IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界 作:館凪 悠
ですが、注意事項が一つ。ここからは原作改変がひどく強くなります。
私の妄想、考察をふんだんに盛り込んでいることもあり、読者様によっては『アンチ・ヘイト』と捉えられる場面、表現が出てくる恐れがあります。正直そこの線引きがよくわかっていないので……。
何が起こっても許せる方、あるいはブラバにて自衛できる方のみお進み戴ければ幸いにございます。
1.オーバードライブ
「みんな久しぶりだね! ウタだよ!!」
電伝虫に向かって、ウタが元気に声をかける。
サニー号の一室、“配信部屋”。
ウタが“麦わらの一味”に加入することになって、フランキーが増設した部屋だ。
空には星が出始めて、月が登り始めるより少しだけ前の時間帯。
本日はようやくの閑散期──。
「え、そんな久しぶりじゃない?」
魚人島から始まった一連の事件。
“ハートの海賊団”との同盟によるシーザーの誘拐、そしてドレスローザにおける“ドフラミンゴファミリー”との抗争。そして横やりを入れて来た、“ビッグマム海賊団”の船──。
“ゾウ”に暮らすミンク族との交流の後、つい先日、“ビッグマム海賊団”との抗争を行い、目的を果たして逃げおおせたばかり。
残念なことに犠牲者も出てしまったが、“麦わらの一味”は今日もこうして生きている。
現在は、ホールケーキアイランドからワノ国へと向かう途中である。
「いやー、ついこの間まで“ビッグマム”の所にいてさァ。……え、何しに行ってたのかって? わたしのところの──、そう“麦わらの一味”の“料理人”がね、無理やり“ビッグマム”に連れてかれちゃったから、連れ戻しに行ってきたんだ。……え、なに? 手配書? あー、また懸賞金が上がったんだってね。仲間を連れ戻しに行っただけなのに危険と見なされるなんて、失礼しちゃうよね。危険なのは、人の仲間を無理やりさらう方だと思うんだけど」
少し不満顔で机に肘を突いて、ウタは語る。
すると、ふとウタは何かに気が付いたように目を丸くすると、すぐにその目を細くした。心なしか、口元も綻んでいる。
「ふふ、どうやらちびっこたちも配信聴きに来てくれたみたい。じゃ、暗い話とか愚痴とかはここまで! ここ最近はいろいろあったけど、わたしは元気にやってます!」
心配しないでねー、と手をひらひらと振る。
そしてウタは、よし、と手を叩いて立ち上がった。
「さあ、じゃあいつも通り歌っていこうか! あ、ブルックは今船の操舵をしてるから、今日はお休みだよ、ごめんね! ……じゃ、一曲目はついさっきできた新曲! 『
────
「久々に思いっきり歌えて満足! みんなも楽しんでくれたかな? じゃあまた今度、いつもの周波数で! またね!!」
そう言って、ウタは配信用の電伝虫を切る。
独りになった“配信部屋”の中で、ウタは椅子に深く腰を掛けると深く息を吐いた。
「まだちょっと本調子じゃないなァ……、疲れちゃった」
ぽつりと呟いてから、思いっきり伸びをして、ウタは苦笑する。
それはそうだ。だってつい先日まで“四皇”と命のやり取りをしていたのだから。
まったく、ルフィたちと一緒にいると、あっという間に時間が過ぎるような感覚があるクセに、実際に時間はあまり流れていないせいで、たった一日が数週間の長さに感じてしまうのだ。
椅子の背もたれに後頭部を乗せて、天井に向けてふうと息を吐き出す。
──果たして、“海賊”になったことが“正解”だったのかはわからない。
きっとそれは、これからの世界が決めることだ。
だが、ウタは“海賊”になったのは“間違いではない”と確信していた。
信頼できる仲間と、世界を自分の目で見て確かめることができるのだから。
にぎやかで忙しなくて、時には苦難もあるけれど──。
(──もう、寂しくはないもんね)
あの島に、ゴードンと二人でいたころに感じていた孤独を思い出して、ウタは小さく微笑む。
──あの日、空から“骸骨”が落ちてきて、良かった。
切に、そう思う。
ゆっくりとウタは体を起こして、再び机に肘を突いて体重を預ける。
「…………あんたは、どうなんだろうね? ……もう、寂しくはない?」
机の上に置かれた電伝虫──の、その向こう。
唯一、現場でウタの配信を聞いていた視聴者に、ウタは小さく語りかけた。
そこに広げられたのは、古ぼけた楽譜群。
『Tot Musica』の原譜である。
彼の楽譜が抱える孤独に、ブルックと共に触れたウタは、時々こうやって『Tot Musica』の原譜にも音楽を聴かせてあげるようにしていた。
孤独がいかに心を苛み、歪め、悪影響を及ぼすのかを、ウタは知っていたから。
ふあ……。
なんてことを考えているウタを、睡魔が襲う。
(……部屋に戻らなくちゃ、いけないけど──)
その微睡には、耐えがたいほどに蠱惑的だった。
まるで、ウタウタの実の能力を使った後のような。
──よっぽど疲れていたんだろう。
ウタは自分の状態をそう分析する。
なら、少しだけ仮眠を取ってから、部屋に移動しよう。
ウタは机の上に腕を組んで、その上に頭を乗せた。
目を瞑った途端、ウタの意識はすぐに微睡の底へと沈んで行ってしまう。
すう……。
寝息が、静かな“配信部屋”に響く。
ウタ以外、誰もいない配信部屋に。
だから、誰も気が付かない。
その古の楽譜が、妖しい光を放っていることに。
ウタの背中から、影が伸びる。
鍵盤の翼──。
彼女の意志ではない。
だって、彼女は未だ寝息を立てるだけで、一音たりとも歌を歌っていないのだから。
鎌首をもたげたその翼は、その身を伸ばしきると、ゆっくりと優しく、ウタの体をすっぽりと包み込む。
そして薄暗い部屋で、その鍵盤が小さく、妖しく蠢いた。
ほろん──
途端。
ウタの姿が消えた。
残ったのは──
──ポロン……
という小さなピアノの音。
誰もいなくなった“配信部屋”に、その残響も儚く消えていく──。
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