星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは阿良也の舞台を観に行く1

 

デスアイランドのDVD発売記念の放送からしばらくして、僕は景ちゃんとの約束を守って千世子ちゃんと一緒に劇団天球の阿良也の舞台を観に来ていた

 

題目は「そのマタギ」。阿良也得意のマタギシリーズだ。というか、なめとこ山の熊役作り以来、北海道の熊の件で有名になった阿良也はマタギを題材にした舞台を良く演じることになり、その舞台は常に即日完売状態だった。

 

もっとも、役作りで北海道で熊に襲われたのは数ある阿良也の役作りの一つであり、マタギの演技が阿良也は特に優れているとかそういった事は無いと思う。

実際に他の役も素晴らしい役作りをしているし、マタギ以上に素晴らしい演技をしている阿良也を僕はいくつも知っている。

ただ、マタギのエピソードは阿良也の役作りの中でも特に有名なエピソードであり、それで培った演技を、生で観て見たいのは観客として当然の欲求だろう。

 

美味しい外食というのは、ただの生きるための栄養摂取じゃない。自分の感情や楽しみのためでもある。舞台も一緒。それであれば観客がこのようなエピソード込みで阿良也の演技を評価するのは当然のことだ。

 

僕としては座席でキャラメルポップコーンをバリバリ、アイスティーをぐびぐびしながら阿良也の演技を楽しみたいんだけど、劇場の座席では飲食不可なので、大人しく舞台を観ていた。 まぁ映画館じゃないし、こんなところでポップコーンをバリバリしている人間が居たら周りの人間は腹が立つだろね。

 

仕方がないので、僕は1人で舞台に上がっている阿良也を観察した。今は舞台の序章。阿良也が扮するマタギの父親が因縁の樋熊に喰われて命を落とす場面を演技を交えて熱く語っている。 

 

うん。すばらしく雑な動きだ。これこそまさに阿良也の芝居。 マタギとして樋熊と闘う事に人生を賭けてきた人間が、樋熊を殺す以外の事で洗練された動きをするはずが無い。 だが、役者としての演技に説得力を持たせるためには、人を惹きつける洗練された技術やテクニックが必要となる。 阿良也はそれをマタギとしての経験を演技に映し込むことでそんな技術やテクニックを見せずに、ここにいる3000人の観客全員を魅了していた。

 

役者とマタギ。マタギは役者ではない。でも、今の阿良也は舞台の上のマタギの演技をする役者。完全なる自己矛盾の演技。でも観客の目にはマタギとしての人生を今まで生きてきた阿良也しか映っていない。マタギになり切る阿良也には小手先のテクニックなど必要なく、彼の動きや言葉そのものがマタギとしての人生を語っており、そのマタギとしてこれまで生きてきた人物に観客は惹き込まれていた。

 

そんな阿良也と観客の両方を見ながら、やっぱり僕はキャラメルポップコーンをバリバリ、アイスティーをぐびぐびしながら、演劇を楽しみたいと思った。

 

しばらく、劇を見ていると左前の席の見える位置にちょうど、女の子が座っているのが見えた。この子はすごく阿良也の舞台を真剣に見ていて、怖いシーンでは怖がり、面白いシーンでは笑い、驚愕のシーンでは驚き、緊迫のシーンでは身を縮こまらせていた。すごく舞台が好きな子なのだろう。

 

大人になればなるほど、こう言った感情と言うのはどんどんいびつになって行く物だけれども、感情を素直に感じられるというのはまさしく子供の特権と言える。

 

今回は子供向けの演目じゃないので、子供がこんな演劇を観に来るなんて珍しいけれども、これは貴重なサンプル・・・。いや、貴重な観察対象。(言い換えられていない)

 

僕はこの子の目を通して阿良也の芝居を楽しむことにした。

 

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父親を殺した因縁の樋熊を倒し、舞台は大団円。

 

観客はスタンディングオベーションでカーテンコールを終えて舞台が幕を閉じた。

 

「阿良也さんのお芝居、すごく緊張して面白かったですっ」

 

「阿良也君の観客への魅せ方はさすがよね。あの観客の事を全く意識していない芝居で観客を虜にするとか、本当にずるいわ。」

 

一緒に来ていた景ちゃんと千世子ちゃんが阿良也の芝居の感想を言う。

 

僕は前に座っていた女の子と同じく感動で涙をポロポロとこぼしていた。

 

「あのアキラさんが感動で涙を流していますっ」

 

「景ちゃん、これはどうせ碌でもない事を考えているのよ。」

 

「ひどいよ、千世子ちゃん。 僕は阿良也の芝居が感動的すぎて泣いちゃったよ。」

 

「嘘ですっ。」

 

「すごく怪しいわ。あの芝居でアキラちゃんが泣くはずが無いもの。」

 

そんな話をしていると、僕と観察対象の子がバッチリと目が合った。その子は僕達を見て声を上げようとした。

 

「あっ」

 

僕は、しーっ。ってジェスチャーをしてその子を黙らせた。演劇を観ている最中に観察していたのでこの子は多分、これで止まるはずだ。

 

案の定、その子は黙った。

 

同じように涙を流す、その女の子と僕を交互に見た千世子ちゃんは、何かを悟ったらしく、あっ、こいつやりやがったなって目で僕を見ている。

 

