星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
病院を退院した僕はスターズのオフィスにそのまま直行した。
今日、アリサママに役者に復帰するか、辞めるかの回答をするように言われていた。
身分証とかは自宅にあるので、守衛所に連絡して入れてもらって、ロビーまで移動する。アリサママの秘書さんに連絡を取って、アポを取って重い扉をノックし、アリサママの部屋に入る。
部屋に入るとアリサママは書類に目を通していて、横には清水さんが居た。僕は気を付けをして、直立不動で彼女から反応が来るのを待った。
「で、どうするの?」
アリサママは、書類に目を通しながら僕に聞いた。
「役者を続けさせていただけないでしょうか。」
僕は腰を90度折り曲げて頭を下げながら母さんに回答した。
僕は役者を続けることを選んだ。実際のところ、役者の才能については疑問符が付く状態であったから、違う道を模索する事もいろいろ考えていた。
才能とやりたいことがマッチしていなければ、本当に悲惨だ。
結果が出なければ努力が足りないと言われて、それでも努力して長年努力が実らなければ、努力の方向性が違うと言われる。そして気が付けばやり直しの効かない年齢になっている。
役者は、才能のある人間が正しい努力をしてやっと成功できる世界だ。正直な所、役者を成功させるために人生のリソースを消費するというのは、超ハイリスク、ハイリターンでコストパフォーマンスは非常に悪いだろう。
その上で僕は考えた。「僕には本当に役者の才能が無いのであろうか?」あの母親が無いと言っているので、残念ながらその可能性が非常に高い。あの母親の目が節穴ではないことは、スターズと言う会社の成功が物語っている。おそらくどこかの段階で才能に限界がきて、辞めなければならないタイミングが出てくるのだろう。
ではそれは今か?という疑問。僕の答えはNoだった。
今辞めたら絶対後悔するという確信が僕にはあった。
このタイミングで辞めたら、自殺未遂で役者から逃げた人間というレッテルを一生背負っていく事になるし、まだ僕は星アリサの子供として努力はしていても、自分が役者として成功するための努力をした事は無かった。何より僕自身がこんな状態で役者から逃げることが、すごくすごく悔しかった。
「あなたの自殺未遂のせいで、関係者やスターズのスタッフやメンバーにもあんなに迷惑をかけて、どの面を下げてお願いしている訳?」
「本当に申し訳なく思っております。」
「あなたは自分が持っていた仕事に穴を空けて、自殺未遂の騒ぎまで起こして、あなたに任せる仕事がこれから存在するとでも思っているの?」
「自分の至らなさから、このような騒動を起こした上に仕事に穴を空けてしまい、大変申し訳ございませんでした。もしチャンスをいただけるのであれば、これから挽回していく所存です。」
母さんは沈黙していた。おそらく書類には目を通したままで僕を見ていないだろう。
僕はまだ腰を90度折り曲げて頭を下げていた。
部屋をしばらく沈黙が包み込んだ。
5分ぐらい、いや実は1分ぐらいだったのかもしれない。沈黙の後に母さんはおもむろに口を開いた。
「あれだけ世間を騒がせたのだから、あなたには世間に謝罪する必要があります。単独で謝罪会見を行いなさい。その謝罪会見で世間があなたを許したら、私もあなたが役者を続けることを認めます。」
「チャンスをいただき、ありがとうございます。」
僕は直立姿勢に戻ると、そのまま母さんの執務室を出た。
「はぁ。」
しばらくした後に、星アリサのため息が彼女の執務室に響いた。
「何なの?あれは? てっきり入院していた時のちゃらちゃらした態度で来ると思っていたから、私の方で用意したアキラの辞表を、問答無用で叩きつけようと用意していたのに。」
「彼にも思うところがあったのでしょう。少し見ないうちに立派になりましたな。」清水が答える。
「思わずチャンスをあげてしまったわ。単独の謝罪会見なんて言っちゃったけど、上手くいくのかしら?まだ10歳なのに。」
「アキラ君は少年ですが自分の責任をちゃんと自分で取れるように見えます。きっと成功させると思います。」
「アキラを演劇以外でろくに教育した記憶が無いんだけど、子供って放っておいても成長するものなのかしら? それとも週刊誌にあった通り、私はアキラに甘いのかしら?」
「いや、あなたはトップクラスに厳しい母親だと思います。と、いいますか、育児放棄していた認識があったのであれば、もっとアキラ君を可愛がるべきだったと思います。」
「それは反省しているわ。子供が自殺を図るまで追いつめるなんて、私は本当に最低の母親ね。でもあの子が生きる選択をしてくれた上に、また私の前に顔を見せてくれて本当に良かったわ。」
こうして、星アキラの単独謝罪会見が開催される運びとなるのであった。