお札は、きれいさっぱり燃え尽きた。
「さて、ラプラス。エルの体から出て、最高位のアークプリーストに浄化されるか、それとも、爆裂魔法で消し飛ぶか、選んでもらおうか」
たまもの魔法詠唱が続く中、ラプラスは完全にこの状況が詰みなことを認めたのだろう、いっそ清々しいとでも言うように、静かに顔を上げた。
「全く、私がしてやられるとは、驚嘆いたしました。……個体名称エルベディエ。私の精神支配にここまで抵抗する者がいるとは思いませんでした。あなたはとても興味深い。できれば、もう少し、あなたの内面を探ってみたかった。……とはいえ、私も悪魔の一端。あなたには悪いけど、付き合ってもらうわよ」
「私も、とても貴重な体験をさせてもらった。あなたとは、話が合いそうだと思ったわ」
「……それは、少し心外なのだけれど」
そう、静かに語り合うラプラスとエルを、たまもの生み出した水色の魔力が包み込む。
「其は暴虐の濁流、流転の果てにすべてを飲み込む渦潮なり!爆ぜよ!エクスプロージョン!」
たまもが呪文を結び、そこには荒れ狂う水流と見まがうような魔力の奔流が生まれ、そして膨大な爆発を伴いながらラプラスとエルを吹き飛ばしたのだった。
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シャクリと甘い蜜がかかった氷菓子を食べながら、俺たちは屋敷の一室でしんみりと宅を囲んでいた。
「なんだか、季節外れの氷菓子を食べているとエルべぇのことが恋しくなりますねぇ。あまり魔物娘は歓迎できませんが、いないとなるとこんなに寂しくなるなんて……」
「そうだな、でもエルは……」
「うむ……」
そうして、しんみりと氷菓子を見つめている俺たちの頭を、静かに入って来た何者かが引っぱたいてきた。そちらを見ると、見慣れた水色の透き通ったからだが見えた。
「なんだ、エル。帰ってきてたのか」
「何だとは何よ。全く。私はただ、最近はやっている変な噂をバルター様が真に受けないように説明に行っていただけよ。それなのに、まるで私が死んで氷菓子になっているような話をして……」
そう。エルはあの後、普通に生還していた。たまもが水属性のエクスプロージョンを放ったおかげで、水属性のエルはダメージを軽減し、モロ機械生命体であるラプラスは逆に致命的なダメージを受けて破壊されたのだ。
ただ、流石にエクスプロージョンを喰らってまともでいることができるわけもなく、相当な大けがにはなってしまっていた。そして、それに輪をかけてまずかったのがエルのそれまでの醜態だ。自分が少年・少女になっていたという感覚を得るために魔王軍幹部という大物とはいえいいように体を操られていた、というのがウンディーネさんにばれてしまったらしいのだ。
なんでもたまもが精霊の力を借りて力を行使するとき、その場の状況をある程度把握できてしまうのが精霊なのだそうで、特に対象が娘であったため、思考さえもある程度分かってしまったそうなのだ。
そして、当たり前だが、その場には俺たち以外の冒険者たちも居たし、その冒険者たちは断片的とはいえエルの妄言を聞いている。
そのため、エルは弁明と誤解(?)の釈明に追われることになったのである。
と、そんな話をしている間に時間が過ぎたことを確認して、俺たちは立ち上がった。行く先はギルド。俺たちは冒険者ギルドに呼び出されていたのだ。
冒険者ギルドへ向かう道行きでも、俺たちは声をかけられたりからかいの声が投げかけられる。何しろ天使とスライムとスフィンクスとインプと人間2人(正確には一人狐だが)のパーティだ。いくら魔物娘が多いとはいえ、ここまでまとまりがないパーティは珍しい。そのため、とても目立つのだ。
いろいろな人に声をかけられながら、俺たちは冒険者ギルドに到着した。
そして、そこにはまたしても多くの冒険者と、そしてセナの姿があった。
待つこと少し、ギルド内では、エルベディエ様、とかいろいろな冒険者から名前を揶揄われるエルの姿があったりなど多少の悶着は有りつつも、冒険者ギルド側の準備が終わり、セナの声と俺たちが向かい合って、式が始まった。
「冒険者、サトウカズマ殿!貴殿を表彰し、この街から感謝状を与えると共に、嫌疑をかけたことに対して、深く、謝罪を致します」
そう言って、深く頭を下げるセナから俺は感謝状を受け取った。
俺たちは、魔王軍関係者があれほど身を犠牲にして魔王軍幹部を倒すはずがないとの理由から、なんとなくあやふやになっていた魔王軍のスパイ疑惑は完全に払しょくされることとなった。
そして、ラプラスとの戦いを間近に見ていたセナの証言から、国家転覆罪の嫌疑が完全に晴れた俺は、他の冒険者に遅ればせながら、ギガントウェポン討伐の報酬を受け取れることとなった。
