星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
ちょっと時は経って、僕は18歳になって無事に車の運転免許を取った。
車はポルシェを買おうかと思ったんだけど、みんなでディーラーに見に行ったら、助手席にしか人がまともに乗せられないとみんなから不評で、購入を断念した。
なんでや。 ポルシェ博士最高じゃないか! 第二次世界大戦中の物資が欠乏していたドイツ軍でガソリンエンジンで発電機を回して電気モーターで進む戦車を作ったウルトラマッドエンジニアなのに!
ポルシェ博士は「ユーザーの立場で考えた場合、多少でも不利となりうる要素は決して採用すべきではない」
とかいうすばらしい名言を残していて、乗用車や軍用車はくっそ真面目で素晴らしい設計するのに、たまに血迷って頭のネジがどっかに飛んでいく変態設計の魅力がみんなには判らないらしい。
とは言っても、ポルシェを買ったとしたらスポーツカーを乗り回す芸能事務所のボンボンバカ息子の絵が完成するので、僕の評判も悪くなりそう・・・。
かといって、プリウスやカローラとかを、一応成功しているカテゴリに入っている芸能人として乗るのもちょっと微妙だろう。プリウスの変態ハイブリッド機構もポルシェ博士に勝るとも劣らなくて、結構好きなんだけど。
そもそも、免許取りたての1台目で、東京都内で乗るとか廃車にしてくださいと言わんばかりの車になるんだから、ボディーがガリガリ傷ついてもすぐに直せる車がいい。
結局、そういった要素を考えた結果、消去法で他のみんなを乗せても体裁を保てるレクサスLSになってしまった。こっちはみんなで見に行ったら普通にOKをもらえた。みんなが車を見てわいわいやる中、僕はディーラーのカウンターでやさぐれながら、オレンジジュースをぐびぐび飲んでいた。
もっとも僕は前世で免許を持っていた訳で、前世のアメリカでは女だてらに中古のマスタングに乗っていて、日本に戻ったらランエボというかなりあれな趣味だった。
この趣味を今世で発揮したらみんなドン引きだろう。そもそもこんな車に千世子ちゃんや景ちゃんを乗せる訳にはいかない。・・・阿良也は別にいいけど。
こうなったら車の趣味は隠して、とりあえず免許取りたての純粋無垢なアキラ君を装う事にしよう。僕は演技は得意なんだ!(自虐ギャグ)
-----------------------------------
ところで、最近、特に変わった事と言えば、何といっても景ちゃんが墨字さんのスタジオ大黒天に移籍?した事だ。
事の発端は、墨字さんが景ちゃんが主演の映画を撮りたいと言い出した事で、景ちゃんもそれに賛同。 アリサママは少し考えると、景ちゃんのスタジオ大黒天への移籍を条件に認めた。
僕は、景ちゃんをこんな簡単に手放すアリサママに驚いた。アリサママはこんな回答だった。
「景ちゃんはあなたや千世子と違ってメソッド演技が主体の女優よ。 確かに景ちゃんは映画や台本でメソッド演技の経験を補える稀有な才能を持っているわ。 でもそれだけじゃ黒山墨字が撮る夜凪景の初主演作を演じるには全然経験や能力が足りないわ。」
「私は黒山墨字が撮影する夜凪景の初主演作を最高の作品として見たいの。 だから景ちゃんには墨字君のそばに居て、彼の考えや映画を撮るという事がどういう事か学んでもらう必要があるわ。 このまま周りの環境でなし崩し的に役者になった所で、夜凪景が才能を十全に発揮するとは思えないわ。 結局景ちゃんには一度スターズを出て役者と言うものをちゃんと考えて欲しいのよ。」
「・・・言っている事は判るけれども、スタジオ大黒天じゃ景ちゃんのマネージメントは上手くできないんじゃないの?」
「景ちゃんのプロデュースとマネージメントはうちでやるから安心していいわよ。」
「その辺はちゃっかりしているんだね。」
