IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

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12.鳥籠-In this Cage-(ドレスローザ11)

 ドレスローザ、地下“交易港”──。

 

「おい、ここに五つ星がいるぞ!!!」

「星四つもだ!!」

「一つと三つもいるぜ!!」

 

 興奮したように目を血走らせ、そのように叫ぶ海賊たち。その視線の先──、通路の影には、複数人の人影があった。

 “麦わら一味”より、ウソップ、ロビン、ウタ。そして同行者の錦えもん。

 “革命軍”よりコアラ、サボ、ハック。

 ドレスローザからは、レオをはじめとするトンタッタ族と。そして──。

 

「……、あ、私も……?」

 

 賞金首となったことに、呆然とする、桃色の髪の少女がいた。

 ウタたちからは、革命軍の面々の陰に隠れて見えていなかった。それだけ小柄な体躯の少女だった。

 

「あ!」

 

 彼女の姿を見たウタが、声を上げる。

 ウタは、そしてロビンも、その少女の姿に見覚えがあったのだ。

 剣闘士レベッカ。

 リク王の孫にして、国民から絶大な反感を買っており、闘技場にて罵詈雑言を投げつけられていた少女。そして、ルフィが『メシを奢ってくれた良い奴』と評した、ブリキの兵隊の娘。

 つまり、ドフラミンゴはこの国に仇為した者と、そして王家を葬り去り、また新たなドレスローザを作るつもりなのだろうか。

 ウタは眉を顰めた。

 

「サボ君、どうする?」

 

 左拳を軽く握り、戦闘態勢に入ったコアラが、言う。

 すぐさまサボは、“工場”の地盤が隆起したことによってできた、地上へと続く道を指差した。

 

「地上へ出るぞ! 全員急げ!!」

 

 ウタはしゃがみこんで、トンタッタ族に声をかける。

 

「みんな! ウソップを運べる!?」

「了解れすっ!!」

 

 トンタッタ族たちは口々にそういうと、満身創痍のウソップを持ち上げて駆けだした。

 体を運ばれる振動などで、ウソップが「ぐふっ」などと悲鳴を上げているが、だからといってこの場を離れないわけにはいかない。

 

「さっぎまで、おれを崇めでいだグセにィ!!」

 

 涙声でウソップが言う。

 信仰よりも、金。

 ──全く大海賊時代にふさわしい価値観だ。

 ウタは内心ため息を吐いた。

 だが、今はまず──。

 

「行こう!!」

 

 ウタは呆然とするレベッカの手首を右手で掴んで、地上へ向けて走り出した。

 

「ロビン! 外へ出たらどうする!?」

「……まず、彼女の安全の確保が最優先でしょう。サニー号があれば、そこに匿って外海で待機するのも手だったけど」

 

 ウタたちと並走するロビンが言う。

 ウタは空いている方の手で頭をガシガシと掻いた。

 サニー号はビッグマム海賊団との海戦を繰り広げながら、先に“ゾウ”へと向かってしまっている。

 

「タイミング悪い!」

「毒づいても仕方ないわ。──じゃあ、今このドレスローザで一番安全な所は?」

「ない!!」

 

 怒り顔で即答したウタに、ロビンは思わず苦笑を漏らす。

 確かに絶対安全な所はないけど、とロビンが言った。

 

「現状、国民や他の海賊たちがどう動くかなんてわからない。でも、賞金を懸けられた者同士なら、寝首をかくこともないでしょう?」

「……じゃ、まずはルフィたちと合流しないと。兵隊さんも心配」

 

 兵隊さん、という単語を聞いて、ウタの右手が掴んだレベッカの腕が、びくりと震えた。

 ウタが振り返ると、レベッカの顔色が悪い。

 いろいろと考えているのだろう。

 難しい、不安そうな顔をして、心ここにあらずという様子。

 それを見て、ウタはようやく思い出した。

 ウタは、ブリキの兵隊がレベッカの父親だと聞いている。本人から直接聞いたからだ。しかし、レベッカは?

 あの時の彼の口ぶりだと、恐らく彼女に自分が父親であると言うことは告げていないのだろう。伝えたとしても、レベッカは信じなかったはずだ。それが、ホビホビの能力だから。

 ということは──。

 

「“バーリア”ッ!!!」

 

 不意に後ろから聞こえた声は、先ほど勘定し忘れた、緑のトサカ髪の男──、人呼んで“人食いのバルトロメオ”。

 彼がそのバリバリの実の能力で、ウタたち賞金首を狙う海賊たちが、地上への道を使えないように通せんぼする。

 

「へはは! 先輩方の後を追うんじゃねェべ!!」

「ニワトリ君、ナイス!」

 

 ロビンが軽く後ろを振り返って、声を上げる。

 すると──

 プルルルルル……!!

