星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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安原絵麻は風に順いて呼ぶ2

 

アキラ君は面会を求めて来たので、スターズ近くのファミレスで会う事になった。

 

仕事依頼のメールはスターズのマネージャや事務さんではなく、星アキラ本人を名乗る人物から直接依頼があって怪しいものだった。 私は正直な話、誰かの悪戯、最悪は詐欺だろうと思っていた。 

 

ただ、ちゃんとした仕事の依頼である以上、完全に無視する訳にも行かなかった。 なので大しておしゃれもせずに、ほぼ仕事着でファミレスに来て先に席に着いていた。

 

人を待っていて暇な私はボーと外を見て人の動きを観察してたので、席の前にその人が来た時に特に大きな気配は感じなかった。 気配を消しもせずに、たぶんファミレスの雰囲気に紛れていたんだと思う。

 

「安原絵麻さん?」

 

「はっはいっ。そうです!」

 

私は、わりと小心者の大人しい性格だ。 気が付いていなかった人から、突然声をかけられて心臓が跳ね上がったかと思った。

 

私に声をかけたその人は私よりも年下の中学生ぐらいの男の子で、よーく見るとちょっとお洒落なストリートファッションだった。

 

「良かった。 今回仕事をお願いしようかと考えている星アキラです。 今日は打ち合わせに来ていただいて、ありがとうございます。」

 

少し幼い容姿とお洒落なファッションとは裏腹に繰り出された、安定の社会人対応に私は混乱した。 私はピーンと立ち上がって、名刺交換を行った後に、ファミレスの席でそのままアキラ君と雑談をした。

 

野球帽を被った顔を何度覗き見ても、やっぱり普段から拝んでいる幸運の珍獣、星アキラだった。 絵描きの私が幸運の珍獣を見間違えることなんてありえない。

 

意外な事に、アキラ君との話は弾んだ。 私は話下手で大人しい性格だけれども、アキラ君は私の話を良く聞いてくれて、普段の私とは思えないほどに、良くおしゃべりをした。 アキラ君はもっとハチャメチャな人かと思っていたら、かなりしっかりとした人だった。

 

ある程度私の緊張がほぐれて来たのを見たのか、アキラ君は場所を移すように言ってきて、私は素直にそれに従って移動すると、スターズの事務所内にある会議室に案内されて、そこには弁護士の人とアキラ君のマネージャーが待機していた。

 

私とアキラ君はそこでまずはNDA(秘密保持契約)を結ぶことになった。 正直、NDAなんて形だけかと思っていたから、厳密に内容の説明と確認がされて、いろいろと驚いた。 これはかなり重要な仕事なのかもしれないと思い、だいぶ緊張した。

 

NDAの締結に続いて、私のお仕事の説明。 ゴーグルの開発したシステムで、アキラ君の表情に合わせて動くアバターのデモにも私は本当に驚いた。 すごい。 こんな技術があるんだ。

 

そして、私の仕事はこのアキラ君とキアラちゃんのアバターの絵を書くことだったんだ。

 

最後に発注価格の確認と、知的財産権の帰属や範囲、制限についての契約。

弁護士さんとマネージャーさんは、知的財産権の契約を終えると、すぐに部屋から出て行ってしまった。

 

私はこの仕事の具体的な発注内容とその発注価格にビビった。 キャラクター1セット分の価格で私の半年分の年収だった。 それが3セット分。 つまり私の年収の1.5年分以上・・・。

 

発注した絵については、権利はアキラ君に帰属するけれども、アキラ君とキアラちゃんについては、アキラ君が発表後には、アキラ君とキアラちゃんの絵での同人活動やトイッターへの掲載は自由だった。

 

この絵を使った商業活動については、アキラ君とスターズに相談だけど、これは当然の事だ。

 

契約内容は、常識的な範囲、もしくはちょっと緩いぐらいで問題は無かった。

 

アキラ君とキアラちゃんは、わりとすぐにデザインが通ったんだけど、ダリアちゃんだけはちょっと特殊で、演じているのがアキラ君だって判らない限り、絵師である私が作成した事の公表を不可だったり、私がファンアートを描くのも制限されていた。 代わりに、実はダリアちゃんの価格は、これらの事情を考慮したためか、一番高い値段が付けられていた。

 

ダリアちゃんは何か訳アリだと思った。 でもその訳についてはいずれ判る事だろうし、そこを詳しく聞くのは止めた。 だけど、一番の難産はやっぱり、この秋色ダリアちゃんだった。 どうもアキラ君の中で明確なイメージがあるらしく、何枚かラフを描いて行っても中々OKが出なかった。

 

自分の絵と判らないようにするって点も難しさに拍車をかけていて、何度もラフを起こしたけど、納得が行く物はできなかった。そんな悩んでいた深夜に、私が寝室の電気を付けた瞬間に脳裏に天から降りて来たような、明確なイメージが浮かんだ。 私は眠気が吹き飛び、脳裏に焼き付いたイメージをそのまま紙に描きだした。

 

多分これだろうという確信の元、私は恐る恐るアキラ君にラフを見せると一発OKで、イメージのままに彩色をして、動かすやり方を聞いて、アキラ君から借りたパソコンで何度も動きを調整して、納得が行くものができたら納品した。

 

作り方の習熟などを含めて、全部の納品に4ヶ月はかかったけれども、自分でもとても良いものが出来たと思う。

 

そして、2Dアキラ君とキアラちゃんのお披露目配信の日。 アキラ君が動かすアバターは、私がテストで動かすのよりも何倍も魅力的な表情を放送で視聴者に魅せていた。 このアキラ君の絵が自分が描いた物だなんて信じられなかった。 

 

私は放送内で楽しく動くアキラ君に目が釘付けで、アキラ君や視聴者の方から私の絵を褒められて泣いてしまった。

 

故郷の山形からアニメータの仕事に憧れて上京してはや5年。 アニメータとしてでは無いけれども、私の絵をこんなに沢山の人に見てもらって、褒めてもらえる機会が来るなんて思って無かった。 私がパソコンの前で泣いていると、ルームシェアをしている久乃木さんが不器用に肩を叩いて慰めてくれた。

 

私はこの時、自分の仕事を成し遂げた達成感に満たされていて、私が星アキラのママになったと言う事がどう言う事なのかを全く理解していなかった。

 

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