星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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阿佐ヶ谷芸術高校映像科 3年A組 朝野市子

 

「雪ちゃん、おはよう。」

 

「おはよう。市子ちゃん。」

 

アキラ君のチャンネルでウルトラ仮面の打ち上げをやった私は、翌日に自分が所属している阿佐ヶ谷芸術高校映像科に出席した。

 

「昨日もアキラ君のYoutubeの撮影大変だったでしょう。」

 

「ほんとに。 昨日はあれだけの豪華俳優を集めての打ち上げパーティーだったから、墨字さんに助っ人に来てもらって、さらに夜凪ママにも手伝いをお願いしたけれども、本当にぎりぎりだったわよ。墨字さんにスイッチャー(複数カメラでどの映像を使うかを切り替える係)をやってもらおうかと思ったら、この放送では、お前がディレクター兼、映像作家なんだからお前が切り替えろ。 俺はカメラマンをやるなんて言って、てんてこ舞になるし。」

 

雪ちゃんはいろいろぼやいていた。 昨日のウルトラ仮面打ち上げ会はアキラ君の家で開催されたから、簡単に人を雇う訳にも行かず、普段は手伝ってくれる景ちゃんも出演していた事から、沢山のカメラやマイクを操作する裏方の作業は大変だった。

 

ウルトラ仮面打ち上げ会の放送の時に、私はそんなテンパっていた雪ちゃんを見ながら和やかにみんなと話していたのだ。

 

「これから、打ち上げ会の切り抜き動画とか大変じゃないの?」

 

「切り抜き配信の編集は私がカット割りを指定して外注に出すだけだから大した手間じゃないけど、次のウルトラ仮面関係の企画とVTuberの企画があるから、そっちの方が忙しいかも。 あと、週末は墨字さんの所に応援に行かないといけないし。」

 

雪ちゃんは中学生の時に、映像科の講師を務める黒山墨字さんとすでに知り合いであり、アキラ君のYoutube放送の裏方をお手伝いしながら、墨字さんに弟子入りしてスタジオ大黒天でアルバイトもしていた。

 

なので、雪ちゃんは見方によってはバイト三昧な訳だけれども、すでに映像制作の最前線でプロとして活躍するフリーランスと言えなくもなかった。

 

ちなみに、雪ちゃんは几帳面で真面目な性格なので、学校の成績もよくて、今後の進路を映像関係の大学に行くか、このままスタジオ大黒天に就職して、アキラ君の手伝いをしながら自分の映画を撮る夢を目指すのかを迷っていた。

 

私から見ると、彼女はすでに沢山のプロ達と仕事してきた事もあって、大学に行ってもそんなに学べる事は無いんじゃないかな?と思っている。

 

でもスタジオ大黒天への就職もどうだろうか?とは思う。 黒山墨字の監督としての腕は本物だとは思うけれども、あそこは儲かっているとは言い難いし、苦労しながら身銭を削って映画を撮るというのは結構辛いものになると思う。

 

というか、すでにスタジオ大黒天とアキラ君の所で働くのとでは時給格差が酷すぎる。

 

スタジオ大黒天の方は普通の高校生アルバイトの時給なのに対して、アキラ君は技術職としてちゃんと労働契約を結んだ上で、その2倍以上の時給と夜遅くなるから、タクシーの送り迎えや食事等の諸々のサービスが付いていた。

 

アキラ君と墨字さん。 年齢が倍近く違うのに、どっちが大人なのかを聞かれたら間違いなくアキラ君だろう。

 

雪ちゃんが大学に行こうかどうかを迷うのも、アキラ君がちゃんと彼女の技術の対価を支払っていて、彼女がそれを貯めていて資金的に進学の目途が立っているからであって、アキラ君の元でのアルバイトは確実に彼女の未来の選択肢を増やしていた。

 

ちなみに、雪ちゃんは実はもう一つの進路をアキラ君から提示されている事を知っている。 スターズの映像制作部への就職で、手塚由紀治監督たちと一緒に映画を作らないかというお誘いだった。 このお誘いは大学を出た後でもいいってアキラ君は言っているから、私の目算だと、スタジオ大黒天やアキラ君の元でアルバイト継続しつつ、映像学科がある美術系の大学に進学して、その後に就職先を考えるって所かな。 雪ちゃんのお母さんも大学に行く事にすごく賛成らしいし。

 

こうやって見ると、アキラ君はなにげにスパダリじゃない? 「スパダリ」とは、「スーパーダーリン」の事。 高学歴・高身長・高収入のハイスペック。 これをアキラ君に当てはめると、

 

高学歴(高校1年生(笑)) ×

高身長(165cmただし成長中w) ×

高収入(収入はヤバイw) ◎

 

ごめん。 全然スパダリじゃなかったw。 あのクソガキはただのスパダリ風珍獣だったわw。

 

「そういえば、市子ちゃん、課題の方はどうなの?」

 

「もうすぐ、山田君の脚本が上がるところよ。 そうしたら撮影の日取りとか決めて文化祭に間に合わせる感じ。」

 

雪ちゃんと私、そしてSFオタクの山田君と一緒に1年の頃から班を組んでいた。 そして三年生の今、その総決算として三人で20分ぐらいの映画を撮って文化祭で発表する事になっていた。

 

山田君が脚本を書いて、雪ちゃんが監督と映像、私が演技と演出でバランスの良い組み合わせだった。

 

「二人とも朝早いね、おはよう。」

 

ちょうど山田君が入ってきた。

 

「脚本できた?」

 

「うん。 はい。 これでどう?」

 

