IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

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14.鳥籠-In this Cage-(ドレスローザ13)

 プルルルルル……

 電伝虫の呼び出し音が鳴る。

 ガチャリと受話器を取り上げた音が聞こえると、矢継ぎ早に男の声が聞こえた。

 

『もしもし、おれはルフィ! 海賊王になる男だ!!』

「ルフィ、そんな焦って言わなくても通じるって」

 

 苦笑気味の声に、受話器の向こうでルフィが嬉しそうな声を上げる。

 

『ウター! どうしたんだ、電伝虫なんかかけてきて?』

「まず、さっきまでルフィたちがいた“台地”に着いたって報告。ルフィの方は、今どこ?」

『えーっと、今は…………。一段目の山だけど、“ひまわり畑”? って所に向かってる!』

 

 ルフィが言う。

 それを聞いたヴィオラが、「“ひまわり畑”は四段目よ」と言う。

 隆起した“お花畑”は、段状になっており、ルフィの目指しているのは、王宮の一つ下の段である。

 ロビンが電伝虫に向かって話しかける。

 

「ルフィ、聞こえる?」

『ロビンー! どうした!?』

「トラ男君は一緒かしら? ヴィオラが彼の手錠の鍵を見つけたのだけれど」

『本当か!?』

『おいニコ屋!! すぐにそれを寄越せ!! どうすればいい!!?』

 

 ルフィの声に被せて、トラファルガー・ローが声を張り上げる。

 どうやら、直ぐ近くにローはいるようだ。

 

「一緒にいるなら都合がいいわ。じゃあ、また“ひまわり畑”で落ち合いましょう」

『え? 落ち合うって、どうやって追ってくるつもりだ?』

「トンタッタ族たちに考えがあるみたい。なんとしてでも追いつくから安心して」

『そうか、わかった!!』

 

 仲間を疑うことをほとんどしないルフィは、二つ返事でその約束を取り付けた。

 あ、とウタが思い出したように言う。

 

「そうだルフィ! 多分大丈夫だと思うけど、緑髪の──」

 

 ガチャン!!

 

「小さな女の子が……って、もう切れてるし!!」

 

 ウタはむっと口角を下げて、足をトントンと地面に打ち付けながら言う。

 忠告したかったのは、ホビホビの実の能力者について。

 気絶しただけの彼女が、どれくらいの間動けないのかはわからない。

 彼女が子供のフリをして近づけば、その能力の餌食になりかねない。ルフィには、そういった危うさがある。

 フフ、とロビンがそんなウタの様子に微笑んだ。

 

「向こうで落ち合ったら、私からきちんと忠告しておくわよ」

「……ありがとう、ロビン。よろしく」

 

 じゃあ、とウタは気を取り直したように、これからの各自の役割を確認する。

 ロビン、レベッカ、バルトロメオと数名のトンタッタ族は、ローの手錠の鍵を持って“ひまわり畑”へ。

 一方、残ったトンタッタ族は、囚われているという彼らの姫を救うために、“SMILE工場”ヘ。

 そして、ウタは──

 

(リク王と、ヴィオラさん、それからウソップの護衛、だね)

 

 比較的にではあるが、この国で安全な場所であるここを拠点として確保しておきたい狙いもある。

 ──錦えもんとか、フランキーとか、心配な人はいくらかいるけど。

 しかし、ドフラミンゴが何も放送していないということは、恐らく無事なのだろう。

 ならば、やるべきことを見失ってはいけない。

 そんなことを考えている間に、“台地”の端の方で、ぎょっと目を見開いている三人の姿が見えた。

 ロビンをはじめとする、“ひまわり畑”組である。

 

「……えっと、どうしたの?」

 

 ただならぬその表情に、ウタはおずおずと声をかける。

 その声に、近くにいたレベッカが「ウタさん、聞いて!」と声を上げる。

 

「この子たち、カブト虫で飛んでいくって言うんだよ! こんなの無理だよ!」

 

 そう言って、レベッカは手に持った黒い紐を掲げて見せた。

 紐の先は六つに分かれて、再び円状に繋がっており、そこには等間隔でカブト虫が計六匹結わえられている。

 

