IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界 作:館凪 悠
トレーボルの能力によって捕まったレオたちトンタッタ族。
彼らはトレーボルから、まだ仲間がいるだろうと問い詰められていた。
最初は言わないと頑なだったトンタッタ族だったが、トレーボルが自分はその仲間と友達だ、と嘘を言うと、その純真さからポロリと情報を漏らしてしまう。
その後もそんな質問が続くも、ロビンとウタは、トンタッタ族たちが人質同然の状況になってしまっているため、ヘタに行動はできない。そんな状況で、ウソップは逃走を提案する。
「そんなのバレたところで、お前たちは終わりれす!!! 仲間たちは返してもらう!!!」
騙されても心折れず、勇ましく叫んだレオに、トレーボルが口角を上げて言う。
「その“ベタベタ”は……、可燃性なのだ……!」
言うや否や、トレーボルはどこからか取り出した火種を、レオたちを捕まえる“ベタベタ”に投げた──。
ボン!!!!
赤い炎が、それに触れる寸前、気化した“ベタベタ”に引火した。
一瞬で炎は広がり、それは爆発となって、崩れかけた幹部塔を瓦礫の山へと変えてしまう。
爆発の中心にいたトンタッタ族たちが、口々に悲鳴を上げて、吹き飛ばされる。
ある者は、瓦礫の下敷きに。
またある者は、瓦礫に体を打ち付け。
爆風が過ぎ去った後、トンタッタ族で立っている者は居なかった。
いや、生存者が多いことの方が驚きだろう。
それだけ、トンタッタ族の体が頑丈ということか。
しかし──。
「おい、レオ!!」
ウソップが、瓦礫の隙間に横たわる、小さな緑の帽子を見つけて声をかける。
「逃げよ……いや、お前ら逃げろ! トレーボルには敵わねェ!」
ゲホゲホと、血の混じった咳をして、レオがかすれ声で言う。
「そうはいかないれす……。この国を変えるためには、隊長が、ドフラミンゴを討たないと……。そのために、“SOP作戦”は成功させなきゃいけないんれす……!」
「命あっての物種だろ!? あいつが何だってんだ!? あいつはただの、“片足のオモチャ”じゃねェか!!」
片足の、ブリキの兵隊──。
それに命を懸ける理由が、ウソップにはわからなかった。
「隊長の大人間だったころの名は、キュロス! 隊長は、コロシアムの歴史上、“最強の剣闘士”なのれす!! 今でも、その記録だけは、この国の誰もが知っている男なのれす!!」
レオが、目に涙を浮かべながら訴える。
彼こそ、おそらく初めてこの国でオモチャにされた人間であり、そして、シュガーから“契約”を言い渡されなかった、唯一、ドフラミンゴに反旗を翻せる男なのだと。
そんな彼に、トンタッタ族は救われたのだと。彼がいなければ、全てのトンタッタ族は奴隷に成り下がっていただろうと。
「隊長の叫びを聞き逃したら、この国はもう、救われないのれす!!」
ウソップは顔を歪める。
ここで“SOP作戦”を中断すれば、死地へと向かったその“最強の剣闘士”は、オモチャのままその力を発揮できずに終わるだろう。
しかし、この状態でどう“SOP作戦”を遂行しろというのか。
シュガーは近づかなければいいかもしれないが、しかしトレーボルは──。
「みんな! シュガーをお願い!!」
そう叫んで、瓦礫の影から飛び出す影があった。
ウタである。
「ん!? 敵だね~っ!!」
ビュッ、とトレーボルの指が動く。
ウタはその動きを見逃さずに、地面を蹴って横へと体を逃がした。
背後の瓦礫に、粘性の物がぶつかる音がする。
確かにその弾速は脅威だろう。
しかし、相手の一挙手一投足を見逃さなければ、その射線はある程度予測がつく。
意識の外から攻撃を仕掛けてくるブルックと比べれば、十分に対処が可能だ。
