星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは百城千世子と夜凪景の共演を見る

 

----------- 千世子視点 -----------

 

アキラちゃんと出会う前の私は昆虫と他人の横顔が好きな変な人間だった。

 

誰かに見られているなんて思いもしないような無意識の表情を盗み見るのが大好きだった。

 

小学校の時、そんな事を好きな事として書いたら不気味がられた。

 

なら私の横顔は他の人にはどういう感じで見られているんだろうか? 一度気になり始めたら他人の目が怖くなって逃げるように映画の世界に没頭した。

 

私にとって現実の世界はすでにすごく生きづらくなっていたから。

 

転機はアリサさんにスカウトされた事だった。アリサさんから「あなたは役者に向いている」って言われた時にすごく嬉しかった。

 

私にとって役者は天職だと思っていた。

 

私はエゴサーチや観客の反応を聞いて、表情の作り方や言葉の選び方、ファッション、所作、体形などを全て観客の好みに合わせた。

 

撮影に使うカメラの性能、レンズの特性、私を露出させる全ての媒体を知り尽くした。

 

私は寝る事を忘れてひたすらに観客の望む私を作る作業に没頭した。

 

そうして、出来上がったのが百城千世子と言う厚い仮面と観客の理想をイミテーションした、カメラのレンズを通してだけ完全に見える仮面を被ったまがい物の自分。

 

私はこれが絶対的に正しい方法だと思っていた。

 

自殺未遂をした私の相方(アキラちゃん)が謝罪会見で私と同じように構築した仮面を脱ぎ捨てるまでは。

 

アキラちゃんはそこから大きく変わった。まず仮面と素顔の境界が曖昧になった。私が仮面を厚く塗り固めるのとは全く逆に、仮面が見分けられなくなった。

 

私は仮面から解放されて自由に生きるアキラちゃんが羨ましかったし、同時に憎らしかった。

 

同じ仮面を被っていたはずなのに、私に無い才能を持つアキラちゃんに嫉妬し続けた。 私は今まで続けてきた自分の仮面を厚く塗り固めるという行為が正しいのか、ずっとわからなかった。

 

でも、完全にプライベートで行った文化祭でアキラちゃんの横で同年代の高校生の子達に騒がれて、アキラちゃんと一緒に沢山の人に肯定されて、もしかしたらこの仮面も作り物じゃなくて、自分の一部なんじゃないかって思えてきた。

 

そして、文化祭で自分を評価させながら、スクールアイドルを立てたアキラちゃんを見て確信したの。

 

作り物だって思っていたこの仮面も実は自分の一部じゃないかって。 私が培ってきた仮面の力をもっと自由に引き出して使っていいんじゃないかって。

 

 

----------- アキラ視点 -----------

 

撮影も大詰めになり、景ちゃんが演じるケイコと千世子ちゃんが演じるカレンの共演シーンの撮影だ。

 

ケイコ()・・・良かった・・・無事で。 他の皆は?」

 

「分らないわ・・・。夢中で逃げているうちに離れ離れになってしまって・・・。」

 

「そっか・・・。それでもケイコ()だけ無事で良かった。」

 

ケイコ()カレン(千世子)を抱き寄せて、涙を流す。

 

「本当に良かった。カレン(千世子)ちゃんが生きていて」

 

景ちゃんは、安堵する感情とカレン(千世子)が生きている嬉しさをそのまま演技に出す。

 

対して、カレン(千世子)も彼女の首に手を回して、涙を流してお互いの再会に安堵する。

 

この時、二人の全身を第1カメラで撮っていたんだけど、千世子ちゃんは自然な仕草で涙を流す景ちゃんを後ろの第3カメラでバッチリ映るようにして、自分は正面のパン(水平移動)と顔をズームさせる第2カメラのアングルに合わせて、少しずつ景ちゃんと自分を動かしながら、最も彼女が美しく映るように調整した。

 

結果、千世子ちゃんは第1、第2、第3の全てのカメラで同時に完璧な構図と演技をやってのけると言う神がかったテクニックを見せた。

 

もう千世子ちゃんを『構図の魔術師』とかそんな異名で呼んだ方が良いかもしれない。

 

そして、この演技、もう一つ千世子ちゃんとして変わった所があった。 それは千世子ちゃんが景ちゃんをうまく生かして助演している事。

 

景ちゃんの感情とそれを表現する抜群の演技力。それを100%以上生かす感じで、演技は景ちゃんを立てて合気道のように逆らわないで受け流しつつ、カメラの構図と見え方を支配する事で、演技力として千世子ちゃんを上回る景ちゃんを見事に手のひらで転がして、お互いの演技で相乗効果を生んで何倍もの素晴らしいシーンになっていた。

 

このシーンは、もしかしたら日本の映画史にも残る屈指の名シーンになるかもしれない。そんなシーンが千世子ちゃんと景ちゃんの共演シーンで随所に生まれている。

 

今回のシーンでも、撮影現場で演技を見るだけなら、ぱっと見で景ちゃんが千世子ちゃんを喰っているように見える。でもカメラのレンズを通して見た観客の目には、このシーンを支配しているのは間違いなく千世子ちゃんだ。

