IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

48 / 84
10.鳥籠-In this Cage-(ドレスローザ9)

 

「お前ら一体どこまでおれを信じるんだ!!!」

 

 それが、姿を現したウソップの第一声だった。

 自分はずっと嘘を吐いていたのだと。

 ずっとトンタッタ族を騙していたのだと。

 ウソップは険しい表情で叫ぶ。

 

「おれは伝説のヒーローでもねェし!! “ウソランド”なんて名前でもねェ!!!」

 

 そして、ウソップは、自らの名前を声高に叫ぶ。

 

「泣く子も黙る“麦わら一味”の“狙撃手”!!! 名前は“ウソップ”!!! 海賊だァ!!!」

 

 それを聞いた、ボロボロの小人たちは涙をこぼす。

 トンタッタ族のレオが、掠れて震える声で、訊いた。

 

「何で……そんなことを言うのれすか……? 海賊だけど、でも……ヒーローなんれしょう……?」

 

 違う、とウソップはそれを断固否定する。

 海賊は海賊。

 まだ、何もなしていない者がヒーローなものか。

 

「何度も言わせるな!! おれはお前らを騙していたんだよ!!! ──それをいつまでもしつこく信じやがって……!!!」

 

 それを聞いたトレーボルが、大口を開けて笑う。

 

「──じゃあお前、“ウソ”とわざわざ教えに来たのか!? べへへへ!!」

 

 馬鹿な男がいたものだと、トレーボルは嘲笑する。

 そうだ、とウソップは静かに言った。

 

「そうでもしねェと、コイツら死ぬまでおれを待つからな。そんな真似されるより、おれを信じてくれたお礼によ……、命の一つでも懸ける方が格好がつくってもんだろう!?」

 

 ギリ、と取り出したパチンコ──“黒カブト”を構えて、ウソップは勇ましく叫ぶ。

 

「おれの名はウソップ!!! 今からおれが、お前たちの“伝説のヒーロー”になってやる!!!」

 

 嘲笑を辞めずに、自棄だと断定をして、トレーボルが言う。

 ウソップは反論も何もせず、喰らえ、と戦闘を開始する。

 

「“必殺緑星・プラタナス手裏剣”!!!」

 

 ボーイン列島原産のその植物(ポップグリーン)は、放たれるとプラタナスの形をした鋭い葉っぱとなり、対象を斬り裂く弾丸だ。

 

「うっ!?」

 

 それはウソップの射撃の腕もあり、トレーボルの胴体を斬り裂いた──ように見えた。

 

「…………なーんちって!! べへっへへへ!」

 

 確かに体が斬り裂かれたはずのトレーボルだが、出血する気配もない。

 クソ、とウソップは歯噛みしながら、次の手を探す。

 

「──“必殺・超煙星”!!」

 

 トレーボルの指が動いたのを見て、ウソップは咄嗟に煙幕を張る。

 トンタッタ族が、“ウソランド”の名を呼ぶ。

 “SOP作戦”の成否は、ウソップの双肩にかかっていた。

 戦闘は、まだ始まったばかりだ──。

────

 

 

 

(──どうなったの!? ウソップは!?)

 

 ウタは煙幕の中、瓦礫の隙間を進み、左腕でゼンマイのツマミを回しながら、戦況に耳をそばだてる。

 勝負が始まって最初の頃は、ウソップの掛け声や悲鳴が幾度も聞こえて来ていたが、それも聞こえなくなって久しい。そして、十数秒ほど前に鳴った爆発音を最後に、あれだけ派手に鳴り響いていた戦闘音は、ほぼなくなってしまっていた。

 ただ、トレーボルの「べへへ」という笑い声と、そして粘液の音がひたすら聞こえるのみである。

 一度隠れて、再び強襲するつもりなら、いい。

 ただ、ウタの脳裏に浮かぶのは、最悪の事態──。

 

「ウソランド!!」

「ウッソランド!!」

「ウソランドォ!!」

 

 トンタッタ族の応援の声が、涙の色を帯びているのも、余計にその想像に拍車をかけた。

 

(──無事でいて!)

 

 ウソップの“超煙星”によって張られた煙幕も、徐々に晴れてくる。

 ウタがようやく瓦礫の隙間を抜け、トレーボルとシュガーの背後までたどり着いた時、不意に電伝虫の鳴る音が聞こえた。

 ガチャ、と受話器の取る音が鳴ったかと思うと、すぐさま電伝虫が通話先の相手の声を流す。

 

『トレーボル! 早くシュガーを王宮へ!!』

 

 ウタは、その男の声に聞き覚えがあった。

 今日だ。

 サニー号の上で、交渉をした相手。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 ウタは、体の芯が泡立つような、そんな不安に襲われる。

 ドフラミンゴからの電伝虫を取ったということは──。

 

「大丈夫だドフィ~! 万が一の事態も起きやしねェよ~!」

 

