IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

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9.鳥籠-In this Cage-(ドレスローザ8)

 トレーボルの能力によって捕まったレオたちトンタッタ族。

 彼らはトレーボルから、まだ仲間がいるだろうと問い詰められていた。

 最初は言わないと頑なだったトンタッタ族だったが、トレーボルが自分はその仲間と友達だ、と嘘を言うと、その純真さからポロリと情報を漏らしてしまう。

 その後もそんな質問が続くも、ロビンとウタは、トンタッタ族たちが人質同然の状況になってしまっているため、ヘタに行動はできない。そんな状況で、ウソップは逃走を提案する。

 

「そんなのバレたところで、お前たちは終わりれす!!! 仲間たちは返してもらう!!!」

 

 騙されても心折れず、勇ましく叫んだレオに、トレーボルが口角を上げて言う。

 

「その“ベタベタ”は……、可燃性なのだ……!」

 

 言うや否や、トレーボルはどこからか取り出した火種を、レオたちを捕まえる“ベタベタ”に投げた──。

 ボン!!!!

 赤い炎が、それに触れる寸前、気化した“ベタベタ”に引火した。

 一瞬で炎は広がり、それは爆発となって、崩れかけた幹部塔を瓦礫の山へと変えてしまう。

 爆発の中心にいたトンタッタ族たちが、口々に悲鳴を上げて、吹き飛ばされる。

 ある者は、瓦礫の下敷きに。

 またある者は、瓦礫に体を打ち付け。

 爆風が過ぎ去った後、トンタッタ族で立っている者は居なかった。

 いや、生存者が多いことの方が驚きだろう。

 それだけ、トンタッタ族の体が頑丈ということか。

 しかし──。

 

「おい、レオ!!」

 

 ウソップが、瓦礫の隙間に横たわる、小さな緑の帽子を見つけて声をかける。

 

「逃げよ……いや、お前ら逃げろ! トレーボルには敵わねェ!」

 

 ゲホゲホと、血の混じった咳をして、レオがかすれ声で言う。

 

「そうはいかないれす……。この国を変えるためには、隊長が、ドフラミンゴを討たないと……。そのために、“SOP作戦”は成功させなきゃいけないんれす……!」

「命あっての物種だろ!? あいつが何だってんだ!? あいつはただの、“片足のオモチャ”じゃねェか!!」

 

 片足の、ブリキの兵隊──。

 それに命を懸ける理由が、ウソップにはわからなかった。

 

「隊長の大人間だったころの名は、キュロス! 隊長は、コロシアムの歴史上、“最強の剣闘士”なのれす!! 今でも、その記録だけは、この国の誰もが知っている男なのれす!!」

 

 レオが、目に涙を浮かべながら訴える。

 彼こそ、おそらく初めてこの国でオモチャにされた人間であり、そして、シュガーから“契約”を言い渡されなかった、唯一、ドフラミンゴに反旗を翻せる男なのだと。

 そんな彼に、トンタッタ族は救われたのだと。彼がいなければ、全てのトンタッタ族は奴隷に成り下がっていただろうと。

 

「隊長の叫びを聞き逃したら、この国はもう、救われないのれす!!」

 

 ウソップは顔を歪める。

 ここで“SOP作戦”を中断すれば、死地へと向かったその“最強の剣闘士”は、オモチャのままその力を発揮できずに終わるだろう。

 しかし、この状態でどう“SOP作戦”を遂行しろというのか。

 シュガーは近づかなければいいかもしれないが、しかしトレーボルは──。

 

「みんな! シュガーをお願い!!」

 

 そう叫んで、瓦礫の影から飛び出す影があった。

 ウタである。

 

「ん!? 敵だね~っ!!」

 

 ビュッ、とトレーボルの指が動く。

 ウタはその動きを見逃さずに、地面を蹴って横へと体を逃がした。

 背後の瓦礫に、粘性の物がぶつかる音がする。

 確かにその弾速は脅威だろう。

 しかし、相手の一挙手一投足を見逃さなければ、その射線はある程度予測がつく。

 意識の外から攻撃を仕掛けてくるブルックと比べれば、十分に対処が可能だ。

 

 

────♪

 

 

