星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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湯島茜は星アキラと百城千世子の即興劇を見る

 

あの後にグループになったみんなと色々おしゃべりをしとると、全員のグループの審査が終わってオーディションが終了する事になった。

 

ボロボロの劇やったけれども、結果的にアキラ君から好成績だと伝えられとった事から、おしゃべりしとるみんなの雰囲気もそう悪くはあれへんかった。

 

最後に終了の挨拶っちゅう事で、またあの無人島のセットのスタジオに入ると、審査員や事務所のメンバーの他に星アリサと千世子ちゃんがおった。

 

千世子ちゃんから挨拶があった。

 

「皆様、オーディションへのご参加ありがとうございました。 発表は後日ですがこの中に居る人と一緒にデスアイランドを撮影できるのがとても楽しみです。アキラちゃんも審査員ありがとうね。」

 

「もちろんだよ。千世子ちゃんとアリサママが撮影で居なかったから僕はがんばったよ。」

 

「置物よりも大分マシな働きはしたようね。まぁ、今回のオーディションで落ちた人は適当に審査したアキラを恨むといいわ。」

 

「アリサママ酷いよっ。僕はオーディションに参加するみんなのためにいろいろがんばったのにっ!」

 

星アリサと星アキラの漫才によってスタジオの中が緩やかな笑いに包まれる。 ほんまに普段からYoutubeでアキラ君が言うとる事をアリサさんは言うんだ。 てっきりアキラ君の作り話かと思とった。

 

「ちょうどいいわね。セットもあるし、目が節穴のアキラに審査されるだけじゃオーディションに参加していただいた皆様もつまらないでしょう。 アキラ、千世子、二人でオーディションの演目をやってみなさい。」

 

「え゛っ、アリサママ、そんなの聞いていないんだけどっ。 いきなりみんなと同じ題目の即興劇なんて僕のメッキが剥がれて星アキラなんて大したものじゃない事がバレちゃうじゃないか! せっかく実力派俳優だってみんなを騙せているのに!!」

 

「面白そうね。 アキラちゃん、どんなお題の即興劇だったの?」

 

「無人島に流れ着いて、制限時間5分以内に殺し合いを始める演技をするってお題だよ。」

 

「うん。問題なさそうね。 じゃ、やりましょうか。」

 

千世子ちゃんがそう言うと、すたすたと砂浜に歩いて行ってしまった。

 

「あっ、千世子ちゃん! まずいこのままでは、僕が勘違い系の主人公でみんなに誤解されて、一般人なのにすごい俳優だって持ち上げられているだけな事がバレてしまう!」

 

アキラ君はそう言うと、入り口にオーディションの時から用意されとった箱に近寄って、中から何か取り出すと、明らかにいやいやな感じで砂浜に行って、全くやる気が感じられへん感じで、ぐで~と倒れ込んだ。

 

アキラ君の嫌々な行動とか、コミカルな倒れ方でうちは笑ってもた。

 

「そんじゃーはじめるねーーー。」

 

アキラ君がそんな風に気の抜けた発言をして、さらに場の空気が緩みかけた瞬間に、ドライアイスでも投げつけられたみたいに部屋の空気が変わった。

 

なんていうか、場の空気が急にお化けが出るような感じで冷たくシリアスになった感じで、とたんにすごい緊張感を感じる。えっ?なんで? 二人とも倒れとるだけやのに。 見とるオーディション参加者も突然の雰囲気の落差に困惑したようでざわっとざわめきが起きる。

 

ほんでアキラ君はおもむろに起き上がると、真剣に千世子ちゃんを起こし始める。

 

「千世子ちゃん、千世子ちゃん、大丈夫? 起きて千世子ちゃん!」

 

さっきまでのアキラ君と全然ちゃう。 瞬間的に部屋の温度が20度ぐらい落ちたように感じた。 コメディーと感じるような緩んだ雰囲気から突然めっちゃシリアスな雰囲気の落差に放り込まれて、うちはいきなり混乱した。

 

