星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラ達はデスアイランドを撮影を見る2

さて、翌日になって景ちゃんの撮影シーンになった。

 

景ちゃんの最初の撮影シーンは、友達を殺された事に逆上した和歌月千が堂上竜吾を切り殺し、それを見てみんな逃げてって景ちゃんが叫ぶ役だ。

 

うん。文章で説明しても大したことがないシーンだ。メインは和歌月さんが堂上君の殺害する部分。景ちゃんはそれを見て青くなって、逆上した和歌月千からみんなに逃げってって一瞬カメラに映るだけ。

 

でもこのシーンが景ちゃんが初めてクローズアップされて撮影されるシーンでもある。

 

景ちゃんの今回の役は、原作にも登場しないオリジナルキャラクター。 でもそれだけに自由に動けるキャラクターでもある。

 

スターズを出て貧乏芸能事務所(←失礼)でハングリー精神に溢れた景ちゃんは、絶対にこのシーンに何かをぶっこんでくる。

 

あのアリサママ直々に指導を受けた景ちゃんがモブのまま終わるとは思えない。

 

撮影場所の教室に入ると、ちょうど和歌月千が堂上竜吾を叩き切るシーンだった。

 

二人はスターズ所属の俳優で特に和歌月さんは半年前の新人オーディションで受かったばかりで張り切っているようだった。

 

「リンが死ぬぐらいならお前が死ねばよかったのに!」

 

「うわーーーーーっ」

 

「なーんて。」

 

和歌月さんがそう言って日本刀を振ると、堂上君はやる気のない感じでふにゃーんと倒れた。

 

「ちょっと真面目にやってください。竜吾さん!」

 

「どうせ切られるところは次のカットでやるんだからいいじゃん。」

 

和歌月さんに堂上君が切られるシーンなのに、まじめにやらない堂上君に和歌月さんは怒っている。

 

「やっているね。」

 

「アキラさん! アキラさんからも言ってください。映っていない部分でもまじめにやれって。」

 

「まぁ、それは役者としての役の考え方だからね。カメラに映る部分しか気にしない俳優もいる。ただ、この場合には堂上君も悪いけど、和歌月さんもいけないかな?」

 

「私がですか? 私が間違っているでしょうか?」

 

「言っていることは間違っていないな。でも演技は間違っているかもしれない。次が景ちゃんのシーンだから、そこにその答えがあるかもしれない。」

 

僕はそう言うと撮影カメラの死角に回り込んだ。

 

「アキラ君何を持っているの?」

 

撮影を手伝っていた雪ねぇちゃんが僕に聞いてきた。

 

「ちゃら♪ちゃら♪ちゃらちゃら♪」

 

「業務用ハンディカメラ!!」

 

「ちゃっちゃちゃーーーーん♪」

 

僕はドラえもんの秘密道具の効果音を声帯模写しながら雪ねぇちゃんに見せびらかす。

 

「なんで、ドラえもんの秘密道具紹介みたいな流れなのに、悟空の声なのよ!」

 

思わず突っ込みを入れる雪ねぇちゃん。

 

「二代目のドラえもんの声はドラゴンボールで悟空の声を演じた野沢雅子さんなんだよ。三代目があの有名な大山のぶ代さんで、四代目が水田わさびさんだね。」

 

僕は、おおよそ生きていく上で全く役に立たない無駄知識を雪ねぇちゃんに披露してどや顔をする。

 

「はぁ。わかったわ。それで何をしているの?」

 

「ちょうど良かったよ。雪ねぇちゃん、この角度で景ちゃんを撮ってくれる? 面白い画が撮れると思うんだ。」

 

「いいけど、普通に2台カメラが景ちゃんを捉えているから、景ちゃんが目線を外して意識の外にあるこの位置では、そんなにいい画が撮れないと思うんだけど・・・。」

 

そう言いながら、雪ねぇちゃんはテキパキとハンディカメラをセットして景ちゃんを映してくれる。撮影現場でいろいろな機材を扱っている雪ねぇちゃんは、ハンディカメラの撮影なんてお手の物だ。

