IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界 作:館凪 悠
新世界編は今回の話のようにシーンがぶつ切りになる可能性が高いです。よろしくどうぞ。
3.Under The Sea
「……本当に聞きたいの? “塩分濃度”の話」
呆れたような顔をして言うのは、“麦わらの一味”の航海師であるナミだった。
今、サニー号は海底深くの魚人島を目指していた。
そして、そこを目指すための海流等の説明をしていたところに、船長であるルフィが首を突っ込んだのだ。
そしてルフィの知識と興味はすぐに明後日の方向へと飛んで行ってしまった。
「──昔はよく遊んだよな、“エンブンノード”で……」
遠くの海を見ながら、ルフィが言う。
「そんなものありません! あっちいなさい!」
子供を叱るように、ナミがルフィに声を上げる。
ルフィは不満顔でナミの方を見た。
「本当だって! ウタも一緒にやったんだぞ。なァ、ウタ!」
ロビンのハナハナの実で生えた手と遊んでいたウタが、名前を呼ばれて振り返った。
「何、ルフィ?」
「ウタ、お前も“エンブンノード”で遊んだよな!?」
「え? ……あー、ホンゴウさんが持ってたボードゲームの事? 円いボードを使ってやる陣取り合戦みたいなやつだっけ? ルゥが一番強くって、わたしたちいつも負けてたよね」
「そう、それだ! ほら見ろナミ! “エンブンノード”はあったんだ!」
嬉しそうにルフィが言う。
話の流れのわかっていないウタは首を傾げ、同じようにウタの肩から生えたロビンの手も斜めに傾いた。
ナミは頭を押さえて言う。
「存在するのはわかったけど、そんなマイナーなゲームはしらないわよ……。ゾロ、あんたも知らないわよね?」
「──おれはいつか欲しいと思っている……。“エンブンソード”」
「もうそっちいなさい!! 訊いた私がバカだったわ!」
ナミが船長と戦闘員を怒鳴りつける。
ウタはそれを見て、『ナミは怒らせると滅茶苦茶怖い』と肝に銘じるのだった。
ぷに。
ウタはほっぺを指でつつかれて、そちらの方に目を向ける。
「あ──」
目に入ったそれに、ウタは言葉を失ってしまった。
ウタの頬をつついたのは、肩から生えたロビンの手だった。
その指が差す方向に、それはあった。
(──ここ、海中だよね??)
滝だった。
下へと向かって流れる海流が、まるで滝のようにはっきりと視認できる。
「おお、あれか!! 凄えーっ!!!」
ルフィが、船員の代わりと言わんばかりに、笑いながら言う。
誰もが、圧倒されていた。
「なんて壮大な……!」
「見るのと聞くのでは丸っきり違いますねー!」
ロビンとブルックは、その壮大さに感動している様子。
一方で
「なあ、この海流には乗っても大丈夫なのか!?」
「あんな速度じゃあ、海底に叩きつけられて死んじまうよーっ!」
チョッパーやウソップは、底の見えない、吸い込まれるような暗闇の滝つぼを見て、恐怖を覚えている様子。
「船の心配はするな! サニー号は宝樹アダムより生まれた最強の船だ!」
フランキーが皆の不安を軽減させるために宣言する。
そして、ウタは──。
「…………ははっ、すっごい」
ただ、圧倒されていた。
各地で行ったライブを通じて、少しは旅慣れたと思っていたウタだったが、甘かった。
──これは旅ではなく、冒険だ。
ウタの口角が、彼女の意志に関わらず、自然と上がっていた。
久々の海賊としての航海で、こんな光景が見られるなんて。
(やっぱり、この世界はわたしの知らないものばかりだ)
自分のこの選択が正解だったと確信して、ウタは目を閉じて頷いた。
その直後に現れた怪物により、ウタはすぐに恐怖に苛まれるのだが、今の彼女にはそれを知る術はない──。
────
海の怪物や巨大深海魚、大男や幽霊船、新魚人海賊団襲来をも乗り越えて、“麦わらの一味”はなんとか魚人島へたどり着いていた。
だが、突入前の新魚人海賊団襲来の影響によって、一味は魚人島の中でバラバラになってしまっていた。
それでも“麦わらの一味”を歓迎する様相だった魚人島は、ある占いによって一変する。