「あっ、アキラちゃん、どうしたの?」

 

千世子ちゃんがゆっくりと目を覚ます。

 

「覚えていないの?一緒に乗っていた飛行機が海に墜落したんだよ。 それで海流に巻き込まれて、なんか島に流れ着いたみたいなんだ。」

 

「そうなの? なんか、飛行機の中で眠くてずっと寝てたから墜落って言われても、全然覚えていないわ。」

 

「助かったのが僕達だけなのかはわからないけれども、とりあえず千世子ちゃんが無事でよかったよ。」

 

アキラ君がそういうと、千世子ちゃんはおもむろにあたりを見渡して起き上がる。

 

「なんか、綺麗な島ね。 私はそんなに外に出歩けなかったから、こんな風に自由にできて嬉しい。私が無人島で自由に暮らすのを憧れていたのは知っているよね。夢が叶ったみたい!!」

 

「なに呑気な事を言っているんだい? 生きて帰れるのかわからないのに。」

 

千世子ちゃんは森の方に向いて歩いて行く。ほんでちょっと歩くと、振り向いてアキラ君に言うた。

 

「でもアキラちゃんは私を生きて返す気は無いんでしょう?」

 

「なんだ気付いていたのか。」

 

そう言うと、アキラ君は手をピストル型にして千世子ちゃんの頭に向けると、パンッって乾いた拳銃の大きな音がスタジオに鳴り響いて、千世子ちゃんは目を開けたまま、事切れたように無機質に砂浜に倒れた。

 

一目でわかる。百城千世子は頭を銃で撃たれて即死した。

 

ピストルの発砲音や情景があまりにもリアルすぎて、ほんまに星アキラが百城千世子を銃で撃ち殺したみたいで、オーディション参加者の何人かから悲鳴が上がり、みんなはさらにざわついた。

 

私も頭が混乱して緊張のあまり、体が震えて星アキラから目が離せなくなった。 アキラ君はすごい殺気を発しとった。 次はうちにあのピストルを向けられるかもしれへん。 自分も生命の危機を感じるぐらい星アキラの芝居はヤバかった。

 

全員の視線が星アキラ一人に集中する。

 

ほんでアキラ君は殺気を引っ込めるとそのままの表情でゆっくりと涙を流して、悲しみに満ちた表情で言うねん。

 

「千世子ちゃん、ごめん。 でも君が18歳を迎えると天使の因子が目覚めてしまうんだ。 僕は君のことを愛していたけれども、君を人類の敵として目覚めさせる訳にはいかないんだ。 許してくれとは言わない。 僕を恨んでくれてかまわない。」

 

そうして、ゆっくりと死んだ千世子ちゃんの方を振り返る。

 

「千世子ちゃん!?」

 

うちらもアキラ君に合わせていっせいに千世子ちゃんの方を見ると千世子ちゃんの死体があれへんかった。全員が星アキラに注目させられとるうちに、百城千世子の死体がのうなっとった。

 

驚いて焦る星アキラは反対側を見渡そうと動いた瞬間に物陰から千世子ちゃんがアキラ君を押し倒す。

 

目がランランでガンギマリした千世子ちゃんがアキラ君の首に噛みつく。

 

「ぎゃあっぁぁぁ、これは天使化している。 18歳を迎える前なのにどうして!!」

 

そう言いながら、千世子ちゃんはアキラ君を貪り喰い始める。

 

「千世子ちゃん、すまなかった、許してくれっ、うがぁぁっぁぁぁああああああああああっ!!!」

 

この世が終わるような苦悶の悲鳴を上げながら、星アキラが苦しみぬいて、血が飛び散る!

