星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
夜凪景視点
「順番にオーディションを受けていただきます。 名前が呼ばれるまでこちらでお待ちください。」
3次の演技試験に受かった私は翌日、グループ演技の控室に案内されて、指定された席に着いた。
「えっと、もしかしなくても夜凪景ちゃんやよね?」
「はい。夜凪景です。」
「私は湯島茜。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「俺、鳥山武光よろしく。」
「源真咲だ。よろしく。」
私は、グループ演技で同じグループとなる、同じテーブルの人達と挨拶をした。
「てっきり景ちゃんはスターズ側からの出演だと思っていたんやけど、どうして一般のオーディションを受けているの?」
「今、私は役者として自立するために、スタジオ大黒天っていう別の事務所に所属しているんです。」
「それって、スターズをクビになったって事?」
「いえ、そういう訳では無くて、マネージメントとかプロモーションとかはスターズがやってくれているのですが、こういった役者としての仕事を取るのにちゃんといろいろな経験をして自分の力で仕事をしたらどうかとアリサさんから言われまして、それで今事務所を変えている感じです。」
「いつも千世子ちゃんと仲良くVTuberの放送をしているわけだから、そんな所だろうね。 でもやっぱり星アリサって獅子の子を崖から落として育てるって本当だったんやね。 アキラ君の話とか壮絶だものね。 逆にあそこまでやるからあんな化け物みたいなハリウッドスターになるんだって思うけれども。」
「アキラさんは例外中の例外なので、参考にならないとは思いますが、アリサさんはすごく役者の事を考えてくれている優しい人ですよ。」
「そういえば、最初の演技審査に星アキラが居たのがびっくりしたな。」
「おちゃらけているかと思ったらしっかりと審査していたね。」
「アキラさんは基本的に仕事はしっかりとしますよ。」
「もしかしてアキラ君のYoutubeとかキャラ作ってたりするの?」
「いや、あれも素だと思います。アキラさんはかしこまった場で怒られるギリギリの綱渡りするのが、もともと大好きですから。あれもアキラさんですね。ただ仕事を受けたら内容にもよりますけれども、仕事の方はかなり真面目にこなしますよ。ああ見えても、アリサさんと同じように信用第一に考えている人ですし。」
「へぇ、意外。 でも景ちゃんは合格はほぼ確定だろうけど、私達は判らないからね。」
「簡単に受かるようなオーディションじゃないと思います。私も3次の演技審査でもアキラさんに注意されましたし。」
「注意されたって何を注意されたの?」
「私が演技をしていたら、『僕の席からは突っ立っているようにしか見えない。 ちゃんと全員に伝わるように演技して欲しい。』って言われました。」
「えーーっ。景ちゃんが? どんな演技をしたの?」
「こんな演技ですけど・・・」私は審査の時と同じ悲しみの演技をした。 心が悲しくなって涙が出そうになるのを必死にこらえる。
「うわっ、すごっ。すごく繊細に悲しみが伝わってくる。これを見て注意する星アキラの目って節穴じゃないの?」
「多分、アキラさんに伝えるんじゃなくて、他の参加者の人達に伝わるように演技するのが大切だったみたいで、墨字さんには『バカでも伝わるように演技しろ』って言われました。」
「確かに、繊細すぎてその演技だと、人によっては突っ立っているだけにしか見えないから、10人居る審査の中じゃ埋もれちゃうかもね。」
「ところで、みな同じ本を読んでいるみたいですが、流行っているのでしょうか?」
「はっ?お前自分が何のオーディションを受けに来たのか知らねーのかよ?」
源真咲さんが言った。
「千世子ちゃんが演じる映画?」
「ミーハーかよ。主演の事じゃねぇよ。 デスアイランドの原作コミックを読まないでオーディションに挑むとか流石にナメているだろ。」
「俺も読んでいないぞ。俺たちは演技力と人柄で勝負するべきだ。作品に媚びても仕方が無い。」
鳥山武光さんが言った。
「原作を読まねぇのは怠慢だ。貸してやるから読め。」
「そんな物を読んだら芝居が引っ張られるじゃねぇか!」
源さんと鳥山さんは二人で口論を始めた。芝居に対する考え方が二人で180度違うのかもしれない。
「ねぇ、アキラ君とか千世子ちゃんはこういう時に原作を読んだりするの?」
湯島さんが私に聞いて来た。
「千世子ちゃんとアキラさんは台本と原作を両方読むと思います。特に千世子ちゃんは、原作漫画のコマ割りからカメラのカットやアングルを考える感じで、その他には共演者の情報とかシーンの見せ方に重点を置くと思います。 アキラさんは台本、原作を共に熟読した上で、必要なら原作者や監督、演出家の人などの関係者に話を聞いて準備万端で臨むと思います。」
「へー。アキラ君も下準備をしっかりやるんだ。これも意外。てっきりその場の雰囲気でアドリブとか入れまくりかと思った。」
「アキラさんは問題が無ければ基本に忠実な演技をしますよ。ただ、基本に忠実に演技をした結果、自分が求められている役や期待とは違う演技になった瞬間に、その入念な下準備を容赦なく切り捨てて、見ている人を驚かせる演技をするだけです。」
「この辺の場の持って行き方は誰も真似ができませんね。突然アドリブで滅茶苦茶な会話をしているのに、相手方の会話の内容や台本上の展開はそのまま修正の必要が無くて、全員の目が点になった事とか何回も経験しています。千世子ちゃんは逆で、台本の通りに演じているのにカメラ映りや演技の内容が極上すぎて、1発でOKされる感じです。」
「流石すごいね。星アキラと百城千世子。それで、景ちゃんは原作を読んでこない派だったんやな。」
「アキラさんに聞いたら、『12人の誰がどんな役をやるかなんて決まっていないんだから、原作なんて読んでキャラを決め打ちするような無駄な準備をするぐらいなら、何も考えないで出された課題を上手く演じた方がいいよ。そもそも課題自体が秘密なんだから対策を立てようが無いし。』って言っていたので、そのアドバイスに従って、何も準備してきませんでした。 まだどの役とか決まっていませんし・・・。」
「作品に必要なら受かって、不必要なら落ちる。やっぱりそれだけの話なんやな役者なんて・・・。」
「私は、私の事さえ知れたらどんなお芝居も出来るはずだから。それが私の最大の武器だから。」
「自分の事さえ知れたら、どんな芝居も出来る。夜凪は面白い事を言うんだな。」
鳥山さんは私に言った。そんな事をしているうちに係の人が私達のグループを呼びに来た。
「そちらのテーブルのグループの方、こちらにどうぞ。」
「無人島に漂流した24人の生徒達が最後の一人になるまで殺し合うのが、『デスアイランド』よ。景ちゃんの演技楽しみにしているわ。」
「楽しみだわ。私、無人島に漂流した事なんて無いから。どんな自分が待っているのかしら。」
私はみんなとお話をしながら、グループ演技の会場に向かった。