 ウタは瓦礫の影から顔を出して、敵の方を見遣った。

 そこには、特に大きなけがをしたようにも見えない、シュガーとトレーボル。

 そして、どこからどう見ても重傷であり、膝をついた格好で、トレーボルの粘液に拘束されたウソップの姿があった。

 

「安心して、若! 敵はもう、意識さえない……!」

 

 シュガーが、静かに勝利宣言をする。

 ウタは歯噛みした。

 それはそうだろう。

 ウソップの役割は“狙撃手”だ。

 こんなに近い距離で戦えば、幾ら煙幕を出そうが、策を練ろうが、狙撃手である彼は、その距離で戦う戦闘員に対して不利なことは明確だ。

 敵がそれほど強くなければ通用するだろうが、しかし、敵は海賊の中でも一目置かれる“王下七武海”の幹部である。

 自分の不利な土俵で戦ったのなら、一矢報いることができれば、御の字だといっても過言ではないだろう。

 それでも──。

 ウタは、少しだけほっとしていた。

 想像した最悪の一歩手前だが、まだ最悪じゃない。

 ウソップはまだ、生きているのだから。

 しかし、それでも──。

 

(どうすれば、ウソップを救い出せる?)

 

 その手段を見つけられなければ、状況は刻一刻と悪くなるだけだ。

 これ、と言ってシュガーが、左手につまんだ紫色の玉を、ウソップの眼前に掲げて言った。

 

「さっきのトンタッタたちもあなたも、これを執拗に食べさせようとしてきたわね。……まったく、ひどい匂い。こんな毒入りのグレープなんて、誰が食べると思う?」

 

 冷ややかに言った後に、シュガーはウソップの顎を掴んで、口を開かせた。

 目には目を。

 歯には歯を。

 毒殺しようとしたのなら、自らがその毒によって死ねと。

 そういう意図の行為なのだろう。

 良かった、とウタは胸をなでおろす。

 何故なら、それは毒ではない。

 ただ、ただ辛いだけの刺激物。

 あまりの辛さと痛みに意識を失いこそすれ、それを食べたからといって、死に至るようなものではない。

 ──本当に?

 ウタが生身の体を持っていたら、さっと顔が青ざめていただろう。

 確かに、健康体の体なら、命を落とすことはないだろう。

 だが、今のウソップは──。

 

(なんとかして、止めないと──)

 

 あんな状態の人間が、劇物を摂取したら、ショック死してもおかしくはない。

 しかし……どうする?

 この人形の体で、何ができる?

 音を立てたところで、ほんの一時、敵の意識をこちらに向けさせることができるだけ。

 ──その先は?

 もしかしたら、音によってウソップが意識を取り戻すかもしれない。

 しかし、ウソップが起きたところで、拘束されて手も使えなければ、何をどうすることもできないだろう。

 そしてもう、それの答えを出しているだけの猶予はなかった。

 

「あんたが食べて……」

 

 シュガーがそう言って、ウソップの口に“偽グレープ”を押し込んだ。

 

「死になさい」

 

 とん、とシュガーがウソップの顎を押して、首を上に向かせ、自然とそのグレープが喉の奥へと落ちるようにする。

 

(あ──)

 

 待って、とも。

 やめて、とも。

 ウタのオモチャの体は言葉を出すことすら許されない。

 ただ呆然と、そちらへ手を伸ばすことができるだけ。

 その腹の底が抜け落ちてしまったような脱力感と、これから起こるかもしれないことの恐怖で、ウタの左腕が滑った。

 

 

 ギ──

 

 

 錆び付いた鉄の棒が、擦れるような音がした。

 次の瞬間、ウタの耳に付いたスピーカーから、大音量の不協和音が鳴り響いた。

 ギャンギャンと鳴る、人の不安をかき立てるその音楽は、ウタの心の不安を奏でたものか、それとも、彼女をこんな姿にした能力の歪さを表したものか。

 『Tot Musica』に少しだけ曲調の似た、そのおどろおどろしい音色に、不意に襲われたシュガーが血相を変えて口を抑える。

 ぎゃあ

 口から飛び出そうになった心臓を、シュガーは必死に抑えつける。

 と──

 

「ぎィやああああああああああああッッッ!!!」

 

 シュガーの目の前で、“偽グレープ”の辛さに中てられたウソップが、目玉が飛び出んばかりに目をかっと見開き、顔の穴と言う穴から体液を巻き散らしながら絶叫した。

 

「きゃあああああっ!!!?!」

 

 飲み込みかけた絶叫が、今度はさらに強い悲鳴となって、シュガーの口から飛び出した。

 一度暴れ始めた心臓は制御が効かないようで、涙を流しながら叫んだシュガーの体が、ぐらりと後ろへ傾いた。

 

「おいシュガー!! 気をしっかり持てェ!!!」

 

 今日一番焦ったように、トレーボルが叫ぶ。

 

「シュガー!! おい!! シュガーっ!!!」

 