 

「んっ!?」

 

 ウタの服から、電伝虫の鳴る音がした。

 

「ウタ、貸して」

「あ、うん」

 

 ロビンの声に、ウタは取り出した電伝虫を渡す。

 どうやら電伝虫の表情を見るに、その相手は……

 

「もしもし、ゾロ?」

『あァ』

 

 低い声が返事をする。

 ちょうどよかった、とロビンが走りながら言う。

 

『あァ?』

「こっちから連絡しようと思った所。今どこ? ルフィたちは一緒?」

『ルフィとは合流してる。けが人はいるが、全員無事だ。……そっちは?』

「ウソップが大怪我したけど、何とか無事。フランキーだけ別行動だけど」

 

 それを聞いたゾロが、電伝虫越しに『あいつは大丈夫だろ』と言う。

 

『……にしても、厄介なことになったな』

 

 溜め息交じりのその声に、ウタが

 

「厄介なこと?」

 

 と尋ねる。

 

『? お前ら、今どこにいる?』

「地下! 今地上に向かってる所」

『そうか。……地上に出りゃ分かる。見た方が早ェだろ』

「ちょっとゾロ、それってどういう……!?」

 

 不意に、ウタの少し前を走っていたロビンが、立ち止まった。

 ロビンの目線を追い、ウタもそちらを見遣る。

 地上の、空だ。

 ドレスローザの中心の上空から、放射線状に、(ワイヤー)のような物が伸びている。

 それはまるで、鳥籠のようにこの国をすっぽりと包み込んでいた。

 ──この国から、何人たりとも逃がすことはない。

 そういう意思を、ひしひしと感じる光景だった。

 ガガ、とドレスローザのスピーカーが再び音を立てる。

 

『この“鳥カゴ”からは、誰も逃れられない。外への通信は効かず、暴れ出した隣人は、人を傷つけ続けるだろう。──それが、家族であれ、友人であれ』

「──とりあえず地上へ!」

「……そうだね」

 

 我に返ったロビンの声に、ウタが低い声で頷いて、再び駆けだした。

 フッフッフ、とドフラミンゴの声が響く。

 

『逃げても隠れても、この“カゴ”の中に安全はない!! そして恐怖は幾日も続く!! フッフッフフッフ!! さあ、もうゲームは始まっているぞ!!』

 

 ブツ、と音を立てて、スピーカーが再び沈黙する。

 やや沈黙があってから、ゾロが口を開く。

 

『……というわけだ。おそらくおれたちは狙われるし、そんな中でドフラミンゴファミリーを──』

『ウタ、ロビン、聞いたか今の!! ムカツくなァミンゴ!!』

 

 ゾロの通話に、不意にルフィの声が乱入した。

 

『なんかウソップとウタが、ミンゴの邪魔したみたいで、さっき爆笑したけどよ! レベッカも賞金かけられていたけど、あいつ大丈夫かな!!』

 

 電伝虫越しに聞こえる、いかにもルフィらしい一方的な物言いに、ウタは苦笑いする。

 

「レベッカなら、私たちと──」

「ルーシー! 私ならここにいるよ!!」

 

 ロビンの声を遮って、ずいと前に出たレベッカが電伝虫に向かって声を張り上げる。

 ウタはその勢いに、つかんでいた手を放してしまっていた。

 レベッカの声を聞いて、ルフィがちょうどよかった、と言う。

 

『今“兵隊”がここに……あれ!? 兵隊どこ行った!?』

 

 兵隊とは、恐らくレベッカの父、キュロスのことだろう。

 ウタとロビンは、彼が無事だったことにまず安堵する。

 しかし、彼が向かったのはおそらく……。

 その予想を告げる前に、レベッカが矢継ぎ早に電伝虫に語り掛ける。

 

「兵隊さん、兵隊さんも人間に戻ったんでしょ!? ねえ、ルーシー……、どんな人?」

 

 最後は震える声で、レベッカが尋ねる。

 ルフィは驚いたように応えた。

 