『“麦わら”のルフィにより、魚人島は滅ぼされる』
“麦わらの一味”は晴れてお尋ね者となり、国の兵士に追われる身となっていた。
そんな中、ウタが一緒に行動をとっているのは──。
「ねえ、ロビンさん、そういえばロビンさんって、一味の中での役割は何になるの?」
お魚バスには、ロビンとウタの二人しか乗っていない。
二人を拘束しようとした兵士には、丁寧に“挫折”いただいたため、すぐに追われることはないだろう。
ウタはロビンの正面に座ってそんな風に話しかけた。
「さて……あなたからはどう見えているのかしら?」
ロビンはニコリと笑って、ミステリアスに質問を返す。
ウタはうーんとこめかみに指を当て、眉に皺を寄せて考える。
「…………きょ、曲芸師」
ロビンは突拍子もないその答えに、クスクスと口元に手を当てて笑う。
「残念、ハズレよ。でもなんで曲芸師って思ったの?」
「……だって、手とか足をいろいろな所から生やす能力を持っているでしょ? 人間業じゃないトリックもお茶の子さいさいかなって」
「ふふっ。そんな能力の使い方、考えたこともなかったわ」
にこやかに笑って、ロビンが言った。
「さて、じゃあそんなウタに問題。さっきまで、私は何の情報を収集していたでしょう?」
「えっと……、何かの石について……?」
天井に視線を飛ばしながら、頬を掻いてウタが答える。なんとかグリフ、と言っていたように思うが、正式な名称が出てこない。
「そう、“
「つまり──」
「考古学者よ。よろしく」
そう言って、ロビンは再びウタに微笑みかける。
へえー、とウタは目を輝かせた。
ロビンは、一味に加入してまださほど時間の経っていないウタのことを、かなり気に入っていた。
ウタの人懐こい性格や、かつての船長と同じように、自分のハナハナの能力を恐れるどころか面白がってくれることは、彼女にとって好感度が高かった。極めつけは、彼女の荷物に入っていた、数々のティーシャツ。
イラストの好みが似ているのだ。
それが、ロビンに親近感を抱かせたのだった。
「私からも一つ、質問してもいいかしら?」
「なに?」
ロビンの問いに、ウタが首を傾げる。ウタの後ろの髪も、同時に揺れた。
「ルフィとの会話の中で、しきりに四皇“赤髪”の名前が出ていたと思うんだけど」
「あ、シャンクスのこと?」
「ええ。あなた、“赤髪”のシャンクスとはどういう関係なの?」
ああ、とウタはこともなさげに答えた。
「わたし、昔は“赤髪海賊団”の音楽家だったんだ。シャンクスはお父さん」
今度はロビンが驚く番だった。
「……“赤髪”のシャンクスに娘がいたなんて、初めて聞いたわ」
「シャンクスもわたしも、言ってないから知っているのはほんの少しの人だけなんじゃないかな。……あ、そういえばさっき、海軍に啖呵切った時に言っちゃったから、そのうち新聞とかに載るかも」
頓着していないように、こともなさげに言うウタに、ロビンは心配するように尋ねた。
「四皇の娘というのが、どういう意味を持っているのか、分かってる?」
その問いに、ウタはきょとんと目を丸くする。
「え、わたしが誰の娘でも、わたしはわたしでしょ?」
あっけらかんとして言ってから、ウタはあはは、と小さく笑った。
「なんてキレイゴトかもしれないけどさ。実際、それで恐れられたり、襲われたりすることもあるんだろうし。でも、一番大事なのはきっと『わたしがどう思っているか』だから」
ロビンは、そのウタの言葉を聞いて、目を細めた。
かつての自分と、少し重なる。『娘ではない』と言えばあれほどつらい日々を送らなくて済んだかもしれないが、『あなたの娘だ』と言わねば気が済まなかった自分と。
「強いのね」
「へへ、ブルックに鍛えられたからね」
にっこり笑って、ウタが言う。
「ブルックにかなり懐いているのね」
「懐いているって……」
まるで小動物みたいに言わないで欲しい、とウタ肩を落としてロビンへ視線を送る。
そんなウタの様子に、ロビンは再びクスクスと笑った。
ウタは口を尖らせて言う。
「ブルックは音楽仲間だし、恩人だからね! 懐いているんじゃなくって、尊敬してるんだよ」
