IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界   作:館凪 悠

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前話と地続きの話です


21.Now I‘m Here(ドレスローザ20)

 ────。

 ふと、そんな物語を思い出してしまったのは、今は何もやることがないからだろう。あるいは、“パンケーキ”を想像して少し前のことを思い出してしまったからか。

 ウタはソファーに寝そべったまま、ぼんやりと天井を見上げて考える。

 ドレスローザの東の町にある、カルタの丘、キュロスの家。

 夜である。

 “麦わらの一味”はキュロスの厚意に甘え、そこで休息を取っていた。

 王宮で匿うという提案もあったのだが、それを断ったのだ。

 なにしろ、船長がヒーロー扱いされるのを好まない。そして、この疲弊した国では宴もできないだろう。そうなれば、海賊がわざわざ王宮へと立ち入る道理はないのだ。

 ウタは溜め息を吐く。

 思い出した悲しい童話に釣られて、ということもあるが──。

 

「なんだ、ウタ、疲れてるなら眠りゃあいいじゃねェか」

 

 くっくっくと押し殺した笑い声。

 どこからか拝借してきたのだろう、酒を傾けながら、ゾロが言う。

 ウタは目線だけそちらに向けて、口を尖らせた。

 

「…………なんでゾロは、あんなデカい敵とやって、そんなに消耗してないの? ズルくない?」

 

 はっ、とゾロが口角を吊り上げ、白い歯が覗く。

 

「鍛え方が違うんだよ、鍛え方が」

「……わたしに、ゾロの使ってるあのバカでかい筋トレ器具を使えって?」

「そうは言ってねェだろ……。──だが、自分の力で自滅してるようじゃまだまだだろ」

「骨身に染みてわかってますー」

 

 ウタが口をへの字に曲げて言う。

 文字通り、骨身に染みて、だ。

 あの短時間の能力使用で、疲労骨折やら筋損傷やらが、体中の至る所にできている。

 トンタッタ族の姫であるマンシェリーのチユチユの実の能力と、そしてトラファルガー・ローのオペオペの実の能力がなければ、ウタは今も激痛に悶絶していたに違いない。

 治療を施してもらった今も、体のあちこちに痛みは残っており、そして身じろぎをしようものなら、やはり飛び上がるほどの激痛がはしる。

 はァ、とウタはもう一度溜め息を吐く。

 

「……ホイップましましのパンケーキを食べれば、体の痛みなんてすぐに治るのに。……次点で肉」

「酒は?」

「ゾロ、あんたじゃないんだから……」

 

 そんなくだらない話をしていると、戦闘で傷ついたのだろう自分の体のメンテナンスを行うサイボーグ・フランキーが呆れたように言う。

 

「ばーかお前ェら、人間の体ってのはそういう風にはできちゃいねェだろ。大事なのは睡眠含めた休息さ」

 

 カチャカチャ、と目の下の歯車を調整しながら言うフランキーに、ゾロが「その体のお前がそれを言うのか」という目線を向ける。

 ウタも思ったことはゾロと同じようだったが、少しだけ考えた後に「そうだ」と口を開いた。

 

「フランキーってコーラ好きだったよね? コーラ飲めば元気になるでしょ? それと一緒」

「アウ! そうか、最近はコーラを燃料として見ていたから、少し了見がズレちまってたみたいだ!」

 

 ガハハと笑うフランキーに、近くに座っていたロビンが信じられないという目を向ける。

 ロビンが口を開こうとした瞬間、コンコン、とドアをノックする音が鳴った。

 

「だ──いだだだだ!」

 

 誰、と言って咄嗟に体を起こそうとしたウタが、体を襲う痛みに悲鳴を上げる。

 しかし、こんな夜分に尋ねて来るとは誰だろう。

 おそらく、この国の人間ではあるまい。

 可能性が一番高いのは、海軍か?