 ウタは『私は最強』を歌い、ウタウタの能力も解禁する。

 シュガーとトレーボルを同時に相手するのは無理があるが、トレーボルだけであれば、深入りしなければ“うたの広場”で対処できるはずだ。そう判断しての行動だった。

 同時に、歌うのには、二つの意味がある。

 一つは、相手の気を引くこと。

 この敗戦濃厚な状況の中で、姿を見せて突貫するのは、一見すれば自棄になっているように見えるかもしれない。

 だが、それでいい。

 トレーボルが目の前の敵に意識を割けば、後ろでシュガーに何が起こっても、ほんの数秒でも反応が遅れるはず。

 みんな、というのは、倒れているトンタッタ族へ声をかけたと思わせるミスリード。

 ウタとトンタッタ族の印象を強くすれば、ロビンとウソップが動きやすくなる。

 ビュン、と飛んできた粘液を、ウタは“指揮杖”を振るい、出現させた音符で弾き飛ばす。

「んん!!?」

「ッ!! こいつ、 “麦わら一味”の能力者だよ!!!」

 目を吊り上げて、シュガーが言う。

「んねっ!? モネの言っていた女か!!」

 ウタはそれを無視する。応える義理はないし、歌を中断するわけにはいかない。

 もう一つの目的は、“鼓舞”すること。

 ウタ自身ではない。

 ロビンをでもない。

 トンタッタ族を、でもない。

 遠隔から、敵の口に物を放り込めるのは、狙撃手だろう。

 そう。

 及び腰になっている、“狙撃の王様”の心を。

 トンタッタ族を倒して、こちらの作戦が瓦解したと敵の思っている今こそが、チャンスだ。

 彼女の口に、“偽グレープ”を──。

 

 

────♪

 

 

 ──そう、大丈夫だ。

 ウタは確信にも近い感情を抱いていた。

 こうなった場合のプランBの打ち合わせはしていないが、しかし、既にウタの考えは、二人に言ってある。

 ウソップにはたかれ、ロビンから却下をもらったあの作戦だ。

 状況は変わってしまったが、やることは変わらない。

 ウタが敵の気を引き、ロビンがシュガーを拘束。そして、ウソップが“偽グレープ”を射撃する。

 

「んね~っ!!? しぶといね~っ! こりゃ少し本気を……」

 

 ウタの行動を、最後のあがきだと思っているのか、あるいはその力量差に胡坐をかいているのか。

 トレーボルは苛立ちこそ見せているが、その余裕は崩さない。

 ウタは表情に出さずにほくそ笑む。

 見下したいなら、見下せばいい。

 見くびりたいなら、見くびればいい。

 そのプライドの隙を突いて、トンタッタ族のみんながシュガーを取り押さえて、うちの狙撃手がその口に──。

 

(………………あれ?)

 

 ウタの歌が止まる。

 呆けたように、唖然としたように、ぽかんと口を開けた。

 ──なんでわたしは、爆発に巻き込まれて満身創痍のトンタッタ族頼りの作戦を、行動に移したんだろう??

 

「あんたも、邪魔」

 

 不意に、ウタの腰辺りを、小さな手が撫でた。

 しまった、と我に返った時にはもう遅い。

 油断。 

 混乱。

 隙。

 ポン! と軽快な音を立てて、ウタの目線が下がった。

 いや、体が小さくなったのだ。

 そしてウタは、全てを悟った。

 

「“契約”よ。“声を出さない“こと、“ファミリーの命りぇ──」

「──!!!」

 

 ウタは咄嗟に身を翻して、自分よりも身の丈が大きくなった少女に向けて、左フックを放つ。

 そしてそれは、過たずにシュガーの下顎を捉え──。

 ふに──。

 しかし、ウタの体はそのパンチの力を、シュガーの体に伝えることができなかった。

 ウタの布でできた白い手が、べこりとへこむだけ。

 しかし、それは無意味ではなかったようだ。

 まさか反撃されると思っていなかったであろうシュガーは、その攻撃に目を開き、思わず舌を噛んでしまった。

 シュガーの“契約”を言い渡せるのは、いつまで?

 あるいは、それを言い渡せる範囲は、どこまで?

 ウタは考えるより早く、さっと踵を返すと、一目散に逃げだした。

 布の体に土埃が着くのも厭わず、瓦礫の下を潜り抜け、身を隠す。

 

(鏡、鏡は──)

 

 近くに、自分の体を見れる物はないかと辺りを見渡すが、どこもかしこも瓦礫だらけだった。

 

(──失敗した!!)

