「ふむ、これは……良いものですね」
「だろ?」
冬の寒さ厳しいある日、俺とイリアスは屋敷の今でぬくぬくと寛いでいた。そう、こたつである。
「まるで私を包み込むように暖かな……はっ!ダメです。これは私をダメにします!あぁ~!でも、ここから抜け出すのは……」
「そうだろうそうだろう」
イリアスの声に腕を組んで俺は何度もうなずく。何しろ、これはこの世界においては俺が開発者だ。つまるところこの製品の勝算は俺への称賛に等しい。
「いや、これはあくまでもあなたの世界での発明品で、あなたの発明ではありませんよね?」
「文句があるならこたつ様から出てもらおうか」
俺がそう言うと、イリアスは静かに手を合わせた。
「カズマ。何を言っているのですか?あなたの世界のものでもこのアイディアを覚えていたのはカズマ、あなたではないですか」
「さっきと言っていることが違うように思うんだが?」
そんなやり取りをしていると呆れたようにたまもとエルが姿を現した。
「何をやっとるんじゃお主ら。ほれほれ、そこでくつろぐのも良いが、そろそろ依頼に行くぞ」
「そうよ。この瞬間にも困っている子ども達がいる。だからこそ、私達は少しでも彼らを救うために動かなくてはいけないの」
そう言う二人に俺とイリアスが顔を見合わせた。外は寒い冬だ。こたつ様の魔力に魅了された俺たちは、懐も温かいこともあり、わざわざ依頼を受けるなんて……。
「そうですね、勤勉に働かぬ者に明日は有りません。カズマ。こたつから出るのはいささか後ろ髪を惹かれますが、依頼に行きますよ」
……あれぇ?
イリアスはこたつ様の呪縛からあっさり抜け、たまもやエルの所へと行ってしまった。
「……カズマ?」
「やだ」
「「「……?」」」
「嫌だ!なんで金があるのにわざわざ寒い冬に依頼に行かんといかんのだ!俺はこたつ様とここにいるんだ!」
俺の咆哮にたまもがあきれ顔で俺を見て近づいてきた。
「そんなわがまま言わんと。というか、ひと冬中そうしておる気かや?うちは春先にでっぷり太ったカズマなんぞ見とうないぞ」
そうして近づくたまもに、俺は肩までこたつに埋まって防御態勢をとる。そして、近づいてきたたまもの足を握り、ドレインタッチを発動した。
「みぎゃっ!こ、こやつ、ドレインタッチをしおったぞ!何考えておるのじゃ!」
「幼女に手を出した?これは……」
そう言ってチャキリと剣を構えるエルに俺はビビりながらも声をかける。
「ふ、ふふ、そんなことをしても無駄だぞ。お前、自分の命中精度を忘れたか?」
俺の言葉にエルがぐぬぬと剣を下げる。勝ち誇る俺は、しかし違和感に気付いた。
「……?なんだ?こたつの中に何か……って、ちょちょちょちょっと待て、いや、マジで何?ちょ、ズボンの中に入るな!ってうぉい!足が動かないんだが!なんだよこれまって、まって、いやマジて、ってか見てないで助けてくれよ!」
「あ、トロ8世がおらんのう」
「おらんのう、じゃねー!!野郎の触手緊縛なんてどこにも需要ねーんだよ!」
気が付けば、トロ8世はその小さいからだからは想像できないほどに触手を伸ばし、俺の股間部を中心に広げた触手で俺の足、股間部、あと脇の辺りをがっちりホールドしていた。
「いえ、割と一般的な性癖なのではないですか?腹立たしいですが魔物娘たちはよくそう言う風に男たちを嬲っていましたが。」
「お前は!どんな世界に住んでたんだよ!この駄女神!」
イリアスはイリアスで、なんだか変な方向に解釈しているし。
「……もう、見るに堪えないので、窓から捨てましょう。これ」
「あ、ごめんなさい調子乗りましたイリアス様。だからちょっと待って、って言うか初めてが触手ってのは勘弁というか、ってマジで移動させんなっふざけんな!待って待って!ちょっとま、あ……」
そして、俺はトロ8世と共に窓から捨てられたのだった。畜生。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「つつつ、ったくやりすぎだろあいつら」
俺が頭をさすってあたりを見回すと、辺り一面雪景色だ。まぁ、それは俺がこたつに潜る前からそうだったから問題ない。
そして……。
「……Oh……」
そのこたつは、見るも無残な姿となっていた。
「なんてこった……これ、発案者だからってことで試供品としてもらったんだぞ。はぁ……」
落ち込む俺の視線の先には、落下の衝撃なのか寒さなのか分からないが動きを止めているトロ八世が見つかったが、反応する気力も起きない。
あぁ、なんでこんな寒い中、こんな気持ちにならないといけないのか。
俺はそう思いつつ、こたつの残骸を集め始めた。もしかしたら治るかもしれない。
「バビューン!」
「ん?」
そんな傷心の俺の前を何かが高速で通り過ぎていった。