 

演技内容によっては自分よりも演技や表現力で上回る夜凪景を生かして、カメラで撮影される映像全体を支配する百城千世子の構成力。

 

もはや、天才という表現では生ぬるいほどまでに千世子ちゃんの才能が恐ろしいレベルで開花していた。こういう能力を鬼才と言うのかもしれない。

 

そして、そんな素晴らしいシーンを見た手塚監督は、苦悶の表情を浮かべていた。

 

まぁ、ご愁傷様。 これはやっちまったなって感想しかない。

 

これは同時に芝居の温度と作品バランスにあれほどこだわっていた千世子ちゃんが、その制御を完全に放棄した事を意味していた。

 

元々、千世子ちゃんと景ちゃんは、このような対等に演技を競い合うような配役をされた事は無かった。

 

同じ作品に出る場合でも、ウルトラ仮面のようにウルトラ警備隊側の役と幼馴染グループ側の役というように、なるべく二人そろった演技をしないようにアリサママは配慮していた。

 

これは単純に二人の演技の相性が悪かったせいだ。映画全体の映像のクオリティーを重視する千世子ちゃんと、演技を重視する景ちゃん。この二人が正面からぶつかり合えばどちらかが破綻する事は目に見えていた。

 

事実、今回のデスアイランドの撮影で千世子ちゃんは破綻寸前だった。

 

景ちゃんはシーンにもよるけど、演技力で千世子ちゃんを上回りながら、映画の温度や作品バランスは考えない。

 

まぁ、普通の俳優もそんな事はほとんど考えないけどね。そんなのは監督の仕事だ。そんな事を考えて、ちゃんと高いクオリティーをコンスタントに達成する千世子ちゃんは、まさに別格の女優だった。

 

でも、それは百城千世子の出演する作品の質が一定の水準から抜け出す事が無いという諸刃の剣でもある。そして千世子ちゃんの映画が作られれば作られるほどある意味それはマンネリ化していった。

 

デスアイランドの撮影で手塚監督は、あえてこの二人を競わせる位置にキャスティングするという禁じ手を使う事で、このマンネリを打破しようとした訳だね。

 

ちなみに、今回のキャスティングについてアリサママは何も言わなかった。そろそろ、お互い共演できる段階(レベル)に到達したって考えたのだろう。そしてその考えは合っていた。いや、合いすぎていた。

 

そして結果として藪をつついて、蛇ではなくて龍と虎を出す事に相成りました。 おめでとうございます!!

 

この二人のシーンは文句を付けようがない。 まさに三ツ星レストランの高級イタリア料理とも言えるかもしれない。

 

でもこの映画は24人も俳優がキャストされている。 当然ながら他の俳優のシーンも大量にある。 映像を見るに千世子ちゃんと景ちゃんのシーンが極上すぎて、サイゼリアのメニューの一部に数千円~数万円の料理が並ぶような事態になっている。

 

サイゼリアのメニューは間違いなく美味しい。 ただそれはこの値段であればこの味で大満足というレベルの美味しさだ。 そんなメニューに混じる異質な数千円~数万円の超高級料理。こんな感じで、二人の共演シーンだけ完全に浮き上がっている状況を手塚監督はどのように映画としてまとめるのか? ある意味とても楽しみだ。

 

そして、この映画を観た観客の感想は、夜凪景が百城千世子を喰ったとか、やっぱり百城千世子が夜凪景よりも演技が良いとか言う、俗な比較するような感想じゃなくて、百城千世子と夜凪景の両方ともヤベー。これは竜虎相搏ってんじゃないかって感じだろう。

 

他の出演者が無人島で血生臭い殺し合いを演じている最中に、この二人は宇宙で『常勝の天才』と『不敗の魔術師』としてスペースオペラで艦隊決戦をしているような事態になっていた。

 

当然、他の共演者も二人の明らかなレベルの違いに気が付いて動揺しているけど、もうこの二人に手が付けられる状態じゃないね。

 

それでも、そんな演技に全力で挑む湯島茜さんと和歌月千さんは見ていて気持ちがいいね。二人はこの映画の後にブレイクするだろうし、技術はまだ稚拙でもこの状態の千世子ちゃんと景ちゃんに全力でぶつかる姿勢を見て、自分の作品にも是非出演して欲しいって、役をオファーする監督はいっぱい居るんじゃないかな?

 

そんな感じで、手塚監督は日々悪化する胃痛と戦いながらなんとか撮影が終了しようとしていた。アリサママは良い胃痛薬を手塚監督に差し入れたようだ。さすがはアリサママ。サイコパス気遣いの人。

 

なんやかんやで手塚監督の心労をよそに撮影は順調に進んで最後のシーンを撮り終えて、24人の俳優たちは無事に解散となった。

 

みんな撮影終了の安堵と、映画が楽しみって言いながら帰って行く。

 

 

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そんなみんなを見届けた後に、僕は残った撮影班と千世子ちゃん、景ちゃんで秘密のシーンの撮影が始まる。

 

「アキラ君!? 飛行機の脱出時に死んだはずじゃなかったの!?」

 

「残念だったな、トリックだよ。」

 

 

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