「進藤、あんたも来てたんだ!……桂木とは何かの知り合いなわけ?」
「えっと…最近オレが桂木の家に仕事で碁を教えに行ってるんだ。まあ元からプロになれそうなくらい強かったけどな」
「へぇー」
「奈瀬は桂木とはどんな知り合いなんだ?」
「ただ碁を打ってるだけよ。今日はたまたまここに来ただけ」
面倒なことになったな……。
かつて進藤が院生だった時期があるという情報から奈瀬と知人関係なのは想定していたが、こんな風に鉢合わせしてしまうとは。
別にボクの好感度が下がるようなことを進藤が口にするとは思わない。とはいえ、それでも攻略中に想定外のキャラクターと遭遇するのは、不測の事態が発生するフラグに繋がりやすいから避けたかった。
とりあえず話題を進藤サイドのことに集中させて適当に乗り切ろう。
……というか、目下こちらとしては何より気になることがあった。
「進藤、お前こそそちらの人とはどんな関係なんだ?」
まずボクは前振りとして進藤の隣にいる女子について質問する。
「あ、こいつはオレの幼馴染ね」
「藤崎あかりと言います!」
なるほど。
前に進藤が言っていたが、囲碁初心者の頃にエルシィ級のプレイングを披露した幼馴染というのはやはり彼女のことか。
さて、ここからが本題だ。ボクは本日最大の疑問を口にする。
「………二人のその格好は一体何なんだ?」
「いやぁ…手合い帰りにここ来たら、あかりがこういう格好したいって言うから仕方無くオレも合わせてさ」
「そう言うヒカルも割とノリノリじゃないのよ」
既にご存知かもしれないが、ここガッカン・ランドは様々なコスプレも楽しめる施設だ。
多種多様なコスチュームがレンタル可能となっている。
そして現在の二人の装いは完全に和を意識した物だった。
進藤の幼馴染とやらは巫女のような衣装を纏っている。
下は袴のようなスカートだ。ただし、丈は膝までしか無い。
個人的なゲーム上の好みで言うなら、申し訳無いが巫女風の装束での膝出しはどうにも邪道に感じてしまう。無論人気があるのは理解出来るが。
一方の進藤はというと、平安時代の公家のような狩衣に身を包んでいた。
頭には烏帽子を被り、手には扇子を握っている。
「この扇子は実は自前なんだぜ?」
そんな至極どうでもいい情報を聞き流しつつ、ボクは進藤の姿に対して妙にしっくりくるものを感じていた。
髪の色は一部派手なのに何故かそれが黒い烏帽子や純白の狩衣と絶妙に調和しているような気がする。
扇子を構える姿態も、普段の進藤からは考えられぬほど堂に入っていて貫禄がある。まるで何かが乗り移ったかのような威風だ。
「フンッ…馬子にも衣装だな」
「え、何?孫……?」
「………いや何でもない。気にするな」
まあこの辺で話を切り上げても不審には思われないだろう。
「ではボク達は向こうを回る。じゃあな」
「じゃあね、進藤と藤崎さん」
「奈瀬、桂木、またな!」
「これからもヒカルのことよろしくお願いします」
その後ボクと奈瀬は、ボウリングと屋内ジェットコースターを巡った。
この二つが苦手なボクと違って奈瀬は大いに楽しんでいる……ように見えた。
帰り道のこと、残暑に微かに忍び込む秋風を肌で感じる中。
しばらく口数が少なかった奈瀬が唐突に口を開く。
「なんか進藤ってさぁ…もう後一歩か二歩くらいで一流の棋士って感じだよね」
「ん?」
「それに比べて私って何なんだろ?未だに院生だし。進藤が院生の頃にはお姉さん面で接してたくせに」
「お前だってもうすぐプロになるんだろう?」
「そうだといいけどさ……」
……今の奈瀬に足りないのは自信だな。
「人を凄いと思うのも自分を情けないと思うのも、どっちも大概にしておけよ。ホントにそいつに一生勝てなくなるぞ?」
「ふふふ……あんたって私の友達の師匠と似たようなこと言うんだね」
「囲碁というゲームを攻略する上でボクが見出した持論を述べているまでだ」
別に囲碁に限ったことでもないかもしれないが。
「そっか。あんたは本当にハート強くて羨ましい。私もあんたみたいになれればいいのに」
「……………」
「私って基本ネガティブだからさ、頭の中なんて過去の対局での後悔ばっかりよ。ああしとけば良かった、こうしとけば良かったって」
過去を振り返るのは大事だが、過去に囚われていては駄目ということだよな。
「私もあんたや進藤みたいにもっと前を向いていけたらいいのになぁ」
「
「ふーん」
「しかしそれ故に、発生する重要なイベントの数々は一期一会なんだ。……例えばボクとお前のやりとり全部とかな」
「え?」
「お前が悩み苦しみながらも碁を打ち続けてくれていたおかげでボクはお前と出会えた。勝手かもしれないが、そのことには凄く感謝してる」
「へ?……そう…なんだ」
「だからボクは今しばらくお前と共に歩もう。お前のシナリオの中で、これまでの苦渋を見事に挽回するような展開に辿り着くまで」
「なんかよく分かんないけど……ありがとう!」
大した励ましにならないかもしれないが、これで少しでも元気を出してもらえれば上々だ。
「あのさ桂馬?いきなりだけど、これからは私のこと明日美って呼んでもらうのはアリかな?」
「もちろんだよ、明日美」
プロ試験本選は目の前だ。
ボクはいつしか攻略とは関係無しに彼女の合格を願っていた……。