星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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湯島茜は夜凪景と殺し合いを演ずる

 

デスアイランドのオーディションにうちは賭けていた。

 

夢やった女優を目指すために高校を中退したうちは、居酒屋でアルバイトをして女優を目指して活動しとった。

 

特に千世子ちゃんの口から、デスアイランドで12人分の外部メンバーによる公開オーディションが発表されてから、うちはオーディションに受かるための努力が生活の中心やったんや。

 

うちが所属しとるオフィス華野の先輩や事務所の人にオーディションに受かる方法や練習方法を聞いて、事務所におる間は実際にレッスン、一人の時間もずっとその練習に充てとった。 正味、アルバイトとの二重生活はほんまにきつかったけれども、このオーディションを目標に人生を賭けてやれる事は全部やった。

 

そして、オーディション当日、まずは悲しみの演技。審査室に入った時に星アキラが居たのはびっくりしたけれども、すぐに切り替えて私の悲しみの演技を行う。

 

アキラ君からは、「湯島茜さん、もっとこらえるような悲しみの表現できるかな?」って聞かれて、自分なりに「こんな感じですか?」と演じた所、「いいね。関西人らしい少しオーバーだけど義理堅い性格が演技にも出ていてすごくいいよ。」と褒めてもらった。 別にエントリーシートにも関西出身って書かんかったし、何も喋っとれへんのに何でうちが関西人やって分かったんやろ? と疑問に思いつつも、審査は好感触で無事に個人演技の審査を通過して、グループ演技に進んだ。

 

その後のグループ演技では、あの夜凪景と一緒のグループになった。 何で!?と思ったけれども、事情を聞いてみて驚いた。スターズの12人のキャストに景ちゃんがおらんのが疑問やったけれども、修行のために別の事務所に移籍しとったなんてびっくりやった。 景ちゃんでもオーディションに落ちるんやろか? それとも最初から合格が決まっていて実は最初から枠が11人分しか無いんやろか? この辺は考えても無駄なのでうちは自分の演技に集中する事にした。 景ちゃんに引っ張り上げてもろてオーディションに受かる道もあるはずだから。

 

・・・なんて、控室で気軽に考えとった自分をどついてやりたかった。

 

オーディションのスタジオに入ると、無人島が用意されていてそこで、制限時間5分以内に四人が殺し合いを始める演技をするっちゅう無茶ぶりな課題が出された。 ほんで打ち合わせも出来んとすぐにオーディション開始。景ちゃんを除いたうちらは5分っちゅう限られた時間を十分に活かすべく、起きてすぐに口論を始めた。

 

そうして、なんとか口論から殺し合いに持って行けそうだと目途が立った所で、景ちゃんが遅まきながら起き上がってセリフを言った。

 

「みんな? 何を言っているの? 奥に人里があるかもしれないのに。」

 

「歩いてもいないのにどうしてここが無人島だって知っているの?」

 

「勝手に決めつけて喧嘩して、あなた達どうしたの?」

 

うちは景ちゃんの芝居に頭が真っ白になってもうた。 今冷静に振り返ってみれば景ちゃんの言う事は正しかったし、稚拙に運びすぎたうちらの芝居では合格なんてありえんかったやろう。 景ちゃんは完全に無人島に流れ着いた人間として演技をしていて、殺し合いっちゅう結論ありきの演技で、無人島に流れ着いた瞬間に口論を始めたうちらの芝居の不自然さを根本からぶった切った。

 

ほんで怯えた景ちゃんはセットの奥に逃げて、追い詰められて、景ちゃんを罠に嵌めようとしたうちらと戦う決意をした。

 

後で考えてみれば見事な機転と演技やった。 せやけどその時のうちは3人でなんとか殺し合いに持って行けた劇を壊す景ちゃんを猛烈に拒絶した。

 

頭の中をよぎったのは、これまでの努力の日々と、啖呵を切って高校を中退して関東に出て来てからのバイトと事務所のレッスン、ほんでお金に困るしんどい日々。 せやけどうちは挫けんと夢に向かって努力し続けた。 なんとしてもこのオーディションに受かって、両親を安心させたい。 デスアイランドに出演して自分が夢を追う道は正しいって自分の力で証明したい!