『どんな人ってお前何言ってんだ!!? あの“片足の兵隊”がお前の父ちゃんだ!! コロシアムの銅像のおっさんだった!!』

 

 そんな言い方、とウタはその言葉を口に出しかけて、そのままそれを飲み込んだ。

 ルフィはまだ知らないのだ。この国にかけられていた魔法の全容を。

 そして今は、それを説明しているだけの余裕はないだろう。

 時間がかかればかかるだけ、市民は傷つき、そして賞金のかかった者たちへの怒りや恨みを募らせるだろう。

 あいつらさえいなければ──。

 市民がそういう感情に支配されるのは、可能性として低くはないだろう。

 敵が増える前に、今のうちにその頭を叩いた方がいい。

 さらに今の状況は、まず追手を撒くことが先決だ。

 

『人間の姿に戻れてよかったな!! だけどまだ泣くなよ!! 兵隊は死なせねェから、お前も無事でいろ!!』

 

 唇を噛み、ボロボロと涙を流すレベッカを、ウタが支える。

 レベッカは泣きながら、口元を抑えて、ひたすらうん、うんと頷いていた。

 ルフィが、メラメラの実はおれの兄ちゃんが食っちまったけど、と言う。

 

『代わりにおれが、ドフラミンゴをブッ飛ばしてやるから!! おれの仲間のそばを離れんな!!』

 

 こんなゲームすぐに終わらせるから生き残れ、と言うルフィに、声にならない声で、レベッカが頷く。

 

「ねえルフィ」

 

 返事のできないレベッカに代わって、ウタが電伝虫に声をかける。

 

『なんだウタ!?』

「……もしドフラミンゴが、こっちに来たら、わたしがあいつをぶっ飛ばすから」

『おれがブッ飛ばすって言ってるだろ!!』

「敵が思い通りに動かなかったらの話だよ! わたしも、この男のやり方は許せない。……ムカツいてるのは、あんただけじゃないってこと。もしルフィが戦うんなら、わたしの分もしこたま殴っといて」

 

 苛立ちの滲むウタの声を聞いたルフィが、電伝虫越しにししし、と笑った。

 

『おう、任せとけ!!』

 

 そんなやり取りをしている間に、ようやくウタたちは地上に辿り着く。

 

「ここ、どこ!?」

「……多分、闘技場だわ。ここが崩れて地上に繋がったのね」

 

 ウタの声に、ロビンが応える。

 地上はひどい混乱状態だった。

 “SOP作戦”による混乱もあるだろうが、それだけではない。

 ドフラミンゴの手によるものか、人が人を傷つけたり、放火をしたり、建物の破壊したり……。そういった傷跡が、街のいたるところに見つけられる。

 背後には、やはりバルトロメオのバリアだけでは防ぎきれなかったようで、海賊たちが遅れて駆けあがってきている。

 バルトロメオはじめ、サボやコアラ、ハックが、海賊たち牽制しながらウタたちの後を追う──。

 

「──あれ、そういえば錦えもんさんは?」

「……逸れたかしら?」

 

 姿の見えないワノ国の侍に、ウタが首を傾げ、ロビンがそれに応える。

 それを電伝虫越しに聞いていたゾロが、呆れた声で言った。

 

『なんだ迷子か。……ま、あいつは腕が立つ。心配する必要はないだろ』

「そうね」

「……だといいけど」

 

 それに、わざわざ引き返して探すわけにもいかないだろう。

 何故なら、道は既に敵で埋め尽くされているのだから。

 

「──じゃあ、今どこにいるのか教えてくれる?」

 

 ロビンが電伝虫に尋ねる。

 

『“王の台地”ってとこらしいが……。目印になる王宮がどこかへ行っちまった』

「とりあえず高い所ね。……防衛戦をするにも、高い所の方がいいわね。そっちに向かうわ」

『おう。じゃあ後でな』

 

 ガチャン、と電伝虫を切ったロビンが、周囲をぐるりと見渡した。

 

「おそらくこっちね」

 

 ロビンが指差す方は、つい先刻まで王宮のあったはずの台地。

 ゾロの言う通り、王宮の影は見えない。

 

「行きましょう」

 

 ロビンの声に頷いて、ウタたちは崩れたコロシアムの外壁を上り、王の台地を目指す──。

 




いつもお読みいただきありがとうございます。また、更新が遅れて申し訳ありません。また今後は3~4本/週程度の更新ができる……と思いますのでお待ちいただければと思います。

閲覧、感想やここ好き等ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします
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