八尾の口調が分からな過ぎて無限に悩んでました。
俺たちは、いかめしい顔をした男性と、何か考えていそうな狐耳の女性の前で正座で座っていた。俺の横では、銀狐と呼ばれていた少女を横に座らせて、たまもがちょこん、と座っている。イリアスやエルは俺たちの後ろで我関せずといった感じだ。
「はぁ、とりあえず紹介するぞ、父のひょいざぶろーと、母の八尾じゃ」
たまもが呆れたようにそう紹介するも、ひょいざぶろーと紹介された男性は腕を組んだまま、八尾と呼ばれた女性はこちらを値踏みするようにじっとこちらをみつめていた。
しばらくそうして沈黙が支配した後、ひょいざぶろーが重々しく口を開いた。
「かずまくん、と言ったかね」
「はい、サトウカズマと申します」
それを聞いて再びの沈黙、そして、痛くなるような間をおいて、再びひょいざぶろーが口を開いた。
「時にカズマ君。うちの娘とはいったいどんな関係なのかな?」
「は、はい?えっと、普通に冒険仲間ですけど」
俺が重々しい空気から繰り出されたそんな言葉に、ちょっとあっけにとられながらそう言うと、次の瞬間ひょいざぶろーが目の前のちゃぶ台に手をかけ……そして、その手を隣の八尾の尾の一つが押さえつけていた。よく見れば残りの尾がひょいさぶろーを包み込むように拘束していた。
「あなた、少し落ち着きなされ、我が家計は火の車。買い替える金などありましませぬ」
「いや、しかし母さん」
「あなた」
「……はい」
いきりたっていたひょいざぶろーが、その一言で完全に意気消沈して黙り込んでしまった。しかし、そこで八尾が俺の方にじっと目を向けてきた。
「とはいえ、気持ちは妾も痛いほど分かるのう……」
そうして二人そろって不審な顔でこちらを見つめてくるので、俺は相手の気持ちを落ち着けるためにそっとイリアスまんじゅうを差し出した。
「そういえば、これ、つまらないものですが……」
「これは失敬」
俺の差し出した饅頭に声を出して手を置くひょいさぶろーと無言で手をかける八尾。
「おい母さん、これはカズマさんが私にくれたものだ、その手を放してくれないか」
「くぅくぅ、これは異なことを、カズマ殿は我が家にくれたに決まっているであろう?これは今日の晩御飯になるのだから、お酒のあてになどさせませぬぞ」
あの、奥さん、饅頭は晩御飯にはならないと思うんだが。なんだかいたたまれなくなって、あと幾つか饅頭の箱を無言で差し出す。
「やあ、カズマ君、よく来てくれた!何してる母さん、カズマ君に一番いいお茶を!」
「あなた、うちには茶葉は一種類しか置いておらぬぞ。少し待ってくりゃれ、一番おいしい入れ方で入れてきましょうぞ」
そう言って、八尾がお茶を持ってくる。銀狐二尾に饅頭をあげつつ、お茶を持ってきてくれるのを待ち、再び全員揃ったところで俺は疑問を投げかける。
「あ、あの、なんでそんなに疑われなきゃいけないんですか?」
俺がそう言うと、横のたまもがいきなり立ち上がり、「う、うち、部屋に戻っておくのじゃ」と走り去っていった。
ん-?
