星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
景ちゃん達の組の即興劇が始まった。
墜落した飛行機から砂浜に流れ着くメンバー達。
景ちゃんは砂浜で倒れながら、墜落する飛行機から海に落ちて溺れたシーンを追体験しているんだろう。まどろんでいるみたいで、他のメンバーよりも動き出しが遅い。
一番体力のありそうな鳥山武光君が起きて、冷静そうな源真咲君が無人島にたどり着いた状況を説明する。うん。いい流れだね。
突然、湯島茜さんが鳥山君の胸ぐらをつかんで、脱出時に鳥山君のせいで機内に水が入ってみんなが溺れた事を責め始める。
ヒートアップする参加者たちの口論。 徐々にボルテージが上がって行き、このまま殺し合いに行く感じかな? でもこんな口論ごときで日本の道徳教育を受けた高校生が殺し合いまで発展するかな? これからの過酷なサバイバル生活を生き残るのに必要な仲間かもしれないのに? これだったら、鳥山君がハイジャック犯だったって方がまだ殺す動機があると思うんだけど、どうなんだろう?
「生きてる」
景ちゃんが起き上がった。 墜落した飛行機から九死に一生を得たように放心状態で肌はその時の緊張感からか汗でびっしょりだ。
「みんな? 何を言っているの? 奥に人里があるかもしれないのに。」
「歩いてもいないのにどうしてここが無人島だって知っているの?」
「勝手に決めつけて喧嘩して、あなた達どうしたの?」
これまでのお芝居の流れを完全にぶった切った景ちゃんに、他の参加者は完全に戸惑う。
景ちゃんの言っている事は正論だけに、他のメンバーが積み上げていた設定がご破算になって完全に固まる。
「いい加減にしいや! さっきから訳の分からん事ばかり何のつもりやねん!!」
おおっ、湯島茜君が逆上した人間を演じた。それに怯える景ちゃん。 いいねぇ。 みんな虚を突かれて、自然な感じになってポテンシャルが見えて来た。景ちゃんはこっからどうやって殺し合いに持って行くんだろう?
「茜、お前さっきから変だぞどうしたんだ?」
源真咲君が暴走する湯島さんに対してフォローを入れる。いいコンビネーションだ。
「あなた達、おかしいわ。 何でこんな事で口論しているの? どうしちゃったの?」
明らかに不自然な3人に怯えた景ちゃんは、森の中に走って逃げようとする。しかしセットの端にぶつかり、盛大に音を立てて逃げ場がない。
「来ないでっ!」
景ちゃんは怯えた渾身の演技をする。
やっぱり同年代の所にポンと放り込むと力量が違いすぎて景ちゃんの方が逆に浮くね。
「くくくっ、そうだよ夜凪、皆を殺したのは俺達だ。他の人間はみんな引っかかったのに、お前だけ察するとはな。でもお前にも死んでもらう。」
鳥山君が機転を利かせて、見事に殺し合いに持って行く。設定的に苦しいけどいい機転とコンビネーションじゃないかな。ツッコミ所は満載だけど、ちゃんと殺し合いになる展開だよね。
僕は景ちゃんの様子を良く観察した。 そして目つきと雰囲気が変わった事がわかる。
今、彼女は原初の衝動によって心の憶測に閉じ込めていた生存本能に動かされて、自分の身を守るためにこの状況で殺人を厭わない覚悟を決めた。自分の身を守るために人を殺せる目つきに変わる。
「いいねぇ。」
僕は人殺しができる人間になっている景ちゃんの演技を素直に賞賛した。確かにこれなら自分が生きるために他人を殺さなければいけないという究極の選択において、流れが自然で見ている人の共感も得られやすいだろう。 この劇は景ちゃんを中心に回っている。 ただし、周りは景ちゃんについてこられるかな?