まず、割とアルダープの奴の信用が地に落ちたために執行自体出来るのか?というくらいあやふやではあったものの、それでも死刑の可能性が完全になくなったというのは大きい。
そして、それと同時に借金返済の目途もたったというのが非常にうれしいことだった。
「そして、アクアリウス・フォード・エルベディエ卿、今回の貴殿の活躍は素晴らしく、まさにアクアリウス家の名に恥じぬ活躍だったとして、王家から感謝状及び、先の戦いで失われた防具に代わり、一級技師たちによる全身鎧を送ります」
セナのそばに控えていた騎士からそう言われると、エルはとてつもなく微妙な顔をしつつそれを受け取った。
……まぁ、そりゃ確かに母親にしこたま怒られた後に、他人からその家にふさわしい行いだ!とか言われれば微妙な顔にもなろうというものだ。
なお、そのような状況の為、彼女が周りからはやし立てられる毎に、眉が不快そうに動いていた。
「……続きまして、サトウカズマさんへの報奨金の授与へと移ります」
話を戻すようにセナは柔和な表情を浮かべつつ、俺に話かけていた。
「先のギガントウェポン討伐への多大な功績、そして此度の魔王軍幹部ラプラスの討伐は、サトウカズマさんたちの協力無くしては決してなしえなかった異形であると言えるでしょう。よって、あなたの背負っていた借金、および領主殿の返済金を差し引き……」
そう言って、セナはまず一枚の紙を差し出し。
「残った4千万エリスを進呈し、その栄光を称えます!」
さらにずっしりと思い袋を差し出してきた。
それを確認した途端、ギルド内は盛大に沸き上がり、まさにお祭り騒ぎと言った様相を呈してくる。
そんな様子を見ながら、なんだか最近みんなで一緒に騒ぐことを楽しむようになった女神さまと、ギガントウェポン、ラプラス双方にとどめをさしたことでひっきりなしに人の波が詰め寄せているアークウィザード。それに久々の宴に浮かれているスフィンクスを置いて、俺たち三人はギルドを後にしたのだった。
借金が無くなったことは喜ばしいが、俺たちは浮かれ騒ぐ気にはなれなかった。なぜなら、俺たちにはいかなければならないところがあったからだ。
「……おねえちゃんは、落ち込まないじゃろうか。おねえちゃんはとっても優しい人じゃから……」
ラプラスが出会った際に行っていた、この街の知り合いというのは、恐らく同じく魔王軍幹部の一人、シロムのことに違いなかった。クロムも言っているが、シロムは魔王軍幹部と思えないほど優しい心の持ち主だ。
イリアスを狙っていたし、冒険者という仕事の特性上、倒さないという選択肢はなかったものの、彼女の知人を倒してしまったというのは、なんとも後味の悪い気持ちが残ってしまっている。
「私は、あの悪魔と意識を共有した時、あの悪魔が子どもを依り代にして今まで過ごしてきていたことを体感したわ。それと、その子どもたちも無碍にしてないことも。きっと、あの子は私と同じ、子ども達を愛するものだったに違いなかった。生きていたなら、きっと良い関係になれたと思うわ」
シルクドゥクロワ魔道具店の扉の前で、なんとなくいい雰囲気でそんなことを語り始めるエル。だが、彼女の今までの行いを考えると、それは逆にラプラスに対して失礼なのでは?と思わず考えてしまった。
「それは、とても心外なのですが」
そして、それを実証するかのように、非常に不満げな声が扉を開けた途端飛び込んできた。
驚く俺たちにちょっとちっちゃくなったツインテ―ルがふよふよと揺れる。
「私はあくまでも、操作の難易度や、入手の簡便さ、そしてお互いのメリットの面から少年少女の体を依り代にしていただけ。実際、今はこの店で調達した人形を依り代にしている」
「いや、それよりも何でお前生きてるんだよ」
俺が思わず聞くと、ラプラスは若干誇らしげに胸を逸らして答えた。
「よく見てほしい、ちゃんとここの機体番号が一つ増えてる。コアの魂をデータ化して接続待機中の別期待に送信すれば、何の障害もなく新しい肉体に移動すれば復活できる」
無茶苦茶だが、まあ、機械だしそう言う無茶苦茶もありなのかもしれない。
「サトウカズマ。貴方の知識を私に貸すことで、より良い結果が出ると予言する。是非、そのアイディアを提供してほしい」
そう言ってラプラスは無感情な顔でこちらを見つめるのだった。
うそ、だろ……
前回の後書きで今回の解説をしてる件について。
何回か投稿ミスしてるけどこのミスは初めてだよ!(うれしくないし誇ることでもない)
追加でミスしたよ!焦りすぎたよ!
出すつもりがなかったので、最後の方もうちょっと微修正するかも。
3章後閑話に挿入する閑話、どれがいいかのアンケート※思いついたのを列挙しているだけなので(以下略)
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