「そうよ。夜凪景は最高のダイヤの原石よ。 世界一のダイヤになるためには研磨が必要だけど、別にダイヤを研磨師にあげる必要も無ければ、自らダイヤの価値を落とす必要も無いわ。 ただ預けて磨いてもらうだけよ。 景ちゃんに何かあってもうちがちゃんとサポートできる体制にしてあるから安心しなさい。」
「いつものサイコパスなアリサママで安心したよ。」
ちなみに、夜凪ママもこの対応には賛成していた。 彼女もなし崩し的に景ちゃんが芸能人になるのは不安だったらしく、ちゃんと自分を見つめ直す機会があればそれをするべきだと、景ちゃんに自立を促した。
そんな訳で、景ちゃんは僕達の家を出て、セキュリティのしっかりしたマンションで一人暮らしをしている。ちなみに同じマンションには僕が家賃補助をして雪ねぇちゃんにも住んでもらっている。 この辺は過保護だけど保険の意味もある。 いくら本人のためとはいえ、メソッド演技者を一人にして気が付いたら廃人になっていましたとか、シャレにならないからね。
雪ねぇちゃんは阿佐ヶ谷芸大の映像研究科に進学して、勉強とスタジオ大黒天の仕事をメインにしつつ、バイトで僕達のYoutubeの映像関係の仕事もしてもらっている。
雪ねぇちゃんは、大学進学とスタジオ大黒天への就職に迷っていたみたいだけど、僕は迷う事無く大学進学を推した。
理由は極めて単純。 最低賃金に近いスタジオ大黒天へ就職するよりも、大学に進学しながら僕達のバイトを掛け持ちした方が収入が多いからだ。 自分の映画を撮りたいという夢を見るのは結構な事だけど、その夢に向かいつつも、潰しが利く道があるのであれば、そちらを選ぶべきだ。
最悪、大学を中退して大黒天へ就職すればいいじゃんと言ったら、雪ねぇちゃんは素直に大学へ進学する道を歩んだ。 大学とバイトの両立は大変だけど、彼女の持ち前の勤勉さと才能で留年する事無く、見事に両立している。このままいろいろな経験をしながら大学を卒業できれば、たとえ彼女が映画監督になると言う夢に破れたとしても、彼女にはまだ沢山の物が残る事だろう。
・・・あれ? でもこの理論を展開すると、役者一本で高卒になりそうな僕はヤバくないですかね? 役者の夢が破れた時のために、大学の経営学部とか行っといた方がいいのかな? でも別に将来のニート生活の資金はすでに確保してあるから、役者の夢が破れたらニートにでもなって気楽なVTuber生活でも始めるか・・・。
そんな事を考えながら、今日、僕はスターズ主催の映画『デスアイランド』の記者会見冒頭の挨拶のスペアとして、劇場の控室に居た。
「スターズ主催の映画『デスアイランド』は人気コミックが原作で、現在のキャストに加えて残り12名はオーディションから募り、計24名の若手俳優・・・・。」
「うーむ。固いなぁ・・・。こんな挨拶なんてくっそ面倒だから千世子ちゃん撮影終わって来ないかな・・・。」
「アキラ」
「んっ?アリサママ? 何?」
「記者会見の挨拶であなたの出番は無くなったわ。」
「おおっ。という事はプランAで行くんだね。」
「そうよ。デスアイランドにあなたが出演するというのは今後は極秘よ。」
「はーい。ところで千世子ちゃん、よく映画の撮影をこんな短期間で終わらせたね。」
「アキラちゃん、映画はNGを出すから時間がかかるんだよ。私はリテイクさせないから私のシーンはすぐに終わるわ。」
17歳になって空前絶後の美少女になった千世子ちゃんが控室に入ってきた。
「千世子ちゃん、その当たらなければどうということはない理論はなんとかならないの?」
「私のカメラ映りは完璧なんだから、リテイクなんて無いわ。」
「キャラクターを作っているのは判るけれども、その三下っぽい若さゆえの過ち感が半端無いよ。この後挫折するフラグがビンビンだよ。」
「そうね。肝に銘じるわ。それじゃ行ってくるわね。」
「行ってらっしゃ~い。」
こうして、スターズが主催する映画『デスアイランド』のプロジェクトが開始されるのであった。
142話にしてやっと原作突入なのです。