「────♪」
ウタは『私は最強』を歌い、ウタウタの能力も解禁する。
シュガーとトレーボルを同時に相手するのは無理があるが、トレーボルだけであれば、深入りしなければ“うたの広場”で対処できるはずだ。そう判断しての行動だった。
同時に、歌うのには、二つの意味がある。
一つは、相手の気を引くこと。
この敗戦濃厚な状況の中で、姿を見せて突貫するのは、一見すれば自棄になっているように見えるかもしれない。
だが、それでいい。
トレーボルが目の前の敵に意識を割けば、後ろでシュガーに何が起こっても、ほんの数秒でも反応が遅れるはず。
みんな、というのは、倒れているトンタッタ族へ声をかけたと思わせるミスリード。
ウタとトンタッタ族の印象を強くすれば、ロビンとウソップが動きやすくなる。
ビュン、と飛んできた粘液を、ウタは“指揮杖”を振るい、出現させた音符で弾き飛ばす。
「んん!!?」
「ッ!! こいつ、 “麦わら一味”の能力者だよ!!!」
目を吊り上げて、シュガーが言う。
「んねっ!? モネの言っていた女か!!」
ウタはそれを無視する。応える義理はないし、歌を中断するわけにはいかない。
もう一つの目的は、“鼓舞”すること。
ウタ自身ではない。
ロビンをでもない。
トンタッタ族を、でもない。
遠隔から、敵の口に物を放り込めるのは、狙撃手だろう。
そう。
及び腰になっている、“狙撃の王様”の心を。
トンタッタ族を倒して、こちらの作戦が瓦解したと敵の思っている今こそが、チャンスだ。
彼女の口に、“偽グレープ”を──。
「────♪」
──そう、大丈夫だ。
ウタは確信にも近い感情を抱いていた。
こうなった場合のプランBの打ち合わせはしていないが、しかし、既にウタの考えは、二人に言ってある。
ウソップにはたかれ、ロビンから却下をもらったあの作戦だ。
状況は変わってしまったが、やることは変わらない。
ウタが敵の気を引き、ロビンがシュガーを拘束。そして、ウソップが“偽グレープ”を射撃する。
「んね~っ!!? しぶといね~っ! こりゃ少し本気を……」
ウタの行動を、最後のあがきだと思っているのか、あるいはその力量差に胡坐をかいているのか。
トレーボルは苛立ちこそ見せているが、その余裕は崩さない。
ウタは表情に出さずにほくそ笑む。
見下したいなら、見下せばいい。
見くびりたいなら、見くびればいい。
そのプライドの隙を突いて、トンタッタ族のみんながシュガーを取り押さえて、うちの狙撃手がその口に──。
(………………あれ?)
ウタの歌が止まる。
呆けたように、唖然としたように、ぽかんと口を開けた。
──なんでわたしは、爆発に巻き込まれて満身創痍のトンタッタ族頼りの作戦を、行動に移したんだろう??
「あんたも、邪魔」
不意に、ウタの腰辺りを、小さな手が撫でた。
しまった、と我に返った時にはもう遅い。
油断。
混乱。
隙。
ポン! と軽快な音を立てて、ウタの目線が下がった。
いや、体が小さくなったのだ。
そしてウタは、全てを悟った。
「“契約”よ。“声を出さない“こと、“ファミリーの命りぇ──」
「──!!!」
ウタは咄嗟に身を翻して、自分よりも身の丈が大きくなった少女に向けて、左フックを放つ。
そしてそれは、過たずにシュガーの下顎を捉え──。
ふに──。
しかし、ウタの体はそのパンチの力を、シュガーの体に伝えることができなかった。
ウタの布でできた白い手が、べこりとへこむだけ。
しかし、それは無意味ではなかったようだ。
まさか反撃されると思っていなかったであろうシュガーは、その攻撃に目を開き、思わず舌を噛んでしまった。
シュガーの“契約”を言い渡せるのは、いつまで?
あるいは、それを言い渡せる範囲は、どこまで?
