「うぅぅ」
「全く……仕方ありませんね。カズマ。少し休みなさい。ほら、よしよし」
柄にもなくカズマをなだめすかすイリアスをよそに、二人の紅魔族が会話を進めていた。
「……というか、なんであなた達がここにいるんですか?」
「それは、うちが聞きたいわ。お主、少々早すぎやせんか?まさかとは思うが、その下半身で走り抜けてきたとか言わぬよな?」
「うっ……それは……」
なんやかんやわちゃわちゃしつつ二人が交流を深めているのを聞きながら、俺はあまりの恐怖に縮こまった体をイリアスに預ける。非常に柔らかい太ももの感触が頬に伝わり、気持ちが少し落ち着いて。
「裁きのいかずち」
「痛ってー!何すんだてめー!」
あろうことか俺の頭に雷撃を放った女神さまは、しれっと俺の方を見て言葉をかけた。
「それほど元気なら、休憩も終わりにして構いませんね。さて、行きましょうか」
「ちょっと待て!それとこれとは話がちが……」
「おや、女神の太ももに欲情しかけていたのを察して天罰を下したのですが、気のせいでしたか?」
その言葉に、俺はぐっと口を歪ませる。ま、まぁそう言った思いも浮かんでいるかいないかで言えばそりゃ、まあ……。
「それと、ここは普通に野生の魔物が出てきますよ。ゆっくり休憩して、またさっきのオークみたいなのに襲われますか?」
「よーし行こう!すぐ行こう、何ぼさっとしてるんださっさと行くぞ!」
そう言って、きびきび歩きだす俺に皆呆れながらも後を付いて来るのだった。
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歩みを進め、しばらく経つと、たまもと七尾がようやくといったように呟きをもらした。
「ようやくですね」
「おお、もうこんなところなのか」
何が何だかわからない俺たちに、たまもがピッと進行方向を指さした。
「ほれ、あそこにチョコンと何か見えるじゃろう?あれが紅魔の里の里長の家じゃ」
俺が持ち前の弓スキルで見た結果、確かにたまもが指さした方向に何か人口の屋根のようなものがかすかに見えた。
「はー。確かに見えるな。ってか、だいぶ遠いのによく二人は見えるもんだな」
「それは……まあ、私たちには見慣れた森ですしね」
「うむ、ここいらに何かあると分かっておれば、見つけやすいというものよ」
口々にそう言う俺たちが、いざ里を目指して歩みを再開しようとしたその時、近くの茂みがガサゴソと揺れ、そこから醜悪な緑の化け物が姿を現した。
「ギギギッ!お前ら冒険者か?」
「ギャッギャ!我ら魔王軍!紅魔の里に近づく冒険者はひっとらえてシルビア様に献上するのだ!」
続々と姿を現す魔王軍を名乗る魔物たちに、思わず身構えた俺達の横で、イリアスが身を固くしてわなわなと震えていた。
「あ、あれは何なのです!?ご、ゴブリンの雄?あんな醜いものがいるなんて……認めません認めません、裁きのいかずち裁きのいかずち裁きのいかずち!」
そういえば、この世界に来てから魔物の雄というのは滅多に、というかほとんど見ない存在だった。イリアス様的に魔物の雄はNG判定だったらしい。流石に魔王軍というだけあって、一撃でやられたゴブリンはいないっぽいが、乱打される雷に、右往左往している。……魔王軍がそれでいいのか?