疑問に思いつつもひょいざぶろーが話し始めたので、そちらに顔を向ける。
「うむ、娘からいろいろと手紙をもらっていてな」
「手紙……因みに内容は?」
俺が聞くと、今度は八尾が堪えてくれる。
「いろいろと知らせてくれてな、確か……自分を年液まみれにして楽しんだり、魔力を使い果たした娘を背負いながら、胸の感触を楽しんだり、一緒にお風呂に入ったり、トロ8世に下着のにおいを覚えこませて、『これだ、これをとってくるんだ、そしたらもっといい餌をやろう』と言ったり、娘が無防備にソファで眠っていると体育座りでじっと下着をのぞき込んでいたり……」
「申し訳ございません!!!!!」
話が終わる前に俺は頭を床にこすりつけて土下座を敢行した。が、その俺を罵倒するでも、許容するでもなく、ひょいざぶろーが静かに俺に言葉を投げかけてきた。
「それでも大切な仲間だから、と。借金まみれでスケベで暴言まみれの常識のない男でも、私が目を離すと簡単に死ぬからと、娘がそこまで言うなら、きっと何かあるのだろう、と」
それを聞いて、俺はさっさと部屋に引っ込んでいったたまもを思い起こし、意識を背後に向ける。その残した影響に少し思うところはあるものの、大切な仲間と言われるのは少しうれしいものがあった。
「……まあ、とはいえ、娘と一緒になるなら、せめて借金はどうにかしてほしいものじゃが。我が家も余裕がなくてなぁ」
八尾がそう呟いたのを受けて、俺は慌てて顔を上げた。
「あの、俺は別にたまもと恋仲ってわけじゃ……それと、一応借金はもう返済し終えて大金も入ってくる予定なので、パーティとしても問題ないですから」
「ほう、因みにおいくらほど?」
俺の言葉を聞いてのひょいざぶろーさんのその言葉に、俺は何気なしに言葉を続ける。
「えっと、ざっと三億エリスくらいですかね」
「「さささ、三億ぅ(じゃとぉ)!?」」
あ、ちょっとやらかしたかも。そう思う俺の目の前で、勢い込んでひょいざぶろーが声を張り上げる。
「そうだ!カズマ君、今日は泊っていってくれたまえ!冒険者なんだ家なんて持ってないだろ」
「あ、いえ、アクセルの町に屋敷を持っているので」
「「屋敷~!?」」
俺の返答に二人のそんな声がこだましたのだった。
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「はぁ、話の流れで言っちゃったけど、やらかしたなぁ」
俺は風呂に入りながら、先ほどの会話を思い返していた。入る予定の金の話と、屋敷を持っていることを放したときの反応を見るに、大分やらかしてしまった気がする。
「まあ、考えても仕方ないか」
風呂から上がり、応接間の方に向かうと、何やら言い合う声が聞こえてきた。
「何を言っているの?あなたは、自分の娘が可愛くないの?あんな男と同衾させるなんて、飢えた魔獣に餌を差し出すのと同じよ」
「くぅくぅ、問題なかろう。我が娘ももう結婚できる年齢じゃ。お互いが認め合ったなら、我らが口を出す問題でもなかろう。もしも嫌なら、あの子も抵抗位できよう」
「いや、そう言う話ではな「スリープ」……くぅ」
どさりという音が響き、言い合っていたエルの声が途切れた。思わずそちらに向かうと、応接間に所狭しとひょいざぶろー、イリアス、エル、それと銀狐までが眠りこけていた。
「おや、カズマ殿、風呂から上がられたか。いやはやすまぬ。皆、寝てしまったようでな。こちらは妾が部屋に連れていく故、カズマ殿は娘の様子を確認しに行ってはくれまいか?」
そうしれっという八尾に、俺は静かにうなずくしかできなかった。
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たまもの部屋にはかわいらしいネームプレートが付いており、そこが彼女の部屋であることはすぐわかった。俺が意を決してトントン、と扉をたたくと、特に気負った様子もなく、「どうぞ」と返事が返ってくる。
