星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
前回から、物語の中の俳優名と役名は別にして欲しいというご要望を感想欄で多くいただいているのですが、こちらの対応は、名前が沢山出て来て混乱しないための配慮として、そのまま役者名=俳優名として対応させていただいております。
今回の話では登場人物は10人に渡るため、俳優名と役名を分けると20人分の名前が数話で出てきてしまいます。そうすると、俳優名と役名間の対応関係をいちいち覚えながら文を読まなければいけないため、人名が混乱して、読みにくい文章になる事を防ぐために、こちらの小説では役者名=俳優名をお約束として、書かせていただいております。
セリフなどで俳優名を言う事で、違和感があって大変申し訳ございませんが、こう言った考えで、役者名=俳優名という対応をさせていただいておりますので、よろしくお願いいたします。
阿良也のアドリブは回を追うごとに多くなっていき、完全に台本を逸脱し始めていた。
そしてそのアドリブが良いため、監督は止めなかった。
しかし、ウルトラ仮面の話を破綻させないようにするための僕の負担は高まった。
結果として、阿良也をフォローするために、僕が損な役回りをする羽目になっていた。 主役なのに。
台本を無視して自由に演技をする阿良也を止めるように監督にも抗議したんだけど、明らかに阿良也のアドリブは面白い方向だったので監督たちも止めるのを渋った。
結果、阿良也が全力で自由に振舞いすぎて、僕がフォローする羽目になっていた。 この構図だと、視聴者から見たら明神阿良也が星アキラを喰うように見える流れができている。
僕がフォローしているのは見る人が見ればってレベルであって、大半の視聴者には関係が無い話だった。
正直な話、ウルトラ仮面の主役というのは、元々そこまで演技が求められる訳でも無いから、淡泊な役であった。
直情的な熱血漢な主人公。 ヒーロー物の主人公はテンプレ的で、個性的な悪役に喰われる事は度々ある事だった。 悪役の方が自分の理屈で動けばいいから、正義の枷なんて無いからね。
僕は主役としての責任があるから、物語を破綻させないように頑張るというのも違うような気がしてきた。
そんな感じでストレスが溜まって、僕は大分限界に近づいていた。 そもそもなんで僕は阿良也のフォローをしているんだ?
普通はフォローさせるのは脇役の仕事であり、主役である僕の仕事では無い。
僕は主役なんだぞ! 僕が周りにフォローされるべきなんだ!!
主役と言うのは、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。 僕の心の師匠である井之頭五郎が僕に呟く。
「そんなになるまでして、ヒーローなんてやる意味あるの? だって今の君はボロボロじゃん。」
そうだよ。 ボロボロだよ。 誰のせいだと思っているんだ? おかげで精神的にボロボロな主人公の気持ちが分かって、迫真の演技だよ。
なんで僕に、昔ながらのステレオタイプの主人公をやらせるんだよ。 そういった役をやらせるのであれば、ちゃんとそう言った事を考慮してフォローできる脇役を配置してよ。 昔ながらの主人公をリスペクトしない阿良也のお蔭で、ウルトラ仮面の主人公像では、もう限界に来ちゃったじゃないか。
もうフォローの限界だよ。 確かに正義感に溢れる主人公というのは、多様な正義が入り混じる現代には古い、カビの生えた存在だよ。 でも僕はこう言った時代にこそ真っすぐに正義を貫き通せる主人公を演じたかった。
でも、どうやら僕は主人公の器じゃなかったみたいだ。 僕の力が足りないばかりに、誰よりも憧れたウルトラ仮面の主人公像を、僕自身が殺すことになるみたいだ。
ごめん。 ウルトラ仮面。 僕のために死んでくれないかな?
「阿良也、やっぱり僕にヒーローを辞めさせたいの?」
「そうだよ。 こんな国のやつらなんて守ってやる必要なんてないじゃないか。 これ以上守れないし、もう辞めるべきだよ。 」
相変わらず、親友を演じつつも視聴者に判る程度に邪悪な笑みを浮かべて、僕に体を密着させて来る。 阿良也は僕に対する執着心を示すように、一線を踏み越えて、日本人では全く行わないようなスキンシップを取って来る。
これは、僕の心に言葉を届けて、僕の心の内に入り込み、僕を迷わせようとするための演技だ。 でも、このドラマは絶対にBLの聖典としても歴史に残るだろう。 迫真の演技だから監督もとめないけどさぁ、もうさぁ。 いいよね? 誰も止めないなら行くところまで行くよ。 みんなそれが見たいのだよね?
本来なら、阿良也の甘い言葉にもめげずに、ヒーローとして戦う誓いをする場面だけれども、台本が薄っぺらいんだよ。 こんな薄っぺらい台本でアドリブ全開の天才俳優、明神阿良也を止められる訳が無いだろ!