「いや、お前は……」
「あ、こっちにいたのか。お届け物だよ!」
それは以前俺がイリアス達以外のパーティで冒険した時に出会った少女、ゴブリン娘のゴブだった。
~~~~~~~~~~~~~~
何はともあれ、外は寒い。ゴブを家へと招き入れ、俺はゴブに温かいお茶を入れて手渡した。
「ありがとうございます。っちち」
「おいおい、落ち着けよ。それで、そっちは頑張ってるのか?仕事を始めたってのは聞いたけど」
猫舌なのか、舌を外気で冷やしてから恐る恐る再度コップに口をつけるゴブに、俺はそう問いかけた。
「……目の錯覚でしょうか。あの下男、年端も行かぬ少女を連れ込みましたよ」
「手を出したら私が……!」
あいつらの俺の評価はどうなってんだ。背後から聞こえてくる声を無視しつつ、俺はゴブの話を聞く。
「うん!おにーさんに倒されてから、私達街の人たちの所で弟子入りしてね!プチは宿屋で働いてるし、ヴァニラは商人さんから仕事をもらって行商人見習いをしてる。パピは鍛冶屋で働いてるよ!あ、そう言えば、パピはカズマさんをちらっと見たって言ってたよ。
それで、私は運び屋……って!そうだ!お届け物!」
そう言って、ゴブは俺に二つの手紙を差し出した。
「えっと、一つが、げっセナさんから。それと、もうひとつは……おぉ!」
俺は思わず立ち上がった。差出人は鍛冶屋の店主!俺が頼んでいたあれができたに違いない!
とはいえ、内容を検めないことにはどうしようもない。俺は懐にしまっているナイフを使ってセナさんの手紙を開封する。
「ふむ、ふむ……ん?えぇ」
俺は思わず嫌な顔をしながら後ろで興味ありげにしていたイリアスに手紙を渡す。
「ふむ、なるほど、……え?なんでこの人、指名依頼を手紙一つで済ませようとしてるんですか?」
そう、その手紙は、セナからの冒険者の依頼だったのだ。一応指名依頼という体ではあるのだが、ギルドから連絡をするでもなく、自分で足を運ぶでもなく、まさかの手紙での伝達である。
「あぁ、セナさん、だっけ?その手紙の女の人は、なんだか歴史的な建造物の封印が解かれたことによる現地調査?とかで紅魔の里行くことになったらしいよ。しばらく帰ってこないかもだって」
「それで手紙ってことか。でもなぁ」
依頼内容は「リザードランナーの討伐」特殊個体である「王様ランナー」と「姫様ランナー」が誕生したことにより、他のリザードランナーも興奮し、一軍を成して爆走していて危険なので討伐してほしいとのことだ。なお、手紙によれば二体の特殊個体を倒すことができれば、普通に止まるらしい。
だが、当たり前だが依頼を受けるとなると外に出なければならない。しかも、今は冬だ。魔物は強くて厳しい冬というのは冒険者にとってだけでなく、旅するものにとっても鬼門と言える時期。
正直町々の行き来も極端に減るこの時期に街の外でリザードランナーだろうが、スズキのトラックだろうが、別に走っていて困るような人間はいないと思うのだが……。
「よいではないか。丁度依頼が舞い込んできた。これぞ重畳というものじゃ」
「えぇ、私達にちょうどいい依頼じゃないかしら」
だが、たまもとエルはこの依頼を受けるのに乗り気なようだ。
「これって、依頼の手紙だったんだね。でも、僕たちを倒した冒険者なんだし、きっとすごく強いんだよね!私はまだレベル14だから、もっと頑張らなくちゃ!」
「いやいや、その年でレベル14とはなかなかではないか。そう卑下するでない。尤も、流石にうちもお主に負けてやれんがのう。何しろ、魔王軍や強敵は大概うちが倒しておるからの!」
そう言って、フォローするふりをして自身の冒険者カードに燦然と刻まれたレベル25の文字を見せつけるたまも。
それに呆れつつ、声をかけたのはイリアスだ。
「全く、何を子どもと張り合っているのですか?そこは正規の冒険者として、きちんと先輩として接して然るべきでしょう」
そう言って、さりげなく冒険者カードを机に出した。
「ほら、私はあなたと比べて、6ほどレベルが高いですが、その強さは大きく違います。レベルだけでなく、戦い方や自身の強みをよく理解しなさい。そうでなければただ嬲られるだけのゴミになってしまいますよ」
そう言うイリアスと、ついでにたまもの頭も軽くはたきつつ、エルが前に進み出た。
「私はこの中でも、レベルが高い方。それに守りが得意。何か困ったことがあったら、私を呼んで。絶対に力になる」
「みんな、すごいんだね。……そういえば、カズマのレベルは?」
「そ、そんなことより依頼に行くぞ!」
まさか、通りすがりの幼女にまでレベルで負けているという衝撃的な事実が発覚した直後、俺はそう叫んで誤魔化したのだった。
お待たせしました。
だいぶん原作と変わりました。
変更点
こたつむり討伐方法の変更
セナさんが調査に出ている