星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
ゴーグルが開発してくれた2D VTuberツールは、世間からの評判もものすごく良く、『VTuberで早期にデビューして、Vtuberのみんなに先輩♡って呼んでもらってぐへへとなる作戦』。通称『V作戦』も予想以上の成果を収めそうだった。
これなら、これから繁栄を極めるであろうVTuberにも「スターズのVTuberは化け物か!」って驚いてもらえるだろう。
ちなみに、僕は自分の活動に際してVTuberの名称を出すことはしていない。 ヴァーチャルユーチューバーの名称を前世で作ったのは僕では無いし、その命名に対する栄誉を今世で僕が掠め取るのは良い事では無いと思うからだ。
おそらくVTuberの活動が認知されていけば、自然とこの名前になるかもしれないし、今はニフニフ生放送の勢いが強いのでこの世界では、VTuberとは呼ばれずに、ヴァーチャル生主やV生主とか言われるようになるかもしれない。
ただ、ユーチューバーの名称は今でも世間に認知されているし、ニフニフ生放送では中々食べて行けないので、最終的に活動がYoutubeに移って自然とVTuberの名称になるかもしれないね。
後は、開発してもらったゴーグルの方でも役に立つように、2Dアキラ君とキアラちゃんを使って、Youtubeの便利機能の紹介や、ゴーグルの技術紹介、開発者インタビューなんかの動画を作ってYoutubeにアップした事で、ゴーグルの広報さんも大満足。
社内でも僕にインタビュー動画を上げて欲しいって言うゴーグルの開発者さん達も沢山居て、再生数もうなぎ登りで、同時に裏では真の目的でもある、VTuberの全世界への認知も進んでいるね。
そうして、僕の2Dアバターをお披露目した数週間後、僕はひっそりと別のキャラクターの配信を始めることにした。
絵麻ママにお願いしたアバターは3セット。 2セットは僕とキアラがモデルのアバターで、最後の1セットが初代デザインの秋色ダリアのアバターだった。
前世で私が死んだ後に、私の半身だった秋色ダリアのアバターがどうなったのか、知る由は無い。
おそらく、演者の死と共に秋色ダリアも前世で死んでしまったと思う。
寿命や死の概念が無いアバターが死ぬというのは可笑しな話だけれども、現実問題として私の死の後に、私の代わりの魂(演者)を得た可能性は極めて低いと思う。
いくら人気があったからって、別人を入れて人気が継続できるとは思えないし、私が入っていたアバターを見る事で私の死を思い出して複雑な感情になる人が居るのも目に見ている。 VTuber事務所の方でもそんなリスクを取るとも思えない。
結局みんなの思い出の中に残るだけで、前世の未来では秋色ダリアのアバターも死蔵されてしまったというのが真実だろう。 その意味で私の死と共に秋色ダリアも前世の世界で死んでしまったのだ。
でも私は何の因果か、星アキラとして今世に転生した。 ならばおそらく私と共に死んでしまった秋色ダリアも今世に転生してあげるべきだろう。
僕は絵麻ママにアバター制作をお願いするときに、アキラとキアラは僕自身をベースに絵麻ママにデザインや色彩を含めて全部お任せで発注したけれども、秋色ダリアはアクセサリーに至るまで細かい指定をした上で、絵麻ママの絵だって判らないようにタッチを変えた絵で依頼した。
絵麻ママの絵って判らないようにという依頼は、すごく絵師の人を馬鹿にした失礼な依頼だったけれども、絵麻ママは快く引き受けてくれた。
絵麻ママは僕の細かい注文にも嫌な顔一つせずに、何度も修正してくれたけれども、ある日絵麻ママが持ってきた絵を見て僕は驚いた。 前世の秋色ダリアと寸分違わぬ絵が出来て来たからだ。
秋色ダリアをデザインしたママは男性の絵師だった。 確かに、顔や年齢、目の色、髪の色、輪郭、プロフィールなど細かく指定はしたけれども、いくら言葉で正確に伝えた所で、こんなに前世と寸分違わぬ物になる訳が無かった。
僕は動揺する心を隠しながら、どうやってこの絵を描いたのかと聞くと、夜に電気を付けた瞬間に、天啓が降りたようにこの絵が頭の中に浮かんできたらしい。 そして素直にそれを清書して、良かったので僕にそのまま見せてくれたのだ。
おそらく、これは文字通り秋色ダリアも僕の元に転生してきたと言う事だろう。
因果とか運命とかを言う気が無いけど、僕はこの素敵な幸運に感謝した。
そして僕の元へ戻ってきた秋色ダリアで今日から配信を始めるのだ。 とは言っても、僕は秋色ダリアを今世では別にブレイクさせるつもりは無かった。
VTuberの世間への下地作りや認知などの支援については2Dアキラ君とキアラちゃんで十分だったし、現状でも売れっ子の僕が今さら秋色ダリアをヒットさせるメリットを特に感じなかった。
だから僕は、前世で売れなかった時代の放送内容を元に、前世の声でひっそりと秋色ダリアの放送を始めた。
放送内容は主にクラッシックをBGMとした雑談。 雑談の内容も音楽とか話題や、視聴者さんとのやり取り、日常会話。
放送は22時過ぎあたりが中心で、週に数回だけ。 特に面白い企画とか、視聴者へのサービスなどもやらなかった。そして宣伝なんかも何もしなかった。
僕がこの放送をしている事を知っているのは、僕と絵麻ママだけだ。
税務面が面倒なので、この秋色ダリアチャンネルは収益化などもしない予定だ。
秋色ダリアの放送は、今後雨後の筍のようにたくさん出てくる個人VTuberに隠れて目立たずにひっそりと放送されていくと思う。
初回の放送も最大同接数は10人ほど。
数回の放送を経て、8人ぐらいの常連さんが出来た。 チャンネル登録者数が世界トップレベルである星アキラチャンネルに比べたら、ちょっと息を吹くだけで吹き飛ぶような数だ。
酒次郎: ダリアちゃんも忙しくて大変だね。
絵ママ: ダリアちゃん。 私も最近急に仕事が増えて来て大変なんだよ。
絵ママ: 今も仕事しながら聞いているんだよ。
「絵ママさんはイラストレイターさんですよね。 お仕事が増えて良かったじゃないですか」
絵ママ: 単価が上がって嬉しい悲鳴なんだけど、やっぱりお仕事は大変なんだよ~。
冷奴ピース: 仕事は求められているうちが華なんだから、実績を積み上げる今が大切な時期だぞ。
「仕事は楽しいけど大変なんですよね。 私も判ります。 私も明日は朝からアルバイトです。」
秋色ダリアは異世界から現代に迷い込んだ吟遊詩人。 中の人は音大の学生をロールプレイして配信していた。
今日も秋色ダリアの配信は、BGMとして流れる優しいクラシックの響きと共に静かに終わるのであった。