本作中で登場する施設は、神のみぞ知るセカイのノベライズで登場した場所です。
今私達の前に存在する『ガッカン・ランド』と看板に記された巨大ビル。
そこは繁華街のど真ん中に建つ一棟の建物が丸ごと総合レジャーランドになっている。
カラオケ、ボウリング、漫画喫茶、レストラン等々が全て一つのビルに入っている屋内型の大型アミューズメント施設だ。
驚くべきはなんとビルの側面からレールが突き出しており、ぐるっと一回転してまたビルの中に吸い込まれている点。
何人かを乗せたジェットコースターがビルの側面から勢い良く飛び出してきて、当然ぐるんと一回転してまたビルの中に消えていく。
不安感とワクワク感の両方が大いに刺激される光景だった。
一番の目玉は施設内ではコスプレして遊べる、という所にある。
受付で貸し出してもらえるコスチュームの種類は三百種類以上に及ぶ。
ナースや警察官などの制服から時代劇風の和装、各国の民族衣装、ゲームや漫画のキャラクターが着ている装束、果てには着ぐるみまで借りて遊ぶことが可能である。
「桂木、あんたがどっかに行こうだなんて一体どうしたのよ?」
こんな時でも相変わらずゲームに勤しんでいる彼に私は声をかける。
「言っただろ?お前が三連勝でプロ試験の予選を突破した御褒美だって。奈瀬が成長しててボクも嬉しいからさ」
ゲームから顔も上げずにそう言われても本音なのか甚だ疑わしかった。
しかし私が前から行ってみたいと思っていたこの場所に連れてきてくれたのは確か。しかも今日は全て桂木の奢りだという。
「じゃあ今日は遠慮無く楽しませてもらうわね」
「好きにしろ………くっ!幾ら無料とはいえこんなイベントはユーザーを舐めすぎだぞ!」
「……歩きながらゲームするのは危ないよ?」
「フンッ…お前はボクが歩きPFPを会得して何年経つと思ってるんだ?」
「はぁ~……」
こんな可憐な美少女と二人で遊ぶっていうのにこいつは何なのよ……。
まあどうせ桂木のことだからゲームの女の子の方に夢中なんでしょうね。
隣に私がいるというのにずっとゲーム画面を見つめながら気味の悪い表情で耽溺している桂木。
そんな彼を見ている内、私の中で悪戯心が沸々と芽生えてきた。
「まずはここ行くわよ!」
そこはガッカン・ランドの七階のフロアほぼ全域を使っている名物スポット「水着で入るお化け屋敷」。
まず入場者は入り口で水着に着替える。水着は男女共に様々なタイプの物がレンタル可能となっている。
そして膝の辺りまで水に浸かった建物の中に入っていく。設定は〝水没した館〟というもの。
こんな具合に綺麗に水没する館が実際に存在するのだろうかとふと疑問に思ったけど、細かいことは気にしないでおこう。
お化け屋敷とプールが組み合わさっていると考えれば分かりやすい。入場者はその水没した館を水着で歩き回るというわけだ。
「うむ。いいだろう」
まんまと乗ったな?
七階に到着した私達は、左右に別れた男女それぞれの更衣室に入る。
着替えを終えた私は入り口前に向かう。桂木は既に所定の位置に着いていた。流石に水場だからかゲームは持っていない。
「じゃあ行くぞ」
……いや、そこで私の姿に対してはノーコメントなのか。
パレオを巻いたセパレーツタイプの水着を着用してきた私に対して、桂木は何の一言も無くずんずん進む。
あんまり気持ちの悪いコメントをされても困るのは確かだが、何とも言えない気分になった……。
生温い水に足を浸して、入り組んだ薄暗い迷路を歩いていく。
この水が単なる飾りかと思いきや予想外の恐怖を演出していた。
水の中で足場が突然ぬるぬるとしたり、急に血のような赤色が混じったり、水温が急激に下がったり。
更にバチャバチャと派手に水飛沫を立てながらお化けが飛び出してきた。
「きゃあっ!」
私は思わず桂木にしがみつく。
「…お、大袈裟だな。このくらいで」
桂木の声が微かに震えている。
暗くて表情がはっきり見えないので、それがオバケに驚いているせいなのか、私に強く抱き付かれて照れているせいなのか、どちらかはわからない。
いずれにせよ溜飲が少しだけ下がった。あの越智も真っ青な生意気坊やのこんな一面が見られるとは……。
ただ一つだけ気になることもあった。
お化け屋敷を出て元の服に着替え直した後に私は訊く。
「ねえ桂木、あんたもしかしてここに来たことない?」
「ん?」
滑らかな動きでゲームを操作していた桂木の指が一瞬ぴたっと止まり、視線も画面から僅かに逸れたのを私は見逃さなかった。
桂木は、私が話しかけた時に一々そんなゲームから意識を外すような反応を示す人間ではない。
「さっきの迷路をあんたは一切迷うこともなくスイスイ進んでたから」
進む道を間違えば行き止まりに当たるはずなのに一度もそうなることは無かったのだ。
幾ら桂木といえど、ヒントが全く無いあのお化け屋敷で正解のルートを選び続けることが出来るとは思えなかった。
「ああ、確かに来たことあるな。言い忘れてただけで別に隠していたわけじゃない」
「それは女の子と一緒?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「別にぃ~」
無性に腹が立ったが、私がどうこう言う筋合いには無いことも事実だった。
何より桂木が他の女の子と水着で遊んでいたことを自分が快く感じていないという本心を認めたくなかった。
桂木って顔は結構イケメンだし口は上手いし、ゲームにしか興味無いように見えて、本当は現実でも女の子を落としまくってるんじゃないの?
……そんな不埒な想像が私の脳内で繰り広げられる。
このモヤモヤした気持ちを発散したい。
そこで私が次に選んだのはカラオケだった。
「カラオケも点数を競うゲームだからな。格の差というものを見せてやろう」
「大した自信ね…」
こいつなら歌もそつなくこなしそうだなぁ。
だから、私は十八番の曲で勝負することにした。
~Get Over~
──93点。私としてはまあまあのスコアだ。
「その程度か。では次はボクも一曲いこう」
~God only knows~
──48点。いや、こんな低い点数をカラオケで私は見たことないんだけど!曲自体は素晴らしいのに……。
「何!?じゃあ違う曲だ!」
~ハッピークレセント~
──44点。中川かのんちゃんの折角の名曲が……。
「何故だ……かのんがボクに半強制的に聞かせてきたこともある歌なのに!」
「え!?あのかのんちゃんと知り合いなの?」
……カラオケを経て、桂木は目に見えて落ち込んでいた。
最初はいい気味だと思っていた私も流石にこれはからかう気になれない。
自分が音痴なことに今までの人生でずっと気付いていなかった様子には流石に驚いたけど。
そんな時によく聞き覚えのある高い声が私の耳に飛び込んできた……。
「あれ?もしかして奈瀬と桂木!?何でお前らが一緒にいるんだよ?」
ハールメンの小説には曲の歌詞も一応載せられるようなのですが、その際の規約で定められた手順が色々と面倒なので割愛させて頂きました。
曲名はそのまま何も気にせず出しても大丈夫みたいですね。
ちなみに桂馬が音痴という設定は原作だと出ていなかったりします(もしどこかにあるのに見落としていたらすみません)。
楠先輩の回では絵が下手だとエルシィに指摘されてそこそこ驚いていたようなので、歌に関しても同様に自覚が無いのではないかと予想しました。