と、そんなことはともかく、俺たちもイリアスの攻撃に加勢しようと武器を構えた瞬間、裁きのいかずちよりも煌びやかな閃光があたりを埋め尽くした。
「「「「「ライトオブ・セイバー!」」」」」」
いくつもの閃光が光り、いつの間にか出現していた者たちが、魔王軍に対峙していた。
「くっ!紅魔族だ、撤退、シルビア様に報告をするんだ!撤退―!」
そう言って、魔王軍を名乗るゴブリンたちはほうほうの体で逃げ出していった。
「ふっ、大丈夫かい、お嬢さん……って、なんだたまもと七尾か」
「なんだとはなんじゃぶっころりー。お主も相変わらずよのぉ」
代表者なのかなんなのか、先ほど魔王軍を追い払った一人が俺達に話しかけ、そして玉藻と七尾を見て気を抜いたようにつぶやいた。
「おぉ、一応紹介しておこう、こやつh……「我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋のせがれ!アークウィザードにして上級魔法を操る者!」おぉう……うむ、なんぞすまんかった」
たまもの言葉にかぶせるようにそう言ったぶっころりーの奴に、たまもはなんだか申し訳なさそうにそう言っていた。多分紅魔族的に名乗りは重要とかそう言う感じだろう。
「しかし、紅魔族随一の靴屋ってのはすごいな」
「あぁ、紅魔の里に靴屋はうちしかないからな」
「馬鹿にしてんのか」
俺とぶっころりーがそうして話していると、その間に魔王軍を追い散らしていた紅魔の面々も合流し、またしてもどこそこの息子だの、誰々の娘だのと口上合戦が始まった。ふむ……。
「私はサトウカズマと申します。アクセルの町の冒険者にして、いずれ魔王を倒すもの。ということでよろしくお願いします」
郷に入っては郷に従え、ということで俺がそう口上風に挨拶をすると、周囲の紅魔族がどっと沸き立った。
「おお!旅人さんが紅魔族風の口上を!」
「素晴らしい!」
やんややんやと喝采を受けつつ、俺は彼らに声をかけた。
「で、あんたらはここで何してんだ?屋根が見えるって言っても、ここから里は大分あるだろ?」
「あぁ!俺らは魔王軍遊撃部隊、紅魔族の警備隊さ、周囲に魔王軍の魔物が最近出没してるから、それを狩ってるってわけさ、あぁ、そろそろ行かなくてはね、それじゃ」
そうぶっころりーが言うと、他のメンバーも示し合わせたかのように……というか実際に示し合わせていたのだろうが、息を合わせて呪文を詠唱し、一瞬でその場から姿を消した。
「……ほー」
俺が思わずそう呟くと、たまもが横に寄り添ってにやにやとした顔でこちらを見てきた。
「お?どうした?ぶっころりー達がうらやましくなったかや?」
「……お、おう、まぁ、ここにいるなんちゃって上級魔法使いより魔法使いしてて、スゲーなとは思ったよ」
「な、なにおう!?」
そうして俺に殴り掛からんとするたまもを避けると、案外すぐにおとなしくなり、ため息をつきつつ手を広げて俺に向き直った。
「まあよいわい。そこまで言われればあいつらも悪い気はしとらんじゃろうて」
「は?ぶっころりー達はもうどっかに行ったんじゃないのか?」
それを聞いて、たまもは悪い顔でネタばらしをする。
「くぅくぅ。そもそもライトオブセイバーという中級魔法の直後に転移魔法など使えるほどぶっころりー達は魔力を持っておらんわい。あ奴らは実質ニートじゃからのう」
「は?ニート?」
「そうじゃ、紅魔の里は他の集落とも隔絶しておってのう。働き口もそこまで多くない。一方で生活水準は高いし生産性も高いからのう。やろうと思えばある程度の年齢までニートしとっても問題ない。そもそも紅魔の里の人間はみな中級以上の魔法使いじゃぞ?警備隊を編成する理由がほぼ皆無じゃわい」
その話を聞いてあきれていると、ふと後ろのイリアスが先ほどぶっころりー達がいた場所を凝視していることに気が付いた。
「…………」
そして、イリアスが無言でダッシュするとその場から複数の慌てて逃げ出すような音が響き渡る。……いや、やめてやれよ。
俺はイリアスを止めつつ、先を急いだのだった。
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紅魔の里に到着し、俺たちが最初に向かったのは七尾の家、つまり里長の屋敷だった。道すがら何人かの紅魔族に声をかけられたり、名乗り口上をされたりしながら、俺たちが里長の屋敷にたどり着くと、そこには全身真っ白な妙齢の美人が箒を手に玄関口を掃除しているところだった。
「……おや、久しいねぇバカ娘」
「バカ娘はおやめください母上」
そう言い返した七尾の言葉でこの真っ白な女性が七尾の母親であること、すなわちこの里の長であることを俺たちは把握する。
「そちらは客人かえ?それとも、婿殿か?」
そう言う里長に七尾は少しうつむきながら声を絞り出す。
「え、ええっと、友達……いえ!この男はサトウカズマと言って私のフィア「ただの!友達じゃおば様」」