「下に降りて、街を走っていきましょう! ウタもそう思うわよね?」

 

 ロビンが引きつった笑みを浮かべながら、レオたちに提案し、そしてウタに同意を求める。

 

「んだんだ! ロビン先輩に賛成だべ!!」

 

 強い訛りでそう言うのは、バルトロメオである。

 しかし、レオは胸を張って「大丈夫れす!」と豪語する。

 

「確かに大人間は重いので、空を飛ぶことはできません!!」

 

 レオのその言葉に、レベッカが「ほらやっぱり!」と言う。

 ですが、とレオは、彼女の抗議に耳を貸さずに、そのまま続けた。

 

「ですが、浮くことはできるのれす!」

「何も違わないべ!?」

「あー……」

 

 その説明を聞いて、ウタはなんとなく理解をする。

 

「つまり、飛行じゃなくて、滑空と低速降下が狙い、ってこと?」

 

 ウタの推測に、レオが頷いた。

 

「大体そうれすね! あと、上昇の手助けもしてもらえるのれす!」

 

 胸を張って、レオが言う。

 

「つまり……?」

 

 不安げにレベッカが言う。

 少しだけ説明の言葉を考えるように目線を上に向けたレオは、諦めたように言った。

 

「とりあえず、飛べばわかるのれす!! 行くれすよ!!」

 

 それを合図として、トンタッタ族たちがロビンたち三人を、“台地”から放り投げた。

 三者三様の悲鳴にも似た声が聞こえる。

 ウタは「行ってらっしゃーい」と、ひらひらと手を振り見送りながら言う。

 おそらく、レオの言う通りに心配することはないのだろう。

 現に、落下傘を使ったように、あるいは空中に投げられた風船のように、三人はゆっくりと降下をしていた。

 そんな彼女らを見守っていると、不意に後ろから低い声がかけられた。

 

「君たちは、どうして我々に協力してくれるんだ?」

 

 その言葉に、ウタは小さく首を傾げて振り返った。

 その声の主は、リク・ドルド三世。

 リク王の言葉に、ウタは首を傾げた。

 それをどう取ったのか、リク王は再び質問を投げる。

 

「特に、こちらのウソランド君に関しては、こんなにボロボロになってまで、トンタッタ族を、ひいてはこの国を助けようとした理由がわからない……。何が、君たちをそこまでさせるんだ?」

 

 えっ、とウソップは、一度困ったように眉を顰めた。

 

「……何がって言われても……」

 

 目線でウタに助け舟を求める。

 ウタは小さく肩を竦めると、あっけらかんとして答えた。

 

「理由なんてないよ。強いて言えば、やりたいからやってるだけだし」

 

 今のウタの芯にあるのは、かつて自分を救ってくれたあの言葉。

 自分がどうしたいのか。

 その結果として、ウタは今、ここに立っている。

 ブリキの兵隊──キュロスの話を聞いて、この国の腐敗を知った。

 いや、国の腐敗なんてどうでもいいのだ。

 腐敗していようと、それで皆が心から幸せであるのならば、外様の自分たちが口出しをするのはお門違いだろう。

 それこそ、『自分が救世主だなんて、思い上がりも甚だしい』だ。

 しかし、ウタは知ってしまった。

 ブリキの兵隊から聞いたこの国の真実を。

 地下の世界で見た、この国の真の姿を。

 それを生み出しているドフラミンゴがどうしても許せない。

 ただ、それだけだ。

 

「疑いたいなら疑えばいいし、信じたいなら信じればいいんじゃないかな?」

 

 ──そういえば、魚人島でルフィが似たようなことを言っていたっけ。

 言葉を発してからそのことに気が付いて、ウタはあはは、と愉快そうに笑った。

 ルフィの台詞を思い出しついでに、ウタの脳裏に、さらに古い記憶が蘇る。

 “赤髪海賊団”の皆が、よくフーシャ村でルフィに言っていた言葉だ。自然と、ウタの口角が上がった。

 

「ねえリク王、知ってる? 海賊って、自由なんだよ」

 

