IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

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5.鳥籠-In this Cage-(ドレスローザ4)

「はァ!?」

「ええっ!?」

 

 いきなりのブリキの兵隊による告白に、フランキーとウタが目を丸くして声を上げる。

 その反応をどうとらえたのか、ブリキの兵隊はしばらく押し黙ってから、ゆっくりと口を開いた。

 

「…………十年前に、ドフラミンゴが王座に就いてから、固く守られている二つの法があるんだ」

「法?」

「そうだ。まず一つ、国の消灯は”午前〇時”、それ以降は外を出歩かない」

「大人もかァ!? 飲みにも行けねェじゃねェか!」

 

 フランキーが憤慨したように言う。

 ブリキの兵隊は落ち着いたもので、「どのみち飲み屋も閉まってるさ」と言う。

 

「そして、人は“自分の家”に、オモチャは“オモチャの家”に帰るんだ。……そして、二つ目、オモチャは“人間の家”に、人間は“オモチャの家”には絶対に入ってはならない」

 

 何故だ!? とフランキーが言う。

 

「さっき、お前ェもとは人間だったって言ったじゃねェか! ……なんかそういう病気なのか!?」

「病気、か。……ああ、そうだったらどれだけ良かったろうな」

 

 吐き捨てるように、ブリキの兵隊が言った。やはり、オモチャの表情は変わらない。

 

「……そうか、お前“能力者”って言ったな。つまり、悪魔の実か?」

「そういうことだ」

 

 フランキーの言葉に、ブリキの兵隊が頷いた。

 でも、とウタは言う。

 

「でもさ、無理にオモチャにされて家族が離れ離れになったら、さすがに反感を買わない? 十年も守られないでしょ、そんな法律」

 

 そうだな、とブリキの兵隊が頷く。

 それに続く言葉を兵隊が発しようとした瞬間、不意に街かどで悲鳴が上がった。

 

「オモチャが壊れた!! “人間病”よ!!」

 足を止めてそちらに目をやれば、女性のスカートにすがりつく、頭がリンゴ型になった人形のオモチャが、訴えるように必死に叫ぶ。

 オモチャは、自分のことを必死に人間だと訴えていた。

 それも、どうやら人間だったころはその女性と付き合っていたらしい。

 しかし、当の女性はそんなオモチャを“人間病”と言うばかり。怖い、気色が悪い、などの負の感情こそ発露しているが、そこに愛情はなさそうだった。

 やがて現れた兵士たちによって、両腕を掴まれ、オモチャは“SCRAP”と書かれた建物に連れていかれる。

 

「やめろ、離せ僕は人間だ!! 思い出してくれ、助けてくれェーッ!!」

 

 人間であれば、鬼気迫るような表情をしていただろう。あるいは、恐怖と絶望に涙を流していたかもしれない。

 しかし、オモチャである彼は、ただ変わらない表情のまま、声を張り上げるだけだ。

 

「……!」

 

 ウタが動こうとしたところで、ブリキの兵隊が彼女を制止した。

 

「目的を忘れるな」

 

 鋭く小声で、ブリキの兵隊がウタを叱責する。

 つまりは、そういうことなのだろうか。

 ウタはその悪趣味な想像に、ぞくりと体を震わせた。

 ブリキの兵隊が言うように、本当にオモチャが人間だったとしたら──、何故、()()()()()()()という台詞が出てくるのだろう。自分の名を告げても、反応しない相手に対して。

 今度はブリキの兵隊が、歩いて来た母と子、それからオモチャの一行を捉まえて尋ねる。

 

「やあボウヤ、お父さんはいるかい?」

「いないよ、そんなの」

 

 ブリキの兵隊の質問に、当たり前のように子供が答える。

 

「あんた、夫は?」

 

 今度は母親にそれを尋ねると、

 

「いないわ。結婚もしてないし……よくあることでしょ?」

 

 と、これまた当たり前のように答える。

 ブリキの兵隊が礼を言って、母子連れは去って行った。

 

「…………忘れるんだ」

 

 掠れた声で、ウタが呟く。

 そのとおりだ、とブリキの兵隊が頷き、いまいち理解の追いついていないフランキーが、「あ?」と首を傾げた。

 つまり、とブリキの兵隊が言う。

 

「この国には“忘れた者たち”と、“忘れられた者たち”がいるんだ。──その“悪魔の実”の能力者に触れられた者は、その姿をオモチャに変えられ、そして一切の人間たちの記憶から、姿を消す」

 

 その話を聞くうちに、みるみるとフランキーの表情が曇っていく。

 

「おいおいおいおい! ってェことはだ。オモチャであるお前ェも──」

「…………」

 