七尾の言葉に被せるように言ったたまもに七尾が諦めたように「はい」と小さくつぶやいた。
「……ふむ、まあ、おおよそ、手紙にかこつけて手を出そうとしたらたまもに邪魔されたが、それでも里までついてきてくれたお人好しな男、といったところか。まあよい。久々の客神じゃ、歓迎しよう」
そう言って里長手ずから俺たちを屋敷内へと引き入れたのだった。なお、七尾はほぼほぼ状況を言い当てられ、真っ赤になっていた。
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「……と、そう言うわけで、里は委細問題ない……とは、まあ、言い難いのじゃが、現状は何事もないのじゃよ」
白天狐と名乗った七尾の母、里長に話を聞くと、どうやら紅魔の里に魔王軍幹部、シルビア率いる軍勢が襲い掛かっているのは間違いないらしい。そして、それによって及んだ被害は、騒音と仕事の中断……のみらしい。馬鹿みたいな話だが、たまもたちが言うように、紅魔の里では学校から卒業すれば中級魔法使い、大人たちともなればほとんどが上級の魔法を使える上級魔法使いしかいない特殊な集落だ。シルビア本人でさえも、複数の大人が手を組めば容易く跳ね返せるだけの超戦力をこの里は保持していたのだ。
ただし、懸念点がないわけではないらしい。というのも、ここは紅魔の里、一応狐のパワーで物理方面も最低限は補えるが、それでも主体は魔法戦のエキスパートたちだ。そのため、シルビアが魔法に耐性を持つなどということがあれば、一気に苦境に立たされる可能性があるそうだ。
「まあ、相手の幹部がいきなり魔法に耐性を持つようになるなんて、そんな都合の悪いこと、そうそう起こりませんよね」
俺がそう言って笑うと、白天狐さんは苦々しげに首を振った。
「それがのぅ。この里にはいくつか封印処置を施されたものがあるんじゃが、その中に、物理攻撃も魔法攻撃も無効化してしまう忌まわしき狂戦士”天使殺し”というものを封じた祠があるのじゃよ。かの魔王軍幹部はどうやら取り込んだものの特性を自身のものに出来るようでのう。この碑の封印を解除されてしまえば……といった感じじゃ」
それを聞いて、俺たちの顔がこわばる。が、その直後、にやにやと笑いだした白天狐さんの顔を見て、何かたばかれたことに気づき、皆微妙な顔になった。
「くぅくぅ、なーんての。実際には封印の解き方は我ら紅魔の者たちにすら伝わってはおらん。天文学的な確率で魔王軍が封印を解くようなことがなければ何も問題はなかろうて」
そんな一言を受け、俺たちははぁ、とため息をついて、里長のところを後にした。もちろん七尾は里長の家、つまり七尾の実家に置いてきた。白天狐との対面時はなんだか嫌そうな顔をしていた七尾だったが、それでも家族だ。積もる話もあるだろう。
と、いうわけで七尾は置いて、俺たちはたまもの家に向かったのだった。
たまもの家は少し里の中心部から離れたところにぽつんと立った古びた家だった。
「あれが、たまもの家か」
「なんじゃ?文句でもあるのかや?」
「……いや、特にないけどさぁ」
俺がそう言うと、イリアスが横から顔を出して顔をしかめてつぶやいた。
「貧相な家ですねぇ、村八分にでもあってるんですか?」
「ばっ……!思ってても言っちゃダメな奴だろそれ!?」
俺が慌ててイリアスの口をふさぐと、それを見たたまもが不機嫌そうな声を俺たちに向けてくる。
「ほう……イリアスもそうじゃが、カズマも反応が早かったのう?ん?もしやお主も言葉に出さんだけでそう思って居ったか?」
「い、いやちが、……いや、まあ、ぼろっちい家だなとは思ったけど、村八分とかそんなことは思ってねえよ!」
たまもは割と嘘に敏感なので正直にそう言うと、たまもははぁ、とため息をついて怒りを沈めてくれる。
「うちは父が商売が下手すぎて里の中心の家を構えられんし家の建て替えも出来んだけじゃ。仮に村八分にされるなら、里の結界の外に放逐されておるわ。と、そんな馬鹿なこと言って居らんと、早く入るぞ」
そう言って、たどり着いたたまもの家の扉をたまも自身ががらりと開ける。
「おーい。帰ったぞ」
たまものその声に、パタパタと軽い音がし、銀髪の狐耳の少女が姿を現した。
「おねーちゃんおかえr……う、うわーお姉ちゃんが男ひっかけて帰ってきたー!」
「ちょ、ちょっと待ってくりゃれ銀狐!それは誤解なのじゃ!」
俺たちの説明もなく、バタバタと銀狐と呼ばれた少女を追いかけるたまもを俺たちもゆっくりと追いかけていったのだった。
イリアス(……天使殺し……天使殺し!?)
魔術師殺しが封印されてるよりもやばいもんがしれッと封印されてる紅魔の里はここですか?
次の話はちょっと早く出したい気持ちだけはある。時間とやる気が欲しい。
アニオリ部分の話を見たいかどうかのアンケート
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どっちも今更じゃない?