 しかし、それではノックをする理由がわからない。

 そんな状況はロビンがあっさりと解決した。

 能力で家の外に目を生やし、それで来訪者を確認する。

 

「安心して。サボよ」

「サボォ?」

 

 彼のことを知らないフランキーが、誰だそいつと首を傾げる。

 

「ルフィのお兄さん。どうぞ」

 

 ロビンの声に、家のドアが軋みを立てて開く。

 静かに入って来た燕尾服の男──サボが、悪いなと口を開く。

 

「夜遅くにお邪魔して。……ああロビン、ルフィは起こさなくていいよ。最後に顔をみがてら、ちょっと忠告しにきただけだから」

「最後?」

 

 ロビンが首を傾げる。

 ああ、とサボが頷いて帽子を取った。

 

「だいぶ表立って動いちまったから、“CP0”がおれたちを狙ってやってくる。ドレスローザは一日二日で混雑するぞ。お前たちも、可能な限り早く出航した方がいい」

 

 ご忠告どうも、と酒瓶を床に置いて、ゾロが頭を下げる。

 

「──しかし、ルフィに二人目の兄がいたなんてな……」

 

 ゾロの言葉に、フランキーが頷く。

 

「まったく、初耳だった」

「え、そうなの? わたし知ってたけど?」

 

 てっきりみんな知っているものだと思っていた、とウタが言う。

 

「そりゃ幼馴染っつーお前ェさんはそうだろうがよ。そもそもルフィはあんまり自分のこと話さねェだろ?」

 

 フランキーが肩を竦めるが、ウタは「そうじゃなくって」と訂正する。

 

「わたしも、お兄さんがいるって聞いたのは、ほんとつい最近だよ? 見張り番の時にルフィから聞いて──」

 

 待て待て、とフランキーが手を開いて、ウタの言葉を止める。

 

「……あー、つまりあれか? 兄貴たちよりも、ウタの方が先にルフィに逢ってんのか?」

 

 そういうこと、とウタが頷く。

 だけどさ、とウタはサボの方へと目線を向けて尋ねた。

 

「ルフィ、この間までずっと、お兄さんのことを死んだんだとばかり思ってたんだよ。……何があったの?」

 

 責める口調ではなく、ただ純粋に疑問に思ったという口調。

 兄がいなくなってしまい、悲しかったことと寂しかったことをウタはルフィから聞いていたが、ウタにはそれを責めることはできなかった。

 自分も、同じだからだ。

 ルフィの前からいなくなり、彼に寂しい思いをさせた。

 それが故意でなかったとしても、それは事実。そして、サボがこうやってルフィに逢いに来ているということは、決してサボはルフィに逢いたくなかったわけではないのだろう。

 

「……記憶を、無くしていたんだ」

 

 サボは自分の帽子に目線を落として言う。

 

「記憶を……!?」

 

 誰かが上げたその声に、ああと頷いてサボが語る。

 

「──ガキの頃に、エースとルフィと暴れまわって、ガープのジジイにシゴかれて、将来は海賊だって……兄弟の盃を交わしたんだ。……だけど、ある日おれは、事故──いや“事件”に遭ったんだ」

 

 自由を求めて一足早く海に出て、そして偶々通りかかった天竜人の船によって砲撃され、死にかけたのだ。

 海を漂っているサボを助けたのが、“革命軍”だった。

 しかし、その時の衝撃か、それとも強いストレスのせいか、サボは記憶のほとんどを無くしてしまっていたのだ。

 残っていたのはただ、“両親のもとへは帰りたくない”という強い思いだけ。

 

「よくそんな状態から記憶が戻ったな……」

 

 フランキーの言葉に、サボがしみじみと頷いた。

 

「……エースが、教えてくれたんだ。今ではそう思う」

「エースって、もう一人の……?」

 

 ああ、とサボがウタの言葉に頷く。

 サボが記憶を取り戻したのは、二年前──。

 頂上決戦の出来事が、新聞で大きく報道された時だった。

 新聞に載ったエースの顔写真。

 それを見たサボは、ようやく記憶を取り戻したのだ。

 その衝撃で三日三晩と高熱を出して寝込んだ。

 そして、サボは決心したのだ。

 必ずエースの力だった“メラメラの実”を手に入れると。

 

「……ルフィは、メラメラの実があると聞いたらそこに行きそうだから、多分ここで逢えるんじゃないかと思ってた。……こうして、生きて逢えただけでもありがたい」

 

 ちらりとサボがルフィの方を見る。

 ウタも、同じようにルフィの方へと視線を向けた。

 あれだけの大立ち回りを見せた男とは思えないほどに、その寝顔は安らかで、そして幼さすら見える。

 

「…………大変だったんだね」

「……ルフィ程じゃないさ」

 