 ブリキの兵隊は、そのフランキーの声に応えることはなかった。

 それが答えなのだろう。

 彼も、いつかは“誰か”であったはずだ。

 ウタの帽子の影に座るラビが、首を傾げた。

 

「あなたどうしたの?」

 

 気が付けば、ウタが号外の新聞をぐしゃぐしゃに握り潰していた。

 わなわなと体を震わせているのは──。

 

「……悪趣味だよね。本当……許せない」

 

 ウタは吐き捨てるように呟いた。

 例えば自分の中から、シャンクスが、ゴードンが、ルフィが、ブルックが消えてしまったら、どうなるのだろうか。

 きっと、今の自分ではいられないだろう。

 そういった、自分の人格形成や価値観、大切な拠り所、綺麗な思い出の一切を、奪ってしまう能力。

 ウタはその能力に関して、“悪趣味”以外の感想を持つことができなかった。

 そしてウタが感じていたのは、それを当たり前に行使しているであろう、ドフラミンゴたちへの怒りだった。

 

「──さァ、“花畑”が見えた。詳しい話はそこでしようじゃないか」

────

 

 

 

 ドレスローザ近海──

 海の上にぽつりと浮かぶ、太陽を模したような船首を持つ船があった。

 サウザンドサニー号……のはずである。

 サニー号にしては、様子がおかしいのだ。

 少なくとも、その船の所有者である“麦わら一味”がこの船を見ても、サニー号だと認識する者は少ないだろう。

 しかしこの船は、確かにサニー号だった。

 

「オッホッホッホ!!」

 

 甲板の上で高笑いをするのは、花柄のドレスを着た、小太りの女。

 ジョーラという、ドンキホーテファミリーの幹部である。

 彼女に課せられた使命は、『モモの助の誘拐』並びに『船の奪取』であった。

 サニー号が出来損ないの芸術もとい、謎の船擬きになってしまったのは、ジョーラの持つ能力のせいだった。

 アトアトの実の芸術(アート)人間。

 彼女の両手から発せられた煙に触れたモノは、彼女の描く芸術品と姿を変えてしまい、その機能に著しい支障をきたすのだ。

 そしてその対象は、モノだけではなかった。

 生物も、その対象である。

 船上には、既に芸術にされてしまった一味の姿があった。

 武器や恰好どころではない。

 ナミ、チョッパー、モモの助は、壁に描かれた抽象画の一部に組み込まれてしまっており、顔以外は自由に動かすことすらできなくなっていた。戦闘どころか、移動すらもできやしない。

 唯一のブルックはと言うと──。

 

「ブルックの様子が変だァー! お前、裏切るのかァー!?」

 

 チョッパーが涙を流しながら、絵画のような顔で喚く。

 それは、チョッパーが錯乱したからではなく

 

「ヨホホホ! 素晴らしい音楽と海の芸術! YEAH!!」

 

 楽しそうにクルクル回りながら、デフォルメされたような骸骨が興奮気味に叫ぶ。

 褒められて気を良くしたように、ジョーラがオホホと笑った。

 

「あーたイケるクチね! ソウルキング、あーたならアタクシの相棒(パートナー)にしてもよくってよ!」

「それは素晴らしい! 私、目覚めたのです! 私はやっぱりアーティスト! 作品を生み出すことが生きがいなのだと!」

 

 既に死んでますけど、とスカルジョークをかましながら、ブルックはイキイキといった口調で言う。

 一味とモモの助が、そんなブルックに正気に戻れと言うが、どこの吹く風、二人はそんな彼らに耳を貸さなかった。

 

「やだよー、庶民にはわかりゃしないよ! この芸術家の情熱(パッション)を!」

 

 命こそが最大の芸術だ、とジョーラがうそぶき、ブルックがそれを礼賛する。

 素晴らしい、という声に乗って、彼女がにんまりと邪悪な笑みを浮かべた。

 

「うるさいこのコたちの命も、あと十分! 完全な芸術と成れば、息の根も止まる!」

 

 その声に、騒いでいた一味の呼吸が、一瞬止まった。

 

「────えーっ!!?」

 

 一呼吸おいて、壁画になりつつある一味が、口々に悲鳴を上げ、ブルックに助けを求める。

 しかし、ブルックは未だ、ジョーラを礼賛するばかりである。

 

「ああ素晴らしい!! ところでジョーラさん、この作品に音楽を付けさせてください!! いや、この素晴らしい作品には、音楽を付けるべきです!!」

 

 その言葉に、ジョーラは上機嫌である。

 

「やってくれるかい、ソウルキング!?」

「ええ、もちろんですとも!! ここはやはり、情熱と悲哀を色濃く出せるバイオリンがよろしい。これ、戻してください」

 

 すい、とブルックがオモチャにしか見えない芸術品となったバイオリンと、そのその弓らしきものをジョーラに差し出した。

 

「よしきた! 頼むよ相棒!!」

 

 ニコニコと笑いながら、ジョーラが手から煙を出すと、そのバイオリンたちはすぐに元の姿を取り戻す。

 キン──ッ!

