星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
----------- 千世子視点 -----------
今日は私の撮影が無くて、完全にオフの日。私は迫りくる景ちゃんの脅威に対応するべく、ベッドの上にノートパソコンを5台セットして景ちゃんのシーンを確認しながら、景ちゃんへの対策を立てるつもりであった。
景ちゃんの演技はグイグイと主人公である私の役を喰いにきており、このままでは百城千世子主演の映画のはずが、完全に景ちゃんに話題を攫われそうになっており、私は焦っていた。
そんな感じでなんとか劣勢を挽回するべくパソコンのセットをしていると、アキラちゃんが訪ねて来た。
「おおっ、千世子ちゃんやっているね。 でも景ちゃんの映像は昨日すでに確認済みだよね。 今さら見直したところであんまり対策は取れないと思うし、無駄だと思うけど・・・。」
「そんな事を言っても、この映画の主役は私なんだし、このまま景ちゃんに主役を喰われる訳には行かないわ!!」
私は少し八つ当たり気味にアキラちゃんに言う。
「そんな千世子ちゃんに朗報だよ!! 僕と一緒に熱海へドライブに行こうよ!!」
「今日はこれから景ちゃんへの対策を立てるから無理よ! そんな暇ある訳ないじゃない!!」
「景ちゃんに役を喰われ気味ですばらしい焦りっぷりだね。 完全に千世子ちゃんの負けフラグが立っていて僕も気持ちいいよ。」
「アキラちゃんはどっちの味方なのよ!」
「別にどちらも友達だけど、どっちの味方でもないかな。強いて言えば、外野から炎上を楽しんでいる感じ?」
「アキラちゃん、酷すぎるわ! 私がこんなに悩んで少しでも演技を改善しようとしているのに!」
「まぁ、今日部屋に引きこもってパソコン画面ばっかりを見ていても何の解決にもならない事は僕にもよくわかるよ。 そんな訳で迷える千世子ちゃんに僕が解決策を教えてあげるよ!」
「ほんとなの?」
「ホントアル! 僕を信じるアル。」
「すごく嘘くさいわ。 アキラちゃんのこのパターンは口から出まかせを言って、特に解決策なんて何も考えていないパターンだわ。」
「その通りだけど、ネタバレはいけない! 僕が単にボッチドライブが寂しすぎるので千世子ちゃんを言いくるめようとしている訳じゃないんだ!」
「ぷっ。本当にボッチドライブが寂しいだけなのね。」
私は笑ってしまった。そして気が付いたら車に乗せられて一緒にドライブに行くことになってしまった。 私の心に余裕が無いというのもあるけれども、この私が完全に言いくるめられている。 アキラちゃんは知らないうちに役者よりも詐欺師の才能を開花させているかもしれない。
「で? あんな大言壮語を吐いて私をドライブに誘った車がこれなの?」
30分後、私はアキラちゃんが運転する白い軽トラックの助手席に座っていた。
「んっ? ちょっと乗り心地は悪いかもしれないけれども、いい車だよ。」
「こんな車に今を時めくスーパー女優、百城千世子を乗せて何とも思わないの?」
「ポルシェと同じRRレイアウトで4輪独立サスペンション! 660ccの軽トラックでありながら4気筒エンジンを搭載! そしてスーパーチャージャーによって58馬力に達するおそるべき馬力とスバル特有の変態メカニズム! さらに変態のくせに意味不明な耐久力! まさに農道のポルシェ! スバルサンバー!! 千世子ちゃんならこの車の良さがわかってくれるよね?」
「全くわからないわ。」
私はアキラちゃんの戯言をばっさりとぶった切った。
「そもそも後ろの荷台に積んである巨大な物体は何なのよ!!」
「え? 見てわからない? 巨大なタコの人形だよ。 立体看板なんだ。」
「私が言っているのはそういう事じゃなくて、なんでそんなのを積んでいるのかって事よ!」
「下田のホテルの近くにあるたこ焼き屋さんなんだけど、娘さんが熱海の高校に通っているそうなんだ。 それでその高校で今日と明日で、文化祭が開催されるらしくて、出し物としてたこ焼きの道具とタコの看板を持っていくつもりだったんだけど、デスアイランドの撮影で人が押し掛けたらしくて、お店を休めなくなっちゃったんだ。 それで困っていたから、僕が看板とタコ焼き道具を持って行ってあげる事にしたんだ。」
