星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
前の演技試験で500人から300人が脱落して残り200人。 翌日に残った200人はグループ演技の審査に移る。
今回の審査内容は無人島のセットで、修学旅行中の飛行機が落ちて無人島に流れ着いた4人が5分以内に殺し合いを始める演技をしてもらう。
演技の台本などは特に無くて、その場のアドリブで演技してもらう感じ。つまりエチュード(即興劇)を突然組んだ4人のグループでやってもらう感じだ。
グループのメンバーとは事前に立ち話をした程度の相手に対して、どのぐらい切り込んで殺し合いという極限状態にまで持って行くのかすごく楽しみだね。
と審査に移ったんだけど、手塚由紀治監督はざっと見で1分ぐらいで演技を切って、次々の順番に移らせようとした。
流石に1分は短すぎる。確かに1分もあればある程度力量は判る。 でも演技者にとっても突然組んだグループで1分で相手の力量を推し量って即興劇に移るのに必要な時間でもある。
まぁ、1分も見ればある程度、力量は分かるけれども、このオーディションの参加者たちは、並々ならぬ熱意と時間をかけて準備して来たのだ。それを1分ぐらいしか劇を見ないで落としていくとか失礼すぎるし、こんな事を続ければ、能力のある人でも今後、スターズのオーディションに参加してくれる事が無くなるだろう。
僕は1分程度で演技を止めようとした手塚監督を止めた。
「監督、1分ぐらいで演技を切るのは、オーディションの参加者の人達に失礼です。 最低3分ぐらいは見てください。 このままではスターズは上辺の演技しか見ないで、気分次第でオーディションを落とす傲慢な芸能事務所という噂が立ちます。」
「分かったよ。 アキラ君。 でも1分もあればある程度の力量がわかるんだけどね。」
「それはある程度でしかありません。 ちゃんとポテンシャルを評価するのであれば、3分ぐらいは必要では?」
「アキラ君がそう言うのであれば、そうさせてもらうよ。」
手塚監督は、自分を拾ってくれたアリサママも同じことを言うだろうと思ったのだろう、スターズの事務所を考えた意見に対して素直に従ってくれた。
今回のキャスティングは最終的には手塚監督に全て任されている。今日の僕の立場は審査員というよりも、今日は千世子ちゃんの撮影に付き添いをしているアリサママの代役って所だった。
今回の審査は200人で4人ずつの50組。 50組程度であれば1組に3分程度かけても、十分に今日の午後には終わる。
僕は次々に来る参加者の即興劇を審査員ではなく、エンタメとして楽しんだ。
これまでで面白かったのは、イケメンの佐藤一と面白キャラの小寺童子の組で、イケメンの佐藤一に嫉妬全開の小寺童子がイケメン死ねと開始10秒で殺しに走る芝居が一番面白かった。
そんな参加者の芝居を楽しんでついに景ちゃんの番が来た。
「すごい。無人島だわ。」
すかさず町田リカさんから芝居の説明が入る。
「制限時間5分以内に四人が殺し合いを始める演技をしてください。」
「それって、人を殺す人間になれって事ですか?」
「はいそのように演じてください。デスアイランドですから。」
景ちゃんの質問の意図をリカさんは分からなかったみたいだ。 メソッド演技で殺人者を演じろというのは、とても心身に負担がかかるものだ。景ちゃんに殺人者の人格を受け入れるんですか?って意味なんだけど、まさしくその通りなのでそのままにしておいた。
景ちゃんにとって、殺人者を演じるというのは、自分の良心や信義に反した人間最大の禁忌を犯せる人格を景ちゃんが受け入れて、心が完全にその人間になるということだ。
もちろん、彼女は殺人の経験など無い。
この状況でどういう殺人者を演じればいいのか、景ちゃんはとても悩んでいるだろう。でもだからこそ、僕は景ちゃんに原作を読まないでオーディションに行く事を勧めた。
原作の人物の誰かを演じられたりしたら、そのキャラを完璧に演じるだろうけど彼女の成長には繋がらない。
メソッド演技の天才である彼女は、殺人という人間最大の禁忌に対して、自分が本来持つ良心の呵責を乗り越えて殺人者を演じられるのだろうか?
殺人者を演じた後の彼女は、アリサママが指導したように心のコントロールが出来るのだろうか?
僕は彼女の演技をつぶさに観察した。