 にっこりと満面の笑みを浮かべ両手を広げて、ウタが言った。

 だから自分たちはやりたいようにやるし、この不自由な“鳥カゴ”は、自分たちを閉じ込めるのには役不足なのだ。

 この糸で繰られる不自由な国で、彼らの“自由さ”はなんて眩しいことだろう。

 

「…………疑って悪かったな。君たちも……、君たちの船長も」

 

 ゆっくりと息を吐いてから、リク王が言った。

 どうやら彼は、“麦わら一味”を信じることに決めたようだ。

 ウタは、別に、と応える。

 

「気にしてないってば。良くも悪くも、どのみち海賊なんだし。……ねェウソップ」

「お、おう! 当たり前だ!」

 

 精一杯神妙な面持ちを作って、ウソップが頷く。

 慌てて取り繕ったせいで、体が痛んだようで、ウソップはすぐに体を捩った。

 そんなウソップの姿に、ウタは可笑しさを抑えることができず、再度笑う。

 リク王の口角が、わずかに上がった気がした──。

────

 

 

 

 休んだことにより、だいぶ回復したウソップが、“王の台地”から下の方をのぞき込んでいた。

 その表情は神妙──というよりも、暗い。

 血の気が引いているのは、怪我によって血を流し過ぎたからではないだろう。

 コロシアムの方角から聞こえる声が、その原因を如実に物語っていた。

 

「リク王を捕らえろー!」

「“ゴッド”ウソップを捕らえろ!」

「“台地”を目指せー!!」

 

 ウソップの額を、つうと冷や汗が流れ落ち、ごくりと喉を鳴らした。

 どう考えてもまずいだろ、と呟くと、ウソップは振り返って言う。

 

「なァウタ! 王のおっさん!! 逃げよう早く!!」

 

 焦っているウソップを後目に、ヴィオラとリク王は、トンタッタ族の電伝虫から『マンシェリー姫がいない』という連絡が入った件について話し合っていた。

 ウソップは憤慨して叫ぶ。

 

「何話してるんだよ!! 国中がおれたちの首を狙ってるんだぞ!!?」

 

 振り返って、ヴィオラが言う。

 

「国の人たちはもう、過去の真相を知ってる。お父様にひどいことなどしないわ!」

「おれたちには!?」

 

 胸を張って言うヴィオラに、ウソップが目を見開いて指摘する。

 地面に座って休憩していたウタが、手首を返して言う。

 

「ねえウソップ、国中が敵なら、どこにも逃げ場はないんじゃないの?」

「う!!」

 

 まっとうな指摘に、ウソップは身をのけぞらせて、自分の額をぴしゃりと叩いた。

 

「ウタ、お前ェ、おれが考えたくもなかったことを!」

「事実だから仕方ないわね」

 

 ウソップがウタに文句を言うと、ヴィオラがそれを嗜める。

 正論の雨に打たれて、ウソップはがっくりと肩を落とした。

 

「実際、ここはそこまで悪い条件の場所じゃないと思うけどね」

「逃げ場がねェだろ!?」

「そうだね。だけど、不意を突かれる危険も少ない」

「……そうだけどよー」

 

 そう、この“台地”は相対的にではあるが、この国で一番安全な場所なのだ。

 わざわざ、ただ不安から逃れるためにここを離れるのは、悪手だろう。

 納得はできてはいないようだが、頭では理解できているようで、ウソップは渋々と皆の決定に従った。

 そんなやり取りを気にすることなく、考えごとをしていたリク王が口を開いた。

 

「……マンシェリーを隠すなら王宮以外考えられん。ヴィオラ、お前の能力で捜してみなさい」

「能力?」

 

 ウソップが首を傾げると、ヴィオラが王宮の方角の外縁へと向かいながら答える。

 

「そう、“千里眼”よ……。()()を自由に飛ばせるの」

 

 なるほど、便利な能力があるものだ。

 ウソップが、サンジが羨みそうだ、と呟くも、ウタにはその理由がわからない。

 どういうこと、と尋ねようとした瞬間、不意にウタたちの背後が喧しくなった。

 