 

 ウタは苛立ち交じりに、片足を振り上げて、地面を踏みつける。

 ふに、と布の体のおかげで、足音は鳴らない。

 おそらく、とウタは分析する。

 作戦の失敗は、“麦わら一味”か“トンタッタ族”、あるいは“第三の協力者”の誰かが、シュガーにオモチャにされてしまったからだろう。

 何故なら、自分が満身創痍で動けるかもわからないトンタッタ族を、作戦に組み込むとは考えられないから。

 記憶の齟齬を、その場にいる誰かで埋める際に、トンタッタ族に白羽の矢が立ったのかもしれない。

 だからといって、その失敗した人を責めるわけにもいかない。あの年端も行かないような少女の外見は、人の油断を誘う。ウタ自身、シュガーの戦闘力を甘く見ていたのだ。

 

(──いや、今はそれよりも)

 

 ウタは聞き耳を立てる。

 

「逃げられちゃったねェ~!」

「あんたがその能力で捕まえればよかったでしょ。死んで」

「おれは死なねーよっ!」

「……喋れなくはしたから、また見つけ次第捕獲して、対応を考えよう。しょせんはオモチャ。私たちの脅威にはならない」

「べっへっへへへ!」

 

 シュガーとトレーボルがそんな会話をした後、トレーボルはスピーカーに繋がる電伝虫の受話器を取って、“交易港”で働く者たちに、すぐに仕事に戻れと命令をした。

 ……どうやら、もう“契約”を言い渡されることはないらしい。

 ウタはほっと胸をなでおろして、次の策を考える。

 ──まず、今の自分に何がある?

 体をぺたぺたと触って確かめる。

 手足、そして体の感覚が妙な感じではあるが、どうやら自分は、動物か何かを模した人形、あるいはぬいぐるみになってしまったらしい。

 手には指もなく、全体的に布でできているため、柔らかい。

 “指揮杖(ブラノカーナ)”はどこかに落としたのか、あるいはオモチャとして自分の体のどこかにあるのか。少なくとも、取り出せる位置にはない。

 唯一固いのは、目と鼻の位置についたボタンと、そして垂れ下がった耳のようなものの中についたスピーカー。そして、頭の横から飛び出た、ゼンマイのツマミである。

 

(ウソップに任せるしか……)

 

 ウタは内心で歯噛みする。

 しかし、ウソップが応えてくれるだろうか。

 “花畑”にいた一味の中で、唯一士気の低かったウソップだ。一味がいなければ、そもそもこの作戦に参加していなかった可能性もある。

 そんなウソップから、ここにいる一味の記憶を抜いたら?

 どうなるかわからない。

 事情を説明しに行こうにも、ウタはシュガーと交わさせられた“契約”によって喋れない。

 何を、どうすれば──。

 

「……ンド」

「…………ド……」

「……ラ……」

 

 地面に倒れ伏したトンタッタ族たちが、かぼそい声を上げる。

 

「ん~~~? んねー、んねー、何か言ってないか!? こいつら」

「ウ……ソ、ラ……ン……ド? ……ああ、さっき言ってた“ウソランド”か」

「ん? んねー、誰それ?」

「だから、さっき言ってた小人の仲間。ばかね、あんた死んで」

「ぶへェーっ! 死ぬかクソガキィ!」

 

 彼らの声は、外れたままの電伝虫の受話器が拾い、“交易港”中に音を響いている。

 

「ウゾランドォ!!!」

 

 地に倒れ伏すトンタッタ族が、力を振り絞って口々に叫ぶ。

 彼は、トンタッタ族のヒーローなんだと。

 地下で働くオモチャたちも。

 工場で働かされているトンタッタ族の仲間たちも。

 地上で心の中で血の涙を流すオモチャたちも。

 大切な人を忘れてしまったことにも気が付かない人間たちも。

 腐り落ちそうなこの国の、全てを救ってくれる“伝説の英雄”なのだと。

 その声も、スピーカーによって“交易港”中に響いていた。

 

「哀れだなァ、お前ら……! それは全部、ウソだ。お前ら、まァた騙されたんだなァ。べっへっへ!」

 

