星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
VTuber化した僕やみんなは大ブレイクしていて、VTuberというよりもTVのゲストとかちょっとしたコーナーを任される事が多くなった。
これには、スタジオで拘束して出演させるよりも僕達の出演料が安かったっていう大人の事情もあるけれども、逆に僕達もスタジオに行かなくても沢山の仕事をこなせるようになったので、Win-Winだった。
その結果、露出が増えた僕達のアバターは僕達を超えてテクノポップの象徴としての新しいアイドル像として急速に認められるようになった。
本人たちは役者であり、別にアイドル活動はしていないんだけど、気が付いたらアバターは勝手にアイドルになっていてびっくりだよ。
アイドルの語源は礼拝の対象として神様を模して造られた像の事。 僕達のアバターは文字通りのアイドル(偶像)となったのであった。
ちなみに、アバターの語源は、インドのサンスクリット語のアヴァターラ(avataara)で、「神様の化身」って意味なので、アイドルのアバターは語源的にはとてもご利益がある存在だった。・・・そんな事を気にする人は誰も居ないだろうけど・・・。
VTuberを前の世界以上にブレイクさせたいって思って始めたアバター放送だったけれども、これによって僕達自身の仕事の幅が広がるとは思っていなかった。
特にこのVTuberのアバターを一番可愛がっているのが千世子ちゃんだ。 千世子ちゃんはてっきり現実の自分の容姿や存在を大切にして、2Dのアバターなんて作らないと思っていたんだけど、何かが琴線に触れたのかすごく積極的に自分からアバターを作りたいって言いだして、このアバターでアクセサリーの紹介やインタビューなど、積極的にいろいろな仕事を取っているよ。
しまいには化粧会社のイメージキャラクターまでやっている。アバターは化粧なんてしないのに・・・。 ただ生身よりも女性受けは間違いなく良いようだ。 そして2D千世子ちゃんを気に入ったファンが普通に千世子ちゃんのファンにもなっていた。
彼女が一番僕らの中でVTuberのアイドル活動を積極的に進めている人物で、本人は演技派の女優、アバターがファンサービスをするアイドルとしての顔を見せて、仮面を上手く切り替えている。
だから世間の認知は 百城千世子 ≠ 2D千世子ちゃん と同一人物だけど同一人物ではないような評価を、彼女自身が上手くコントロールして獲得している。
その結果、一定数は嫉妬で獲得できない女性人気を幅広い年齢層から獲得する事に成功していた。
彼女が考えるアイドルとしての仮面。 自分の持つ一面を増幅して見せて、彼女自身の演技を客観視して見る能力の実体化。 それが2D千世子ちゃんであり、彼女が培ってきた役者としての能力が、2D化したアバターを演じる演者としての彼女の新しい才能を見事に開花させていた。
千世子ちゃんは同年代の女優として間違いなくトップを走っているけれども、VTuberの演者としてもトップを走り始めているね。
対して、ちょっと苦戦しているのが景ちゃん。 彼女はメソッド演技の天才で他者を演じるのがとてつもなく上手かった。 でも逆を言えば自分のキャラクターを演じるのが下手だった。 まさに天性の役者。 役者になるために生まれたような存在。 でも自分自身を容器に他者を受け入れて演じている関係上、自分をモチーフにしたキャラクターを演じる時には中身は結構スカスカだったりするわけだ。
彼女自身は実は我が強くないから、すごく良い子なんだけど、自分自身のキャラクターは現状ではそこまで立っていなかった。 他のキャラをインストールする事も出来るんだけど、自分モチーフのキャラだとキャラ設定がブレブレって事になる。
でもアリサママは積極的に千世子ちゃんと組ませてアバターでの仕事を入れさせていた。
景ちゃんが苦戦しているって言っても、アバターに関しての事だけで、女優としては間違いなく景ちゃんは千世子ちゃんのすぐ後ろまで来ていた。
今後は、企業のCMやイメージキャラクターなどを務める仕事も沢山入って来る事だろうし。 そうなると、単純に役者としての才能だけでは立ち向えない局面が出てくる。
だから、アリサママはまだ出始めで、評価が定まり切っていなくて、火傷しても大して重症にならないアバターを使った仕事を、多く入れさせているんだと思う。