そして、俺が部屋に入ると、これまた特に何の気負いもなく、こちらとは反対側を見て何かをしているたまもの姿があった。
「いやはや、久々の自分の部屋というのは落ち着くわい。部屋を残しておいてくれて感謝するぞ、母う……カズマ!?ちょ、ちょっと待つのじゃ!なぜカズマがここにおる!?」
どうやら、ノックの相手を八尾だと勘違いしていたらしい、先ほどの八尾の奇行を考えていたこともあり、ノックだけで声を出していなかったから勘違いをしてしまったようだ。
「ち、違うぞ!?俺は夜這いをするとかそう言うんじゃなくてな?八尾さんにお前の様子を見てきてほしいって言われたから、それでなんだ、ほら、夜食のおにぎり」
それを聞き、俺の差し出したおにぎりを見て、たまもは納得したようにうなずいた。
「なるほど、確かにあの時途中で話から抜けてきてしもうたし、その後もずっとここでこもりきりであったからのう」
とそんな納得顔で頷いた玉藻の声が終わるか終わらないかのうちに、部屋の外から「ロック」という呪文が聞こえ、扉のノブのあたりに小さな魔方陣が展開された。
「……」
「……母上」
呆れたようにそう言うたまもの目の前におにぎりを置いて俺は扉の近くに座る。
「まあ、飯食っちまえよ。その後は……まあ、その時に考えるか」
「うむ、せっかくカズマが持ってきてくれたおにぎりじゃ。いただくとしよう」
そう言うと、にこやかな笑みでおにぎりに手を伸ばすたまも。
「……ん、……あむ。……あぐ」
部屋の主がいる中でいろいろと物色する気も起きず、なんとなくたまもを見つめる俺の目の前で、おいしそうにおにぎりを頬張るたまもに、なんだか気恥ずかしくなり目をそらした。
「うむ、ごちそうさまじゃな、さて、始めるとするかのう」
食べ終わったハンカチのような布で手を拭ったたまもが布団を敷き始めたのを見て、俺も手伝おうとして、手が止まる。
「あれ?布団、一つしかないのか……」
「そりゃそうじゃろ。ここはうちの私室じゃぞ。布団は二つもいらぬわ」
それもそうか、と思い、俺は再び扉の方へ向かおうとする。何しろ今はたまもが目の前にいるのだ。もしもこれがたまもが寝入っているときに部屋に閉じ込められたなら同衾するか懊悩したかもしれないが、流石に両方とも覚醒状態でそれを提案する勇気は俺にはなかった。
「おいカズマ、どこに行くのじゃ?」
そうたまもが言ったと同時俺の体が引き込まれ、俺はたまもに圧し掛かられていた。
「あ、あの、タマモサン?」
「どうした?カズマ?」
そう言ったたまもは舌をペロリと舐め、こちらを好色そうな目で見るたまもが自分の服に手をかける。
「ちょ、ちょちょちょっと待った。え?何この状況、もしかしてさっきのおにぎりに何か仕込まれてたとか?」
混乱してそんなことを口走る俺に、少し眉をひそめてたまもが口を寄せてきた。
「失礼なことを言うでないわ。うちは正気じゃ。……どうせ母上のことじゃ、朝まで鍵は開かぬじゃろう。それに、お主に据え膳を喰わぬ軟弱者と恥をかかせるわけにはいかんじゃろう?うちは、お主になら、良いのじゃ」
そう言って、しゅるりと着物の上をはだけたたまもが、そう言えば、といった風にたまもが淫蕩に笑った。
「あぁ、カズマはヘタレじゃものなぁ、怖気づいてしまうのも仕方があるまい。じゃが安心するがよい。キツネの掟によれば婚姻は一度に三度女の中に精を放つことで成立するとされておる。つまり、二度まではお試しじゃ。もしカズマが責任を取りたくないというなら、二度で止めておけばよい。もしそれで孕んだとしても……まあその時は少しカズマにも迷惑をかけると思うが、うちが責任をもって一人で育てるのじゃ。じゃから、ほれ……いっぱい出してくりゃれ?」
その一言に頭が真っ白になった俺はたまもを突き飛ばして窓から逃げ出したのだった。
というわけで、据え膳を喰わないカズマ君です。きつねが二人部屋の中にいたら卑しくなってもしょうがないよね♪
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