星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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ある芸能記者の話3

「スターズという芸能事務所は、10歳の子供に単独会見をさせて所属俳優を守らずにほったらかしにするような事務所なのでしょうか?」

 

今まで星アリサの育児放棄疑惑と星アキラの対応に気取られていたが、10歳の星アキラ自身が単独で会見するとか、普通に考えておかしいと言うか、何か今までの記者会見の内容をアキラ君にミスリードさせられていた気がする。

そもそもスターズは子供1人で会見させるような芸能事務所ではなく、逆に子供や所属俳優を絶対に守る事で有名な事務所でもあった。

 

「はい。これには事情があります。僕に役者の才能が無いと考えている母は、僕に役者を続けるための最後のチャンスとして、この記者会見を一人で乗り切る事を提案しました。この記者会見を一人で行い、皆様に役者を続ける事をお許しをいただくというのは、僕が役者を続けられる最後のチャンスとなります。なんとか皆様にお許しをいただけるように、僕は皆様に懇願するしかありません。」

 

この親子の間に核地雷は何個埋まっているのだろうか?

 

「母親である、星アリサさんから役者を辞めるように勧められているように聞こえますが、星アキラさん自身は役者への復帰を希望されるのでしょうか。」

 

「はい。皆様のお許しが得られるのであれば、役者へ復帰させていただきたいと考えております。」

 

「お話を聞いていると、星アリサさんはスターズの社長としての判断として、星アキラさんに役者としての才能が無いと判断された訳なのですが、星アキラさんは星アリサさんに否定されてもなお、役者を続けたいのでしょうか。」

 

かなり嫌らしい質問だ。本人が復帰したいと言っているのに、それを星アリサの社会的な立場を利用して、正面から否定している。これで星アキラの心が折れたりしたら、私は後で掲示板とかSNSで叩かれまくるだろう。でも今、目の前に居る星アキラは折れないという確信があった。

 

ここに来て初めて、星アキラが逡巡した表情を見せた。初めて彼の弱気の表情を見た気がする。ただ、その後に彼は私の目を見てはっきりと告げた。

 

「はい。役者を続けたいです。」

 

「なぜでしょうか?」

 

「僕は子役として物心付く前から、当たり前のように役を演じてきました。役を演じるのは当たり前のことで、皆様に役をいただけているのは、自分の努力と才能のおかげかと思っていました。僕は正直に言って役者にあこがれて役者になった訳ではありません。ただ役をこなす事で母親に褒めてもらいたくて、認めてもらいたくて役者をやっていました。でもある程度の年齢になると、それは自分の力ではなく、母親である星アリサの力であったということが判ってきました。」

 

私を見つめる彼の目のから一粒の涙が流れ落ち、頬を伝った。

彼はうつむきながら言葉を続けた。

 

私は彼の言葉にかなり驚いた。これまでの記者会見の言動から、彼が自分の弱さをそのまま曝け出すとは思っていなかったからだ。自殺未遂を乗り越えた精神的に強い星アキラ。何が何でもそんなキャラクターで通すと考えていた。

 

「あの週刊誌に書かれていた証言などは全部嘘でしたが、指摘していた内容は真実でした。僕は役者になりたいという強い夢や思いも無く、母親である星アリサが息子のために取ってきてくれた仕事を、自分の努力と才能のおかげでやり遂げていると勘違いするような傲慢な人間でした。」

 

彼は少しうつむくと、ポタポタと床に涙の雫が落ちる。彼の声は少し震えていた。

おそらくアキラ君の考えも私と同じく、強い自分を見せたまま記者会見を終わらせるつもりであったのだろう。彼から感じる涙と戸惑いから私はそれを感じる事ができた。

 

でも、だからこそ彼の言葉には演技や嘘は無く、10歳の少年。星アキラの正直な気持ちである事を理解することができた。

 

私はこれが見たかった。彼の素直な心の内に土足で踏み込んで、人間、星アキラの本当の心情を知りたかった。芸能記者としての責務を果たせた事に満足する一方、自分の苦しい心情を吐露する彼の姿に、私の胸は強く締め付けられた。

 

「でもだからです。」

 

うつむいた星アキラがまた顔上げて真っすぐとした視線を見せた。

 

「だから僕は役者をやりたいんです。自分は何年も役者をやっておきながら自分の傲慢さのために、何も掴むことができなかった。役者を続けたとしても、これからも掴むことができないのかもしれません。だからやっぱり僕には役者の才能が無いのかもしれない。でも今回の事でわかりました。母親に認めてもらえるとか、ずっと役者だったからそのまま役者を続けたいとかではなく、僕は僕のために役者を続けたいんです。自分の力で役がこなせないことが悔しいんです。」

