この素晴らしい世界にもんむすを!   作:邪魅魑

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EP63 グリーンな人が現れた!

「ふむ、カズマ、少しとまれ。どうやら、エデン殿の言っていた者がいるようじゃ」

 

 森を進行中、俺たちを静止したたまもが指さす先には、確かに全体的に緑色のシルエットが見えた。エデンさんが言っていた安楽少女というのは、植物系の魔物だ。傷ついた人間の少女の姿に擬態し、道ゆく人の庇護欲を掻き立て、その場から離れられなくするのだとか。一度姿を見かけると、寂しそうな顔を見せ、心配して近づくと安心したような笑みを、遠ざかる様子を見せると、悲し気な顔を見せるらしい。

 それだけなら、まあ、よっぽどのお人好しでなければ主に空腹などでその場を離れるものが多いだろうが、安楽少女は空腹を感じていると察すると、自身の植物部分に生えた木の実を差し出してくるのだという。この木の実はさわやかな甘みがあり、美味なのだが、栄養価はほとんどなく、また微量の麻痺成分が含まれていて、食べても栄養は補給できず、麻痺効果でだんだんと体を動かせなくなり、最後は安楽少女に看取られながら命を落とすのだという。

 本来は討伐推奨の魔物ではあるが、その容姿と、直接的に人を襲う種でないため見逃され、あるいは独り身の冒険者が冒険を続けられなくなった際の命の終わりを看取ってもらうために、ひそかに場所を把握しているといううわさもある。

 

「……ん?あの、あれ、本当に安楽少女ですか?」

 

 イリアスがそのよく見える目で見たのだろう、変な顔をしてこちらを振り返った。その言葉に改めて、俺たちもそちらを見る。

 そこにいたのは、植物族の少女だろう。緑の薄布を身にまとい、長い緑の長髪と整った顔立ちが美しい少女だ。そして、その植物部分は椅子のようになっており、少々疲れた顔をしているが、なんだか気品すら感じさせる……ん?

 

「いや、確かに、ちょっとお近づきになりたい容姿ではあるが……安楽少女、か?」

 

 安楽少女は人の庇護欲を掻き立てて離れられなくする魔物と聞いている。しかし、疲れた様子で少し手伝いたいという気持ちにはなるものの、芯の強さを感じさせるその顔は、どちらかというと人を寄せ付けない威厳のようなものすら感じさせた。

 

「……?そこにいるのは誰ですか?」

 

 そうして俺たちが潜んでいると、突然安楽少女の方から声をかけてきた。隠れていようかと思ったが、完全にばれているようなので、あきらめて姿を見せる。まあ、正直安楽少女は腕っぷしに関しては全く優れていない、やろうと思えば一般人でも討伐できる程度の力量なので、姿を見せても問題ないといえば問題ないだろう。

 

「……冒険者ですか。私を討伐する気ですか?正直面倒なので、さっさとどこかへ行ってくれると助かるのですが」

 

 しかし、その安楽少女はそう言ったきり、何かをブツブツとつぶやいてそっぽを向いてしまった。……こいつ本当に安楽少女か?

 俺の中にさらに疑念が沸くが、じっくりと見ると、疲れた顔には深い隈が浮かんでいるのが分かった。

 

「お、おい、あんただいぶ疲れてないか?すごい疲れた顔をしているみたいだが……」

 

「私は大丈夫です。私は健康です。週に5回のカウンセリングも問題ありませんでした。寛解しています。まだまだ働けます」

 

「ヒエッ……」

 

 いきなり壊れた機械のように意味不明……というか、おそらく自身の健康を訴える言葉をつぶやき始めた安楽少女の様子に、俺たちは思わず身をのけぞらせてしまう。

 

「お、おい、これはもう見なかったふりをして逃げたした方が良いのではないか?本人もどこかに行ってほしいと言って居ったわけじゃし」

 

「そうね、気になるといえば気になるけど、特に害意があるわけでもなさそうだし放置しても問題ないのではないかしら?」

 

 たまもとエルがおずおずとそう口にしてさっさとこの場から退散しようと声をかけるが、イリアスがつかつかと安楽少女に近づき、そして目線を合わせて頭に手をのせる。

 

「メガヒール。気休め程度ですが、まあ、多少は楽になるでしょう、私の手から直々に回復魔法を賜れることに感謝することですね」

 

 そう言って回復魔法を放ったイリアスに、安楽少女は先ほどの壊れた機械のような様子から立ち直り、少し柔和な笑みを浮かべながら頭を下げた。

 

「おや、ありがとうございます。なんだか少し楽になった気がします」

 

「……時に、貴方は植物族の管理種族ですね。安楽少女が管理種族などとは珍しいことですが……少し、貴方の仕事、見せてもらいますよ」

 

 イリアスは、そうして下げた頭を鷲掴みにし、何かしらの術を行使したのかその手に淡い光をまとわせて……そしてすぐさま手を放して、その手を口元に持っていった。

 

「おい、大丈夫か!何か攻撃を受けたのか!?」

 

 そう言って、安楽少女に一斉に武器を向ける俺たちだったが、具合が悪くなったイリアス自身がその行動を制止した。

 

「待ちなさい。うぷっ……。私は大丈夫です。いえ、正直気分は最悪ですが。天界で政務をしていた時以来の情報量に多少めまいがしただけです。攻撃ではありません」

 

 それを聞いて、俺たちは少し警戒を緩める。……というか、世界全てを見守ってきた、とか常々言っているイリアスが把握しようとしただけで気分が悪くなるレベルの情報量っていったいどれくらいのものなんだ?そして、その情報を処理しながら平然と会話までこなすこいつはいったい何者なんだ?