 

そうして、撮影が始まる。

 

「あんた達もこいつとグルなんじゃないの?」

 

堂上君を切り殺した和歌月さんが景ちゃん達に叫ぶ。

 

「こっ、来ないでっ!!!」

 

湯島茜さんが叫び、そして景ちゃんのシーン。

 

彼女の目には本当に和歌月さんが堂上君を切り殺して、そこかしこに血が飛び散っている場面が見えているはずだ。

 

「ひっ・・・。みんな・・・・逃げて!!!」

 

真っ青になった景ちゃんは口元を抑えて、みんなを救うための義務感から、意思に反して動けない体をなんとか動かして、強引に絞り出すような声でみんなに言う。すばらしい迫真の演技だ。

 

そしていったん体を引いて、カメラの画角から外れると、盛大に・・・・・・ゲロゲロと・・・・吐いた。

 

「ゲロゲロゲロ~。」

 

「カット!!」

 

「うわぁ。撮影前に景ちゃんがお昼で食べていた物が全部出ちゃっているよ。 確かにリアルだけど、やりすぎじゃないかな?」

 

「景ちゃんにバケツと水早く! ああ、それから、多分使うからゲロはそのままにしておいてね。」

 

「アキラ君、こんな画が撮れるってわかっていたの?」

 

「さすがにわかっていないよ。 千世子ちゃんに対抗するために、景ちゃんがメソッド演技をした上でカメラの視点を意識したテクニックを見せると思って、そのテクニックの全容を映して、後でみんなで楽しもうと思っていたのに、カメラを考慮したうえで演技のリアルさで強引にぶん殴ってきたのは想定外だよ。まさかゲロゲロしちゃうとかリアルすぎて僕もドン引きだよ。」

 

「景ちゃん、大丈夫、この後演技できる?」

 

「はい。大丈夫です。」

 

真っ青になりながら景ちゃんは返事をした。

 

「はーい。手塚監督! 提案があります!!」

 

「なんだね? アキラ君。」

 

僕は雪ねぇちゃんがハンディカメラで撮影した映像を手塚監督に見せながら提案する。

 

「僕のカメラで景ちゃんがゲロった所をバッチリ撮れたので、景ちゃんがゲロった後に、みんなで教室から逃げ出すシーンを足すのはどうでしょうか?」

 

「「「「「「!!!!!!!」」」」」」

 

スタッフや俳優全員が驚きながら僕を見つめる。

 

「アキラ君、そんな事を言ったって夜凪君は今吐いてしまって、演技どころじゃないんじゃないの?」

 

「景ちゃん」

 

「はい。」

 

「吐いてダウンしたままだと、この後に動けなくなって和歌月さんに殺されるだけなんだけど、そういうつもりで演技していたの?」

 

「いいえ。吐いた後に身を守るために逃げるつもりでした。」

 

水をもらって、バケツに向かってうがいをしている景ちゃんが言った。

 

「そうだよね。それなら、吐いた後に和歌月さんに追われて教室から逃げる演技できるよね?」

 

「はい。できます。」

 

「やりたい?」

 

「はい。やらせてください。」

 

「他のみんなはどうかな?」

 

「「「是非やらせてください。」」」

 

「そういう訳なんだけど、手塚監督どうでしょうか?」

 

「それなら撮影しようか。 ここからカメラを構えて、扉の前で吐いた状態からみんなそこの扉から逃げる演技をしてくれるかな。 和歌月君はそちらから教卓に回ってみんなを追う感じで。」

 

「はい。わかりました。よろしくお願いします。」

 

「それじゃシーン43-5スタート」

 

カチンとカチンコの音が鳴る。

 

景ちゃんは吐いた跡に戻って真っ青でグロッキーなまま、嘔吐物から顔を上げて、襲い掛かる和歌月さんを見て、生命の危機を覚えて湯島さん、木梨さんと共につまずきながら、懸命に教室のドアから逃げていく。

 