 

周りの女性参加者はうちと同じく、ガタガタと震えとる。 男性の参加者も口元を抑えて震えながら二人を見とる。

 

ぐちゃぐちゃと、千世子ちゃんがアキラ君の内臓を貪り喰う音がスタジオに響き渡る。 アキラ君は段々と動きが緩やかになっていって、最後は手がだらんと倒れて死んだみたいや。

 

ほんで、千世子ちゃんがこちらに目を向けて、おもむろに口を開く。

 

「アキラちゃん、あなただけは信じていたのに。 でも大丈夫。 アキラちゃんの体は私の血肉になって、魂も私に囚われてずっと生き続けるんだから。」

 

千世子ちゃんは下を向いたまま、独り言を言うとゆっくりと顔を上げて、うちらを見つめてきた。

 

うちに目があったみたいで、うちは緊張で硬直する。

 

百城千世子の口元は星アキラの血で赤く染まり、微笑みながらゆっくりと顔を上げて美しい表情を見せる。ほんでうちとバッチリ目が合ってしまう。

 

血で顔が汚れとるにもかかわらず、この世の物とは思えへんぐらい美しかった。 いや、ほんまにこの世の物では無いのかもしれへん。 もしかして星アキラが喰われたのも現実で、実はほんまに天使なのかもしれへん。

 

これはお芝居ではなく現実!? うちはその可能性に気が付いて悲鳴を上げそうになる。

 

百城千世子は、そんな私を見つめてにやりと笑う。百城千世子と目が合ってしもうた。次に殺されるのはうちとちゃうん!? うちは芝居であることを忘れて、生存本能が刺激されて、おっきな悲鳴を上げる。

 

「きゃああああああああああぁぁ!!!!」

 

「うわぁぁぁっぁぁああああああああああ!!!!」

 

いっせいに見とるオーディション参加者の男女を問わんとほぼ全員が悲鳴を上げる。スタジオがパニックになりかけた所で、ポクポクポク、チーンと。場違いなギャグのオチとも思えるような木魚とリンの音がスタジオに響き渡る。

 

「いや、流石に千世子ちゃんにモグモグ美味しく食べられて人生を終えたくないよ。なんで僕が千世子ちゃんのご飯になっているのさ!」

 

死んだはずのアキラ君がむくっと起き上がって、千世子ちゃんにいちゃもんをつける。

 

「アキラちゃんの声帯模写って本当に便利よね。効果音いらずだわ。自分で自分の内臓を食べられる音を出すとか面白いわ。」

 

「それにアキラちゃん、最近成長しているしお肉が美味しそうかな?って思って。そもそも何よ?天使化って。私は致命傷を避けてアキラちゃんが注意を逸らしているうちに女手一つで襲い掛かって一矢を報いようとしたら、なんでそんな化け物設定にされているのよ! 酷すぎるわよ!」

 

「いや、千世子ちゃんは天使って言われているから、とりあえず天使万能論でなんとかなるかな?って僕は思ったんだよ。」

 

「設定がひどすぎるわ。 人を食べる天使なんて芸能活動できる訳ないでしょ!!」

 

「それなら、僕をもぐもぐタイムしなくても良かったじゃん。この設定を振られた時に、実は美味しいかもって思ったくせに。」

 

「美味しいと思ったのは否定しないけど、さすがにこの展開はびっくりしたわ。 血糊まで用意して。 よく血糊なんて持っていたわね。」

 

「実はオーディション参加者用として入口に最初から用意されていたんだよ。誰も使わなかったけど、必要なら持って行って使って良かったんだ。」

 

「なるほど。殺し合いをするまでじゃなくて、ちゃんと殺される所までが審査内容だったんだ。」

 

「そこについてはノーコメントで。アリサママ? こんな感じでいい?」

 

「まぁ、撮影向きの演技じゃなかったけど、臨場感があって見世物としては良かったわね。いきなり千世子を殺すのは意外性があって良かったわ。みんな完全に虚を突かれたもの。その後に視線誘導させて千世子から全員の注目を外して千世子を自由に動ける体制にしたのも良かったわ。 でも千世子を殺す理由がご都合主義でリアリティが無いから、5分の即興劇でももう少し考えて作り込みなさい。」

 

「はーい。」

 