 

 そんな疑問を抱きつつ、俺たちが見守っていると、イリアスが少し涙目になりながら安楽少女に声をかけた。

 

「正直、貴方の現状は昔の私を見ているようで、見ていられません。命令です。私に帯同しなさい」

 

「……断ります。あなたたちは冒険者でしょう?ここは久々に見つけた落ち着ける場所なのです。しなければならない物事が山のようにある現状、せめて落ち着く場所を離れたくはありません」

 

 そう言う安楽少女に、何故かイリアスの方が切羽詰まったような顔で言い募る。

 

「そう言わないでください。私なら、貴方の業務を少し肩代わりすることも可能ですし、数億年の業務歴から構築された、分体を使った効率的な業務の消化方法、部下を動かす方法、適切なタスク管理と、チェック体制の編成まで伝授することが出来ます」

 

「……っ!」

 

 イリアスが言った物事に、惹かれるものがあったのだろう。目を泳がせる安楽少女は、でも、だって、言葉を重ねていたが、やがて諦めたように目を伏せた。

 

「いえ、やはりだめです。これは植物族全体にかかわる問題。私がしなければならないことなのです」

 

 そう言う安楽少女の姿に、哀愁と覚悟を感じた俺たちは、後ろ髪をひかれる思いでその場を離れる。……ことはなく。

 

「エル、行きなさい」

 

「えっ……」

 

 背後に回ったエルが安楽少女を背後から絞め落とし、速やかに気絶させた。

 

「えぇ~」

 

 ドン引く俺とたまもに、イリアスは心外そうな顔をした。

 

「全く、トップ一人に責任を押し付ける等、言語道断です。これで困るなら、植物族は一生困っておけばいいのです。とりあえず、その安楽少女は、女神流効率的統治術を伝授するまでは私たちに強制的に同行させましょう。ということでポ魔城に……と、そう言えばポ魔城は置いてきたんでしたね……エデン、エデンはいますか?」

 

 突然エデンさんを大声で呼び出したイリアスの奇行に面食らう俺たちだったが、更に驚いたのは、数分後、本当にエデンさんがその場に現れたことだった。

 

「イリアス様!なんだか呼ばれた気がしたのでやってきました」

 

「……ほんとに来た。コワッ……」

 

 おい、本人の前でそんなこと言うなよ。呼んだ張本人。

 

 と、消え入るような声で言ったことはともかく、イリアスはコホンと咳払いをして、エデンに命令を下した。

 

「先ほど、過激派への対処を命じておいて申し訳ありませんが、一旦この少女をアクセルの、ラ・クロワ魔道具店へと輸送してくれませんか?今この安楽少女あての分と、ラ・クロワの分の手紙を書くので」

 

「えぇ!イリアス様の名とあらば喜んで!」

 

 そう言うと、エデンは安楽少女を肩に担ぎ、そのまま飛び立とうとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。手紙がまだでしょう!それと、その子は一応私だと思って運んでください。その持ち方だと下手したら死にますよ」

 

 それを聞いて、エデンは改めて安楽少女をお姫様抱っこに担ぎなおし、イリアスが手紙を書き終わるまで待機していた。そして、手紙を受け取ると、エデンはそのまま豪速でアクセルの方向に消えていった。

 

「……なあ、イリアス」

 

「なんです?あぁ、あの安楽少女をポ魔城に住ませるのは決定事項ですよ。あの少女、正直みていられませんでしたし、植物族の管理種族、使い道はいくらでもあるでしょうからね」

 

 そう言って、胸を張るイリアスに、俺は手を振ってそうではないことを伝える。

 

「いや、これ、れっきとした誘拐だよな?大丈夫か?」

 

「……の、野良の魔物なんだから大丈夫でしょう!大丈夫に決まっています!」

 

 こうして、イリアスの独断で一人の安楽少女がポ魔城の住人になることが決まったのだった。




アルラ・プリエステス(安楽少女)
 業務遂行能力を認められ、どこかにある植物の里の里長を任された植物族の管理者……だったはずなのだが、最近先代クィーンアルラウネに推挙され、クィーンを無理やり継承させられた。もはや彼女にとって職場は植物族の里ではなく、世界中、植物のある所全てであった。
 念話、花粉会話、地脈媒介、蟲魔媒介など、さまざまな方法で伝達されてくる植物族たちの問題ごとを解決し、調整するのが仕事である。
 なお、業務が滞っても、植物族は気の長い種族が多いので、ほとんどの植物族は気にしない。量が多いため、あまり貯めすぎると後々が怖いが、プリエステスが先回りしすぎなのも過労死ラインをさまよっている理由の一つである。

イリアス(なんか、部下にないがしろにされてる感、シンパシーを感じますね)
イリアス様は、部下が上司の本質を見ず、業務を投げてくるような様子に、天界での自分の孤独を重ね合わせて助けよう(というか、植物族の部下を困らせてやろう)と思って仲間に引き入れました。

アニオリ部分の話を見たいかどうかのアンケート

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