緊迫のいいシーンになりそうだね。

 

シーンを撮り終えると、景ちゃんはバッタリと床に倒れた。

 

「あっ、電池が切れたね。 それじゃ湯島さん、木梨さん、スタッフさんと一緒に保健室から担架を取ってきて、景ちゃんをホテルの部屋まで運んでくれるかな?」

 

 

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和歌月千視点

 

「景ちゃん、大丈夫なんでしょうか?」

 

私は景ちゃんが心配になってアキラさんに聞いた。

 

「大丈夫だよ。演技でこうなっちゃっただけだから、夕食時には回復しているんじゃないかな。 みんなは迫真の演技のためにゲロを吐いたっていう夜凪景伝説の目撃者になったんだ。 もしかしたら一生の話題にできるシーンに立ち会ったのかもしれないよ。」

 

私は、一番聞きたかった事を思い切ってアキラさんに聞いてみた。

 

「アキラさん、私がダメだった所って・・・。」

 

「まず、堂上君がダメだった所だけど、手を抜いても問題無いシーンで手を抜いた場合、想定されたシーンとクオリティでしか使われない。 さっきの景ちゃんのように監督の想像以上の演技をした場合、監督やスタッフはその演技を生かして追加のシーンやもっと出番が増える可能性がある。 監督も自分の作品をもっと良くしたいんだ。 自分の作品のクオリティを上げるために監督と言うのはすごく貪欲な物なんだよ。」

 

「でも堂上君は演技に手を抜いたせいでそのチャンスを自ら逃した。 監督の立場であれば、どんな簡単なシーンであっても手を抜くような役者にチャンスを与えたいとは思えないはずだ。 すくなくとも、少しでも映るシーンを増やして役者としての仕事を続けていきたいのであれば、堂上君の態度はいただけない。 でも彼も去年までは普通の高校生だったんだ。 そういう経験が無いのは仕方が無い。 そう言った面で彼はこれから良く学んでいく必要があるし、スターズとしてもそういう事をちゃんと教えてフォローしていく必要があるね。」

 

4歳から子役を始めて芸歴14年にも達するアキラさんの言葉には、ものすごい重みがあった。アキラさんが堂上さんよりも1歳年下なんて信じられない。

 

「では、私がダメだった所って・・・。」

 

「和歌月さんは、本気で堂上君を殺そうとした? もしくは堂上君が殺されるかもしれないって身に危険を感じさせるような演技をした?」

 

私の背筋に冷たい物が走った。

 

「和歌月さんが本気で堂上君を殺そうとしているのが堂上君に伝わっていれば、堂上君は手を抜くような芝居をしなかったはずだ。その意味で言えば、堂上君の本気を引き出せなかった和歌月さんも良く考えて見るべきだ。もちろん、和歌月さんは半年前にスターズに入ったばかりで、演技のテクニックもまだ未熟な事はわかっている。きつい言い方だけど、こういった事に気が付くのは早ければ早いほどいいから、心を鬼にして言わせてもらうよ。」

 

「すいません。そこまでの演技は出来ていませんでした。」

 

アキラさんは気配を柔らかくしてニッコリとしながら言った。

 

「謝る必要は無いよ。 厳しい事を言ってごめんね。 まだまだチャンスはあるんだから、これから頑張ればいいだけさ。」

 

「ありがとうございました!!!」

 

本当に私の事を思って厳しい指摘をしてくれたアキラさんに自然と感謝の言葉が出て、気が付いたら腰を90度にまげてアキラさんに向かって礼をしていた。

 

「そんじゃ、雪ねぇちゃん、今日の夜は景ちゃんのゲロ演技鑑賞会でもしようか。」

 

「珍しくいい事を言ってて、ちょっと見直しかけたのに、アキラ君マジサイテー。」

 

そんな事を言いながら、アキラさんと柊さんは景ちゃんの嘔吐物の処理を手伝った後に、撮影場所の教室を出て行った。

 

この後、私は景ちゃんにも負けないように全身全霊で演技に挑むようになった。

 

 

 

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