星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
千世子ちゃんのデスアイランドの記者会見から1か月後、今日はデスアイランドのオーディションの開催日で、僕もオーディションの審査員として並ぶことになったよ。
今回のオーディションは1次は書類審査、2次は映像審査、そして3次として今日は演技審査だね。
今日の参加者は500人。 この中からまずは単独の演技審査で200人に絞った後に4人のグループを作ってグループでの演技審査を経て12人に絞られるね。
まずは単独の演技審査。 10人ずつ悲しみの演技をしてもらうよ。
僕は演技を見て演技者の評価項目をテキパキと記入して行く。判断が難しい部分や、実力が判り切らない人については、どのような悲しみを表現してとか、どのように表現してなどを具体的に指示してそのリアクションを見たりもしている。
演技審査時に審査員として僕が並んでいるのを見るとぎょっとする人が居るけれども、最初の驚きはいいんだけど、それが演技に後を引くようなら僕は低めの評価をしている。僕はわりと俳優寄りの演技技術なんかの評価を期待されているとは思うんだけど、実際の所、僕の評価基準はこの人を加える事で映画が面白くなるか、ならないかで判断している面が大きいから、僕の場合には個性的な人の点数が良くて、演技技術にはあまり拘っていなかったりする。
なので、僕はけっこうアバウトな審査内容の審査員だね。
対して、僕の横の墨字さんなんかは、イメージとは違ってそれぞれの演技者を詳細かつ客観的に評価していて、注釈を入れてかなり信用がおける審査表を作成していたりする。 うーん。映画監督ってすごいんだねと僕は完全に他人事で審査を続けていた。
そんな審査をしていると、景ちゃんが入ってきた。今回、景ちゃんはスターズではなく一般枠としてスタジオ大黒天から参加している。
「それでは悲しみの演技をしてください。」
司会の清水さんがそう言うと、演技者は思い思いの悲しみの演技をする。 そんな中にぼ~と突っ立っているように見える景ちゃん。
うん。本当に悲しみの中に居るのもわかるし、悲しみによって硬直する表情筋なども完璧だ。 見る人が見れば判る繊細で非常にリアルな演技だ。
でもこの映画は映画通向けの作品じゃなくて、大衆向けの映画なんだよ景ちゃん。 否定されるのを覚悟であえて言うのであれば、天然物の質の高い材料と調理技術による繊細な薄味ではなくて、がつんとインパクトがある味がウケるんだ。質の良い材料による薄味と、本当にただ味が薄いだけの料理の差を、君と審査を受けている年頃の子の全員が見分けられる訳じゃない。
まぁ、審査員は全員映画通だからこの演技は多分伝わっている。 でも周りで演技をしている人から見たらどうかな? ただ突っ立っていただけで合格した景ちゃん。 落ちた他の参加者からは、明らかに依怙贔屓でオーディションを受かったようにしか見えないだろう。 正直に言ってそんな噂はスターズとして損失でしかない。
立たなくても良い悪い噂を自分から進んで立てる必要は無いだろう。だから僕は言った。
「夜凪景君、課題は悲しみのはずだ。 僕の席からは突っ立っているようにしか見えない。 ちゃんと全員に伝わるように演技して欲しい。」
「私は真剣ですよ?」景ちゃんは首をかしげた。
「真剣なのは判るけど、全員に伝わるようにやってもらえないかな?」
「夜凪、バカでもわかるように演じろ。」
墨字さんがフォローを入れてくれる。
「こうですか?」
景ちゃんは少し大げさに涙を流すと、全員に悲しみが伝わるようにすこし大げさな演技をした。 悲しみで胸が締め付けられるようでみんな景ちゃんから目を離せなくなった。 演技の格が違うのがみんなに伝わる。 そんな演技に他の参加者がざわつく。
景ちゃんと同じ組に入ってかわいそうだけど、このオーディションの合格者は1人だけじゃない。12人だ。ここで自分の演技を止めるようであれば、落選しても仕方が無いし、この参加者は景ちゃんが依怙贔屓で受かったとも思わないだろう。 どちらにせよ、残りの9人の中にはこの夜凪景を喰ってやろうという人は居ないみたいだった。
僕はこの後もオーディション参加者の演技審査をテキパキとこなして行って、グループ演技の審査に残った200人が発表された。