「なんでこんなめちゃくちゃできんねん! 皆必死やのに! 真剣なのに! 人の気持ちが分からんのなら役者なんて辞めてまえ!!」
突然、湯島茜さんがプッツンして景ちゃんに覆いかぶさって、彼女の首を締めながら景ちゃんを責め始める。
まぁ、彼女にとってはみんながオーディションに受かるための必死のお芝居をぶっ壊されたって感想なんだろう。力を発揮する前に自分の芝居をぶっ壊されて不本意なままオーディションに落選するのが耐えられなかったんだろうね。
僕も必死に人生を賭けた努力をして甲子園に出たのに、一人の身勝手な選手によって何の実力を発揮できずにボロ負けでもしたら同じ感想を抱くだろうし、殺意も沸くだろう。
でも最初のままの芝居を続けていた所で、平均点で結局落選だったけどね。その意味では、このチームのメンバーは景ちゃんと組めて非常に幸運だったね。
「あー終わっちゃった。」
町田リカさんが気の抜けた感想を言った。
「いや、これはこれでいいんじゃないかな? 僕はこの即興劇を十分に楽しめたよ。」
僕はみんなを賞賛してパチパチと拍手をした。
「すごく面白い劇だったよ。 最初は予定調和の胡散臭い立ち回りから始まったけど、最後は本当の殺し合いになった。 そして湯島茜さんは特に良かった。 湯島さん。 君は我を忘れて本気で景ちゃんを殺そうとしたよね。 自分の夢に立ちはだかる邪魔者を、夢の実現のために排除するのを厭わない。 殺人は禁忌でいけないことだ。 でもその殺人をしない理由は千差万別で、殺人に至る動機も千差万別だ。 自分の夢のために邪魔になる人を消す。 湯島さんはそれだけ自分の夢にかけているという事だし、その動機は僕もすごく共感できたよ。」
僕がそう言うと、湯島さんは真っ青になってガタガタと震えていた。 自分が我を忘れて本当に景ちゃんを殺そうとしていた事に気が付いたのだろう。
景ちゃんは絞められていた首を開放されて、ごほごほっと咳をしながら起き上がった。
「景ちゃん、のど大丈夫?」
「大丈夫です。」
僕は景ちゃんの状態を確認すると、手塚監督とアイコンタクトをした。
「まだ全員が終わっていないから結果を伝えることはできないけれども、このチームは現時点ではかなりの好成績だったって事は伝えておくよ。それでは後が詰まっているので、次の人達に譲ってもらえるかな?」
この後に景ちゃんと他の参加者にしこりが残らないように僕はフォローを入れた。
湯島さんは景ちゃんに支えられて退出して行った。湯島さんは焦点の当たらない目で景ちゃんにしきりにごめんなさいって呟いている。
まぁ、今回は景ちゃんが周りの力量を考えずに暴走しすぎたね。湯島さんの言う通り、ちゃんと周りの俳優がどうしたいのか意図を考えてあげるべきだったね。
ただ、周りに合わせるだけだったら、僕はこのチーム全員を落選の方向で審査したけどね。その意味ではあそこからひっくり返した景ちゃんの演技は数少ない勝ち筋で結果オーライだった訳だ。景ちゃん一人が突出して全然スマートな劇じゃなかったけどね。
景ちゃんはこれまでは、僕達のように ある程度良く知っている人か、力量の高いベテラン俳優などとしか演技をしたことが無かった。
これは王賀美兄さんと同じように、力量差がある子と演技させてその子を潰さないようにというアリサママの配慮で、王賀美兄さんの場合には過去に自分の力量を抑えることができなくて、不満が爆発してスターズを抜けたので、その過去の経験を元に景ちゃんには元から極端に力量差が出る役をさせなかった。 だから彼女は僕らや阿良也達、いちごちゃんなどを除いて同年代と共演する事はほとんど無い。
今回の演技はそんな景ちゃんが初めてやる初対面の同年代の人達との演技だったからこう言う事もあるだろう。 まぁ、こう言った場の経験が無い景ちゃんに抑えろというのも無理だし、周りの人も景ちゃんの力量に合わせられるとも思えない。 その意味ではかなり良く演じていて、それぞれの参加者にとって得るものが大きい劇だっただろう。
こうやって、景ちゃんに自然と他の出演者に合わせた演技を学ばせるのが、スタジオ大黒天に移籍させたアリサママの目的か。こうして景ちゃんをパワーアップさせていくんだな。
んっ?・・・・・今恐ろしい事に気が付いてしまった。
そもそもスターズであれば、持ち前の営業力でオーディションをしないでも役を取って来れる。でもこれは景ちゃんのためにならない。今回のような経験をいっぱいさせるために、スタジオ大黒天に移籍させた。
こう言う認識だったんだけど、実は裏があるかも。
こう言ったオーディションなどの場で今回のような騒ぎを起こしたら、スターズに在籍したままだと当然スターズの評判が落ちる。 でもスタジオ大黒天であればそれは大黒天の責任で、そんな騒ぎはスターズの方には降って来ない。 その上で、今回のオーディションのように何かこじれたらスターズが仲介してその場を収める事で、双方から感謝される。 事の発端は景ちゃんに経験を積ませるためにスターズから移籍させたせいなのに、スターズは景ちゃんが元々在籍していた事務所という理由で助け舟を出して、義理堅い事務所として評判を上げられるのだ。
完全にマッチポンプじゃないか! うわぁ、墨字さんもお気の毒に・・・。そしてアリサママ怖っ。流石はサイコパスのボス天使!
僕はホラー展開になった思考を追い出して、残りの組の演技審査に集中するのであった。