ウタは考えるより早く、さっと踵を返すと、一目散に逃げだした。
布の体に土埃が着くのも厭わず、瓦礫の下を潜り抜け、身を隠す。
(鏡、鏡は──)
近くに、自分の体を見れる物はないかと辺りを見渡すが、どこもかしこも瓦礫だらけだった。
(──失敗した!!)
ウタは苛立ち交じりに、片足を振り上げて、地面を踏みつける。
ふに、と布の体のおかげで、足音は鳴らない。
おそらく、とウタは分析する。
作戦の失敗は、“麦わら一味”か“トンタッタ族”、あるいは“第三の協力者”の誰かが、シュガーにオモチャにされてしまったからだろう。
何故なら、自分が満身創痍で動けるかもわからないトンタッタ族を、作戦に組み込むとは考えられないから。
記憶の齟齬を、その場にいる誰かで埋める際に、トンタッタ族に白羽の矢が立ったのかもしれない。
だからといって、その失敗した人を責めるわけにもいかない。あの年端も行かないような少女の外見は、人の油断を誘う。ウタ自身、シュガーの戦闘力を甘く見ていたのだ。
(──いや、今はそれよりも)
ウタは聞き耳を立てる。
「逃げられちゃったねェ~!」
「あんたがその能力で捕まえればよかったでしょ。死んで」
「おれは死なねーよっ!」
「……喋れなくはしたから、また見つけ次第捕獲して、対応を考えよう。しょせんはオモチャ。私たちの脅威にはならない」
「べっへっへへへ!」
シュガーとトレーボルがそんな会話をした後、トレーボルはスピーカーに繋がる電伝虫の受話器を取って、“交易港”で働く者たちに、すぐに仕事に戻れと命令をした。
……どうやら、もう“契約”を言い渡されることはないらしい。
ウタはほっと胸をなでおろして、次の策を考える。
──まず、今の自分に何がある?
体をぺたぺたと触って確かめる。
手足、そして体の感覚が妙な感じではあるが、どうやら自分は、動物か何かを模した人形、あるいはぬいぐるみになってしまったらしい。
手には指もなく、全体的に布でできているため、柔らかい。
“
唯一固いのは、目と鼻の位置についたボタンと、そして垂れ下がった耳のようなものの中についたスピーカー。そして、頭の横から飛び出た、ゼンマイのツマミである。
(ウソップに任せるしか……)
ウタは内心で歯噛みする。
しかし、ウソップが応えてくれるだろうか。
“花畑”にいた一味の中で、唯一士気の低かったウソップだ。一味がいなければ、そもそもこの作戦に参加していなかった可能性もある。
そんなウソップから、ここにいる一味の記憶を抜いたら?
どうなるかわからない。
事情を説明しに行こうにも、ウタはシュガーと交わさせられた“契約”によって喋れない。
何を、どうすれば──。
「……ンド」
「…………ド……」
「……ラ……」
地面に倒れ伏したトンタッタ族たちが、かぼそい声を上げる。
「ん~~~? んねー、んねー、何か言ってないか!? こいつら」
「ウ……ソ、ラ……ン……ド? ……ああ、さっき言ってた“ウソランド”か」
「ん? んねー、誰それ?」
「だから、さっき言ってた小人の仲間。ばかね、あんた死んで」
「ぶへェーっ! 死ぬかクソガキィ!」
彼らの声は、外れたままの電伝虫の受話器が拾い、“交易港”中に音を響いている。
「ウゾランドォ!!!」
地に倒れ伏すトンタッタ族が、力を振り絞って口々に叫ぶ。
彼は、トンタッタ族のヒーローなんだと。
地下で働くオモチャたちも。
工場で働かされているトンタッタ族の仲間たちも。
地上で心の中で血の涙を流すオモチャたちも。
大切な人を忘れてしまったことにも気が付かない人間たちも。
腐り落ちそうなこの国の、全てを救ってくれる“伝説の英雄”なのだと。
その声も、スピーカーによって“交易港”中に響いていた。
「哀れだなァ、お前ら……! それは全部、ウソだ。お前ら、まァた騙されたんだなァ。べっへっへ!」