 

「完全に子供のわがままです。役がこなせないことが悔しいだなんてただの自己満足です。でも、それでも、今一度、星アキラに役者として再出発するチャンスをいただけないでしょうか。」

 

「お願いいたします。」

 

涙を流しながら、アキラ君は最初にやったのと同じ90度のお辞儀をした。私はこれ以上質問することはできなかった。

 

この言葉を最後に記者会見は終了した。最後のお辞儀が終わって彼が顔を上げた時、私は背筋に電流が走るのを感じた。

 

そこに見えるのは、どんな役でも卒なくこなす器用貧乏の子役の姿ではなくて、スター俳優のオーラと存在感を纏った星アキラがそこに居たからだ。

おそらく、自殺を引き起こす前までは、彼はどんなに望んでも、努力しても絶対に手に入れることができなかった、スターとしての才能。それが今彼に宿っていた。

彼は間違いなく時代を代表するスターになる。スター星アキラ誕生の瞬間に立ち会えた私は、心の中が歓喜で満たされた。

 

同時に記者としては完全にしてやられたと思った。

 

これは星アキラの巧妙な罠でもある。仮に私がこのことを騒ぎ立てて、子供に単独で会見させるスターズを非難する場合、星アキラは確実に責任を取って役者を辞めることになる。

 

この流れからして、確実に世間はアキラ君に同情しているだろう。そして反論する人も多いだろうが、修羅の道ではあるが、ちゃんとチャンスを与えた上で、世間に成長を見せたアキラ君を育てた星アリサを、親として、経営者として認める層も一定層居るだろう。

本当に自分の子供を、獅子の子落としする親とか、かなりイカれているとは思うが。

 

でも星アリサなら納得してしまう面もある。彼女は誰よりも役者として真摯に役に向き合っていた。中途半端な気分で役者に向き合っていた自分の息子に、ケジメを付けさせたかったのかもしれない。

 

ここで私が記事を書いて世間を騒ぎ立てた場合、肝心の星アキラは役者に復帰できずに、星アリサもおそらく社長を辞める事になる可能性が高い。

 

そして今、世間の注目は「ここまでして役者に復帰した星アキラがどんな芝居をみせてくれるか?」に集まっているだろう。世間は間違いなく、堂々と自分を貫き通して役者に復帰する星アキラに痺れている。

同時に、この記者会見で成長を見せたアキラ君が、星アリサの息子という重い看板を背負ってまでも、親子二代で再び私達に夢を見せてくれる事を期待しているだろう。

 

この状態で星アキラと星アリサを辞めさせるような記事を私が書いた場合、世間は私を許してくれるだろうか? 無理だろう。

 

星アキラと星アリサを辞めさせる以前に、私が書いた記事が逆に批判されて、私の方が潰されてしまう可能性の方がはるかに高い。 政治家の汚職を告発する正義の記事とかならともかく、ご家庭の事情レベルの話で、こんなリスクしか無い記事を書く記者は、同業者にも居ないと言い切れる。

 

もう私には、「未来のスターとなる星アキラに期待する記事」を書くことしか選択肢が残されていなかった。

 

記者会見を終えたアキラ君は、何も言わずに扉の方向に歩きだし、扉を開けると驚いた表情をした。周りの記者たちも息を飲んだ。

 

扉の外に星アリサが無表情で立っていた。しかしその無表情とはうらはらに、彼女の眼には、アキラ君と同じように涙の跡があった。

 

彼女はおもむろにアキラ君に右手を差し出した。

アキラ君は左手で星アリサの手を握ると、星アリサと顔を合わせて、お互いにぎこちない笑みを浮かべた。

 

お互いの微妙な母子関係を象徴するような引きつった微妙な笑顔。あの大女優、星アリサが銀幕で見せた事の無い、本当にぎこちない微笑み。

でも、お互いに目を合わせてぎこちない微笑みを浮かべ合う二人は、誰よりも親子に見えた。

 

記者会見の会場は静まり返り、私は映画のワンシーンを見ているような錯覚に囚われた。

 

カーテンコールのように、2人で手をつないだまま記者の方に振り向いて、深々とお辞儀をすると、手をつないだまま仲良く廊下を通って帰って行った。

 

星アリサに話を聞ける最大のチャンスだったにも関わらず、誰一人として二人に声をかける事が出来なかった。

現実とは思えない浮世離れした光景に、だれもが声を失い呆然としていた。

 

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