もっとも、景ちゃん自体も即興劇とか普通にやって会話回しも上手いので、アバターの使い方が苦戦しているのは、千世子ちゃんと比べての話であって、同世代では圧倒的に強者だった。
千世子ちゃんと景ちゃんは今度一緒に、このアバターを使ったYoutubeチャンネルを立ち上げるらしい。
ちょっと面白い使い方をするのが阿良也で、阿良也は劇団の幕間とかに、2D阿良也君とラーヤちゃんを使った寸劇とか茶番を演じていた。
これがとてつもない大人気で、これ目当てに劇団天球の劇を観に来る人も増えたし、最近は漫才番組にゲストとして呼ばれる事すらある。
わざと対応するアバターを間違えたり、キャラクターの言い間違えをするのが定番のお約束で、時間が空いている時は良く僕もゲストとして呼ばれたりもする。
舞台衣装やメイクが不要な部分と、僕もヴァーチャルなのでその場に居なくてもゲスト出演ができる所が強みだね。
そんな訳で、僕達の2Dアバターは大人気で世間にも普通に受け入れられ始めていた。
TVも深夜帯でも無いし、マニアックな番組でも無い一般の番組から普通にオファーが来るほど、一般の人達に受け入れられている現状に驚いているんだけど、これは中身が保証されている所から入った部分が大きいのかもしれない。
前世のVTuberは顔出しをしたくない人達でも配信できる新しい形として提案されていたので、中の人をリスナーが知るのは禁忌に近いお約束となっていた。 だから顔出し配信とかも一部の例外を除いてほとんど無かったし、そういうクローズドな文化が形成された関係で、地下アイドルに近いマニアのためのコンテンツとしてVTuberが発展してきた歴史がある。
逆に今世は僕が中の人を保証した上で、表現の一つとして僕達が、エンタメ系のメインストリームに紹介したおかげで、2Dのアバターが市民権を得たみたいだね。他の事務所のアイドルとかもアバター導入を考えているみたいだし、VTuberっぽい活動もちらちらと見られるようになって来たので、前世よりもVTuberは活動しやすくなって、メジャーな存在になって行く可能性がすごく大きいね。
僕は今世でのVTuberの未来に満足しつつ、衣装バリエーションやイベントイラストの依頼のために、最近引っ越した絵麻ママのオフィス兼アパートを訪れていた。
絵麻ママの生活は変わってきたようで、1DKの小さなアパートでルームシェアしていた生活から、ちょっと大きめで部屋数が多い普通のアパートに最近引っ越して、オフィス兼仕事場として僕達クライアントを応対できるスペースが出来ていた。この辺は彼女のマネージャをお願いした興津由佳さんの影響もあるんだろう。 久乃木さんとのルームシェアは引っ越した後も続いている。
そのうち、もう少し貯金が出来たら、マンションにグレードアップするかもね。
内装は、彼女らしく物が少ないけど、アニメーターやイラストレイターとしての能力を生かして、中が広く見えるような視覚効果を生かしたセンスの良いモダンな仕事場となっていた。 アニメーターや漫画家のぐちゃらとした仕事場を想像して入ると虚を突かれるかもしれない。
この辺は、明らかに生活が困窮しているアパートの主に依頼するのと、一般水準レベルのアパートであっても、ちゃんとしたモダンなオフィスを備えて社会人として一定レベルの応対ができる人物に依頼するのでは、クライアントの対応も色々変わってくるので、彼女にとっても大きくプラスになるだろう。
そんなモダンなオフィスに場違いな神棚が置いてあった。 絵麻ママに「あれ何?」って聞くと、「あれは幸運の珍獣様をお奉りしているの」って返ってきたので、中を覗き込むと、珍獣の着ぐるみを着た僕がお奉りされていた。
僕はそのイラストを見て電流が走るような衝撃を受けると同時に、新たなるアイデアが浮かんだ。
アキラ君のいる世界では、現実で存在するVTuberの市場にプラスアルファで、実在のアイドルや声優さん達が、自分の分身であるアバターを使ってお仕事をする、新しい市場が追加されて、同時に立ち上がる感じですね。
アキラ君達の働きで、世間一般つまり、メインストリームのエンタメ市場でVTuberが受け入れられているので、初期からの視聴者数も多く、VTuberの市場や種類のパイが最初から数倍になっている感じです。
もちろん、中の人が判らない普通のVTuberも今後一杯出てきます。
こういう状況になると、声優さんなども積極的にアバターを活用し始めるのではないでしょうか?