IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

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13.鳥籠-In this Cage-(ドレスローザ12)

 ウタたち一行は、崩れたコロシアムの外壁をよじ登り、“王の台地”を目指していた。

 

「地形が動いたおかげで、コロシアムと台地が接触している。そこから登りましょう」

 

 ロビンが後から来た、革命軍のハックと、海賊バルトロメオに声をかける。

 

「ぢぐじょー、あいづら、まだ追っでぎやがる! もー放っどいでぐれ!」

 

 大勢のトンタッタ族に運ばれているウソップが、弱音を吐く。

 それもそのはず、一味の背後からは、大勢の海賊たちが追ってきていた。

 

「コロシアムの観客席だ!」

「あっちにいるぞ!!」

「首を取れ!!」

 

 足を踏み鳴らしながら駆ける海賊たちが、興奮しながら口々に叫ぶ。

 しつこいなァ! とウタが苛立たし気に言う。

 

「ねえロビン! あれ、どうする!?」

 

 どうにかして撒かなければ、この海賊たちはこの“鳥カゴ”中どこまででも追ってくるだろう。

 どうせ追ってくるのであれば、こちらも体力に余裕があるうちに倒してしまった方が早いのではないだろうか。

 ウタのそんな焦りや不安に、ロビンは片目を閉じて「安心して」と言う。

 

「“台地”に登ってしまえば、こっちのものよ。私に考えがあるわ」

「そっか!」

 

 ウタは頷いて、それ以上は訊かなかった。

 ロビンに考えがあるというなら、それに任せればいい。

 だが──。

 

「ロビン、サボさんとコアラさんがいないけど、大丈夫かな!?」

 

 そう、少し後ろを見てみたが、その“能力”で足止めをするバルトロメオと、魚人のハックはいるが、サボとコアラの姿が見えなくなっていた。

 クスリと笑みを浮かべたロビンが言う。

 

「あの二人なら心配ないわ。ここに革命軍がいる以上は、何か目的を持って動いているはずだから」

「ならいいけ──」

 

 そこまで言いかけたウタに、黒い影が落ちた。

 ウタだけではない。

 近くにいたロビンやレベッカにも、トンタッタ族に運ばれるウソップにも……。

 いや。

 それだけに留まらない。

 太陽を覆い隠すその影は、海賊たちや、コロシアムだけではなく、ドレスローザの中心街を覆い尽くしていた。

 ゴゴゴ、という地鳴りが、“鳥カゴ”の糸に反響する。

 パラパラと落ちてくる土の欠片に、ウソップは目を見開いて、引きつった声を上げた。

 

「な……なんだよ、これ……」

 

 ウタたちも遅れて、頭上を見上げる。

 海賊たちも、ウタたちを追っている場合じゃないと、その異常事態に足を止め、空を仰いだ。

 

「…………はは、なに、これ」

 

 ウタの口から、思わずそんな言葉が漏れる。

 そこに“居た”のは、石像だった。

 でかい。

 ただただ、でかい。

 人の何倍、なんて表現が馬鹿らしく感じるほど、その石像は巨大だった。

 西洋の鎧を身に纏ったような見た目をしたその巨像は、“花畑”のあった高台から生えていた。

 何かしらの能力者によるものだろう。

 巨人族ですら、これほど大きな者は居ないはずだ。

 見上げるほどの。山のような。

 “王の台地”すら見下ろさんばかりのその巨体に、人によっては絶望し、あるいは恐怖し、死を覚悟してもおかしくはない。

 狙いは、恐らく──。

 ウタはじっとりと汗をかいた手で、“指揮杖(ブラノカーナ)”を握りしめる。

 いったい、自分の能力でどれだけ抵抗ができるだろう。

 嫌な汗が、頬を伝う。

 あの拳を振り下ろされるだけでも、こちらの取れる選択肢は限られてしまう。

 そして──、その巨岩が、口を開いた。

 

「さァ……、我がファミリーに盾突く者たちは……おれが相手に……」

 

 その巨体から発せられるには、あまりにも細く高い声に、ウタは毒気を抜かれたように肩を落とした。

 

「……うーん、綺麗にソプラノ……」

 

 ぽつりとそう呟いたウタに、ロビンが真面目な面持ちで声をかける。

 

「ウタ、止まっているのは危険だわ。行きましょう」

「あ、うん」

 

 促されて、ウタたちは再び“台地”へと向かい走り始める。

 

「……“麦わら”……!!」

 

 巨像が何かに気が付いたように、高い声でそう呟くと、その体の下方──、ドレスローザの街に向かって拳を振り上げた。

 ズッドォンン……!!!