 せせら笑いながら、トレーボルが言う。

 

「お前らがこんな状況になっても、助けに来ない! 姿も現さない! それが何よりの証拠だ!! どこにヒーローがいるの!? んねーどこ!!?」

 

 嘲笑して、トレーボルが愉快そうに言う。

 そんなトレーボルの様子に、レオが眉を吊り上げて、声を限りに叫んだ。

 

「黙れ!!! ウソランドはウソなんかつかないれす!!!!」

 

 目に涙を浮かべながら、自分たちの英雄をバカにするなと声を上げる。

 

「全てを救ってくれると、約束したんれすからね!!! 英雄がぼくらをダマすハズがない!!!」

 

 そうだそうだ、と、体の動かないトンタッタ族たちが、せめてもの抵抗だと口々に叫ぶ。

 

「これ以上、ウソランドを侮辱したら、ただじゃおかないれすよ!!! おまいら、覚悟しておくれすよ……!! ウソランドが来たら、お前らなんか──ピギャッ」

 

 トレーボルが足を振り上げて、叫ぶレオを踏みつけた。

 その反抗が煩わしくなったのか、それとも、さらにトンタッタ族に無力感を植え付けるためか……、あるいは、嗜虐心を満たすためか。

 踏みつけられたレオは、白目をむいて、ゲフ、と血の塊を吐き出した。

 ウタは瓦礫の隙間から覗いていた目を背けて、その指のない手で耳のあるはずの位置を覆った。

 わなわなと震えるのは、恐怖ではなく、怒り。

 同時に、今の自分には何もできないという悔しさ。

 できること……、できることは──。

 ウタはふと、左手に当たる、ゼンマイのツマミのような物のことを思い出した。

 腕をそれに引っ掛けて、捩じってみる。

 ポロン──♪

 音が鳴った。

 

「? んね~、何か音した?」

「知らない。あんたが踏んだそれの音じゃないの?」

「ベヘヘ! そうだな!! トンタッタの断末魔は『ピギャ』だ!! 面白ェ!」

 

 ドスドスと足を振り下ろすトレーボルへの怒りを覚えながら、ウタは冷静に行動を開始する。

 まず、このツマミはオルゴールのツマミだ。

 この頭の中に格納されたオルゴールを鳴らすためのツマミが、頭の横から出ているのだろう。そして、音が出てくるのは、動物のたれ耳に付いたスピーカーだ。

 この耳がオモチャになる前は、恐らくヘッドフォンだったのだろう。

 音を鳴らせるのなら、敵の気を一瞬だけでも引くことができる。

 ウタは足音が立たないのをいいことに、瓦礫の影を遠回りしながら、トレーボルとシュガーの後ろへと回り込む。

 

(……ウソップは、来る)

 

 今となって、ウタはそう確信していた。

 あれだけ“約束”に重きを置くブルックと同じ船に乗る仲間だ。

 トンタッタ族のその声を聞いて、黙っているはずがない。

 それに──

 

(……やっぱり、ちょっと似てるんだよね)

 

 ウタが脳裏に思い浮かべるのは、かつて自分のいた船に居た、家族の一人

 百発百中を豪語するその男。

 名は、ヤソップ。

 ウソップの実の父親である。

 彼も、いつも適当なことを嘯いては、ことが起こると少し及び腰になるクセがあった。

 それでも、いざと言う時は、その“適当なこと”を、その機転と射撃の腕で成し遂げて見せる。

 そんな男だった。

 ウソップとヤソップを同一視するわけじゃない。

 しかし、彼の憧れる男が、あの父親であるならば──。

 

「いい加減にしろお前らァーッッ!!!」

 

 そう。

 彼が“勇敢な海の戦士”に憧れているなら、どんな形であれ、ここに現れないわけがないのである。

 




いつもお読みいただきありがとうございます。

個人的に、ウタの見た目はブルックにあやかって“わんわん”に似た犬っぽいぬいぐるみを想定して書いております(わからない人は“チョー”で検索を)。しかし、ウタのモデルは“ウサギ”らしいため、お好きに想像いただいて結構でございます。私が勝手に言っているだけですので。

感想、評価、お気に入り、ここすき等ありがとうございます。今後とも是非よろしくお願いいたします。
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