 だが、そのトレーボルの声も空しく、シュガーは泡を吹いて気絶した。

 まさかの玉つき事故に、ウタがぽかんと口を開けていた。

 

「…………ん? あれ!?」

 

 地下のひんやりした空気を感じて、ウタは慌てて自分の手を見る。

 戻っている。

 人間の体だ。

 左腕にはいつものアームカバーがある。

 ぺたぺたと自分の体を触ってみれば、手にも体にも、肌を触る感触がある。

 

「すまねェドフィ~~!!! シュガーが気絶しちまったァ~~!!!」

『──おい、何の冗談だ!!!』

 

 焦ったようにドフラミンゴと通話するトレーボルの声を聞き、ウタは我に返る。

 まだ、“SOP作戦”が成功しただけ。

 戦闘が終わったわけではない。

 ウタは足下に落ちた“指揮杖(ブラノカーナ)”を拾い上げると、未だ電伝虫に語り掛けるトレーボルに跳びかかった。

 

「くそっ!! こっちはお前らに構ってる暇はないんだ!!」

 

 悪態を吐きながらさっと身を翻して、トレーボルはウタの一撃を躱すと、そのままシュガーを抱えて遁走した。

 逃がしてしまったのは痛いが、今はそれよりも、敵をこの場から追い払えただけでも御の字だ。

 あちこちから聞こえる、戻れた、という声や、ドフラミンゴに対する怨嗟の声と怒りに燃える鬨の声。

 

「ウソップしっかり!!」

 

 それに混じって、ウタの耳に、忘れてしまっていた彼女の声が飛び込んできた。

 

「ロビン! ウソップ! 大丈夫!?」

 

 ウタは、体を満足に起こすこともできないウソップと、彼の背中を抱えるロビンのもとへ駆け寄った。

 

「私は無事よ! ウソップは見ての通り……! ウタ、あなたは!?」

 

 ロビンが顔を上げてウタの方を見る。

 ウタは「わたしは大丈夫」と頷いた。

 

「…………お……、お前ら、無、事だった……か……」

「ウソップ!!」

「無理にしゃべらなくていいから!!」

 

 かすれた声を上げたウソップに、ロビンとウタが声をかける。

 そうしているうちに、ウソップ同様に満身創痍のトンタッタ族たちが、ウソップの周りに集まってきた。

 皆、一様にしてボロボロと涙を流している。

 

「ウソランド! そんな傷づいて……! ぼぐらの為に──」

 

 涙ながらに、トンタッタ族たちが、お礼を言う。

 ウソランドは、紛れもなくトンタッタ族のヒーローであると讃え、銅像を建てることを約束すると。

 ウソップは震える手で親指を立てると、聞き取りづらい声で、「戦いはこれからだ。後は仲間に頼れ」という趣旨のことを言った。

 すると──

 

「おい、こいつをちょっと借りるぞ」

 

 不意に落ちてきた影と声に、ウタとロビンが後ろを振り返る。

 

「でかっ!?」

「巨人族」

「うわー! ウソランドー!!」

 

 二人とそしてトンタッタ族たちが驚いている隙に、ぬっと伸びて来た大きな手が、ウソップの体を掴んで持ち上げた。

 咄嗟にウタは臨戦態勢に入って、そしてすぐに首を傾げた。

 どうにも敵意が見えない。

 ロビンもウタと同じく、いつでも動けるように腕を胸の前で交差させ、しかし能力は使っていない。

 そして、敵意のない理由は、その巨人族の低い呟きからすぐに分かった。

 

「…………こんなにボロボロになってまでおれたちを──!」

 

 彼もおそらく、オモチャになっていたのだろう。

 そして、ウソップがシュガーを気絶させたおかげで助かった一人なのだ。

 

「……十年以上オモチャにされていた奴もいたと聞く。下手をすれば、一生奴隷として生きるところだった。命を拾った思いだ……!」

 

 震える声で呟いたその巨人は、地下にひしめく“元オモチャ”の海賊や戦士たちへ、自分たちを救った恩人を──英雄を掲げ、その名を称える。

 

「見ろ戦士たち!! この男こそ!! おれたちの呪いを解いた英雄!! その名も──、海賊(キャプテン)ウソップだァー!!!」

 

 歓声が上がると同時に、地上での混乱が故か、はたまた地下での歓声による崩落か。

 暗い地下港の天井が崩れ、空から日の光が差し込んだ。

 誰かが呟く。

 この男、天の使いだとでもいうのか……?

 と。

 




いつもお読みいただきありがとうございます。

ウソップは“ゴッド”に成らないといけないので、シュガー戦のウタは、よりシュガーの気絶に説得力を持たせる役割を担っていただきました。ホラー映画とかホラーゲームとかを見るに、音ってかなり恐怖をかき立てると思うのです。

感想や評価、お気に入り、しおり、ここすき等ありがとうございます。大変励みになります。また続きを書けるといいな……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。