 

「……どうしたんだい、ソウルキング?」

 

 不意に背中を向けたブルックに、訝しむようにジョーラが声をかける。

 いえね、とブルックが静かに答えた。

 

「私ね、芸術家(アーティスト)じゃなくて、音楽家(ミュージシャン)なんですよ。なにせ、目が節穴ですから」

「──っ!?」

 

 乗せられ、騙されたことに気が付いたジョーラが、慌てて戦闘態勢を取ろうとするが──。

 ──もう、手遅れだった。

 

「ハイ、もう斬れています! ……“絵描き唄一節(ひとよ)斬り”!!」

 

 パキ、と不意にジョーラの体に、黄泉の冷気による裂傷が生まれ、そしてジョーラは悲鳴を上げて、その場で気絶してしまった。

 

「ブルックー!!」

「さすがよ!」

「ホネ吉! ほめてつかわす!」

 

 ジョーラの能力によって芸術と成っていた物が、煙を上げて本来の姿を取り戻した。

 それから、とブルックが気絶したジョーラに向かって呟く。

「私には、既に“相棒”がいますので。たとえあなたが敵でなくても、あなたと組むわけにはいきません。何も言わずにそういうことをすると、彼女に怒られてしまいますから」

 ヨホホ、とブルックが笑った。

────

 

 

 

 ──ここ、ドレスローザには、広大なひまわり畑がある。

 一面に咲き誇る花々の、誰も知り得ぬある場所に、地下へと続く入り口がある。

 長い、長い螺旋階段を、下へ下へと下っていくと、地中にひっそりとたたずむ小さな街に辿り着く。

 そこに居るのは、ドレスローザの“妖精”たち。

 小さく、素直で、そして勇ましい者たちが、そこにいた。

 

「隊長ー!」

「お帰りなさーい!!」

「隊長!」

 

 口々に、ブリキの兵隊のことを隊長と呼ぶのは、小人──トンタッタ族の戦士たちだった。

 小人たちの街が地下にあるという事実に、ウタとフランキーは口をぽかんと開けるほかない。

 その驚きに追い打ちをかけるように、ウタたちの耳に聞きなれた声が飛び込んできた。

 

「おい、何やられてるんだルフィ!!」

 

 その声の方へ目を向けると、スクリーンには、闘技場の様子が映されていた。どうやら、ルフィが劣勢らしい。

 そして、そのスクリーンの前にいるのは……

 

「……ねえゾロ、何してるの?」

 

 そのハメの外しっぷりに、思わずウタは呆れたように声を出してしまう。

 

「あん?」

 

 その声に、ゾロは振り向いた。

 

「おう、ウタにフランキーじゃねェか。奇遇だな」

「奇遇だな、っておめー、なにやってんだここで!」

「ん? おれは刀を──」

 

 なるほど、とウタは頷く。

 恐らくゾロは、刀を盗んだトンタッタ族を追ってここまで来たのだろう。さすがは一味の戦闘員だけあって、ウタのように耳が良くなくとも、身体能力だけでトンタッタ族の速さに対応したのは、素直に凄いことだと思う。

 不意に背後から、隊長、と呼ぶトンタッタ族の声がした。

 

「今日と言う日に、なんと伝説のヒーローが降り立ったらしいのれす!! その名も、“ウソランド”と“ロビランド”!! 今、こちらに向かっているそうれす!!」

 

 どこか聞いた事のある名前に、ウタは首を傾げた。

 さらに、そのトンタッタ族が続ける。

 

「彼らには、さらに仲間がいるのだそうれす!! その名も──」

 

 “ルフィランド”。

 “ゾロランド”。

 “ナミランド”。

 “サンランド”。

 “チョパランド”。

 “フラランド”。

 “ホネランド”。

 “ウタランド”。

 名前を聞く度に、ウタの眉がどんどん平坦になっていく。

 おそらく、こんな妙な嘘を吐くのは……

 

「ウソップだな」

「ウソップだろうな」

「……ウソップだよね」

 

 満場一致で下手人の予想を立ててから、まずゾロがおずおずと手を挙げて、それに続いてフランキーとウタも手を挙げる。

 

「あー……、たぶんおれが“ゾロランド”だ」

「おれが“フラランド”、よろしく」

「わたしが“ウタランド”だよ」

 

 名乗りを上げると、トンタッタ族から黄色い歓声が上がった。

 ……ところで、伝説のヒーローってなんだ?

 ウタの疑問に答える者はいない。

 




いつもお読みいただきありがとうございます。さらにUA35万突破しておりました。皆様のおかげでございます。

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