いくらMDGの候補生だったからと言って、突然ヒーローに当選して、怪獣と戦えるからって、この境遇で自分の命を進んで投げ出すような覚悟があるやつなんて、居る訳が無いじゃん。
そんな事を言うやつはただの狂人だよ。 狂人。 なんで、みんなはヒーローが狂人だって思わないんだろう?
「くっくくくくくっ、くくっ、はははっはは!」
僕は突然、気が触れたように、笑いだす
全く台本にも無い、何の脈略も無い唐突な演技に、阿良也が戸惑った表情を見せる。
僕は主人公なんだから別にフォローなんてしなくてもいいよね?
「阿良也? 阿良也は僕がそんな事でヒーローを辞めると思っているの?」
狂気じみた笑いをして、アドリブ全開で気が触れたように見える僕を、阿良也は呆然と見つめる。
「前にも言ったよね? 僕がヒーローで戦って平和を守っても、それは延命措置で、いずれは限界がきて終わるって。」
僕は狂人染みた笑みを表情に貼り付けながら、阿良也に言った。 大人向けのドラマで無ければ、間違いなく子供達のトラウマになる事だろう。
「その通りだ。 アキラはどんどん追い詰められて、こんなに傷ついて、これ以上、この街も国も守れないじゃないか!」
ついにぶっ壊れた僕を見て、我に返って正論ムーブをぶちかます阿良也。 その常識論はこの場合、悪手だよ。
「それでいいんだよ。 阿良也。」
「突然、何を言っているんだアキラ!」
僕も阿良也を見習って、台本を捨てて全てアドリブで行くことにした。
「阿良也、考えてごらん? 僕が居なかったら、この国はどうなるのかな?」
「MDGの対策も上手く行っていないし、ウルトラ仮面が居なかったら、怪獣に滅ぼされるだけだろ!」
「そうだよ。 でも考えてごらん? このままだとウルトラ仮面もいずれ負ける。 そうすると怪獣に滅ぼされる訳だ。 つまりウルトラ仮面が居ようが居まいが、結果は変わらないんだよ! 阿良也!」
「だから、一緒に逃げようって俺は言っているんだ!!」
「違うよ。阿良也。 結局滅ぶのであれば、どこに逃げても一緒さ。 だからウルトラ仮面は無価値なんだよ。 ウルトラ仮面が戦う事で、みんなちょっと生き延びる時間が増えるだけで、けっきょく結果は変わらないんだ。」
「何を言っているんだ? それが判っているなら、アキラがやっている事が無駄な事だって判っているって事だろ!」
「無駄じゃない、無駄じゃないんだよ阿良也。 あんなに僕を迫害しているこの国の人間は、僕が変身したウルトラ仮面をヒーローとして崇めているんだよ。 滑稽だよね? みんなが希望のヒーローだと思っているウルトラ仮面は、寿命が迫っている末期がん患者を延命するためのただの劇薬でしかないんだ。 」
「完全に無駄じゃないか!」
「そうだよ。 ウルトラ仮面は無価値なんだよ。 阿良也。 もう終わりなんだよ。 死が迫っているんだ。 みんな死ぬんだよ阿良也。 ねえ? 自分が死ぬってわかっている時に阿良也は何をしたい?」
「そんなの考えた事も無いよ!」
「僕はヒーローとして死にたいんだ。 死んだら終わりだ。 全てが無価値だ。 だから僕は、あえて最後にヒーローとして死にたいんだよ!」
「ヒーローとして死ぬのであれば、みんな悲しんでくれるだろう。 次はみんなが死ぬ番なのにね。 だからこそ僕はみんなの希望のヒーローとして、無駄に死にたいんだ。 だからウルトラ仮面は無価値でも、これは僕にとって無駄じゃないんだよ。」
「狂ってる。 そんな事、何にもならないのに狂ってるよアキラ!」
「ハハハハハハ! その通りさ。 僕は狂っているんだよ。」
阿良也の正面に見据えて、今度は逆に僕が阿良也にキスをするぐらいに顔を近づけて、狂気の表情を阿良也に見せつける。
「正義感のためとか、平和のためとか、みんなのためとか、僕はどうだっていいんだ。 みんな死ぬんだ。 その中で僕は、僕のためにヒーローとして死ぬんだ。 ねぇ、僕の夢は本当にすばらしいだろ? わかってくれるかい? 阿良也?」
「本当に狂っていやがる」
「それは僕にとって、最上級の誉め言葉だね。 ハハハッ!」
演技が終わっても、監督さんは何も言わなかった。 僕が狂った迫力にみんな呆然として、頭が真っ白になってたらしい。
少ししたら、我に返った監督さんがカットと言って、収録が終わった。
撮り直しは無かった。
阿良也に続き、僕が台本から降りてアドリブになった事で、この先の膨大な台本が書き直しとなった。
僕と阿良也が暴走してアドリブに走ったけれども、撮った内容は誰が見ても元の脚本よりも面白かった。
そして脚本家は頭を抱えて、もう自由に演じてくれって言ってさじを投げた。
結果として、僕は主役としての自由を手に入れた。
次回、阿良也の視点です。