せせら笑いながら、トレーボルが言う。
「お前らがこんな状況になっても、助けに来ない! 姿も現さない! それが何よりの証拠だ!! どこにヒーローがいるの!? んねーどこ!!?」
嘲笑して、トレーボルが愉快そうに言う。
そんなトレーボルの様子に、レオが眉を吊り上げて、声を限りに叫んだ。
「黙れ!!! ウソランドはウソなんかつかないれす!!!!」
目に涙を浮かべながら、自分たちの英雄をバカにするなと声を上げる。
「全てを救ってくれると、約束したんれすからね!!! 英雄がぼくらをダマすハズがない!!!」
そうだそうだ、と、体の動かないトンタッタ族たちが、せめてもの抵抗だと口々に叫ぶ。
「これ以上、ウソランドを侮辱したら、ただじゃおかないれすよ!!! おまいら、覚悟しておくれすよ……!! ウソランドが来たら、お前らなんか──ピギャッ」
トレーボルが足を振り上げて、叫ぶレオを踏みつけた。
その反抗が煩わしくなったのか、それとも、さらにトンタッタ族に無力感を植え付けるためか……、あるいは、嗜虐心を満たすためか。
踏みつけられたレオは、白目をむいて、ゲフ、と血の塊を吐き出した。
ウタは瓦礫の隙間から覗いていた目を背けて、その指のない手で耳のあるはずの位置を覆った。
わなわなと震えるのは、恐怖ではなく、怒り。
同時に、今の自分には何もできないという悔しさ。
できること……、できることは──。
ウタはふと、左手に当たる、ゼンマイのツマミのような物のことを思い出した。
腕をそれに引っ掛けて、捩じってみる。
ポロン──♪
音が鳴った。
「? んね~、何か音した?」
「知らない。あんたが踏んだそれの音じゃないの?」
「ベヘヘ! そうだな!! トンタッタの断末魔は『ピギャ』だ!! 面白ェ!」
ドスドスと足を振り下ろすトレーボルへの怒りを覚えながら、ウタは冷静に行動を開始する。
まず、このツマミはオルゴールのツマミだ。
この頭の中に格納されたオルゴールを鳴らすためのツマミが、頭の横から出ているのだろう。そして、音が出てくるのは、動物のたれ耳に付いたスピーカーだ。
この耳がオモチャになる前は、恐らくヘッドフォンだったのだろう。
音を鳴らせるのなら、敵の気を一瞬だけでも引くことができる。
ウタは足音が立たないのをいいことに、瓦礫の影を遠回りしながら、トレーボルとシュガーの後ろへと回り込む。
(……ウソップは、来る)
今となって、ウタはそう確信していた。
あれだけ“約束”に重きを置くブルックと同じ船に乗る仲間だ。
トンタッタ族のその声を聞いて、黙っているはずがない。
それに──
(……やっぱり、ちょっと似てるんだよね)
ウタが脳裏に思い浮かべるのは、かつて自分のいた船に居た、家族の一人
百発百中を豪語するその男。
名は、ヤソップ。
ウソップの実の父親である。
彼も、いつも適当なことを嘯いては、ことが起こると少し及び腰になるクセがあった。
それでも、いざと言う時は、その“適当なこと”を、その機転と射撃の腕で成し遂げて見せる。
そんな男だった。
ウソップとヤソップを同一視するわけじゃない。
しかし、彼の憧れる男が、あの父親であるならば──。
「いい加減にしろお前らァーッッ!!!」
そう。
彼が“勇敢な海の戦士”に憧れているなら、どんな形であれ、ここに現れないわけがないのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
個人的に、ウタの見た目はブルックにあやかって“わんわん”に似た犬っぽいぬいぐるみを想定して書いております(わからない人は“チョー”で検索を)。しかし、ウタのモデルは“ウサギ”らしいため、お好きに想像いただいて結構でございます。私が勝手に言っているだけですので。
感想、評価、お気に入り、ここすき等ありがとうございます。今後とも是非よろしくお願いいたします。