「普通高校で映画監督を志す女の子が、クラスメイトの反発を受けつつも、みんなで協力して卒業記念として映画を作る作品か。」

 

「なんで彼女がこんな事を言い出したかっていうと、この後、戦争でみんな死んでしまうんだけど、死んだはずの彼女は高校生に戻ってやり直しているんだ。 だから今回も死ぬかもしれないけれども、死ぬ前の生きた証としてみんなと一緒に映画を残すことにしたんだ。」

 

「なんか、山田君にしてはすごく現実路線だよね。」

 

「私も、もっと訳の分からないSF要素満載なのかと思ってたわ。」

 

「現実問題、二人は忙しいし、SFのセットなんて僕一人では作れない。 何よりも僕の自己満足で、すでに活躍している二人に汚点を残すわけにはいかないからね。」

 

「うわ、意外。 あの山田君が大人になっている。」

 

「僕だって、君たちの活躍を見て何も感じない訳じゃないんだ。 今僕達が使えるのは学校ぐらいな物だし、朝野さんが演じたウルトラ仮面を見ていると、へっぽこで自己満足満載なSFに朝野さんを出演させる訳にはいかない事は僕にもわかるよ。」

 

阿佐ヶ谷芸術高校で学んだ日々は、確実に山田君も成長させていたみたいだった。でも、あの無鉄砲に情熱だけでSFの夢を追い続けていた山田君が変わっていくのもまた寂しい思いがあった。

 

「学校の使用許可はすでにもらっているから、それじゃ、出演してくれる知り合いを集めて2週間後の土曜日に撮影開始ね。」

 

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「で、集まった知り合いがこれなの?」

 

「いじめっ子Aの役の星アキラです。 よろしくお願いします。 子役としていじめっ子を演じた経験は豊富ですから安心してください。」

 

「いじめっ子Bの役の三坂七生です。 いじめっ子役は初挑戦ですががんばります。」

 

「クラスのカースト最上位で嫌な女の子役の百城千世子です。 私も子役の頃にこういった役をやったことがありますのでその経験を活かしてがんばります。」

 

「ひょうきんなクラスメイト役の青田亀太郎です。 ノリ良くがんばりますので、よろしくお願いします。」

 

「主人公の妹役の夜凪景ですっ。 今回はがんばりますので、よろしくお願いします。」

 

「主人公の親友役の明神阿良也です。 よろしくお願いします。」

 

「学校の教師役の環蓮です。 ドラマでも何度か教師役を演じた事があるから安心してね。」

 

「主人公の母親役の星アリサです。 今回はこの子たちの引率役も兼ねているのでよろしくお願いします。」

 

 

「ねぇ? 二人ともさぁ、 確かに演技を出来る人を呼んでくれっていったけどさぁ、これは無いんじゃないの?」

 

私も雪ちゃんも薄々気が付いていたことに対して、山田君が的確にツッコミを入れる。

 

私と雪ちゃんが知り合いで、ノリが良くて卒業制作に付き合ってくれそうな役者を選んだらこうなってしまった・・・。

 

改めて見ても、集まった役者達がスーパーハイエンドすぎる。 本当にガチで友情出演だけど、これ本当にいいのだろうか?

 

他のメンバーは映像科のクラスメイトや関係者ばかりの素人で中間層がスポッと欠けていて、演技者のレベルの差がえぐいほどに違う。

 

映像科のクラスメイト達もガチで本物の俳優のオーラに当てられてビビりまくっている。

 

そもそもこのメンバー相手に私が主役って、確実に私、美味しく喰べられちゃうよね? いちごだけに。 (ハイエンドいちごギャグ)

 

そんなのを危惧していた撮影だったけれども、撮影自体は5時間ぐらいであっと言う間に終わった。 その後にみんなで打ち上げに行って、アキラ君のお金でみんなで飲み食いをした。 ご馳走様です。

 

アキラ君達と一緒に出演して、食事も奢ってもらった映像科のクラスメイト達も大満足だった。

 

元々20分ぐらいの自主制作の短編映画で、この人たちがNGを出す訳もなく、逆に経験の無いクラスメイト達を優しくフォローしてくれて、自分でも拍子抜けするほどあっさりと撮影が終わった。

 

普通は素人ゆえの手際の悪さから、ぐだぐだするんだろうけど、私も雪ちゃんも実際の撮影現場で鍛えられていたからそんな事もなくて、テンポよく次々とカットを撮影して行った。

 

正直、このメンバーを相手に演出担当の私は、ほとんど仕事は無かった。 怪しい部分は、各々のアドリブで綺麗に修正されていた。

 

最後に雪ちゃんがプロの手際とクオリティーで映画を仕上げると、なんか、とても卒業課題の自主製作映画とは思えない短編映画が完成した。

 

みんなのアドリブの結果、話がすごく良くなって、最後は感動して泣いちゃったけど、普通はみんなで夢を語って、ものすごい苦労をしたのに、クオリティーが低い物が出来上がって、青春の思い出か黒歴史になるものじゃないの?

 

何かコレジャナイ。 私達3人の中で何かが違うと思いつつも、出来ちゃったものは仕方が無かった。 自主製作で頑張っている他の班のみんな。 本当にごめんなさい。

 

私達は、出来上がった課題を恐る恐る講師の墨字さんに提出すると、墨字さんは頭を抱えて胃のあたりを押さえていた。

 

「星アリサまで俺の胃を破壊しに来るなよ・・・。」って呟いていたのが印象的だった。

 

文化祭で公開した私達の自主製作映画は、それはそれは大反響でもう笑うしかなかったwww

 

 

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