 轟音が鳴り響くのにほんの一瞬遅れて、地震が引き起こされる。

 その揺れに、ウタたちは近くの客席に掴まって転倒を免れる。

 

「今あいつ、“麦わら”って言った!?」

「言ったわね。ルフィたちと戦闘を始めたのかしら。こちらとしては好都合ね、今のうちに行きましょう」

「……ルーシー、大丈夫かな……?」

 

 ウタの隣で、レベッカが呟く。

 ルーシーというのは、コロシアムでのルフィのリングネームである。

 大丈夫でしょ、とウタは言った。

 

「ルフィならこの間、あれより大きい船を殴り壊そうとしてたし」

「ただ力押ししてくる敵なら、私たちの船長の敵じゃないわよ」

 

 安心して、とロビンが言う。

 さあ行こう、とウタはレベッカの手を取って立ち上がらせる。

 ズゥゥンン……!

 再び、低い音が響く。

 巨像の方へ首を回せば、左の腕が瓦礫になって崩れ落ちている。おそらく、ルフィたちがやったのだろう。

 

「ほらね」

 

 ウタはそう言って、レベッカの手を引いて走り出す。

 “王の台地”はもう目の前だ。

────

 

 

 

 

「あんれェ!? ルフィ先輩がいるんじゃなかったべ!?」

 

 ドレスローザ、“王の台地”──。

 今は王宮のなくなったただの台地に、ようやくロビンたちは到着した。

 そして、後からついて来た“麦わらの一味”の大ファンを名乗る海賊、バルトロメオがルフィの姿を探し、そこにいないことに気が付くとそう声を上げた。

 

「当然よ」

「ルフィが五分と同じ場所でじっとできるわきゃねェからな」

 

 ロビンとウソップが口々に言う。

 それに、と外壁にかかった“ネット”をよじ上ったばかりのウタが、補足をする。

 

「ドフラミンゴを殴りに行くって言ってたから、もう行っちゃったでしょ。ルフィは何かやるって言ったら、すぐに行動に移しちゃうタイプだよ」

 

 そんなことを言っていると、“王の台地”と、今王宮のある“隆起した花畑”の間にいた巨像の頭が、凄まじい音を立てて弾け飛んだ。

 目を凝らして見れば、ほんの点のようにしか見えないが、アロハシャツを着た短パンの男の姿が見える。

 もう既に、ルフィは敵陣の真っただ中だ。

 

「ほらね」

 

 ウタが立ち上がって、服の砂埃を手で払いながら言った。

 バルトロメオは感激したように目を輝かせて、ルフィを称える言葉を叫ぶ。

 ウタはそんなバルトロメオを気にも留めず、後ろを振り返って、まだ“ネット”を上っているレベッカに手を差し出して、“台地”へ上がるのを手伝う。

 レベッカは“台地”に登りきるやいなや、すぐにロビンに声をかけた。

 

「ロビンさん! 下からまだ追手が!!」

「みんな登り終わったのなら、ネットを外さなきゃね!」

 

 ロビンは微笑んでそう言うと、ハナハナの実の能力を解除した。

 “台地”から伸びていた“ネット”は、ロビンがハナハナの実の能力で出した、彼女の腕を組んで作られたものだったのだ。

 その“ネット”が、花が散るようにふわりと姿を消して、よじ登ろうとしていた海賊たちはもれなく地上へ向けて落下する。

 この反り立った外壁ならば、敵が“台地”まで侵入してくる心配は、しばらくなさそうだ。ここに居ればレベッカは安全だろう。

 ──さて、これからどうするか。

 ウタがそのことに思考を回していると、レベッカが顔をほころばせて「あ!」と言う。

 

「ヴィオラさん!!」

 

 レベッカが、ウェーブのかかった黒髪の女性に気が付くと、彼女に駆け寄って抱き着いた。

 トンタッタ族も、「ヴィオラ様!」と口々に彼女の名を呼び歓声を上げる。

 この国の元王女である彼女が、レベッカの頭を撫でながら、お父様、と言う。

 その声の先にいたのは、トンタッタ族の前に座る、白髪に白いひげを蓄え、マントを羽織った少し老いの見える男だった。

 

「ヴィオラ、何をしていた?」

 

 その男──、リク・ドルド三世が言う。

 

「鍵を探していたの、お父様! トラファルガー・ローの手錠の鍵!」

 

 そう言ってヴィオラは、指でつまんだ鍵を見せる。

 どうやら、ルフィたちはローの奪還に成功していたらしい。

 しかし、能力者である彼の拘束には、海楼石の手錠が使われているらしい。海楼石は生半なことでは傷つかないため、能力も手も封じられたローは今、戦えるような状態ではないらしい。

 

「あれ、でも肝心のトラ男さんは?」

 

 ウタが周囲を見渡して言う。

 “台地”のどこかにいるはずだけれど──。

 

「彼なら“麦わら”が連れて行ったわ」

 

 ウタの疑問に、ヴィオラが少し呆れ気味に応えた。

 えっ、とウタは目を丸くする。

 