「あきれた。誰のせいで人が押し掛けたと思うのよ。肝心の私達がたこ焼きの道具と看板を届けるんじゃ本末転倒じゃないの。」
「別に~。 今日は引きこもって暗いオタク生活をおくる予定だった千世子ちゃんに言われたくないよ。 それにデスアイランドの撮影は僕たちが居なくても今日もやっているから、やじ馬さん達もちゃんと撮影は見れるもんね。」
「でも、アキラちゃんが学校まで道具を届けるって娘さんは知っているの?」
「店の親父さんは話したらしいけど、娘さんは信じなかったって。 まぁ、普通は信じられないよね。」
「それでドッキリがてらに高校の文化祭にお邪魔しようって作戦なんだ。 このダッシュボードに付いているドライブカメラもそのための物ね。」
「そうだよ。千世子ちゃんもだいぶYoutuberの生態がわかってきたね。こんな美味しいネタなんだから、動画として逃す手は無いよ。 あと、普通に高校生活をエンジョイしたい。」
「まぁ、私たちの通っている学校は、芸能学校だから社会実習とか言う名目で出席日数は水増しされるし、たまに出席してもクラスの半分以上は居ないし、私達もほとんど学校に出ないでテストだけ受けているようなものだものね。通っているメンバーがメンバーだけに文化祭みたいのも無いし、普通高校に通っている景ちゃんが羨ましいと思うことはあるわ。そういえば、アキラちゃん、芸能科じゃなくて音楽科に来ないか熱心に誘われていたわよね。」
「僕的には楽な学校でいいんだけどね。 学校以外でやりたい事はいっぱいあるし、テストだけで卒業させてくれるのであれば、それにこしたことは無いよ。 音楽科の話は、別に将来、音楽で食べていく気はあんまり無いし、いまさら音楽科行ったって得るものがあんまり無さそうだから断ったよ。」
「あの学校の生徒も本当にピンキリだものね。 常識がヤバいレベルのアイドルも居れば、国内で賞を受賞して、留学するレベルの音楽家も居る。面白い感じね。もっとも、みんな出席率はお察しだけど・・・。」
「とりあえず、こんな感じでもちゃんと高校の卒業資格もらえるから、いいと思うよ。」
「アキラちゃん、大学行くの?」
「うーん。どうしようか考えているよ。 スタンフォード大学の教授やシリコンバレーの友達からは、こっちに来ていろいろマーケティングや経営なんかの勉強をやってみないかって誘われているんだけど、あっちの大学に入学してハリウッドで活動する手もあるんだけど、高校卒業してから1年ぐらいは俳優活動中心でちょっと考えるつもりだよ。そもそも僕が入学試験で落ちる可能性もかなりあるしね。ただ、アリサママの後を継ぐのであればMBA取りたいんだよね。」
「アキラちゃん、子供の頃から勉強がんばっているものね。撮影の待ち時間に難しい英語の本とかいっぱい読んでいるし、でもアメリカの大学は厳しいって言うし、芸能活動との両立は大変なんじゃないの?」
「それが実は、ピンキリなんだよね。 アメリカの大学の授業って実は50分が3個で3時間ぐらいしかないんだ。で、その分予習とかが大変なんだけど、僕は子供の頃からいろいろ対策していたために、大体対策済みというか・・・。後は、学費を稼ぐためのアルバイトやインターンも大変なんだけど、僕の場合は関係ないし、アメリカでは就職に影響するから成績が重要だけど、僕は良い成績を取る必要も無いし、その辺を割り切ると、両立が効きそうなんだよね。 どちらにしても、そっちの方は、調査しながらもう少し考えてみるよ。」
アキラちゃんとそんな会話をしながら、巨大なタコ人形を載せた軽トラックは潮風を含んだ空気を車内に取り込んで、伊豆半島の綺麗な海岸線を穏やかに走っていった。
こちらのお話は、『星アキラは記者会見の挨拶を練習するの』回で車の話をした時に、アキラ君には軽トラが似合うという感想をいただいて思いついたお話です。
私もアキラ君と軽トラはとても似合っていると思います。
この後文化祭にお邪魔するアキラ君達。 そして景ちゃんに主役を喰われかけている千世子ちゃんの運命はいかに!?
次回もお楽しみに!