「千世子もアキラに合わせて動けて良かったわ。特にいきなりアキラが千世子を撃ち殺した所は意図を汲んで即死したのは良かったわね。アキラが視線誘導をさせて注目を集めている隙に死角から襲い掛かるのも良かったけれども、その後に、襲い掛かってアキラを貪り喰う芝居は綺麗だったけど、イマイチね。 愛している人を食べて血肉とする事で倒錯した感情と美しさを出したかったんでしょうけど、単純にお肉を美味しく食べる天使にしか見えなかったわ。もう少しアキラとの繋がりや心の葛藤を表現できるように研究しなさい。」

 

「アリサさん、ありがとうございます。」

 

アリサさんは容赦なくダメ出しをしていく。 信じられへん。 うちが現実かもって錯覚したこのとんでも無いレベルのお芝居でもアリサさんには及第点レベルなん!? どれだけレベルが高いんよ!

 

「うわぁ、服が僕の血で真っ赤っかだよ。このまま街を歩いていると、お巡りさんに捕まっちゃうかも。すぐに水洗いしてクリーニングに出さないと。」

 

アキラ君は、そう言うてズボンからウェットテッシュを取り出すと、千世子ちゃんの顔の血糊を拭いてあげてた。

 

うちは二人の演技で腰が抜けて動けんくなっとった。目の前で繰り広げられた殺し合いが劇では無くて現実だって完全に錯覚しとった。これが二人とも全く示し合わせていない即興劇なんて今でも信じられへん。

 

景ちゃんは横で「やっぱりアキラさんと千世子ちゃんの劇は面白いですっ。私もアキラさんの生き血を啜ってみんなを脅かせる役をやってみたいですっ。」とかキラキラと目を輝かせながら言うとる。

 

レベルが違いすぎるあの芝居を見て、自分でもできると思っとん!? この娘もどれだけハイスペックなん!?

 

うちはその時に気が付いてしもた。 景ちゃんが、今見たアキラ君や千世子ちゃんと同じレベルの役者やったとしたら? 二人からは景ちゃんは天才と言われとる。 少なくとも景ちゃんはアキラ君や千世子ちゃんと一緒に演技をして浮いとった事なんて見た事あれへん。

アキラ君と千世子ちゃんの芝居が本当のプロのレベルだとすると、私達の芝居はただの学校でやるクラスの出し物レベルだった。

 

景ちゃんがぶち壊したと思とったオーディションのお芝居、せやけど実はうちらの芝居を壊されたんやのうて、うちらが景ちゃんの芝居をぶち壊しとったとしたら? うちらが景ちゃんの演技を助演しきれて無かったとしたら? うちらのレベルが景ちゃんよりもはるかに低いとしたら?

 

あのオーディションの場に景ちゃんと共におったのがうちらやのうて、星アキラか百城千世子なら全く違った展開になったのかもしれへん。

 

うちはアリサさんがここでアキラ君と千世子ちゃんの芝居を見せた理由が分かった。 オーディションに落ちた人は自分とは役者のレベルがちゃうんやなって納得できると思うし、オーディションに受かった人は、受かっただけで浮かれた気になっとると、本番の撮影でこのクラスの役者が出て来て、簡単に演技を喰われるから、それが嫌ならちゃんと準備をしておけと言うことやろう。

 

オーディションが終わって、スターズのビルから出る時に、オーディションの参加者たちはみんな無言やった。 みんな大なり小なり星アキラと百城千世子の芝居にショックを受けとるようや。

 

本番でこのレベルの差に気が付いたら、うちも立ち直れへんかったかもしれん。

 

これが、ハリウッドの監督から名指しで出演を要請される役者と、うちのような成りたてのヒヨコ役者の差か。 うちは自分の演技とアキラ君達の演技の差にうつむきながら自分のアパートに戻った。

 

翌日からうちは、これまで以上に演技の練習に打ち込んだ。 オーディションの合格通知が来た後にはキチガイ染みたぐらいにひたすら演技のレベルアップに励んだ。

 

そうして、あっと言う間に時間が過ぎて、デスアイランドの撮影が始まる事になったんや。

 

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