「?」

 

 振り返れば、そこには、リク王の護衛としてついて来た兵士に取り押さえられた、背の高い男が見える。

 その男の髪型は、この国では珍しいものだったが、ウタとウソップには見覚えがあった。

 

「何者だ貴様!!」

 

 兵士の声に、その男は「怪しい者ではござらん!」と必死に弁明をする。

 

「錦えもんさん! 無事だった!?」

「どこ行ってたんだよ、心配したんだぞ!」

 

 ウソップとウタが表情を明るくして声をかけると、錦えもんを抑えつけていた兵士が、振り返って尋ねた。

 

「お二人の知り合いか?」

「そうだよ!」

 

 そうしてようやく拘束を解かれた錦えもんは、胸を押さえてぜえぜえと息をする。

 

「ウタ殿、ウソップ殿、お二人とも無事でよかった!」

 

 そっちもな、とウソップが笑って言ってから、「しかし」と言葉を続けた。

 

「この気の毒そうな生き物はなんだ?」

 

 顔を顰めたウソップが指差すのは、鳥のような翼を持ち、鳥のようなクチバシを持ち、鳥のような羽毛をもつナニカだった。

 

「結構可愛くない?」

「……なあウタ、お前……さてはセンスがねェな?」

「これはどう見ても可愛い生き物でしょ!!?」

 

 憤慨するウタをどうどうと宥めながら、錦えもんが言う。

 

「我が同心、カン十郎の能力“抜け雀”でござる!」

 

 それを聞いて、ウタの髪が揺れた。

 

「じゃあ、仲間が見つかったんだ!」

「いかにも! して、これがカン十郎……──カン十郎?」

 

 紹介しようと、錦えもんが隣に手を伸ばすが、しかし、そこには誰もいない。

 代わりに、かなり後方──、コロシアムのある方角の外縁で、外を向いてしゃがみこんだ、赤毛の男が見えた。

 

「カン十郎! 何をしている!?」

 

 声を掛けられて、ようやくその男はゆっくりと立ち上がると、これまたゆっくりとした足取りで、錦えもんの傍まで歩いて来た。

 

「どうした錦えもん?」

「どうしたではない! この方々が、拙者とモモの助を救ってくれた者たちでござる!」

 

 そうであったか、と赤毛の男は驚いたように目を丸くして、

 

「それがし、カン十郎と申す!」

 

 と自らの名を名乗る。

 自己紹介もそこそこに、少し心配した口調で、錦えもんがウタとウソップに声をかける。

 

「こちらに来るまでに、たくさんの人だかりが、こちらを目指しているように見えたが、何事かあったのか?」

 

 それがよ、とウソップが応える。

 

「国中の人たちがおれたちの首を──」

 

 その声を遮り、カン十郎が言う。

 

「安心なされい、天狗の御仁と紅白の御仁! 皆困っておった故、ほれこの通り! 人々が登りやすいように、それがしの能力で“網梯子”をかけておいた!」

 

 その言葉に、さっとウソップの血の気が引いた。

 確かに、外縁からコロシアムにかけて、ひどく歪ではあるが、縄梯子のようなものがかけられており、その歪さゆえにゆっくりとではあるが、人々がこちらを目指して上ってきている。

 

「バカ! あいつらおれたちの命を狙ってるんだよ!!」

「よ……余計でござったか!?」

「当たり前だ!!」

「──見つけた!!」

 

 言い争いをしているカン十郎とウソップの背後で、王宮のある“ひまわり畑”を見ていたヴィオラが声を上げる。

 

「いたの?」

 

 ウタの問いに、ヴィオラは頷いた。

 しかし、その表情はかたく、あまつさえその額を冷や汗が伝う。

 

「だけど……、不味いわ。シュガーが起きて、“麦わら”のもとへ向かってる……!」

 

 “台地”に、緊張が走る。

 

 




いつもお読みいただきありがとうございます。

恐らくここから二~三話でドレスローザ編の山場へと持っていけそうです。
あと五話くらい……かな? わかりませんが、お付き合いいただければ幸いにございます。
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