 

せやけど自分の力を証明する前に、景ちゃんの演技によってうちらのハリボテの演技はぺしゃんこに潰されて、塵になりよった。

 

例えハリボテでも、一生懸命やったのに! 人生をかけた演技やのにどうして景ちゃんはうちらを否定するの! 景ちゃんはどうせ合格するからうちらの芝居なんてどうなってもええの?

 

景ちゃんにこれまでの演技を全否定されたうちは、自分の選択や自分の人生みなを否定された気分になって、目の前が真っ赤になった。

 

「なんでこんなめちゃくちゃできんねん! 皆必死やのに! 真剣やのに! 人の気持ちが分からんのなら役者なんて辞めてまえ!!」

 

うちは気が付いたら、みんなのお芝居をぶっ壊して演技なんかやのうて、首を絞めてほんまに景ちゃんを殺そうとしとった。

 

そんな怒りと殺意に囚われとったうちの耳に場違いな拍手の音が聞こえる。

 

うちははっと我に返った。 拍手をしとったのは星アキラやった。ほんで星アキラはうちの心の内をほんまに正確に代弁した。

 

「すごく面白い劇だったよ。 最初は予定調和の胡散臭い立ち回りから始まったけど、最後は本当の殺し合いになった。 そして特に湯島茜さんは良かった。 湯島さん。 君は我を忘れて本気で景ちゃんを殺そうとしたよね。 自分の夢に立ちはだかる邪魔者を自分の夢を実現するためには排除するのを厭わない。 殺人は禁忌でいけないことだ。 でもその殺人をしない理由は千差万別で、殺人に至る動機も千差万別だ。 自分の夢のために邪魔になる人を消す。 湯島さんはそれだけ自分の夢にかけているという事だし、その動機は僕もすごく共感できたよ。」

 

そのセリフを聞いた瞬間にうちは、星アキラに心臓を掴まれたような衝撃を受けた。うちはこの手で景ちゃんを殺そうとしとった。 お芝居ではなく本気で景ちゃんを。

 

その事に気が付いた瞬間にうちは猛烈な悪寒と冷や汗が全身から流れ出た。

 

うちは、ほんまに人を殺そうとしとったんや・・・・。

 

自分の夢のために他人を殺すと言う禁忌を犯せる自分自身に猛烈な嫌悪が湧いて来た。うちは女優になる夢が一番大切やった。せやけど人殺してまで女優になりたい訳やあれへん。でもほんまのうちはその女優の夢のためなら、人を殺せる人間やった。

 

自分自身に対する猛烈な人間不信によってうちは吐き気がして、オーディションのスタジオを出たら、すぐに近くにあったゴミ箱に吐いてしもうた。

 

そしてうちはうわごとのように景ちゃんに謝った。 涙を流しながら子供のように景ちゃんに謝った。こないな事をしても許されへんのかもしれへん。うちは本気で景ちゃんを殺そうとしたんや。

 

「ごめんなさいっ。景ちゃん、ごめんなさいっ。 殺そうとしてごめんなさいっ。 全部うちが悪いんや。 ごめんなさいっ。」

 

ぜったい許されへんやろうけど、うちは駄々っ子のように景ちゃんに謝り続けた。

 

せやけど景ちゃんは逆に涙を流して謝った。

 

「違うの。全部私が悪いの。 茜さんやみんなの事なんて考えないで、お芝居しちゃったからっ。 こんなに傷つけてごめんなさいっ!!」

 

もういろんな感情がごっちゃまぜになって、控室までの廊下で景ちゃんとうちは抱き合って、長時間ワンワンと泣いとった。

 

しばらく二人で抱き合って泣いていたら、だいぶ普通に考えられるようになってきた。

 

「本当にごめんね景ちゃん。」

 

私は最後に謝ると、景ちゃんは

 

「そんな事無いです。本気で殺される体験ができてすごく嬉しかったですっ。こんな経験は普通ではできないからすごく良かったです。」

 

「根っからの役者やね。景ちゃんは。」

 

うちは、景ちゃんの役者魂に呆れた。 ほんでうちらは友達になった。

 

その後しばらくして、うちのアパートにデスアイランドのオーディション合格通知が届いた。

 

 

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