星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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ウルトラ仮面イリュージョンの主役のお話

 

俳優をやってみませんか? そう言われて、大学生だった俺は街で俳優のスカウトを受けて、そのまま芸能事務所に所属した。

 

俺は学生時代、ひたすら空手に打ち込んで、ろくに芸能活動なんてやった事が無かったけれども、普通の会社員として勤めるなんて想像も付かなかったので、この提案は渡りに船だった。

 

俺は中規模の芸能事務所に入って、いくつかオーディションに参加したがいずれも落選で、大したコネの無い俺の芸能活動と言うものは順調には行かなかった。

 

ただ写真写りが良いのと、空手をやっていた肉付きの良さから、メンズやいくつかのファッション雑誌などで掲載される事もあった。 しかし、芸能界というのはトップになれば沢山儲けられるが、俺のようなペーペーの人間は食べていけるほどの収入を得るのは中々難しい。

 

俺はアルバイトをしながら、オーディションを受けて落選する日々を過ごしていたが、ウルトラ仮面イリュージョンのオーディションを受けた時に風向きが変わった。

 

俺は最終選考まで残り、なんとあの星アキラを退けて俺が主役を獲得したのだ! さらにこの事を報道され、星アキラを超える天才俳優としてもてはやされて、幸せの絶頂だった。

 

数々の報道をバカ正直に信じ切って、自分自身が星アキラを上回る俳優なんだって思い込んでいた。

 

星アキラがどれだけすごい俳優で、どれだけ自分との実力差があるかなんて考えもしなかった。 この時の俺は、事務所で演技のレッスンなども受けていたけれども、冷静に考えて見れば、養成所上がりの俳優達と比べてさえも、明らかに演技が劣っていた。 そんな人たちを簡単に蹴散らせる星アキラの演技力なんて全く想像すらできていなかった。

 

俺が採用されたのはアクションの良さと、将来性からだったのに、この時の俺はそれを全く理解しておらず、まさにこの時の俺は根拠のない自信に満ち溢れていた。

 

 

しかしそんな自信はウルトラ仮面イリュージョンの撮影が始まると、あっという間に打ち砕かれた。

 

 

撮影はNGの連発。 監督や制作陣の厳しい言葉に心が折れかけて、どんどん俺の演技は委縮していった。

 

そしてなんとか撮影を終えたウルトラ仮面イリュージョンの第一話が放送された。

 

俺はイリュージョンの第一話を見て震えが止まらなかった。 自分ではあんなにはっきりと発音しているつもりの声がボソボソに聞こえて、明らかに滑舌が悪い。 そして肝心のアクションの方も度重なるNGによって、委縮した動きをしていて最悪だった。

 

ウルトラ仮面の演技は、ある程度の演技能力があればそれなりに見えるような構成になっている。 でも、だからこそ水準に到達していない俺の演技能力では、逆にダメな所がはるかに目立って見えた。

 

もちろん、評判は最悪で、俺の滑舌の悪さは、完全にネットのおもちゃとなっていた。 というよりも茶化して面白がるよりも、熱心なウルトラ仮面のファンから、おもちゃにする以外に全てがダメで評価に値しないというコメントの方が心に刺さった。

 

ウルトラ仮面イリュージョンは当然、視聴率が低迷して行く。 俺は毎日重い足取りでなんとか撮影所に通ったが、撮影の雰囲気もどんどん悪くなっていった。

 

俺は主役としてなんとか事態を挽回したかった。 だから事務所が用意したレッスン以外に、滑舌のレッスンを毎日自費で受けて、夜遅くまで台本のセリフと滑舌の練習をした。

 

3ヶ月過ぎた時には俺の滑舌も大分改善していたが、最初に付いたイリュージョンの悪い評判は全く返上されずに、視聴率も低下の一途を辿っていた。

 

そしてウルトラ仮面Blackの製作発表。 俺は星アキラから自力で役を勝ち取った訳では無かった。 星アキラに大役をオファーするための代わりとして俺が選ばれただけだった。

 

俺は心の支えを失い、がっかりして心が折れかけていた。 そしてウルトラ仮面Blackの放映が始まると星アキラとの差に愕然とした。 

 

もちろん製作費の違いはある。 でも星アキラがどれだけすごい俳優であるのかは、実際にイリュージョンの主役を演じている今の俺なら痛いほどわかった。

 

周りの俳優たちに気を使われてフォローされている俺に対して、星アキラは逆に周りをフォローしている上に、周りの俳優たちも星アキラを信頼して全力で演技を行っている。 これがどれだけすごいのかは、同じ立場に居てもがき苦しむ俺だからこそ誰よりも強く痛感した。

 

掲示板や芸能ニュースで日々掲載される、ウルトラ仮面Blackとイリュージョンの比較でも自信を喪失して、メンタルもどんどん悪化して行った。 ちゃんと主人公を演じられていない事は誰よりも俺自身が良く解っていた。

 

そんな俺を支えてくれたのは、小さい子供や、こんな状態でも俺を応援してくれるファン達だった。 俺の撮影現場まで来て応援してくれたり、こんな俺のサインを喜んでくれるファン達。

 