「アキラちゃん、せっかくだからその子にサインでもプレゼントしたら? アキラちゃんはその子にサインぐらいはあげる義務があるわよねぇ? ねぇアキラちゃん?」

 

どす黒いオーラに包まれたチヨコエルが僕に言う。景ちゃんは意味が解らないようで、首を傾げている。

 

確かに勝手に、女の子の視点を観察していたなんて、すごく後ろめたい。

 

「うーむ。確かに。 ねぇ、僕達のサイン欲しい?」

 

僕はその子に聞いた。その子は盛んに首をコクコク頷き肯定した。横の保護者の母親は僕達を見て驚いていた。

 

僕はこういう事態に対応するために、いつも色紙とペンを持ち歩いている。

 

「名前は何ていうの?」

 

「有島あゆみですっ。」

 

「いい名前だね。」

 

僕は色紙に『有島あゆみちゃんへ』って書いて、星アキラと星キアラのサインを入れた。こういう時は星アキラと星キアラの両方のサインを入れる方が喜ばれる事が多い。しかし、よくよく考えてみれば、僕の役者としての人生はどうなっているのだろうか・・・。

 

「ちょっとスペースを残して、サインを書いてくれる?」

 

何をするか悟ったらしく、千世子ちゃんと景ちゃんもスペースを残してサインを書いてくれた。

 

「ちょっと待っててね。今、阿良也のサインをもらってくるから。」

 

そう言って、僕は劇団関係者に紛れて舞台裏に行って、阿良也を見つけると声をかけた。

 

「阿良也、阿良也、ちょっとこの色紙に阿良也とラーヤのサインを書いてくれない?」

 

「アキラっ、お前、何やっているんだ!?」

 

阿良也は劇団関係者に紛れて堂々と舞台裏に入ってきた僕に驚く。

 

「サインをもらいに来ただけだよ。」

 

「不審人物なのに、よく劇団員に紛れて堂々と舞台裏に入って来れるな。お前が演技で気配を誤魔化して周りに紛れると本当にわからないな。俺がマタギなら気が付いた瞬間に即座に撃ち殺していたぞ。」

 

「エッヘン。僕の人徳のなせる業だね。」

 

「お前のそういうところ、本当にすごいな。ほら、俺とラーヤのサインだ。」

 

「ありがとう阿良也、そんじゃ~ね~。」

 

「相変わらずの自由人だな。」

 

「阿良也に言われたくないよ。」

 

僕は舞台裏から戻ると、そんな僕を見ていた千世子ちゃんはさらに呆れていた。

 

「人混みに紛れるテクニックは本当にすごいわね。もう要人暗殺とかできるんじゃないの?」

 

「劇団員さんに紛れた後に誰も気が付かなくて驚きましたっ。私もあんな風にスパイみたいな事してみたいですっ。」

 

「いや、人の意識の隙間を意図的に利用しているだけだから、慣れれば景ちゃんでも出来ると思うよ。」

 

そう言いながら、僕はあゆみちゃんにサインを渡した。

 

「僕とキアラ、千世子ちゃん、景ちゃん、阿良也、ラーヤが揃ったスペシャルサインです。どうぞ!」

 

あゆみちゃんは嬉しそうにサインをもらうと、笑顔がぱ~と輝いた。とても嬉しかったらしい。

 

「あゆみ、ちゃんとお礼を言いなさい。」あゆみちゃんのお母さんが言った。

 

「ありがとうございましたっ!!」

 

「うんうん。」

 

僕達はあゆみちゃんの笑顔と元気なお礼にほっこりした。

 

その後、僕達はあゆみちゃん達と記念撮影をしていると、舞台から記者の質問に答える阿良也の声が聞こえてきた。

 

「今回の役作りのために、実際のマタギ猟に付き添って、樋熊と対決したエピソードは有名だと思いますが、阿良也さんは命の危険を伴う役作りを厭わない印象がありますが、何がそこまでさせるのでしょうか?」

 

「例えば、店先で切りそろえた加工済みの肉を買って、餌みたいに食って生きてきた。俺たちはみんなそうでしょ?」

 

阿良也の意味不明な回答が始まった。慣れている記者でもみんな困惑している。

 

「感謝を忘れたこの世界で生まれた俺がこの役を演じられるはずがなくて、だから自分の命のために命をかけて命をいただく体験が欲しかった。いや、そんな事を考える自分が邪魔だったというか・・・。」

 

記者はみんな??????状態だ。 まともな回答になっていない。 ある意味ウケる阿良也の記者会見だけれども、これを記事に起こす記者さんは大変だ。

 

もっとも、この回答は阿良也節と言われて、そのまま放送すると、普通にお茶の間のウケはすごくいい。このわかるようでわからない意味不明感がクセになる人が続出していた。感性で生きる変人はとても人気があるのだ。・・・自分に被害が降り注がない限り・・・・。

 

そんな事をしていると、回答に困った阿良也と僕の目が合った。

 

「ちょうど、親友が来ているので、その親友に聞いてみましょう。」

 

その瞬間に僕は逃げようとしたが、遅かった。

 

「アキラっ、ちょっと質問に答えてくれない?」

 

あいつ、めんどくさい記者会見を僕に押し付けてきやがった!!!

 

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