 あいつはエースを目の前で亡くしたんだから、とは言わない。

 小さく微笑んで、サボは帽子を被った。

 

「……じゃ、もう帰るよ」

「あら、もっとゆっくりしてけばいいのに」

 

 ロビンの言葉に、サボは屈託のない笑みを浮かべる。

 

「そうしたいのは山々なんだけどな。本当はもっと、おれたちと出会う前のルフィのこととか、ルフィがどんな冒険をしてきたのかも聞きたかったし……。でも、さっきも言った通り、この国の状況は、おれたちにとってあまり良くないからな。──顔が見れただけでも、十分だ」

 

 そうそう、と言ってサボはポケットから一枚の紙を取り出して、ウタに渡した。

 

「なに、これ?」

 

 ビブルカードだ、とサボは片目を閉じて答える。

 

「びぶる……何?」

「ビブルカード、だ。ちょっと待ってろ」

 

 そう言ってサボは、ウタに渡したビブルカードの端を千切って手に乗せた。

 すると、その手に乗った小さな紙が、大きな紙に引っ張られるように、少し動いた。

 

「と、まあこんな感じで、どっちに居るのかがわかったり、あとルフィがヤバい状況の時に分かったりする不思議な紙だ。これがあれば、またどこかで巡り合うことができる」

 

 サボはその小さな紙片を、大切そうに自分のポケットにしまうと、ほんじゃ、と言った。

 

「──ルフィには手を焼くだろうが……よろしく頼むよ」

 

 任せとけ、とフランキーが言い、ロビンがにこやかに手を挙げて応える。

 ゾロは「エースと似たようなこと言ってら」と笑っていた。

 

「当たり前でしょ、わたしたちの船長なんだから」

 

 ウタがニッと歯を見せて笑って言うと、サボはそれもそうだ、と笑った。

 

「じゃ、縁があったらまた逢おう」

 

 そう言って家を後にするサボの背に、ウタが声をかける。

 

「縁がなくても、顔出していいんだからね。家族なんでしょ?」

 

 サボは一瞬目を丸くして、そして月に向かって口を開けて笑った。

 それもそうだな、ともう一度呟くと、今度こそ「ほんじゃまた」と言って家のドアを閉めた。

 はあ、とルフィのビブルカードをお腹の上に置いて、ウタが溜め息を吐く。

 

「ウタ、どうしたの?」

 

 ロビンの少し心配そうな声に、ウタはちょっとだけ寂しそうな顔をして言った。

 

「ううん、家族っていいな……ってさ」

 

 魚人島でウタの過去を聞いていたロビンは、少しだけ沈黙してから「そうね」と呟いた。

 起きている男二人は事情が分からず、首をひねって顔を見合わせる。

 

「…………よーし、待ってろよシャンクスー! 成長した娘の姿に、ぎゃふんと──いだだだだっ!?」

 

 勢い余って身じろぎしてしまい、ウタは再び体の痛みに悶絶する。

 

「まったく、何やってんだか……」

 

 呆れたようにフランキーが言い、ロビンがくすくすと笑った。

 

「…………おいお前ら、少しはケガ人を慮ってくれ」

「おうトラ男、起こしちまったか。悪ィな」

 

 床で横になっていたローが不機嫌そうな声をあげ、それに対して、ゾロが軽い口調で謝る。

 

「酒、飲むか?」

「飲まねえよ」

 

 ゾロの提案に、語気を強めてローが言う。

 そんなローに、ウタが涙目で助けを求めた。

 

「トラ男さん……痛い、助けて……」

「……注射とどっちがいい?」

「…………注射嫌い」

「じゃあ知るか、寝ろ」

 

 そんなやり取りをしているうちに、ドレスローザの夜は更けていく。

 “麦わらの一味”と“ハートの海賊団”の同盟が、“ジョーカー(ドフラミンゴ)”を倒したことにより、世界はまた、大きなうねりを見せる。

 そんなことはお構いなく、誰に対しても平等に、時間は進む。

 夜明けの時は、まだ来ない。

 

 




いつもお読みいただきありがとうございます。
サボさんはウタと話し出したら三日三晩程話続けそうだったため理性マシマシにさせていただきました。
次回も書きたいシーンですね。また更新が水曜になるかもしれません。Twitterの方を確認いただければと思います
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