「ルフィなにしてるの!? それ、結構マズいじゃん!」

 

 戦闘できないどころか、手錠をかけられ自由に動けない人を連れて戦場に赴くのは、さすがにウタの予想の外だった。

 無鉄砲と言うか、考えなしと言うか……。

 本当にね、とヴィオラが苦笑する。

 

「だから、これを何とかして届けに行かないと──」

 

 ヴィオラのその言葉を、待て、と低い声が遮った。

 リク王である。

 リク王はゆっくりと、首をヴィオラの方へと巡らして、鋭い目つきで言った。

 

「ヴィオラ、あいつらが何だと言うんだ!! 海賊だぞ!!」

 

 “海賊”に国を奪われ、今もその海賊によって国民が苦しめられているリク王は、到底奴らは信頼できない、という疑心をヴィオラに言う。

 一度目を瞑ったヴィオラが、「ええ」と頷いてからゆっくり瞼を開いた。

 

「彼らこそ、この国に蔓延る“見せかけの平和”を壊してくれる、“無法者”たち。お父様……、私、彼らに賭けたの!」

 

 ヴィオラは言う。

 世界政府公認の海賊、“王下七武海”によって傷つけられたこの国が、何故その世界政府の機関である“海軍”を信じられるというのか。

 彼らが護るのは“秩序”であり、それが“見せかけの平和”であろうと構わないのだ。

 だから、傷つき、膿み、腐りかけたこの国の王に、ずっとドフラミンゴを据え続けているのだ。

 表層の下に鳴り響く、助けを求める悲痛な叫びを、ずっと見ないふりをしながら。

 

「そんな彼らに、今更助けてほしいなんて思わない!!」

「…………!!」

 

 湿ったそのヴィオラの声に、リク王は反論することはなかった。

 思う所があるのだろう。

 

「少なくとも、“麦わら”たちの言葉には血が通い、彼らの行動は心と共にある!!!」

 

 ヴィオラの言葉に、レベッカが力強く頷いた。

 

「リク王様! 彼を見てください!!」

 

 トンタッタ族のレオが、リク王に声をかけ、ウソップを紹介する。

 彼こそがこの国に蔓延していた、“オモチャの呪い”を解いた男であると。

 彼の戦いに、トンタッタ族は救われたのだと。

 そして、そんなウソランドのいる“麦わら一味”を、彼らが海賊であろうと、トンタッタ族は信じると決めたことを言う。

 ねェ、とレベッカが口を開いた。

 

「ヴィオラさん、その鍵、私がルーシーに届けに行くよ! どのみちじっとしていられないの!!」

「レベッカ!!」

 

 危険な所に行くのならば自分が、と思っていたヴィオラが、レベッカの思わぬ提案に動揺する。

 決意を固めたような表情のレベッカの背中を押すように、しかし私利私欲のためにバルトロメオが言う。

 

「よーしそうすべ!! ルフィ先輩んとこさ行くならおれも付き合うべ!! 任せてくれ!!」

 

 バルトロメオの言葉を無視して、ヴィオラがレベッカを心配する。

 

「レベッカ、あなたも地上へ降りたらゲームの“受刑者”よ! ただじゃすまないわ!」

 

 しかしレベッカは、大丈夫、と意志を変えるつもりはないらしい。

 そんな彼女にトンタッタ族が協力する、屋根を行こうと言い出す。

 ウタは腕を組んで空を仰ぎ、うーん、と考えてから、「ねえロビン」と隣のロビンに声をかけた。

 

「そうね」

 

 ウタの言わんとしたことを察して、ロビンが頷いた。

 

「どっちが行く?」

「どこから敵が出るかわからないし、護衛と配達なら、ロビンの方が向いてると思う」

 

 荒事への対処に関しては、ロビンの方が経験値を積んでいるだろうし、何より能力的に様々なことに対する対応力はロビンの能力が上だろう。

 

「……それは本心?」

 

 ロビンはウタの表情を見て、そう尋ねた。

 ウタは苦々しい顔をして言う。

 

「本当はわたしもあっちに行って、直接ドフラミンゴに文句言いたいけどさ……。ルフィが暴れてるんなら、少しはこっちがサポートしないと」

 

 そのウタの言葉を聞いて、ロビンが小さく笑った。

 そのまま、ウタの頭をぽんぽんと撫でてから、ロビンが言う。

 

「じゃあ、ルフィたちと連絡を取ってみましょう。ウタ、電伝虫を貸してくれる?」

 

 




いつもお読みいただきありがとうございます。

中々話が進まず、入れたいシーンも尺的に後回し……。
あと三話くらいで、書きたいシーンに入れる……かな……?

感想やお気に入り等ありがとうございます。返信遅れてすみません、きちんと読ませていただいております。
今後ともよろしくお願いいたします。
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