こんなダメな主人公であっても、こんなどん底でもまだ俺を応援してくれるのだ。 ファンや子供達の俺を見つめるキラキラした目を見ると、俺がウルトラ仮面の主役を投げ出すのは絶対に違うって思えてきた。

 

ウルトラ仮面は俺だけの物語じゃない。 シリーズを連ねる沢山の歴史、沢山の先輩達、そしてウルトラ仮面に夢を与えられた沢山の子供たちや、大人になっても見続けてくれるファン達。

 

確かに俺は星アキラよりも、演技でも、面白さでも、魅力でも全て負けているかもしれない。 でもだからと言って、ウルトラ仮面の主役を俺が投げ出していい訳じゃない。 ウルトラ仮面イリュージョンは俺が主役の物語だ。 主役の俺の心が折れてしまったら、ウルトラ仮面イリュージョンは本当に終わってしまう。 星アキラに負けていてもいい。 俺は子供たちに正義のヒーローとして夢を与えるために、この逆境の中で奮い立った。

 

滑舌が悪いから何だと言うんだ! 星アキラよりも演技ができないから何だと言うんだ! ウルトラ仮面Blackに負けているから何だと言うんだ!

 

逆境のどん底で俺のハングリー精神に火が付いた。 人間、どんな状況でも自分が諦めなければ絶対にやり直せる。 ウルトラ仮面Blackに負けている事を理由に諦めかけていた昨日までの甘ったれた俺に別れを告げて、ウルトラ仮面イリュージョンに俺の全てを投じた。

 

ウルトラ仮面イリュージョンは俺が主役で、今度は俺がヒーローとしてファンや子供たちに夢を見せるんだ!

 

覚悟の決まった俺は、何度も台本の練習をして、誰よりも早くスタジオ入りをして、セットの大道具さん達を手伝いながら、ウルトラ仮面イリュージョンを文字通り全力で演じた。

 

本気で奮い立った俺を見て、何かを感じたのか、他の出演者や監督、制作陣も熱を入れて撮影するようになった。

 

あいかわらず掲示板などでは、ウルトラ仮面Blackの面白さとイリュージョンのダメさを比較されたが、そんな事に心を揺さぶられるよりも、いかにしてウルトラ仮面イリュージョンを良くしていくのか。 俺はそれだけに集中して、夢中になった。

 

そして転機は、その比較対象だったウルトラ仮面Blackによってもたらされた。

 

ウルトラ仮面Blackは大人向けに作られた物語だ。 きつい描写もあって、素直に子供たちに見せる訳には行かない。 そうすると、ウルトラ仮面Blackを見て昔の夢を思い出した大人たちは、代わりに子供と一緒にイリュージョンを見てくれるようになった。

 

ウルトラ仮面Blackが回を追うごとにどんどん面白くなって、話題となって視聴率がうなぎ登りになるのと同時に、ウルトラ仮面イリュージョンの視聴率もどんどん伸び始めた。

 

俺にもう一度チャンスが巡ってきた。

 

その頃には、滑舌の悪さも克服しており、持ち前のアクションを発揮して、俺の演技も主人公として見れるレベルに達していた。 初期で見なくなったファン達も、再び俺を見てくれて再評価してくれるようになった。

 

そして、ウルトラ仮面Blackが12話で終わると、ウルトラ仮面Blackの制作陣も合流して、制作陣が大幅にテコ入れされてシナリオも面白くなり、クライマックスに向けて盛り上がって行く。

 

ウルトラ仮面イリュージョンの最終話では、高い視聴率を獲得して、最終的には名作として高い評価をもらう事ができた。

 

最終話の撮影が終わると、俺は監督や共演した俳優達から花束をもらった。

 

そして監督から、「やはり俺の目は間違っていなかった。 君ならこの厳しいウルトラ仮面イリュージョンの逆境に屈せずに、成長してくれると信じていた。」という言葉をもらい、男泣きをしてしまった。

 

ウルトラ仮面は、俳優達の登竜門。 俳優と共にウルトラ仮面も成長していく。 俺は、この気高い志を持ったウルトラ仮面の主役を演じられた幸運に感謝した。 本当につらい仕事だったけれども、だからこそやり遂げた事で自分に自信を持つことができた。

 

かくして、ウルトラ仮面イリュージョンは終わった。 後任の新しいウルトラ仮面は、俺と一緒に最終審査に残って、星アキラと共に落ちたもう一人の俳優だった。 彼は再びあのオーディションを受けて勝ち上がったのだ。 彼であればまた新しいウルトラ仮面の歴史を作ってくれる事だろう。

 

あれから、数年。 俺の芸能活動は順調だった。 そして今、劇場版で公開される『ウルトラ仮面大集合』の試写会に歴代の主役を務めた俳優達と共に、一緒に並んでいた。

 

同じようにウルトラ仮面のシリーズをやり遂げた先輩たちと一緒の舞台に立てる事に誇りを感じる。

 

舞台の上で、ウルトラ仮面でヒーローとして成し遂げてきた数々の経験を元に、絶対の自信を持って言葉を発する。

 

「俺こそがウルトラ仮面イリュージョンだ!」

 

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