でも、とウタは続けた。
「エレジアにいた時には、もっと大人びているというか、大人していたというか……。“麦わらの一味”に戻ってから、少し子供っぽくなったみたい」
「あら、幻滅したのかしら?」
ううん、とウタは首を振った。
「ブルックにもそういう一面があるって知って安心したし、わたしたちの前で大人をしてくれていたってことがわかって、少し嬉しかった。気にかけてくれてたんだなってさ」
目を細めて、口角を少しだけ上げてウタが言う。
そして、思いついたように、ウタは「あ」と声を零す。
「そうだ、わたしにとって、ブルックは心の師匠みたいなものになるのかな?」
ロビンは楽しそうにそれを聞いて、笑みをこぼす。
この一味は、そうなのだ。皆、仲間が褒められるととても嬉しそうに笑う。
「ふふっ。ブルックが師匠ね」
「あ! でも
照れ隠しか椅子から立ち上がって、声高に言うウタの鼻を、彼女の肩から生やした手がきゅっとつまんだ。
「むぎゅ」
「ふふ、“歌姫”の人気は知ってるわよ。革命軍の中にも、あなたのファンはたくさんいたから」
「へ、ロビンそん、革命軍にひたの!?」
「ほんの二年に満たない期間だけどね。ルフィのお父さんにも会ったわ」
そのロビンの言葉に、ウタがあんぐりと口を開けた。
少なくとも、“歌姫”のしていい表情ではない。
「それよりも、エレジアって確か“赤髪”が……」
ロビンはそう言いかけてから、ようやくウタの表情に気が付いた。
「えっと……ウタ?」
ロビンが恐る恐る鼻から指を離す。しかし、それには反応はない。
数秒経って、ようやく思考が追いついたように、ウタが叫んだ。
「ルフィに父親がいたの!?!?」
冷静に考えれば、これほど間抜けな質問もない。例えば祖父から孫が直接生まれることはあり得ない。生死を抜きにすれば、必ず父母はいるはずだ。
だが、ウタはルフィから『父親はいない』と聞いていたのだ。
「…………ま、まァ、ルフィも人の子だし、そうだよね。父親もいるよね」
ようやく思考が冷静さを取り戻し、ウタは声を震わせながら言う。
深呼吸をして、体と心を落ち着かせる。
(でも、革命軍。革命軍か……)
エレジアにいて、ウタは革命軍の噂をとんと聞いた事がなかった。ライブ巡業を初めてから、少しだけ耳にした程度。
ウタと同じく、世界を変えようとしている者が集まる組織と聞いていた。
「ねえ、ロビンさん、革命軍で見てきたこと、いろいろと教えてくれないかな? わたし、世界のいろいろなことを知りたいんだ」
ロビンは私の見たものであれば、と頷いてから言う。
「いいけど、その前に一つだけ。エレジアって、確か“赤髪”が滅ぼしたことになっていたはず。だから、そこに彼の娘であるあなたがいるのはおかしいと思うの。差し支えなければ、何があったのかを教えてくれない?」
その質問に、ウタは一瞬だけ逡巡する。
真実を話して大丈夫だろうか。
ウタは心の中で頭を振って、すぐにその迷いを切り捨てた。
ルフィとブルックの仲間だ。きっと、大丈夫。
「昔、エレジアに──」
「聞いた事がある。伝説によれば──」
「それで──」
「……そうだったのね。──」
「ロビンさんは──」
「私の住んでいたのは──」
二人で過去や現在について語らっているうちにも、お魚バスはゆっくりと泳いでいく。
目指すは“森の海”──。
いつもお読みいただきありがとうございます。感想やここすき、評価などもありがたき幸せにございます。
本投稿で十万字を越えました。一次創作だとひと月五万字が最高なのでよく書いたものです。
あと感想にて質問ありましたが、ウタからの一味の呼び方は私の独断と偏見により
・ロビン ──魚人島まで『ロビンさん』
・フランキー──ドレスローザ直前まで『フランキーさん』
・サンジ ──WCI終了まで『サンジさん』
・それ以外 ──最初から呼び捨て
となっております。一応私なりに理由付けもしておりますのでご容赦を。
魚人島の戦闘は果たして私の手に負えるのでしょうか。書けなかったらご容赦をば……。
書けたらいいな……。